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医療における行政処分の量産化 

これから仕事を始めようとする若い医師は、災難なことである。医療事故には、すべて責任が問われ、たとえ刑事責任は逃れられても、行政処分は免れないことになるようだ。

井上清成弁護士の論考は以前から何度もここで取り上げている。彼は医療の現状、医療事故の本質に詳しく、適正な見解をそうした問題について表明し続けている。

「官僚主義が医療を荒廃させる」で述べた通り、官僚は、医療システムを支配することを目論んでいる。

医師に対する支配は、教育、研修、専門医制度そして医療事故対応によって、為されることになる。井上弁護士が述べる通り、刑事犯罪として取り扱わぬ代わりに、行政処分を受け入れさせるという方向で、官僚は制度設計をするようだ。これは、医療事故の原因を究明し、減らすこととは逆行する。医療事故は、刑事犯罪化・行政処分化しても原因が明らかにならず、減少することはない。例えば、WHOの医療事故に関するガイドラインにそれが示されている。こちら。

医療事故に対する行政処分数の増加は何をもたらすか。医療制度への影響をどのようにして減らす積りなのか。行政処分を「きめ細かく」行えば、医療費の表面的な削減ができると官僚は読んでいることだろう。地域医療を行う医師を確保するという名目で、この数年間、医師の大量増産を始めた。行政処分が常態化すれば、行政処分でマンパワーが減っても、医療が直ちに立ち行かないということはないという読みではないのだろうか。しかし、行政処分を受けやすい、リスクのある専門に医師が進まなくなることは確実だ。専門性の偏在を、専門医制度でコントロールする積りかもしれないが、うまくゆくだろうか。数の上だけでは、コントロールできたとしても、医師のやる気を削ぐことは間違いない。医療の倫理は、強制によって確立し維持されることはない。医療が倫理的に荒廃する状況が見えてくる。

この医療事故の行政処分化の背景には、官僚の天下り先確保があることは確実だ。行政処分を担当する行政部門の肥大化、行政処分に伴う研修を担当する組織の設立等々、永続的な天下り先が確保されることになる。

医師は、注意義務違反という本来避けえない、行政処分の対象になるエラーに怯えつつ、仕事を続けることになる。ヒューマンエラーの大きな原因である労働環境の問題等は、これまで通り、そのままにされる可能性が高い。

結局、こうした行政の医療支配は、医療を荒廃させ、国民がその負の影響を被ることになる。

以下、MRICより引用~~~

行政処分の量産化への蠢き

この原稿は月刊集中4月号(3月31日発売号)掲載予定です。

井上法律事務所 弁護士
井上清成

2017年3月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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1.2016年度医道審医道分科会の現状
厚生労働省医政局医事課の所管の一つに、医師法(歯科医師法)に基づく医師(歯科医師)免許に対する行政処分がある。毎年2回ずつあるのが通例であり、医道審議会医道分科会の答申を受けて、医師(歯科医師)への免許取消・医業(歯科医業)停止・戒告の行政処分を行う。
2016年度は、2016年9月30日と2017年3月3日に行政処分が公表された。9月30日は医師15件、歯科医師15件の計30件。3月3日は医師12件、歯科医師6件の計18件。つまり、2016年度1年間では医師27件、歯科医師21件の合計48件であった。その48件の内訳は、ほとんどが一般犯罪で有罪とされたものである。
そのうちで目を引くのは、診療報酬不正請求17件と医療過誤としての業務上過失致死罪1件であろう。いずれも医業停止3ヶ月とされた。

2.行政処分の量産化
まず、診療報酬不正請求が17件というのは、多すぎる感がしよう。1年間の行政処分件数48件のうち、約35%を占めていて、処分事由としては最多である。現状は、診療報酬不正請求が医政局医事課による行政処分の数量を下支えしていると言ってもよいかも知れない。不吉なことではあるが、今後も増加していきそうに思う。
次に、医療過誤に業務上過失致死傷罪を適用するのは妥当性を欠くことなので、その1件を0件としたいものである。実際、その1件は国立国際医療研究センター病院で起きたレジデントによるウログラフイン誤投与の事案であったが、本来はそのレジデントが刑事被告人になるように導いてしまった病院幹部の運用こそが非難に値しよう。ただ、運用レベルでの改善では限界があるので、法改正をしてでも、医療過誤での業務上過失致死傷罪は廃止して、この理由での行政処分はゼロとしたいところである。
しかしながら、行政処分の量産化という観点からは、一部の厚労医系技官らによって長年にわたって潜かに目論まれているのが、医療過誤の行政処分化である。もしも刑事罰を経ずとも医療過誤を行政処分化することができれば、診療報酬不正請求をはるかに上回る行政処分件数が確保されうるであろう。医療過誤の行政処分化は、行政処分の量産化という政策目標にとって、最もフィットした方策なのである。

3.厚労科研「医療行為と刑事責任」の開始
2017年3月10日、医政局医事課の所管で、厚生労働科学研究として、「医療行為と刑事責任」の研究が開始された。その研究の方向性は、次のようになっていくものと予想されよう。たとえば、「医療行為への刑事責任の追及は、極めて限定すべきである。少なくとも、医療行為への業務上過失致死傷罪の一般的な適用は、除外しなければならない。しかし、無謀な医療という類型、単純ミスという類型には、何らかの限定された責任を問うべきである。無謀な医療には、それに適した故意犯、故意犯と過失犯の結合犯・結果的加重犯、または、重過失限定の過失犯といった選択肢の下で、特別の刑事犯創設の議論を進めるべきであろう。そして、単純ミスに対しては、医療過誤を行政処分化するという条件の下で、刑事犯から除外しうる方向とするべきである。」といった具合いであろうか。
何らかの責任追及は行わねばならないことを大前提とした上で、刑事責任と行政処分のトレードオフを行おうとする考え方と言ってもよい。もともと、医系技官、医療団体幹部、法律家の一部には、そのような考え方に親和性を持つ者がいた。そのため、今回の厚労科学研究でも、そのような考え方が指向されていくことが予想されるのである。

