厚労省は、入院ベッド数を削減する 

厚労省は、入院ベッド数を減らす方針だ。そのスキームは、地域医療構想策定ガイドラインに示されている。こちら。ざっと見たところでは、NDB、DPCのデータベースに基づき、各都道府県で必要なベッド数を求め、それを基礎としてベッド数の供給を地方自治体ごとに決める、ということらしい。各地域の事情を勘案する柔軟なやり方にも一見みえるが、基本は厚労省の提示した基礎資料に基づく削減をすすめる、ということだ。各地にその地域医療構想を実現する協議会がすでに作られ、ベッド数削減に向け動き出している。削減の主な対象は、急性期と慢性期のベッドになる。これまで医療機関に入院加療していた慢性期の患者は、(介護)施設か在宅での介護医療を受けることになる。特に、在宅医療への移行が強調されている。在宅に移行する慢性期は、診療報酬で決められる。診療報酬上、ある程度以下の治療しか必要にならなくなったら、在宅になかば強制的に移行させられる。

結果として、医療費削減が実現できる、とされているが、厚労省・政府の本音は、医療費削減を実現するための、ベッド数削減である。

想定される問題は;

○入院期間の短縮は、過去DPCを中心に進められてきている。それをもとに、必要ベッド数をはじき出すと、必要最小限の数値が出てくる。今後の高齢化の進展、感染症等医療サービスの変動要因による必要ベッド数の増減に対応できるのだろうか。また、入院期間の短縮の方向に診療報酬上誘導し続けているが、それによって、エンドレスのベッド数削減となるのではないか。

○これが大きな問題だが、慢性期ベッドを削減して在宅に移行する場合、介護看護は、家族が担うことになる。人口減少社会で、高齢化・核家族化が進んでいる現在、それが可能なのか。国の生産活動に支障をきたさないのだろうか。確かに、わが国の入院ベッド数は諸外国と比べて多いのだが、病院での医療の後に患者を受け入れる施設・体制がない、またはきわめて貧弱だ。

○在宅に移行することが求められる患者は、必要とする治療の診療報酬で線が引かれる。診療報酬上高い医療でなくても、在宅に馴染まない(例えば、頻回の気管吸引が必要になる、等)患者もいるのではないだろうか。診療報酬で一律に線を引くと、在宅で看ることが難しい患者まで、在宅を強制される可能性がある。

○急性期病床の削減も、高齢化の進展が著しい大都市部で大きな混乱を招く可能性がある。

医療介護の充実は、国の防衛と並んで重要な政策課題のはず。それが、在宅に丸投げで良いのか、という問題だ。現政権は、防衛産業の育成、それに対する利益供与は熱心だが、社会福祉の一番重要な医療介護については、削減することばかりを考えている。果たして、それで良いのか。


以下、引用~~~

病院ベッド15・6万床削減 25年までに41道府県で縮小 地域医療構想、全国集計 「在宅」重視、鮮明に
17/03/09記事:共同通信社

 各都道府県が医療提供体制の将来像を示す「地域医療構想」で、2025年に必要な病院のベッド(病床)数は、13年時点の134万床余りから約15万6千床、11・6%減少する見通しとなることが分かった。構想の策定に伴い47都道府県が8日までに推計した結果を、共同通信が集計した。41道府県で病床が過剰とされ、鹿児島など8県は削減率が30%を超す。
 
 地域医療構想は、25年に団塊の世代が全員75歳以上になるのを控え、効率的な提供体制をつくるのが目的。政府は手術や救急など高度医療に偏った病床の機能を再編すると同時に、慢性疾患を抱える高齢患者は家や施設で療養する方が望ましいとして在宅医療を推進する考えだ。医療費抑制につなげることも狙う。
 
 25年に向け都道府県は今後、推計を基に地元の病院や医師会と協議に入る。病床の機能転換や削減を促していくが、病院経営者や高齢者から反発や不安の声も出ており、入院に代わる在宅医療の環境整備が課題となる。
 
 構想策定に先立ち、国は15年に病床推計を公表。13年時点の134万6917床を3パターンの計算で約15万〜20万床削減すると想定していた。
 
 その後、各都道府県は医療機関や市町村などが参加する会議で構想を検討。地元の病院に配慮し、削減幅が小さいパターンで計算する例が多く、25年の必要病床は全国で計119万799床となった。削減数は計15万6118床で、国推計の最小値に近い。
 
 削減率が最も大きいのは鹿児島県で34・9%。熊本、富山など計8県が30%を超え、20%台も19県ある。一方、増床が必要なのは首都圏の1都3県と大阪府、沖縄県。
 
 病床は機能別に(1)救急や集中治療などを担う「高度急性期」と「急性期」(2)リハビリなどに取り組む「回復期」(3)長期療養の「慢性期」―に分かれるが、急性期と慢性期を減らし、回復期を増やすとする地域が多い。
 
 入院が減る分、在宅医療を受ける患者は大幅に増え、約177万人に。13年より60万人ほど多くなる。
 
 ※集計の方法
 
 各都道府県が公表した地域医療構想に基づき、2025年の必要病床数を集計した。現状との比較は、都道府県によって使用データが異なるため、13年の医療施設調査(厚生労働省)の数値にそろえた。独自手法による推計も併せて示した県もあるが、国準拠の推計を使用した。宮城、広島、高知の3県は必要病床数に「以上」と付記し、削減目標ではないことを明確にしている。新潟、富山、長野、三重、京都、熊本、沖縄の7府県は構想が案の段階だが、推計自体は変わらない見通し。
 
