ワーキングメモリーという概念から見たCW受信プロセスの理解 

風呂に入っていて思いついたこと。CWの受信は、ワーキングメモリーの機能がフルに作動して行われるのかもしれない、ということ。

受信した単語を短期記憶に収め、その意味を把握する。この意味の把握において、長期記憶が作動する。意味が把握されることによって、チャンクの余裕がなくても、短期記憶に収めやすくなる。一方、長期記憶から関連する事項を取り出し、全体の理解を進める。

さらにその話題の流れから、すぐ先に述べられるであろう内容を先取りする。それによって、受信しつつある単語を予測する。

また、全体の理解から、過去の受信内容を訂正し、理解を完全なものにする。

こうした一連の作業が行われる場が、ワーキングメモリーという機能なのではないだろうか。

ワーキングメモリーの理解がまだ不十分であるし、この受信プロセスの記載自体もまだ不完全だが、おおまかな流れは把握できたような気がする。

これは、読んで理解する認知心理機能と相同である。だが、CWという記号体系が間に入ることにより、ユニークな認知過程が繰り広げられるということか。

モールス通信の知覚と理解は別な大脳領野が担当する 

Hum Brain Mapp. 2015 Nov;36(11):4512-28. doi: 10.1002/hbm.22939. Epub 2015 Aug 25.
From perceptual to lexico-semantic analysis-cortical plasticity enabling new levels of processing.
Schlaffke L1, Rüther NN2, Heba S1, Haag LM1, Schultz T3, Rosengarth K4, Tegenthoff M1, Bellebaum C2,5, Schmidt-Wilcke T1.

というタイトル論文に目が留まった。抄録を読んだだけであり、また内容も大脳生理学的な内容で完全に理解したとは言えず、また実験系に関してもちょっと疑問はあるのだが・・・

モールス信号の学習過程における、知覚認識、内容の理解にともなってactivateされる、大脳領域をfMRIで観察した報告だ。ともに、優位半球である左半球がactivateされる。知覚認識と、内容の理解では、活動する領野がオーバーラップするが、学習が進んで内容の理解がなされると、語彙に関する領野が活発になる、という結果のようだ。英文ブログで具体的な内容を紹介する積りでいる。

この論文抄録を読んで感じたことは、一つには、モールス信号の認知を大脳生理学的に研究する研究者がいるということへの驚きだ。モールス符号は、アマチュア無線の領域でしか生きながらえていない、いわば過去の遺産のような通信手段だからだ。しかし、その簡易な符号体系は、きっと人の知覚・認知機能を研究する際に、有用な材料となるのだろう。

活発化する領野各々についての議論は置いておくとして、知覚と理解は、オーバーラップするが、後者には、それに特有の領野があるということは大切な知見だろう。考えてみれば、当然のことだが、モールス符号の知覚、おそらく符号から文字への置き換えと、モールス符号によって送られる言葉の意味の理解は、別な領野が担当している、ということなのではないだろうか。

これを実際のモールス通信に当てはめてみれば、モールス符号の意味のない組み合わせの送受と、モールス符号によって行われる会話の送受は、別な大脳の領野によって担われるということになるのではないだろうか。理解は、知覚を前提としているが、理解は脳の別な機能というわけだ。

さらに推測すれば、コンテストや、DXにおける、意味のない(価値がないという意味ではない、我々の生活に直接かかわらないという意味での無意味性である)モールス符号のやり取りと、モールス符号を用いた会話とは連続していない、ということだ。それら各々によって我々が感じる楽しみ、喜びもまたおのずから異なってくる。

これは最近しきりに私の脳裏に去来する観念だったので、それを裏付ける実験結果なのではないかと、この論文を見つけて、私の考えが間違っていなかったと言えるのかもしれない、と少しご満悦である。冷静に考えると、当然の帰結なのかもしれないが、大脳生理学的手法によってモールス通信の本質が、さらに見えてきたように思えるのだ。