4.行政処分化の参考モデルー第二次試案等
刑事責任と行政処分のトレードオフを行おうとする考え方は、かつて、医療事故調査制度の第二次試案(2007年)・第三次試案(2008年)となって具体化されたことがあった。
たとえば、「診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案―第二次試案―」においては、行政処分の在り方については、ズバリと、「行政処分は、委員会の調査報告書を活用し、医道審議会等の既存の仕組みに基づいて行う。」「個人に対する処分のみではなく、医療機関への改善勧告等のシステムエラーに対応する仕組みを設ける。」と明言している。つまり、医療過誤の行政処分化そのものであった。
また、その「第三次試案」も同じであり、「システムエラーの改善の観点から医療機関に対する処分を医療法に創設する。」「医師法や保健師助産師看護師法等に基づく医療従事者個人に対する処分は、医道審議会の意見を聴いて厚生労働大臣が実施している。医療事故がシステムエラーだけでなく個人の注意義務違反等も原因として発生していると認められ、医療機関からの医療の安全を確保するための体制整備に関する計画書の提出等では不十分な場合に限っては、個人に対する処分が必要となる場合もある。その際は、業務の停止を伴う処分よりも、再教育を重視した方向で実施する。」として、行政処分の量産化や医療過誤の行政処分化を指向していたのである。
つまり、医療過誤の行政処分化については、診療報酬不正請求くらいを目途にして件数をほどほどに増やし、かつ、その処分の程度については医業(歯科医業)停止3ヶ月以下か戒告の程度を想定しているものと推測されよう。

5.医療過誤の行政処分化は慎重に
しかしながら、そもそも、行政処分の他の事由とは異なり、医療過誤は刑事責任にも行政責任(行政処分)にもなじまない。今までに行われてきた議論は、医療過誤には本来は刑事責任があることを暗黙の前提としつつ、それと行政処分とをトレードオフすることによって、刑事責任を謙抑的にして行政責任にスライドさせようとする試みであった。しかし、それは、そもそも追及されるべき「責任」があるという前提に呪縛された議論にすぎない。今後の議論は、刑事責任も行政責任もそもそも存在していないことを前提に、議論の再構築をしていくべきなのである。
医療過誤の行政処分化には慎重でなければならない。

業務上過失致死罪は、原則医療に適用すべきではない 

医療は、病気というリスクを抱えた患者に、時に危険を伴う治療行為を行う仕事の総体であるから、時に予期しえない副作用、場合によっては患者の死亡という痛ましい事態になることは、避けられない。犯罪的な医療行為がなされた場合を除き、そうしたケースに業務上過失致死罪を適用することには反対だ。同罪の適用が行われると、積極的な医療は行えなくなる。当ブログを付け始めたころ、大野病院事件の関連で何度かこの問題を取り上げたことがある。

下記の論説では、業務上過失致死罪適用に道を開く医師法21条の改正が、行政処分の拡大に結び付くことが述べられている。2015年、死亡診断書(死体検案書)記入マニュアルが改定されて、診療関連死であっても外表異常の場合のみ警察へ届けることになってから、届け出は大幅に減少している。著者の井上弁護士は、医師法21条改正ではなく、刑法211条に規定される業務上過失致死罪の規定から診療関連死を除外することを目指すべきだと主張している。

井上弁護士の主張に賛成だ。群馬大学で明らかになった内視鏡手術事件のようなケースに対する対応は今後必要だが、業務上過失致死罪の適用は医療を萎縮させる。医療現場が萎縮せずに、業務に携われることを念願している。

以下、引用~~~

医師法21条の単独改正はすべきでない

この原稿は月刊集中10月末日発売号からの転載です。

井上法律事務所 弁護士
井上清成

2016年11月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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1.医療の内側は解決し、外側へ

医療事故調論争は、平成28年6月24日の改正省令と一連の厚労省通知によって、事実上、終止符を打った。あとは、個々の医療機関ごとに、「すべての死亡症例の管理者の下での一元的チェック」の体制を整え、院内での医療安全管理を手堅く進めていくことが肝要である。以上をもって、医療の内側に関する論争は決着した。

次は、医療の外側の未解決の問題に焦点が移っていくことになろう。それは、医師の刑事責任の問題である。現状、医療過誤が刑法211条の業務上過失致死傷の罪責に問われうる、というのは異常な事態と言ってよい。

2.不条理な構図から、脱却へ
たとえば、国立国際医療研究センター病院のいわゆるウログラフイン事件では、レジデント個人の未熟さが直ちに過失と断定されて、業務上過失致死罪での刑罰に直結し、さらには、医業停止3ヶ月の行政処分へと至った。他方、病院
システムに不備のあったその病院自体や、管理責任のある病院幹部は、ほとんど責任を問われていない。

そもそも法原理的に、「未熟さを過失犯として処罰してはならない。」はずである。ところが、上記事件で典型的に現われているとおり、「医師個人の未熟さ+病院システムの不備=医師個人の刑事過失犯」という不条理な構図に嵌まってしまっている。

また、病院幹部は、現場の医師に「過度に危険な業務」としての診療業務に携わらせている、という意識に乏しい。今ここで強調したいのは、患者にとって「過度に危険な」という意味ではなく(その側面は、「医療安全」「医療安全管理」の問題である。)、医師にとって「過度に危険な」という意味である(この側面は、「労働災害」「労務管理」の問題である)。つまり、現場の医師は、不備のある病院システムの中で、ちょっとしたことで「業務上過失致死傷罪」に問われうるという「過度に危険な」業務に従事させられている、と言ってよい。

このような二重の意味での「不条理な構図」から脱却しなければならないのである。

3.行政責任とのトレードオフに、注意を
一般に法律の世界では常識であるが、刑事責任を免除、軽減する際には、その代わりに、行政処分を拡大することが要求されてしまう。刑事と行政処分とのバーター取引と言ってもよい。

現在、医道審議会を経た医師法に基づく行政処分については、保険診療報酬の不正請求を除けば、ほぼ刑事責任が確定したものをそのまま受けた形に限定されている。論者によっては、行政処分が軽すぎる、または、少なすぎる、といった批判も提示されていた。そのような論者は多く、行政処分の数(重さではない。)を増やすべきである、と論じている。3ヶ月以下の医業停止処分を増
大させたい、もしくは、戒告処分を増大させたい、というものらしい。