 ※地域医療構想
 
 2014年成立の地域医療・介護確保法に基づき、都道府県が策定する地域医療の将来像。都道府県内をいくつかの区域に分け、団塊の世代が全員75歳以上となる25年に各区域で必要なベッド(病床)数などを定める。余っている病床を他の機能に転換させたり、患者の在宅移行を進めたりして、効率的な医療提供体制の構築を目指す。法令上は18年3月までにまとめればよいが、厚生労働省が早期の策定を求めており、全都道府県が今年3月末までに定める予定。

米国の医療費の一例 

段々twitterみたいになってきてしまったが、備忘録として・・・

先ほど、旧友のDave W7AQKと7メガで交信した。いろいろな話をしたが、もっとも印象に残ったというか、驚いたのが、医療費の話。

彼の長女が、1,2か月前、PAT(発作性心房性頻拍)のためにablationを受けた。先進的な治療と言えばそうだが、治療手技は心カテで行う良く行われるもの。4日間の入院で、病院からの請求書が、なんと・・・

1100万円を超えていたとのこと。

米国の医療費が高額だとは知っていたが、こうやって知り合いのご家族が実際その高額な請求を受けたのを聞いて、絶句である。

Daveもこれはridiculousだ、と言っていた。保険がどれだけカバーしてくれるか、と心配そう。

わが国の医療体制が米国化されつつあるが、心配だなと言うと、米国の制度は見習わない方が良いとのこと。

見習うなと言っても、わが国の政権は見習う気満々だからな・・・。

ビッグデータを利用したチェリーピッキングの一例 

医療保険は、加入対象をできるだけ広く取り、相互扶助のために運営されるべきだ。だが、民間医療保険は、利潤を上げることが至上命題なので、加入対象を低リスクの群に絞り込むことを行おうとする。低リスク群だけを絞り込むことを、チェリーピッキングという。これは、民間医療保険の不正な経営手法とされてきた。

日本生命保険が、阪大の患者データを利用して、「これまで保険に加入できなかった希望者にも対象を広げた」保険商品を開発するという。これは俄かに信じがたい。むしろ、裏でチェリーピッキングを行おうとしているのではないか。ハイリスク群の保険料を引きあげる、ないし既往症等によって判明するハイリスク群を保険商品の対象から排除することが行われるのではないか、と強く疑われる。日生は、阪大に対価を支払って、患者データを得るのだろうから、その対価以上の利潤を生むスキームでないはずがない。

行政やら、基幹病院やらが、ビッグデータを利用して効率化を図るというときに、常にこうした利潤追求のためにビッグデータを用いる誘惑がある。この一件も、日生によって、被保険者が不利になる商品が生み出されるという結幕しか考えられない。

以下、引用~~~

ビッグデータで保険開発 日生が阪大と連携協定

17/02/24記事:共同通信社

 日本生命保険は23日、大阪大と健康、医療に関する連携協定を締結した。大阪大が持つ患者のビッグデータを活用し、新しい保険商品の開発やサービスの強化につなげる狙い。既往症などでこれまで保険に加入できなかった希望者にも対象を広げることを目指す。

 大阪大の付属病院を訪れる1日平均約3千人の患者の診断や治療の記録、完治する確率や余命などといったデータの提供を受ける。病歴に関するリスクの正確な把握が期待できるという。日生が保有する加入者の健康診断結果などを共有し、健康寿命の延伸に向けた共同研究にも取り組む。

 大阪市で行われた調印式で、日生の矢部剛(やべ・たけし)取締役常務執行役員は「生保は疾病に関するデータを持っておらず、連携は極めて有用だ」と意義を強調した。

新専門医制度がもたらす地域医療の歪 

研修医、若手医師が臨床経験を積むのには、大学病院ではなく、市中病院が適している。新臨床研修医制度で、卒後すぐの多くの医師が大学病院ではなく市中病院を研修先に選択したのは、それが大きな理由の一つだ。下記の論考でも明らかなとおり、臨床経験の多寡については、大学病院はむしろ不利なのだ。

若手医師という「駒」の少なくなった大学病院医局は、専門科により相違はあるが、それを何とかしようと、専門医制度の改変に伴い、大学病院での専門医研修を必須とした。それが新たな医師の偏在を生み出そうとしている。

福島では、浜通り、中通りは阿武隈山地で遮られ、浜通りに住む患者・妊婦が中通りに通ったり、緊急時に駆けつけたりすることは無理だ。その無理を、患者・妊婦に押し付けようとしているのが、新専門医制度だ。

そもそも、専門医制度を医師の偏在対策ないし大学医局の若手医師の回帰誘導策として用いることは問題がある。専門医制度は、あくまで臨床の専門医としての力量を判断する制度であるべきなのだ。

確かに、産婦人科等は、医師の集約化が必要なのだが、その地域毎に専門医制度とは異なる視点で、進める必要がある。

新専門医制度は、元来、科毎の専門医のレベルを平準化するという目的(口実)で始められた。だが、内実は、医師の偏在をただすという口実で、大学病院等の大規模施設、各学会それに行政の利権のための制度になっている。医師の配置、人事を、この新専門医制度に絡めるべきではない。新専門医制度は、このままで行くと、新たな地域医療の崩壊をもたらす。


以下、MRICより引用~~~

「基幹施設は大学が基本」が招く産科医療の危機 ~地方から考える産婦人科
専門医制度~

この原稿はm3.comからの転載です。
https://www.m3.com/news/iryoishin/500501

南相馬市立総合病院研修医
山本佳奈

2017年2月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
---------------------------------------------------------------------
1年間の開始延期が決まった新専門医制度。日本専門医機構は新しい理事会になったとはいえ、残念ながら根本的に制度は変わっていないようだ。

私は2年間の初期研修を終え、この4月より産婦人科を専攻しようと考えている。専攻医を取得する場合、専攻医研修を開始する時点で日本産科婦人科学学会会員になる必要がある。2017年1月20日、その日本産科婦人科学会は専攻医の配置に関する声明を出した。「全基幹施設を対象に調査した結果、専攻医配置の地域間不均衡の拡大は認められなかった」と。だが、どう拡大が認められなかったのか、声明の中に根拠は全く示されていない。