CWの受信について ノート2 

CW受信における心理過程について、先のポストで少し記した。こちら

振り返ってみると、これは言語を用いてコミュニケーション、この場合は聞いて理解することだが、に対応する。いや、聞いて理解することそのものと言えるのかもしれない。

CW受信能力が、ある程度十分となると、その記号体系と文字、文章との互換関係が、無意識に成立する、即ち、CWの符号を聞いた時に、文字が殆ど努力せずに意識に現れるようになる。そこで展開されるのは、言葉そのものを用いたコミュニケーションのプロセスになるわけだ。

ある時点で、

I WOULD GO TO THE RESTAURANT THIS

まで受信したとする。そこまでの意味を把握する。あのレストランに行きたい・・・ということか・・・レストランは以前に話題に上った、特定のレストランであることが分かる。

で、次に来る言葉は、恐らく時刻(時期)を示す言葉であろうと推測がつく。

AFTERNOON

と続き、その推測が正しかったことが判明する。というわけだ。AFTERまで来たところで、NOONが続くことも予測される。

受信している途中で、それまでに送られた(語られた)内容について反省し、それまでの理解が正しいかどうかを常に検証する作業も行うのだ。

こうしたダイナミックなプロセスは、言葉によるコミュニケーションでも常に進行しているということだ。それを、二つ前のポストに上げた本で改めて学んだ。インプットを多くし、理解をすることを繰り返すことが言語習得の重要な条件である。なぜ重要かというと、このプロセス・・・予測文法と表現されていた・・・が確実に行われるようになるためだ、という。

CW受信でも、CWという記号体系が間に介在するが、進行する出来事は、これとまったく同じといって良い。CWの送受信が読み書きと相同である、というよりも、読み書きと同じ脳の機能によって担われる、ということなのだろう。CW受信とは、耳で読む作業なのだ。

CWの受信について 

暗記受信の有用性とそのプロセスについて、これまで繰り返し述べてきたことのアウトラインを、英語ブログの方に記してみた。論文の体には程遠いが、その内、「科学的な言葉と知見」で記してみたい内容だ。止めておけとか、ここはこうしたらといったご批判・ご指摘をお待ちしたい。コメントは英文でなくても結構。

http://nuttycellist-unknown.blogspot.jp/2012/09/process-of-head-copy.html

CW受信訓練前後での大脳の変化 

CW受信訓練前後で、大脳の機能・形態上現れた変化を示した研究。機能上は、両側頭頂葉下部、頭頂葉内側部のように言語の認知と記憶に関わる領域が活性化された。形態上、左の後頭・側頭葉の灰白質の密度の増加を認めた、ということらしい。

これらの変化が出現した部位は、ワーキングメモリーのポストで述べたモジュールに関係するのかもしれない。また、CW受信が「読む」機能と関連する直接的な知見ともいえるかもしれない。これも以前の報告から推測されてきたことだ。


以下、抄録~~~


Neuroimage. 2010 Jul 1;51(3):1234-41. Epub 2010 Mar 24.

Distinct patterns of functional and structural neuroplasticity associated with learning Morse code.
Schmidt-Wilcke T, Rosengarth K, Luerding R, Bogdahn U, Greenlee MW.

Department of Neurology, University of Regensburg, Germany. tobiass@med.umich.edu

Abstract
Learning is based on neuroplasticity, i.e. on the capability of the brain to adapt to new experiences. Different mechanisms of neuroplasticity have been described, ranging from synaptic remodeling to changes in complex neural circuitry. To further study the relationship between changes in neural activity and changes in gray matter density associated with learning, we performed a combined longitudinal functional and morphometric magnetic resonance imaging (MRI) study on healthy volunteers who learned to decipher Morse code. We investigated 16 healthy subjects using functional MR imaging (fMRI) and voxel-based morphometry (VBM) before and after they had learned to decipher Morse code. The same set of Morse-code signals was presented to participants pre- and post-training. We found an increase in task-specific neural activity in brain regions known to be critically involved in language perception and memory, such as the inferior parietal cortex bilaterally and the medial parietal cortex during Morse code deciphering. Furthermore we found an increase in gray matter density in the left occipitotemporal region, extending into the fusiform gyrus. Anatomically neighboring sites of functional and structural neuroplasticity were revealed in the left occipitotemporal/inferior temporal cortex, but these regions only marginally overlapped. Implications of this morpho-functional dissociation for learning concepts are discussed.