つまり、二重の意味での「不条理な構図」を現実に脱却させようとした途端、行政処分数の増大圧力が加わってしまう。しかしながら、この「行政責任とのトレードオフ」の肯否については、これまで必ずしも医療者は十分に意識しておらず、また議論もして来なかったように思われる。今後、慎重にではあるが、十分に議論をせねばならないところであろう。
いずれの方向を目指すにしても、「行政責任とのトレードオフ」は、要注意である。


4.医師法21条単独改正、大損に注意を
業務上過失致死傷罪を巡る「不条理な構図」を脱却させるためならば、敢えて「行政責任とのトレードオフ」を甘受すべきとの決断もやむをえない、という論者もいるかも知れない。なお、医師法21条だけの単独改正であっても「行政責任とのトレードオフ」を甘受すべきである、という論者も存在するらしいが、少なくともそれは明らかに「損な取引」である。
医師法21条だけの単独改正をしてしまうと、業務上過失致死傷罪の改正議論は半永久的に消失してしまう。せいぜい良くて、業務上過失致死傷罪の運用を謙抑的にするといった程度でしかない。それでは、取引としては損であろう。

特に、現状においては、すでに「医師法21条の猛威」は去っている。警察の統計によれば、医師法21条等の届出件数がそれまでの年間10~20件から年間80件に激増したのは2000年のことであった。その後は100件台に増加したまま推移し、2004年には199件にまで達している。近時でも88件(2014年)であった。
ところが、外表異状説(外表面説)が定着し、死亡診断書(死体検案書)記入マニュアルが改定された2015年には、年間47件にまで一気に激減し、2000年以前の水準にまで戻っている。つまり、すでに「医師法21条の猛威」は去った。そうすると、わざわざ単独改正をして、行政処分数の増大とのバーター取引をする必要がない。
したがって、医師法21条だけの単独改正は取引としては大損でしかなく、よって、医師法21条単独改正はすべきでないのである。

5.今後の展望―刑法211条単独改正
今後の方策としては、刑法211条単独改正、刑法211条・医師法21条一体改正、医師法21条単独改正といった選択肢が考えられよう。しかし、すでに述べたように、医師法21条単独改正はありえない。

次に、刑法211条・医師法21条一体改正については考えられうるが、診療関連死以外の一般の犯罪の見逃し防止という観点を踏まえると、やはり医師法21条の改正は難しいところがある。医師法21条は、一般犯罪との関係で言えば、社会秩序維持のための最低限の社会的インフラとも言い得よう。そうすると、診療関連死を除外しつつ、一般犯罪についてだけは医師法21条を機能させるようにするのは、立法技術的にはなはだ難しい。

むしろ、医師法21条には触れずに、刑法211条から診療関連死だけを切り分ける方が立法技術的には容易である。刑法211条の業務上過失致死傷罪から診療関連死を除外し、診療関連死の特質に即して限定化・明確化した犯罪類型を、医師法または医療法に新設してしまう。そして、その際の限定化・明確化の鍵は、過失概念の限定化・明確化という従来型の枠組みではなく、故意犯としての限定化・明確化となるであろうと予想される。

今後は、諸々の要素を慎重に検討しつつ、刑法211条単独改正の議論を注意深く進めていくべきであろう。

診療報酬詐欺報道の背後にいる者たち 

脇坂某というタレント医師が、診療報酬の不正請求をした疑いで逮捕された。今朝あたりから、テレビ等で繰り返し報道されている。

診療していないのに診療したかのようにして診療報酬請求をした、架空請求であり、もっともばれ易い不正だ。総額が7000万円近くになる、と報道されている。暴力団も関与しているらしい。

まずは、この件が本当ならば、脇坂某は法に則り厳格に処罰してもらいたい。それ以外にない。

が、おかしいと思えることが一つ、二つある。

一つには、なぜこれほど高額の診療報酬の不正請求が見逃されていたのか、ということだ。このようにprimitiveな不正はすぐに判明するのではないのか。暴力団がらみの捜査があったためなのかもしれないが、いかにも対処が遅い。「不正請求」といわれるものの大多数は、請求の過誤によるものだ。医療機関の事務的なミスによるもの、またはきわめて入り組んだ診療報酬規程の解釈の問題で、当局と医療機関の見解が異なるものが多い。特に前者が圧倒的に多い。

本当の不正であれば、通常、すぐに当局が対応する。数万円以上の不正請求があると、当該医療機関は、即刻保険診療停止の処分を受け、通常業務が行えなくなる。それを知る者としては、この医師の不正請求に対する当局の対応が余りに遅いと感じざるを得ない。これほど高額の不正を見抜けなかったとしたら、当局の無能ぶりをさらけ出していることになる・・・がその可能性は低い。むしろ、放置していた可能性がある。当局が「この時期に」この件を立件したのは、診療報酬改定とリンクさせようとしていたのではないだろうか。4月に新たな診療報酬が施行される。その直前にこうした違法医療機関、医師の立件が行われ、医療機関に対して世論を批判的に見るように仕向けることが、毎回行われている。もしそうだとしたら、当局の世論誘導が余りにあからさまで失笑を禁じ得ない。

もう一点。このような人物をテレビ番組にタレントとして登場させていた、マスコミの責任だ。テレビ番組で、破天荒な金遣いをこの人物は披瀝していたという。それを、マスコミは面白おかしく番組で利用していたわけだ。それが、一転して逮捕されると、まるで関係ないかのように、その人物を「客観的に」報道し始める。節操がない。この無節操振り、恥ずかしくないのだろうか。