果たして本当にそうなのだろうか?福島県と神奈川県を例に挙げて議論したいと思う。

私が初期研修を行った福島県の南相馬市立総合病院の産婦人科の常勤医は、たった一人だ。年間約230件ものお産を、常勤医一人でこなしている。一方、福島県立医科大学は常勤医18人に対し、年間分娩数は499件だ(2015年度)。常勤医一人当たりの分娩数はたったの24件である。どちらの施設で研修する方が、より経験を積むことができるかは一目瞭然だ。

だが、南相馬は一人しか指導医がいないため、福島県立医大の連携施設の扱いだ。専門医を取得したければ、基幹病院である福島県立医大に所属しなければならない。どうすれば南相馬で研修ができるのかと、福島県立医大の産婦人科教授に相談したところ、「産婦人科医師が一人しかいない病院に専攻医は派遣することはない」と断言されてしまった。南相馬にいる方が、福島県立医大に所属するより約10倍近い出産を1年間で経験することができるのにも関わらず、研修すらできず専門医も取得できないというのは、おかしな話ではなかろうか。

福島県だけの特殊な話ではないのか、とお思いの方も多いだろう。そこで、幾つか例に挙げて説明したいと思う。データは、各医療機関のホームページなどを参考に独自に作成したため、データの年度が医療機関により異なること、また非常勤医師数などは不明のため、完全に比較可能なデータとは言えない。しかし、データを分析するために、厚生労働省に照会したが存在しなかったため、やむを得なかった。エビデンスを持った政策展開をするためには、体制に不備があることを最初に指摘しておきたいと思う。

まずは、図1をご覧いただきたい。神奈川県における主な基幹病院と連携施設の年間分娩数と、産婦人科の常勤医数を示したものだ。常勤医一人当たりの年間分娩数は、北里大学病院は92件、聖マリアンナ医科大学病院は21件、東海大学医学部付属病院は28件、横浜市立大学付属病院は19件であった。一方、連携施設における常勤医一人当たりの年間の最多分娩数は、日本医科大学武蔵小杉病院の202件であった。福島県だけでなく、神奈川県においても、大学病院よりも連携施設における常勤医師一人当たりの分娩数の方が圧倒的に多いケースがある。

http://expres.umin.jp/mric/mric_043-1.pdf

図1 神奈川県内の分娩施設と分娩数
・各医療機関のホームページを参考にデータを作成。
・2014年、2015年、2015年度のいずれかのデータ、日本医科大学武蔵小杉病院は2011年。
・カッコ内は、常勤医1人当たりの分娩数。

次に、各医療機関のホームページで把握可能だった、全国の主な大学医学部の付属病院と、分娩で有名な市中病院の年間の分娩数と常勤医数を図2に示した。大学病院における常勤医一人当たりの年間分娩数は、東北大学医学部付属病院は91件、九州大学医学部付属病院は76件、 東京大学付属病院は19件、京都大学付属病院は13件だ。ちなみに母校の滋賀医科大学医学部付属病院は31件、福島県立医科大学付属病院は28件だ。一方、連携施設である市中病院を見てみると、淀川キリスト病院(大阪府)は178件、都立広尾病院(東京都)は152件、東京医療センター(東京都)は103件などだ。大学医学部付属病院における常勤医一人当たりの年間分娩数が、全国の有力な市中病院と比較して圧倒的に少ないことが分かる。

http://expres.umin.jp/mric/mric_043-2.pdf

図2 全国の主要大学と主要市中病院の産婦人科常勤医1人当たりの分娩数
・各医療機関のホームページを参考にデータを作成。
・2013年、2014年、2014年度、2015年度、2016年のいずれかのデータ、東北大
学は2008年。

であるにも関わらず、現行の産婦人科専門医制度では、大学病院を主とした大規模施設が認定されている基幹病院に所属しなければ、産婦人科専門医を取得できない。一人当たりの分娩数が市中病院よりも明らかに少ない基幹病院での6カ月以上の研修が義務づけられているから、これまたおかしな話だと言わざるを得ない。常勤医師一人当たりの分娩数の少ない病院にいなければいけない理由は、いったい何なのだろうか。

基幹病院に属さないと専門医を取得しにくい今の産婦人科専門医制度は、基幹病院である大規模施設に若手の医師を集約化する。2013 年12月13日には日本産科婦人科学会から「わが国の産婦人科医療再建のための緊急提言」が出された。提言の中に「地域の基幹分娩取扱病院は、重点化・大規模化を迅速に推進し、勤務医の当直回数の削減、当直明け勤務緩和、交代制勤務導入等の勤務条件の改善が可能な体制とすること」という記載がある。

この提言を読むと、日本産科婦人科学会は産婦人科医の待遇改善が喫緊の課題と考えているようだ。ところが、どうもやり方が適切でない。この提言の「真意」は分からないが、福島県で進行中の集約化が住民のためになるとは思えない。福島県内では福島市周囲の二次医療圏以外には、基幹病院が存在しなくなるからだ。

分娩は地域性がとても強い。会津やいわきの妊婦が福島まで通うことなど、現実的でない。医師は集約できても、妊婦を基幹病院に集約化することは不可能だ。このまま産科医の集約化が進めば、住む場所によっては妊婦が平等に安心して出産を迎えることができなくなってしまうのは想像に難くない。現状に合わせて方向転換をする必要がある。

もちろん、産婦人科専門医になるための研修は、分娩数だけではなく、婦人科を含め、幅広く研修する必要がある。また指導体制も充実していることが求められるが、幅広く研修する必要がある。また指導体制も充実していることが求められるが、何より分娩数が少ないことには、十分な研修ができないことは明らかである。