CW受信とワーキングメモリー 

榊原洋一著「アスペルガー症候群と学習障害」を読み進めている。上記疾患の入門書・啓蒙書の類なのだが、この中に、興味深い知見が記されていた。専門家にとっては、分かりきったことなのかもしれないが・・・。

人が何事かを意識的に行う場合の精神機能の局在が、大脳上で分かったということだ。右前頭前野に局在する、ワーキングメモリーという機能だ。これは、生理学で言うexplicit memoryとほぼ同義なのかもしれない。

ワーキングメモリーとは、現在行っている行動に関係した精神的な作業の手順と、それに関連した参照記憶をとどめておく場所のことらしい。コンピューターのRAMに相当するとも言える。

ワーキングメモリーの機能をまとめると・・・

1 いまやっていることを意識に留めておく
2 いまやっていることを続けて行う
3 順を追って行う作業の模倣
4 いまやっていることを過去の記憶と比較する
5 これからやることを過去の記憶と比較する
6 少し先まで推測する
7 現在の自分の状態を省察する・・・内なる自分に対応する
8 時間経過の意識
9 一定のルールに従った作業の遂行・・・これはコンピューターのソフトウェアに相当する
10 個々の作業の前後関係の調節

ワーキングメモリーには、直近の記憶と、現在行っている行動を遂行するためのに必要な作業手順がある、と言えるらしい。また、この作業の場で活躍する知能も、幾つかに分類されて、各知能は特定の神経組織(モジュール)と対応すると仮定されている。

この説明を読んで私が何を思い出したのか・・・そう、CWの暗記受信における一連のプロセスだ。時間の流れの中で、過去・現在・未来を行き来しながら、意味を理解し続ける一連の作業も、このワーキングメモリー上で行われるに違いない。そして、言語・論理といった知能が、ワーキングメモリー上で動くことになるのだろう。

CWという最も単純な情報が、大脳のなかでどのように処理をされ、さらに理解されるのか、CWを愉しむ者としての関心だけでなく、認識論的な興味も湧いてくる。実際、CW受信が、読むことに関連するという知見が過去に報告されていることを、ここでも記した。今後は、CW訓練・CW受信過程で、どの大脳部位が活性化されるのかが分かるようになってくるだろう。そうした文献も紹介して行きたい。

Reading with the ears 

上記の表題の以下のような論文があった。

Maier J Hartvig et al

Neurosci Lett;2004 Jul 6;364(3);185-6

機能MRIを用いて、モールスコード読解に関わる大脳皮質のネットワークを研究した。4名の熟練した無線技士を対象として、二つの互いに良く対応した読解の実験を行った。一つは、高速のモールスコードを両耳で聞かせるもの。もう一つは、書いてある文章を読ませるもの。

モールスコードで一つの名詞を読解させると、主に左側の前頭葉および
側頭葉シルビウス溝周囲の言語領野、前前頭葉皮質、前運動皮質の活性化が観察された。モールスコード読解と、書面の読解が、各個人においても同様に左側の側頭頭頂の関連する皮質の活性化を生じさせた。上記のことから、モールスコードの読解では、書面の読解は一部の同じ皮質ネットワークが関与することが推測される。

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要するに、CW受信は、読むことと少なくとも一部の同じ頭脳領域を使っているということだ。

別所でも記したが、モールスコードの受信について研究している研究者がいることに驚かされる。モールスコードは死んでいない(笑。

CW送信については、やはり書くことと同じ頭脳領域を用いている可能性があるように思える。

こんな物好きな(失礼)研究は、そうはないだろうが、あれば、また要訳を適宜載せてゆこう。