あまりにお粗末な詐欺事件だが、その報道の背後で、この容疑者、そして事件の報道を自らに都合の良いように利用しようとする、行政・マスコミが蠢いている。



院外調剤薬局不正請求、その後 

院外調剤薬局の不正請求が、この冬に表面化した。その実態が、6月24日に中央社会保険医療協議会で報告された。

2014年の1年間で81万2144件、約3億円分の薬剤服用歴未記載があった、ということだ。この3億円という金額は、薬剤服用歴記載に関する技術料だけと思われる。医科の診療報酬過誤(不正請求も含む)の場合のように、他の技術料を含めれば、この数倍の金額になるはずだ。さらに、これとて、強制力ある行政の監査ではなく、調剤薬局の自主的な報告をもとにしたデータなのだから、これ以上なかったとは言い切れない。調剤薬局は、この不正請求分を返還し、研修を行うことで対応するという。それを了承する行政は、大アマである。

これほど多数の不正請求がなぜ放置されたのか。これほど大規模な不正請求を見抜けなかったとすれば、支払基金の審査能力に問題があると言われても仕方あるまい。また、問題発覚後も、厚労省の動きは極めて緩慢であった。調剤薬局と、行政が裏でつながっているのではないか。第三者が、この経緯を検証すべきではないか。これはいわば詐欺罪にもあたる案件である。

医科に対する診療報酬の誤りに対する行政の対応は厳正を極める。大多数を占める事務的な誤りであっても、薬局に支払われた診療報酬を含め、診療報酬全体を返還させられる。明らかな不正に対しては、相当の行政処分が下される。数万円ほどの金額であっても、医業停止処分等が下される。それを考えると、少なくとも、この案件に関して、行政は、強制力を持った監査を調剤薬局に行うべきである。この不正が行われた理由、原因を明らかにしないと、同じことが繰り返される。

この事件で、院外調剤薬局制度に加えられた「改革」といえば、「かかりつけ薬局」機能の創設だ。これは改革でもなんでもない。巨大薬局チェーンの寡占体制を促し、そうした企業にさらに利益を回すことでしかない。「かかりつけ薬局」に地域医療の拠点としての機能を持たせるというが、それは絵に描いた餅であることは前のポストで記した。大企業と行政、そして恐らく政治家も巻きこんでの、利益の付け替えに過ぎない。

過ぎゆく時間を眺めて 

毎日のようにスーパーに買い物に出かける。物価が上がっている。毎日欠かすことのできぬ食料の値上がりが著しい。

昨夕、NHKラジオで、この物価上昇について報じ、某経済研究所のエコノミストなる人物がコメントをしていた。値上がりの要因は、円安、開発途上国での需要の伸びなどと説明していた。彼曰く、だが、現在アベノミクスで好景気であり、給与が上昇している(詳細を聞き逃したが、安倍首相が何時も引用する指標)から、この物価上昇は、良いものなのだそうだ。

好景気等は、円安の恩恵を受ける輸出大企業だけの話だろうし、実質賃金は下がり続け、さらに年金も実質引き下げである。ま、その話は置いておくとして、マスコミがコメンテーターとして採用する人物は、押しなべて現政権を批判しない現状肯定の方々になっている。現政権は、自らに批判的なコメントをする人物を、マスコミから排除するように、裏で動いているらしい。

国の形が、内側でも、外側に向かっても、大きく変わろうとしているのに、問題を指摘し、議論する論客が、マスコミにはいない。マスコミで働く人間、特にその上層部にいる人間は、元来、「持てる」者たちなのだ。彼らは、時の政権、特に有無を言わせぬやり方の政権には、黙りこくってしまう。テレビ、ラジオで、そうした重要事項にかかわるニュースに接する度に、それを強く感じる。

それに対して、我々はどのように対応すべきなのか。一つは、印刷物の媒体をもっと重視すべきだろう。しばらく前から、岩波書店発行の「世界」を定期購読し始めた。その昔、この雑誌に、医療の診療報酬不正請求が9兆円というデマを堂々と述べた論文が載っていたことがあり、それ以来、読むのをピタッと止めていた。だが、再び読むようになると、質の良しあしは多少あるが、私の知らない情報、知見が掲載されていることが多い。最近、上梓された「沖縄 何が起きているのか」という沖縄特集の別冊は、沖縄の過去、現在、未来について多くのことを教えてくれた。沖縄県外の国民が、沖縄のことについて如何に無関心、無知であるか、ということだ。辺野古の状況も、マスコミは、時々しか報じない。我々は、まず知る努力をすべきなのだ。

新聞にも時に良い記事が載ることがあるが、総体としてみると、テレビ、ラジオと同列の記事が多い。広告料に縛られている媒体なので、仕方ないのかもしれない。

それに、ネット。これも玉石混交で、石がやや多い印象だが、横のつながりができるというメリット、誰でも発信者になれるというメリットは大きい。リテラシーをもって、ネットも活用してゆきたいものだ。拙ブログに何の意味があるのか、と時々自問することがある。積極的な意味がないのではないか、という意識がその背後にはある。でも、こうして田舎で生活する元小児科医が、世の中をどのように観たかを拙い文章で残すことに意味が全くないということはなかろう。

というわけで、もうしばらくは、このブログを続けることにしよう。

壮大な無駄の社会的実験 

数日前、「くすりの福太郎」に引き続き、イオン系列のCFSコーポレーションでも、服薬記録の未記載が発覚した。8万件弱あったらしい。両社が不正に得ていたと思われる診療報酬(薬剤服用歴管理指導料)は、単純計算で1億円になる。この様子だと、他の調剤薬局も同じように未記載で、診療報酬だけ請求していた可能性が高い。

厚労省は、それでも動く気配がない。動くと何かまずいことが露呈するのだろう。恐らく、今春にも行われると言う、薬局関係の診療報酬改定でバッサリこの指導料を減額することで、済まそうとしているのではないだろうか。大甘である。

医療機関であれば、このような不正請求があれば、即刻、監査の上、保険医療機関指定取り消し、さらには詐欺罪で刑事告訴もありうる。

調剤薬局が、服薬記録によって得られる指導料の算定要件は以下の通り。

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薬剤服用歴管理指導料は、患者に対して、次に掲げる指導等のすべてを行った場合に処方せんの受付1回につき41点(410円;ブログ主)算定する。ただし、ハを除くすべての指導等を行った場合は、所定点数にかかわらず、処方せんの受付1回につき34点(340円;ブログ主)を算定する。(ブログ主;行政の個別指導で、服薬記録の記載が問題にされなければ、調剤薬局は、すべての患者に対して41点を請求するはずだ。)