以上のことを踏まえると、専攻医を大規模病院に集約化せず、連携施設と認定されている地域の施設に所属し、たくさん経験を積み、特殊な症例のみ大学病院や専門病院で経験できるような制度の方が、真の専攻医研修が行えるのではなかろうか。それが、妊婦が安心して出産を迎えることができる環境を整えることにもつながるのではなかろうか。そして、どこの施設で研修したとしても、最低限決められた症例数に達成すれば専門医になることができる、という多様性を認める制度にすれば、地域の医師不足も解消されるのかもしれない。

医療介護を行政・業者の草刈り場にしておきながら、適正化・効率化をする、という安倍首相 

来年は医療・介護報酬同時改定が行われる。安倍首相は、国会で、医療介護の質を確保しつつ、医療介護の「適正化・効率化」を行うと国会で述べた。

医療介護では、施設の財政状況は厳しく、大半が赤字に陥っている。母集団にもよるが、例えば、こちら病院の7割以上が赤字であると報じている。医療・介護施設の倒産の報道も珍しいことではなくなってきた。民間組織である以上、経営が成り立たなければ、倒産し退場することは自明の理だが、診療報酬・介護報酬といういわば公的な制度によってのみ経営が成立する医療・介護施設が、頻繁に変更される行政と政府の恣意的な意向で経営が立ち行かなくなることは道理が立たない。さらなる「効率化・適正化」で、さらに多くの医療機関・介護施設は、倒産・廃業せざるをえなくなる。

そもそも、医療介護の質と、医療介護費用とは、相反する関係にある。安倍首相が述べる質を確保しつつ医療介護費用をさらに削る、というのは無理難題なのだ。ここまで医療介護費用をぎりぎり切り詰められた状況ではなおさらだ。医療介護は労働集約的な事業であるため、人件費の占める割合が5割以上と高い。ここで、さらなる医療介護費用を削るとなると、人件費を削らざるを得ない。それは、医療介護の質を落とすことになる。

安倍首相の頭にある、効率化の柱は、恐らくAIや、クラウドデータベースの医療介護への導入だろう。だが、それは行政の合理化、関連IT業界の利益にはなるだろうが、医療介護現場にはさらなる経済的負担を強いることに他ならない。特に中小施設にとっては、それらの導入はあまりに負担が大きい。

また、米国とのFTAによって、混合診療がさらに進められる。政府の言い方では、公的保険の範囲をそのままに、患者本人にとってより個別的で効率的な高度先進医療を国民が受けられるように、民間保険の範囲を拡大する、ということになるのだろう。高齢化の進展したわが国では、混合診療による民間保険の医療へのさらなる参入が、経済活性化の切り札になる。が、それはあくまで国民の負担が増えることを意味し、金がなければ高度先進医療には全くアクセスできない状況を生む。韓米FTAでは、韓国は輸出企業を中心に利益を3倍に伸ばしたが、その一方で、経済格差が進行し、医療費が高騰している、という。FTAは、TPPと同等か、それ以上に国の形を根本的にグローバル資本の要求する形に変える、売国的な条約だ。医療介護は、FTAによってグローバル資本が利権を得ようとする最大のターゲットだ。

以前から記している通り、行政が医療から利権をさらに得ようとしている。以前から何度も記した日本医療機能評価機構は、意味のない「医療機関評価」を医療機関に強いている。評価に対する対価は、数百万円以上、評価後の同機構への賛助金も毎年数十万円かかる。数年に一度は、再評価を受けねばならない。同機構は、産科医療補償制度を運営することで、100億円以上の内部留保をため込んでいる。さらに、医療機関評価を受けなければ、ホスピスの診療報酬加算を受けられない。また、DPCというマルメの診療報酬制度の係数が低くなる。こうして、医療に吸い付く蛭のように、同機構は利権を漁っている。もちろん、同機構は、官僚の天下り先である。こうした天下りによる利権漁りが、とくにこの数年間目立つようになってきた。

医療介護を、行政・民間関連業界・グローバル資本の利権の草刈り場にしてはいけない。

以下、引用~~~

安倍首相「医療・介護報酬改定、重要な分水嶺」
17/02/17記事:朝日新聞

■安倍晋三首相
 
 多くの国民は「将来自分は現在の社会保障の給付を受けられるんだろうか」という漠然とした不安を持っていると思う。団塊の世代の皆さんが支え手から給付を受ける側になっているが、2025年には75歳以上になっている。その時に介護も医療も大丈夫かという不安を持っているのだろうと思うが、国民一人ひとりが状態に応じた適切な医療や介護を受けられるよう、医療と介護の提供体制をしっかりと構築していく必要がある。
 
 平成30(2018)年度は、医療と介護のサービス提供等に関する医療計画と介護保険事業計画が初めて全国で同時改定される。25年まで残された期間を考えると、今回の6年に1度の診療報酬と介護報酬の同時改定を非常に重要な分水嶺(ぶんすいれい)と考えている。
 
 25年以降の超高齢社会においても国民皆保険を維持していくため、適正化、効率化すべきことは実施しつつ、質が高い医療や介護を安心して受けてもらえるよう、同時改定に向けてしっかりと検討していきたい。
 
 持続可能なものにすると同時に適正化を行う。適正化とは必要な給付を切ることでは決してない。必要とする給付はしっかりお届けしながら、質もちゃんと維持をしながら、その中で効率化を図っていきたい。(17日の衆院予算委員会で)

偽造薬の問題 

偽造薬品の問題は、一つにはそれを製造する犯罪集団、二つ目には流通させる薬品卸、そして最後に末端の薬局ないし医療機関にある。

製造者は犯罪を犯しており、徹底して追及されるべきだ。卸、流通業者も、利益追求のために安い薬品を厳しいチェックなしに購入することは止めるべきだろう。末端の医療機関・薬局は、正直なところ、卸から仕入れたものであれば、それの真贋を疑うのは難しいかもしれない。が、現在主流になっている院外薬局は、その機能からして、常識を超える値引き品や、怪しげな流通業者から仕入れるべきではない。考えたくはないが、他の薬でも偽造薬があり、市場に出回っている可能性がある。薬剤の流通経路の最初、ないし少なくとも途中で、そうした薬を見出し、患者の手に渡らないようにすべきだ。

もう一つ大きな問題は、抗がん剤、抗ウイルス薬、生物製剤等を中心に薬価がきわめて高額になっていることだ。この抗C型肝炎ウイルス薬は、一錠5万円以上する。このブログでも何度か、この高薬価の問題を扱ってきた。例えば、こちら。この高薬価の問題を解決しないと、医療は早晩破綻する。高薬価の算定根拠は何なのか、製薬企業はそれでどれほどの利益を上げているのか、医療制度を維持する観点から、徹底して検証すべきだろう。高薬価が続く限り、こうした偽造薬はあとを絶たない。

偽造薬の犯罪性は、それによって利益を上げる人間がいること、本来の真正の薬で得られる利益を患者が得られないこと、偽造薬による副作用(というか、それによる患者に悪影響を及ぼす効果)があることである。どれをとっても看過できない。二番目の点でいえば、抗がん剤・抗ウイルス薬等の場合、休薬すると病状が進行し、さらに真正薬への効果が落ちる可能性がある。この点で、殺人罪にも匹敵する犯罪である。そうした観点から、捜査当局には徹底した捜査を期待したい。

以下、引用~~~

偽造肝炎薬 ハーボニー「裏ルート」 偽薬「ぬれ手であわ」 超高額、需要も高く
17/02/01記事:毎日新聞社
 
 正規とは異なる「裏」の医療用医薬品流通ルートで出回ったことが明らかになったC型肝炎治療薬ハーボニーの偽造品。横流し品など素性のはっきりしない製品の流通を放置することは、健康を脅かす偽造品が紛れ込む余地を広め、医薬品の高額化が進む先進国が偽造グループに狙われる恐れを高めている。
 
 「医薬品 高価買取」。古い店舗や住宅が密集する東京都千代田区のJR神田駅前に、こうした看板を掲げる「現金問屋」が十数軒並ぶ一角がある。厚生労働省によると、ハーボニーの偽造品が最初に持ち込まれたのが、この問屋街だった。
 
 神田生まれという地元の不動産業者によると、第二次大戦後、進駐軍から横流しされたペニシリンや日本軍が使っていたヒロポン(覚醒剤)を売り買いする業者が集まったのが由来という。メーカーや卸業者の規模が小さかった時代は、在庫の調整やすぐ現金化して資金繰りを助ける役割を果たしていた。しかし、今は余った薬や横流し品など「訳あり」の製品も多く扱い、正規ルートより安値で医療機関や薬局に販売するルートになっている。18社が組合を作るものの、未加入業者もいる。
 
 ある現金問屋に聞くと、昨夏ごろから「ハーボニーを買ってほしい」という電話が相次いで問屋街にかかってきた。「怪しい男が来たが、断った」と話す問屋もいる。今は消えているが、偽造品が見つかるまでネット上にはハーボニーの買い取り広告が多数あり、買う側のニーズも高かったことがうかがえる。
 
 偽造品は都内の問屋3社に、販売許可を持たない個人が持ち込んだとされる。問屋は本人確認をせず、添付文書や外箱がないボトルを買っていた。以前から素性の定かでない製品を扱っていたとみられる。
 
 偽造品が出回った理由を探ると、業界関係者が指摘するのがハーボニーの特殊さだ。ハーボニーは超高額の新薬で、28錠入りボトル1本が153万4316円だ。患者にとって副作用が少なく効果の高い治療薬として登場したため需要が高く、偽造品は「ぬれ手であわ」になったとみられる。
 
 また、国内の医薬品では珍しく、シート状の個別包装ではなくボトルに密閉する包装だったため、外から錠剤が見えない。偽造したラベルは正規品とほとんど見分けがつかず、重さも正規品とほぼ同じ。奈良県内の薬局の薬剤師は、ふたの内側のアルミシールをはがして中を確かめず、患者に偽造品を売っていた。
 
 製造販売元のギリアド・サイエンシズによると、2015年の発売時、国内で品薄になった場合の融通しやすさを考え、海外で主流のボトルを採用したという。同社は31日、個別の包装への切り替えを3月上旬に始めると発表した。
 
 確認されている偽造品は14本だが、出所が分からず、今後も出回る恐れはある。薬事監視を担当する自治体職員は「ハーボニーが承認されていない中国では、日本の10倍もの価格で取引されているとも聞く。大がかりな偽造グループが関与していてもおかしくない」と神経をとがらせる。【熊谷豪】
 
 ◇世界流通、8兆円規模
 
 偽造医薬品は世界で大きな問題になっており、流通規模は日本の薬剤費に匹敵する750億ドル(約8兆円)との試算もある。
 
 少額の投資で製造でき、種類も多いため発覚しにくく、途上国で流通する医薬品の10〜30%は偽造と言われる。
 
 健康被害も多数報告され、ニジェールでは1995年、有効成分を含まない偽の髄膜炎ワクチンで2500人が死亡。パナマでは2007年、安価な工業用原料で造られたせき止め薬などを飲んだ子どもら100人以上が犠牲になった。
 
 日本で表面化した偽造医薬品の多くは個人輸入だった。勃起不全(ED)薬を販売する製薬会社4社による昨年の調査では、ネットで売られているED薬の4割が偽物で、有効成分を全く含まないものや不純物を含むものもあった。11年には意識低下で東京都内の病院に入院した男性(48)が、血糖降下薬の成分を高濃度に含むとみられる偽造ED薬を服用していたことが判明した。
 