イ 患者ごとに作成された薬剤服用歴に基づき、投薬に係る薬剤の名称、用法、用量、効能、効果、副作用及び相互作用に関する主な情報を文書又はこれに準ずるもの (以下この表において「薬剤情報提供文書」という。)により患者に提供し、薬剤の服用に関して基本的な説明を行うこと。
ロ 処方された薬剤について、直接患者又はその家族等から服薬状況等の情報を収集して薬剤服用歴に記録し、これに基づき薬剤の服用等に関して必要な指導を行うこと。
ハ 調剤日、投薬に係る薬剤の名称、用法、用量その他服用に際して注意すべき事項を手帳に記載すること。
ニ 患者ごとに作成された薬剤服用歴や、患者又はその家族等からの情報により、これまでに投薬された薬剤のうち服薬していないものの有無の確認を行うこと。
ホ 薬剤情報提供文書により、投薬に係る薬剤に対する後発医薬品に関する情報(後発医薬品の有無及び価格に関する情報を含む。)を患者に提供すること。

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要するに、投与薬剤の一般的な説明、服薬状況の確認、後発薬について情報提供である。こういっては何だが、患者の病気の個別の状態を把握しての指導等、手間と専門性が必要となる指導では決してない。一言二言言葉を交わすだけで済みそうな内容に思える。

で、服薬記録の記載を常態として行っていなかったとなると、こうしたお題目が殆ど意味のないものであることが露呈されたといえる。院外処方制度が開始されてこの方、この指導が不十分なために何か大きな問題が起きたということは少なくとも表にはなっていない。

ということは、院外調剤制度の意味がないことを、院外調剤薬局自体が証明している、ということではなかろうか。壮大な無駄の社会的実験である。

それにしても、この問題に対して行政がすぐに動かないのは解せない。背後に何があるのだろうか。院外調剤薬局の梯子が外されるのか、それとも何か別な意図があるのか。いずれにせよ、国民が本来ならば怒らねばならないのだが・・・世論はあまり動かない。

調剤薬局「福太郎」続報  

調剤薬局「福太郎」薬剤服薬歴未記載の続報。内部告発で明らかになった様子。

調剤薬局の診療報酬について詳しくないが、薬剤服用歴の不正請求だとすると、一件22点=220円なので、17万件の不正請求総額は、3740万円になる。これほどの額を、厚生労働省関東信越厚生局が3年間も放置したというのは如何にも不自然だ。医療機関の場合、数万円から数十万円の「不正」請求で、即監査、多くの場合保険医療機関指定の停止というペナルテイが待っている。「福太郎」には、どうも薬剤師の配置数についても胡散臭さがある。この規模の不正請求であれば、即刻保険診療指定停止を行って当然なのだ。厚生局のスタッフが足りない?どうも解せない理由である。行政の公平性を欠く。やはり、厚労省と調剤薬局には、何か特別「フレンドリーな関係」があるのではないか、と疑わざるをえなくなる。

厚労大臣は、薬局の指導で、こうした調査は厳正に行ってきているとぬけぬけと語っているが、こうした内部告発を3年間も放置してきた監督官庁の責任者の言葉とは思えぬ。無責任である。

朝日新聞は、この事件から、調剤薬局の問題をえぐるキャンペーンを始めるような気配がある。マスコミがこのように動くときには、そこにも何か理由があることが多い。現在経済財政諮問会議が、調剤薬局の「規制緩和」を議論している。現在の調剤薬局の上げる利潤を、我々にも寄こせと主張する、経済界、とくにネット通信販売大手の意向がありそうだ。調剤薬局への批判的な世論を誘導しようとしているのかもしれない

医療関係者がネットで発言しているところからすると、これに類する不正は、あちこちで行われているらしい。必ずしも調剤薬局の大手ではないところで問題が明らかになったことにも、マスコミ、行政それに業者の間の何らかの暗黙の了解があるのかもしれない。

いずれにしろ、この問題のど真ん中にいるのは、行政だろう

以下、引用~~~

薬歴の未記載、3年前に情報 厚労省、調査に入らず
朝日新聞 2015年2月12日(木)

 薬局チェーン「くすりの福太郎」(千葉県鎌ケ谷市)の薬局で大量の薬剤服用歴(薬歴)が記載されていない問題について、福太郎の元薬剤師が厚生労働省の複数の出先機関に3年前から情報提供していた。厚労省は現在も福太郎の調査に入っていない。

 情報提供していたのは、福太郎の薬局に勤めていた元薬剤師。2012年3月ごろ、関東信越厚生局千葉事務所に電話し、名前は伏せたが福太郎の元薬剤師であることを伝えた。勤めたことがある福太郎の複数の薬局で薬剤師が薬歴を書いていない状況を30分ほど説明したが「文書にして送って下さい」と言われた。

 すぐに文書を千葉事務所に郵送したが、その後も厚生局の動きがないため、約1カ月後に電話で確認すると「いただいた情報をどうするかは答えられない」という返事だった。

 翌13年3月、福太郎本社は薬歴の記載状況を調べ、約17万件の未記載を把握した。この調査結果は各店舗の従業員が閲覧でき、未記載の薬歴数が担当の薬剤師ごとに示されていた。

 元薬剤師は同年夏ごろ、福太郎で働く薬剤師に依頼し、厚労省に提供することに同意を得た上で調査結果を入手。これを福太郎の店舗がある千葉、東京、茨城の厚生局事務所と埼玉にある本局の指導監査課に匿名で郵送したが、その後も厚労省は福太郎を調べていない。

 関東信越厚生局は朝日新聞の取材に対し「個別の情報提供内容に関しては答えられない」と話す。

 元薬剤師は「厚労省がすぐに調査していれば、今も薬歴の未記載が放置され、患者の健康が危険にさらされる恐れはなかった」と話す。

 厚労省の調査姿勢をめぐっては、診療報酬の不正請求など多くの情報を提供している健康保険組合連合会も「(情報提供しても)厚生局は一向に動かない。半分諦めている」と、13年10月の中央社会保険医療協議会で不満を表明している。厚労省幹部は朝日新聞に対し「人手が足りず調査が行き渡らないこともある」と話した。

院外調剤薬局が薬剤服用歴未記載 続き 

ひとつ前のポストの続編。より詳細な記事。

1)調剤薬局「くすりの福太郎」は、厚労省の指導に備えて、薬剤服用歴の記載を確認したところ、17万件以上の未記載が明らかになったということだ。

2)当該薬局は、薬剤師が足りず、記載が疎かになったと弁明している。

3)厚労省は、さらなる報告を待ちたい、と鷹揚な態度。

ということのようだ。

まず、第一点について、厚労省は、これほど大規模な未記載をこれまでなぜ見逃してきたのか、大いに疑問だ。診療報酬を、記載したことを前提に請求しているはずなので、これは不正請求である。不適切な請求と片付けるべき問題ではない。行政の責任が問われる。

第二点、薬局に配置すべき薬剤師数は、対応処方箋数により法律で決まっているはず。もし本当に、人手が足りなくて、記載を怠ったというなら、配置薬剤師数が適正であったか、厳密にチェックすべきだろう。

第三点、厚労省は、この大規模な診療報酬の不正請求に対して、もっと迅速に行動すべきではないか。更なる報告を待つのではなく、すぐに監査に入るべきなのではないか。この腰の引けた対応は、裏に何かあることを改めて疑わせる。医療機関への厳しい対応を考えると、あまりに悠長である。

と、ここまで書いて・・・東京医科歯科大学の川渕孝一教授(医療経済学)のコメントを読んで、その通りと思う一方、行政畑出身の彼がこのように言うのは、調剤薬局に対する診療報酬引き下げを当局が行うための情報操作、世論誘導なのかもしれない、という思いが出てきた。「厚労省は薬局の診療報酬をゼロベースで見直すべきだ」と、断言するのはまだ早い。もし厚労省が情報操作をしているとしたら、それも大問題だ。

以下、引用~~~

大手薬局チェーンのツルハホールディングス(HD=東証1部上場、本社・札幌市)の子会社が関東地方に展開する調剤薬局で、薬剤師が記録することを求められている「薬のカルテ」と呼ばれる薬剤服用歴(薬歴)を記載せずに患者へ薬を出していたことがわかった。2013年3月の内部調査で未記載は約17万件あった。根拠となる資料がないまま、一部で診療報酬を不適切に請求していた疑いがある。▼2面=「いちからわかる」、35面=利益優先で薬歴後回し

 ■診療報酬不適切請求の疑い

 薬歴を適切に管理すれば、薬を出すごとに410円の診療報酬が得られる。朝日新聞の指摘で事態を知ったツルハHDが今年1月に一部店舗を調べたところ、未記載の薬歴を確認したことから「返金や関係者の処分も含めて検討する」と話している。

 この子会社は「くすりの福太郎」(本社・千葉県鎌ケ谷市)。朝日新聞が入手した内部資料によると、福太郎本社は13年3月ごろ、厚生労働省の指導が入ると想定し、薬歴の記載状況を報告するよう各店舗に指示した。その結果、同月時点で69店舗中48店舗で計17万2465件の未記載が判明。結局、厚労省の指導はなく、薬歴を適切に管理する体質には改善されなかった。

 調剤薬局の薬剤師は、医師の処方箋(せん)に沿って調剤する際、患者ごとに薬の効き具合や副作用などを薬歴に記録して保管しなければならない。同じ患者が再び来たらすぐに薬歴を確認しながら調剤し、問題があれば処方した医師に連絡する。薬歴が未記載だと適切な調剤ができず、患者に健康被害が起きる可能性がある。

 福太郎では、薬を渡す時に薬剤師が患者の状況を紙にメモし、後でパソコンで管理されている薬歴に詳しい情報を打ち込む手順になっていた。しかしパソコンに入力されないまま、メモが大量に放置されていた。福太郎関係者は「薬剤師が足りず、薬歴を書く余裕がなかった」と話している。

 化粧品や一般医薬品を販売していたくすりの福太郎は1986年に調剤薬局を始め、03年の38店から今年1月の87店に拡大。07年にツルハHDの傘下に入った。福太郎は朝日新聞の取材に対し「事態を非常に重く受け止め、深く反省している」とコメントし、一部店舗を閉鎖して薬剤師を集約するなど、薬歴を書ける態勢を整えるという。

 ツルハHDからすでに報告を受けている厚労省保険局医療課は「より詳細な報告を待ちたい。薬歴未記載での指導例はあるが、これだけ大規模な未記載は初めてだ」としている。

 (沢伸也、風間直樹、丸山ひかり)

 ■存在意義揺るがす

 東京医科歯科大学の川渕孝一教授(医療経済学)の話 医師が処方した薬の副作用などを点検する調剤薬局の存在意義を揺るがす事態だ。患者の健康より営利を優先させ、診療報酬に見合うサービスを提供していない恐れが高まった。他の薬局でも薬歴を放置している可能性がある。厚労省は薬局の診療報酬をゼロベースで見直すべきだ

 ◆キーワード

 <薬剤服用歴(薬歴)> 薬剤師が患者ごとに作成する「薬のカルテ」。アレルギーなどの体質や過去の副作用▽服薬中の体調の変化▽副作用が疑われる症状の有無▽併用薬▽残薬状況▽処方薬や服薬指導の内容――などを記録する。調剤するときに点検し、健康被害を防ぐ。日本薬剤師会によれば、高脂血症治療薬を処方された患者が、別の医師に処方されていた薬と一緒に併用すると肝機能障害などの副作用が起きる危険が高いことが薬歴からわかり、医師に連絡した事例があった。