 一方、日本では偽造品の大規模な流通は少なかった。大手卸グループ4社が製薬企業から医薬品の8割以上を買い取り、製品の高度な追跡システムを備えているためとみられる。しかし、昨年の主要7カ国(G7)伊勢志摩サミットでまとめられた国際保健対策には「医薬品の偽造は患者の安全や研究開発への投資に悪影響を与えることを認識すべきだ」との文言が盛り込まれ、医薬品の高額化が進む先進国でも関心が高まっている。
 
 日本製薬工業協会が5年前に会員企業に実施した調査では、偽造品が確認された製品は抗生物質と抗がん剤が最も多かった。高額化が進む抗がん剤などは、不当に得られる利益も大きく狙われやすいと言える。偽造医薬品に詳しい木村和子・金沢大教授は「以前は抗生物質やマラリア治療薬などの偽造が多かったが、最近は先進国で需要の高い生活習慣病関連薬にも広がっている」と指摘する。【下桐実雅子】
 

葛根湯加川芎辛夷 カッコントウカシンキュウセンイ 

患者としての経験。

私はダニアレルギーがあり、おそらくそれをアレルゲンとするアレルギー性鼻炎、それに伴う慢性副鼻腔炎がある。鼻粘膜の腫脹を来す鼻茸もあり、30歳台のころ一度その除去術を受けたことがある。徐々に、鼻閉を主体とする症状がepisodicに再発するようになってきた。

鼻閉は、副交感神経優位になる夜間に酷くなる。また耳鼻科に行かなくてはと思いつつ、何度も通院することや、場合によっては入院の上鼻茸・慢性副鼻腔炎の手術を受けなくてはならなくなることで、今まで放置してきた・・・悪い患者である。

鼻閉が酷くなる直前に、鼻粘膜の過敏性が亢進するためなのか、ひどい「くしゃみ発作」が生じる。すると、2,3日鼻閉に悩まされることになる。良い患者は、ここで耳鼻科にかかる必要がある。

しかし、上記の通りの理由で、受診拒否している私は、何とか薬で対処できぬものかと考えた。思い出したのが、上記の薬である。仕事をしていたころ、副鼻腔炎で鼻閉や後鼻漏のある患者に処方していた薬である。この市販薬を薬局でみつけて、購入し服用したところ、かなり即効性がある。1時間程度で効いてくる。葛根湯にエフェドリンという交感神経刺激剤が入っており、それが神経機序で効くのだろう。くしゃみも、すぐに収まる。鼻腔への交感神経刺激剤外用(噴霧)は、リバウンドがあり、効果が切れると、かえって鼻閉が酷くなるので、使うことはなかった・・・だが、この内服薬ではリバウンドはなさそう(これはあくまで主観なので、客観的な根拠はなし)。また、交感神経刺激剤は血圧上昇などの副作用をもたらす可能性があるので、注意が必要だ。この薬だけで対処しようというのは、悪い患者の対応なので、お勧めはしない。

ここまでは、序論。問題は薬価である。薬局で市販されているこの製剤は、医療用のものに比べると、約4倍の価格のようだ。医療機関にかかった場合のコストを見越して、価格設定されているように思える。市販薬は8日分で2000円以上する(もっとも連用することはまずないのだが)。医療機関にかかるよりは、少しだけ経済的な負担が少なくなるように、価格を決めているのだろう。要するに、薬価原価などから積算した価格ではなく、現状で利益を最大化できる価格に設定しているわけだ。医療用の公定価格の薬価から考えると、市販薬の製造販売業者は、暴利を得ている。

医療が完全に市場化される場合に、そのコストがどうなるかを示す一つの例か、と苦笑したことだった。この程度の薬だけで済めばよいのだが、生命にかかわる病気にかかり、市場化された医療のもとで治療を受けなくてはならなくなった場合のことを考えると、うすら寒くなる。

マイナンバーカードを保険証代わりにする、そのメリット、デメリット 

マイナンバーを、医療分野にも導入する。同カードを保険証の代わりとして、保険証番号の照合をネットを介して行うようだ。ネットを介することは、それだけセキュリティに問題が起きうることを意味する。また、審査機関や保険者にもマイナンバーが伝わり、そこから情報漏洩が起きるリスクがある。米国では、社会保障番号として導入され、様々な犯罪がそのために生じている。ネット上に同番号をできるだけ載せないことが推奨されている。わが国では、そうした慎重さがみられない。この先、カルテをメガデータ化して、マイナンバーと紐つけすることを行政は考えているらしい。最大のプライバシー情報たる医療情報の漏洩が、起きることを考えると、身の毛がよだつ程だ。

また、コストも膨大になるだろう。このシステム構築に243億円かかるという。頻繁な更新が必要になり、メインテナンスにも毎年同じ程度の金額が必要になる。行政は、医療機関側にも、システム構築・メインテナンスのコスト(の一部)を負わせられる可能性が極めて高い。セキュリティコストとともに、医療機関には大きな負担になる可能性がある。保険証が生きているかどうかを患者の受診時にすぐにチェックできることは医療機関側のメリットだが、それは保険者が保険証の回収をきちんと行っていれば、マイナンバーを使わずともできることだ。カルテ情報を紐つけることになったら、どれほどのコストがかかることだろうか・・・将来、医療機関は情報通信業者のために仕事をする、ということにならねば良いのだが・・・。

マイナンバー制度の構築には2700億円程度かかり、そのメインテナンスには毎年300億円かかるようだ。マイナンバーに様々な情報を紐つけするごとに、莫大なコストが上乗せされ、さらにセキュリティの問題が増大する。