「不正」請求という誤報 

この手の問題は、開業していた頃から頭痛の種だった。

膨大かつ複雑な診療報酬体系に沿う形で診療を行うことが、医療機関側に要求されるが、その診療報酬体系に大きな問題がある。まとめれば、

〇診療報酬制度が複雑すぎる。
〇解釈でいかようにも取れる条項がある。その解釈は、行政の意向次第。恣意的。
〇診療報酬制度をあまりに頻繁に変える。

ということになる。

診療報酬請求の誤りの大部分は、不正ではない。過誤にしか過ぎない。診療所レベルで言えば、患者さんの保険証の問題・・・更新されたものを持参しないとか、保険自体が変わったとか・・・であることが圧倒的に多い。病院であっても、おそらく同じだろう。それを不正と呼ぶのは、誤りである。マスコミは、意図的に不正請求という用語を乱用する。記事をアピールするための意図的な誤報だ。

不正請求を大々的かつ意図的に行っている業界がある。が、どういうわけか、そちらは問題にされぬことが多い。どうも業界団体が政治家を強力に支援していることと関係しているらしい。

他の業界はさておき、この不正請求という言葉が、医療従事者のやる気をどれだけ削いでいることか。

川渕教授は医師ではなく、行政畑出身の方だと思うが、医療現場をあまりに知らない。医療現場は、この複雑怪奇な診療報酬体系に翻弄されている。診療報酬請求書が電子化されてから、かなり機械的に、請求が査定されるようになった。彼の言う合理化である。しかし、解釈の問題、さらに医療そのものの複雑性を、機械的に処理することはできない。彼のような人物が、有識者として、現実無視の意見を述べているようでは、医療はますます混迷させられる。また、審査が甘いと言うこともない。行政が医療機関に個別指導、監査を行うことが常態としてある。その指導内容は、往々にして重箱の隅をつつく類のものなのだ。

率直に言えば、行政は、医療費を削減することを至上命題に、診療報酬を猫の目のように改変する。医療費の無駄を省くことは確かに大切だが、ピントが外れた議論であることが多い。ぎりぎりのところで経営している医療機関としては、解釈上収入が増える選択肢を取らざるを得なくなる。しかし、事後になって、「医療法を無視した」解釈が行政から示され、診療報酬を返還する羽目になる。

医療機関は、そうしたことにならぬように、医療内容を自ら委縮する方向に向かう。結局、この壮大な無駄の体系のしりぬぐいをさせられるのは、患者たる国民ということになる。


以下、引用~~~

後絶たぬ、診療報酬の不正請求 基準曖昧で審査甘く

記事:神奈川新聞
14/09/30

 診療報酬をめぐる不正・過大請求が後を絶たない。JA県厚生連伊勢原協同病院(伊勢原市)で疑いが明らかになった「検体検査管理加算」の不正請求も、過去に他の医療機関で発覚している。一方、不正が明るみに出るのはわずかとみられる。医療関係者は、届け出基準の曖昧さや厚生労働省の審査の甘さを指摘する。

 同加算をめぐっては、2005年に滋賀県内の病院、12年には宮城県内の病院でそれぞれ1千万円単位の不正請求が発覚。それぞれ、臨床検査の担当医が手術補助などの業務を受け持っていたり、週1回の外来診療に当たっていたりしていた。県内でも09年、川崎市内の病院で数百万円の不正請求が明らかになっている。

 静岡県内の病院は今年7月、同加算4の請求をめぐり、臨床検査医の「常勤」の基準を満たしていないと厚労省から指摘を受けた。同院によると、6月末で請求資格を取り下げ、13年4月からの本来の資格との差額分の診療報酬を患者の自己負担分を含めて返還する方針だ。

 同院は常勤医に必要な勤務時間について、医療法に基づき「週32時間以上」と解釈。だが厚労省は「週5日40時間」を原則とし、患者1人当たりの診療点数が月400点(4千円)低い同加算2に当たると指摘したという。同院関係者は「医療法に準じるのが当然だと思っていた。同様の解釈をしている病院は多いのではないか」と話した。

 ただ、不正や過大請求が発覚するケースはまれだ。

 同加算など特別な診療行為ごとに算定される特掲診療料を請求できる資格は、施設規模に応じた医療機関の届け出に基づき、厚労省が審査して決定される。ある病院関係者は「審査はほぼスルーと言っていい」と打ち明ける。

 なぜか。「病院の性善説が根底にある」。別の医療関係者が説明する。基準を満たすため、実労働がなくとも名義を使うためだけに医師を在籍させている病院もあるという。「(診療所を除いた)病院だけでも1万軒近くあり、厚労省はチェックを徹底しようにも、手が回らないはず」とみるこの関係者は、「結果的に不正を野放しにしている、と言われても仕方がない」と国を批判した。

 東京医科歯科大の川渕孝一教授(医療経済学)は「日本のチェック体制はアナログで、先進国の中で非常に遅れている。制度設計に明らかな欠陥がある」と指摘する。診療報酬の請求内容を調べる厚労省の指導医療官ら指導・監査担当者が、慢性的に不足しているのが実態という。医療機関から市町村や健康保険組合に請求されるレセプト(診療報酬明細書)は年間十数億枚に上るとされ、「レセプトと院内体制の二重チェックで精いっぱいだ」と強調する。

 不正請求を防げなければ、患者の自己負担が増えるだけでなく、不必要な医療費の増大を招く。川渕教授は抜本的な不正請求対策として、「診療報酬の管理を全面的に電子化してシステム監査に移行し、(医師の配置の把握を容易にするため)専門医の登録制もさらに進めるべきだ」と提言している。


厚生行政の指導・監査に対する、日弁連の意見書 

行政による、医療機関への「指導・監査」は、医療を方に則り円滑に進めるために行われることになっている。が、医療機関は、保険診療を行う上で、行政に指導される立場にある。本来は、契約関係で対等なはずなのだが、行政が許認可権を握るために、その関係は行政が実質的に上に立つ不平等な関係になっている。医療機関に問題があることもないことはないのだが、医療機関の生殺与奪の権利を持つ行政の指導・監査は、場合により、医療機関に対して苛烈を極める。現行の指導・監査の問題は、

1)指導・監査が専ら医療費削減を目的とする経済的なものになっている。行政の定める煩雑な診療報酬規則に則り、医学的な根拠のない締め付けを医療機関に与えるのが、その目的になってしまっている。