マイナンバー制度による最大のメリット受益者は、行政である。その維持管理には、おそらく天下りが行われている情報通信産業の業者が当たる。彼らも莫大な利益を得る。

医療機関は、多少の利便性を得るが、リスクとコスト負担が大きい。国民は、もっぱらコスト負担とリスクを負うことになる。


以下、引用~~~

病院でもマイナンバーカード、保険証代わりに

2017年01月03日 07時54分 読売新聞
 政府は、2018年度にマイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにする方針を固めた。

 患者の本人確認を迅速にし、医療事務の負担を軽減するとともに、カードの普及を図る。厚生労働省が17年度当初予算案に、システム構築の関連費用などとして243億円を計上した。

 マイナンバーカードへの対応が整った医療機関では、専用機にカードを通せば、保険証がなくても診察や薬の処方を受けられるようになる。医療機関から診療報酬の請求を受ける「審査支払機関」が、健康保険組合などの委託を受け、システム上で保険の資格確認ができるようにしておき、医療機関からの照会に答える仕組みだ。

 医療機関は、転職や離職などに伴って失効した保険証が示されてもすぐに分からず、後で失効が判明するケースも少なくない。患者が加入している保険の種類が瞬時に確認できれば、こうした事態を防ぐことができる。

医療機関への個別指導・監査の問題 

厚生労働省当局による、医療機関への個別指導・監査の問題はすでに何度も取り上げた。医療現場から離れると、問題の切実さが薄らいではいるが、私にとり、この問題が医療を歪にしている現実は、患者側に立ってより鮮明になってきた。

個別指導・監査が、「調査」になっていると筆者の井上氏は記しているが、実態はむしろ「捜査」である。

医療機関は、健康保険組合と契約して、診療を行い、その対価の一部を患者本人から、大半を健康保険組合から得る。あくまで、対等な契約関係である。しかし、厚生労働省と国は、医療費への公的支出を削減することを主要な目的にして、この個別指導・監査を行う。

個別指導は、当該医療機関が不正行為を行っている可能性がある、または診療報酬上上位8%に入る場合に実施される。後者の方が圧倒的に多い。それで解決しない、または悪質とされた場合は、医師の保険医指定、医療機関の保険診療停止を行う監査に移行する。実態は、厚生局の担当官(医療上の経験・知識に乏しい、行政職の医師)が、恣意的に行う追及になることが多い。この個別指導・監査は、診療報酬規則に則って行われる。同規則は、2年ごとに枝に枝をつぎ足すように複雑化された内容になっており、また担当官の恣意的判断が加わる余地があまりに多くなっている。井上弁護士の下記の論考にもある通り、

『実際、はなはだ微細な記載要件に過ぎて、診療現場の実情に合わないことも多い。今までの個別指導では、その微細な記載不備にばかり焦点が当たっていることも多く、そもそも記載要件の合理性・相当性にも疑問を呈さざるをえないことも少なくないように思う。』

という状況なのだ。ありていに言えば、この重箱の隅を突っつくような「指導」によって、医療現場に時間とエネルギーのロスが生まれている。ひいては、患者たる国民にそのしわ寄せが行く

井上弁護士は、憲法25条、健康保険法2条の精神に則り、個別指導を研修に切り替えるべきだと主張されている。個別指導・監査の関係した裁判に関わってこられた弁護士としての実感なのだと思う。もし医学的な側面の議論を、個別指導・監査の場で行うのであれば、第三者の医師によるピアレビューが望ましい。医系技官は、医療現場を知らなさすぎる。言い換えれば、医療は少数の医系技官が理解できる幅を大きく超えて、細分化、専門化している。彼らが、指導するなど無理なのだ。

以下、MRICより引用~~~

指導・監査・処分の改善に向けて ~健康保険法に憲法25条(生存権)の趣旨をみたすべき~

この原稿はMMJ12月号(12月15日発売)からの転載です。

井上法律事務所 
弁護士 井上清成

2016年12月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
---------------------------------------------------------------------
1.レセプト請求の指導・監査
現在、健康保険法、国民健康保険法、船員保険法、高齢者の医療の確保に関する法律に基づき、厚生労働省の地方厚生局は、病院・診療所の保険診療報酬請求の指導や監査を行っている。かつての社会保険庁・社会保険事務局の時代と比べると、現在の地方厚生局による指導・監査は、その運用面で改善されてきていると評してよい。
しかし、運用のもととなる法令が「指導大綱」「監査要綱」といった通達レベルのものに過ぎず、健康保険法を中心とする法律レベルが旧態依然のままである。このままでは運用の改善にも限度があろう。そこで、日本国憲法第25条に定める「生存権」の趣旨を充たして、健康保険法第2条に定める基本的理念を補充修正した法律改正をし、ひいては、指導・監査の改善につなげていくべきである。

2.健康保険法改正の理念
健康保険法改正の理念は、「医療における主権」と「国民の生存権・受療権」と言えよう。
医療における主権の問題とは、医療における究極の決定権者は誰か、という問題である。もちろん、厚労大臣でも財務大臣でも、広く政府でもないことは明白であろう。そうかと言って、医療者でもない。
医療における主権者は、患者である。しかし、その「患者」とは、今現在、治療を受けている個別具体的な患者には限られない。現在、疾病にかかり、または、障害があるにもかかわらず、今もって医療を受けていない、または、受けられない潜在的な「患者」も含まれる。さらには、今は疾病も障害もないが、将来は疾病や障害が生じて「患者」となるであろう者も含まれるであろう。つまり、広く「国民」すべてである。
したがって、医療における主権はすべての国民にある、と言ってよい。