2)指導・監査は、その目的、実施理由等を明確にされておらず、密室で行われる。往々にして、法治ではなく、人治となる。非公開性により、行政は恣意的な行政処分を下す可能性が高い。時に苛烈になる指導・監査は、医師を追い詰め、自殺にまで追いやる事例が生まれている。医師の基本的人権がなくぃがしろにされている。

3)根本的に医療費削減のみを目的として指導・監査が行われるために、医療内容の改善は疎かになり、医療機関に適切な医療を行う動機を失わせることになっている。結局、患者である国民にしわ寄せが及んでいる。

このように問題の多い、指導・監査であるが、密室で行われる行政であるがゆえに、公の問題になることが少ない。下記の通り、日弁連が、その問題を指摘し、改善を意見したことの意義は大きい。

これは、医療機関だけの問題ではなく、患者である国民に跳ね返る問題なのだ。


以下、MRICより引用~~~


日弁連、指導監査の改善意見書を採択

井上法律事務所 弁護士
井上清成

2014年10月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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1 日弁連・指導監査改善意見書
日本弁護士連合会は、2014年8月22日付けで「健康保険法等に基づく指導・監査制度の改善に関する意見書」を取りまとめ、同月25日に厚生労働大臣と各都道府県知事にこれを提出した。この日弁連の意見取りまとめは、自殺した保険医の遺族らなどによる日弁連・人権擁護委員会に対する救済申立てを契機としたものである。

2 保険医等の適正な手続的処遇を受ける権利
日弁連・指導監査改善意見書は、保険医療の指導・監査の制度に関し、その対象となる保険医等の適正な手続的処遇を受ける権利を保障するため、次の7つの点について改善・配慮及び検討を求めた。
(1)選定理由の開示
(2)指導対象とする診療録の事前指定
(3)弁護士の指導への立会権
(4)録音の権利性
(5)患者調査に対する配慮
(6)中断手続の適正な運用
(7)指導監査機関の分離と苦情申立手続の確立


3 指導監査制度の改善を
この意見書は、権利の侵害に直面している保険医にとって、大きな後ろ盾になるであろう。また、指導・監査の改善を求める諸活動の支えにもなり、歴史的な意義が大きい。
厚生労働省地方厚生局と各都道府県は、日弁連・指導監査改善意見書に沿って、保険医と患者の権利擁護と公平公正で公開された指導監査制度の実現のために、
・運用については、直ぐにも改善できる点は即改善し、
・制度については、指導大綱・監査要綱などを速やかに抜本的に改め、
・法的には、患者・保険医の権利条項の全く欠如している健康保険法等の関連法規を、憲法の趣旨に沿って改善する
べきである。


4 人権の歴史は手続的保障の歴史
近代から現代にかけて、基本的人権保障の歴史は、大部分は「手続的保障の歴史」であった。人権擁護の歴史というのは、「悪い奴は厳罰に処してしまえ!」「なんで悪い奴をかばうんだ!」という情動的な処罰感情に対し、「そうであったとしても、適切な手続的保障をするのが基本的人権の保障である。」として冷静さを求める積み重ねであったと言えよう。
今も人権侵害の声は消えていない。「なんで不正請求や不当請求をする医者をかばうんだ!」という類いである。実は、この声は一般国民やマスコミからの声ではない。ほかならぬ医療者からの声である。
このような声を発する医療者は今も絶えない。しかし、日弁連の指導監査改善意見書は、このような人権侵害の情動から未だ脱却できていない医療者に対しても、冷水を浴びせかけたのである。
厚労省も都道府県も、そして、一部の医療者達も、日弁連・指導監査改善意見書をきっかけとして、「人権の歴史は手続的保障の歴史である」ということを認識してもらいたい。

5 国民が適切な医療を受けるために
日弁連・指導監査改善意見書は、指導・監査の対象となる保険医等の適切な手続的処遇を受ける権利(憲法31条)を保障し、その人格の尊厳等を守る観点から、現行の指導・監査について改善、配慮及び検討を求めたものである。
しかし、そこで指摘された指導・監査の問題点は、保険医等の権利を脅かすことを通じて、国民の医療を受ける権利に危険を及ぼすことを忘れてはならない。
保険指導の運用が、保険医等に対する診療報酬の自主返還や、監査による保険医資格の取消等の不利益処分に結びつくものであり、手続の不透明性や密室性もあいまって、保険医等が、理由の如何を問わず指導対象に選別されることを避けたいという心理に陥ることは自然である。その場合、たとえば集団的個別指導を受けた保険医等であれば、何とかレセプトの平均点数を下げて個別指導対象に選定されることを避けたいと考えるし、それ以前に、集団的個別指導に選定されないようレセプトの平均点数を抑えることに腐心するということにもなろう。
保険医等が、患者のために何が必要かという観点ではなく、指導対象に選ばれないためにどうすべきかという観点から診療方針を決定するようであれば、患者が本当に必要な医療を受けられなくなるかも知れない。
経済的負担能力による差別なしに適切な医療を受ける権利のためには、国民皆保険制度の維持・拡充が必要であり、そのために指導・監査制度の存在意義がある。しかし一方で、行き過ぎた指導・監査は、保険診療を担う保険医等の人格の尊厳を脅かし、国民の適切な医療を受ける権利を空洞化させる危険を含んでいる。
したがって、国民の適切な医療を受ける権利の保障という観点から、現行の指導・監査について、日弁連・指導監査改善意見書の指摘にかかる改善、配慮及び検討を行うことが重要であろう。

6 指導・監査制度の改善に向けて
日弁連の指導監査改善意見書の内容は、もちろん指導・監査・処分制度のすべての問題点を網羅したものではない。むしろ適正手続保障(憲法31条)の重要なポイントを例示列挙したものと評しえよう。これらを補強し実践していくことは、むしろ医療者自らの課題である。
この意見書は、法律家的な発想には良くなじむ。問題は、違和感を覚える一部の医療者自身である。すべての医療者自らが人権感覚を身に付け、法律家や国会議員・地方議会議員や患者団体と共に、共有した人権意識の下に、指導・監査そして処分制度の改善に取り組んでもらいたい。それこそが患者の適切な医療を受ける機会を保障することになり、国民皆保険制度の維持・拡充につながるものである。

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