3.国民の生存権・受療権
すでに述べたとおり、日本国憲法はその第25条で広く「生存権」を保障した。生存権の健康の側面は、「健康的生存権」と称してもよい。この「健康的生存権」の医療の分野における権利が、すべての国民が必要に応じて医療を受ける権利、すなわち「受療権」にほかならない。
また、「受療権」を制度として現実に保障するために導入されたのが、「国民皆保険制」である。「受療権」の現実の保障のために、国民のすべてに公的な医療保険制度を行き渡らせた。
このようにして、憲法第25条の生存権が、受療権、そして、国民皆保険制として具体化されたのである。したがって、保険診療の政策に、そして、健康保険法の条文にも、この趣旨・目的を明示しつつ、国民皆保険制によって基礎付けられた受療権(保険診療受給権)を現実化・具体化させることが要請されていると言えよう。

4.保険医の責務
翻って、保険診療に携わる医師・歯科医師、すなわち保険医は、これらの国民の健康的生存権、患者の受療権、国民皆保険制に適切に応える責務を負っている。この保険医の責務は、目の前の当該患者に対してはもちろんのこと、広く国民に対する責務と言ってよい。
保険医は、その責務を自らの責任と権限において実現していくべきである。保険医が自らの責任において国民の健康と受療を守るべく行使する権限を、保険医の「診療権」と称することができよう。保険医は、個々別々の患者に対して診療を実施する際には、当該患者の具体的な症状と当該患者を取り巻く具体的な環境などの諸事情を総合考慮し、専ら患者のためにその裁量を駆使して、診療内容への不当な第三者介入から患者を守りつつ、診療を実施しなければならない。これは保険医の責務であると共に、保険診療実施の権限(保険診療実施権)でもある。
保険医は、その有する「診療権」を適切に行使して、自らで責任をもって、患者、広くは国民に対して、必要に応じて適切な保険診療を行っていかなければならない。

5.個別指導の改善・充実
レセプト請求の指導・監査との関係で言えば、保険医の診療権を実現していく方策は、個別指導の改善とその充実であろう。
現在、指導は、集団的個別指導や個別指導を中心として運用されている。しかし、指導の中心を、監査と連動している集団的個別指導や個別指導から、集団指導に移行すべきであろう。つまり、集団指導のような「研修」に改めるべきである。今の指導は、指導という名の下で「調査」が行われていることが少なくない。集団的個別指導と言うよりも集団的個別「調査」、個別指導と言うよりも個別「調査」というのが、その少なくない実態とも言えよう。
したがって、集団指導は集団「研修」に、個別指導は個別「研修」に改めるべきである。そして、中途半端な集団的個別指導は廃止しなければならない。
その上で、疑わしいレセプト請求をピックアップして「調査」するかのような「指導」システムから、より広く網羅的に充実させた「研修」をその実態とする「指導」システムに移行していくべきである。つまり、より多く、より広く、集団または個別の研修を充実させるのがよい。

6.算定要件の手続面の改善
集団指導・個別指導の「研修」としての改善・充実を図るとともに、もう一つの重要な改善項目は、診療報酬の算定要件の手続面であろう。
診療報酬の算定要件は、主として中央社会保険医療協議会で議論され、その結果が診療報酬改定の形で告示される。その要件のうちの実体的要件は十分に議論されるけれども、手続的要件の議論は薄く、むしろ事務局任せになっていることが多い。手続的要件とは、たとえば、カルテへの要旨の記載などのことである。
実際、はなはだ微細な記載要件に過ぎて、診療現場の実情に合わないことも多い。今までの個別指導では、その微細な記載不備にばかり焦点が当たっていることも多く、そもそも記載要件の合理性・相当性にも疑問を呈さざるをえないことも少なくないように思う。
したがって、今後は、診療報酬改定に際しては、そもそも「研修」の大本となるレセプト請求の手続的な算定要件の定め方にも留意して、改善を図っていくべきである。


●日本国憲法第25条(生存権、国の社会的使命)●
第1項 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。


第2項 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

●健康保険法第2条(基本的理念)●
健康保険制度については、これが医療保険制度の基本をなすものであることにかんがみ、高齢化の進展、疾病構造の変化、社会経済情勢の変化等に対応し、その他の医療保険制度及び後期高齢者医療制度並びにこれらに密接に関連する制度と併せてその在り方に関して常に検討が加えられ、その結果に基づき、医療保険の運営の効率化、給付の内容及び費用の負担の適正化並びに国民が受ける医療の質の向上を総合的に図りつつ、実施されなければならない。

米国は、公的保険縮小・医療保険民営化に大きく舵を切る 

トランプ次期米国大統領は、厚生局長官にトム プライスを任命した。共和党の議員であるプライスは、長年、医療保険を民営化することを主張してきた人物だ。

次期政権では、すでにオバマケアは廃止されることが決まっている。オバマケアは、2000万人の無保険者を減らしたが、低保険者には恩恵がほとんどなく、多くの国民は負担増になることに批判が集まっていた。オバマケア廃止によって国民皆保険への歩みが逆行することは確実だ。さらに、低所得者のためのMedicaidは規模縮小、高齢者へのMedicareは民営化が検討されるという。

これは対岸の火事では決してない。この国会で、わが国政府は、高齢者医療費負担増、年金減額を方向づけた。財務省の本音としては、国民皆保険は無くしたいところだろう。おそらく、トランプ政権が誕生すると、予告通り、二国間自由貿易交渉が始まる。米国が、出発点にするのはTPP交渉でわが国が譲歩した条件である。以前から繰り返している通り、米国にあるグローバル保険資本は、日本の公的保険制度を貿易・参入障壁として攻撃するはずだ。上記の通りの、公的保険の最大限の縮小、医療保険の民営化に、わが国は進むはずだ。表向き、公的保険、国民皆保険を守ると言っているが、「外圧」で守れなくなったという好都合な口実を、わが国政府は手に入れるはずだ。

国民の多くは、公的保険がなくなって初めてその有難みを理解するのだろう。