前沢医師、講演会、於札幌市 

このブログの前沢先生、若いころちょっとしたことで存じ上げた。

北大地域医療学の教授を定年退官され、今も地域医療で良い仕事をなさっていらっしゃる。明日、彼が札幌市で講演をなさることが予告されている。

こちら。

茨城県県西部の病床削減 

私の仕事場だった地域、茨城県県西部の医療機関再編が報じられている。

県西総合病院(299床)、筑西市民病院(173床)、民間の山王病院(79床)の3病院を再編統合し、地方独立行政法人の茨城県西部メディカルセンター(250床)、公設民営のさくらがわ地域医療センター(128床)にする。

ということらしい。この再編による総病床数の変化は、551から378病床への減である。もちろん、他の医療機関の病床が増えるわけではないので、173病床の純減になる。3割以上の大幅減である。

この病床減の受け皿として、行政は、在宅医療を考えているのだろう。高齢化、核家族化が進んでいるこの地域で、果たしてそれが可能なのかどうか・・・患者、その家族にとって、きわめて困難な状況になることは見えている。

そもそも、米国などの病床数と比較してわが国の病床数が多すぎるという議論では、米国などで病床という場合、急性期病床であることが見過ごされている。慢性期病床は、病院以外の形であるのだ。ただ医療費削減だけを目指して、病床を減らすことは、市民に多大なしわ寄せを起こす。

このようなプランを策定する官僚、政治家は、希望すればいつでも医療機関に入院できる特権を持っている。患者、その家族の問題を自分の問題として考えられないのだろう。

がん拠点病院の指定要件に「医療安全管理部門」の設置 

最近、医療関連のニュースを取り上げることが少なくなってしまった。このニュースを読んで、そうした自分の変化に苦笑するとともに、厚労省のやることは相変わらずだと思った。

医療安全が医療安全管理部門の新設で確保されるのだろうか。少なくとも、千葉がんセンター事件では、内部告発に対する上層部のもみ消し、さらに内部告発者へのパワハラが、問題の根幹にあった。群馬大学事件は、医療安全管理部門が存在したのに生じた。この二つの施設の問題点をより掘り下げないと、同じ問題が繰り返される可能性がある。

新しい医療技術の導入に際しての医療安全の問題もあるが、見落とされているのは、医療従事者の労働環境の劣悪さから生じる医療事故。医療事故手前の事象について、日本医療機能評価機構が毎年情報を集め公開している。だが、彼らは医療従事者の労働環境について検討しない。医療事故についても、当事者が免責される、非公開という原則が守られていない。

それに、もっとも腹立たしいのは、「緩和ケアの実施件数も要件に加え」ていること。緩和ケアの診療報酬上の施設要件に、日本医療機能評価機構の評価を受けていることがある。日本医療機能評価機構は、がん患者を「人質」にとり、自らの権益を確保している。

政府から虐められる行政、そして国民から蜜を吸い上げる行政・・・最終的な被害者は、国民である。

朝日新聞デジタルより引用~~~

がん拠点病院の指定要件に「医療安全」追加 厚労省
黒田壮吉2018年4月12日06時00分

 全国に400以上あり、地域のがん医療の中心となる「がん診療連携拠点病院」の指定要件に、常勤の医師や薬剤師がいる医療安全管理部門の設置などが加わることになった。厚生労働省の有識者検討会が11日、まとめた。拠点病院だった群馬大病院や千葉県がんセンターなどで死亡事故が起きたことを受け、議論してきた。

 どこにいても適切ながん医療が受けられるよう、厚労省は2002年以降、がん診療連携拠点病院を指定している。年400件のがん手術数や、化学療法の延べ患者数が年1千人以上などが現在の要件。指定されれば、診療報酬上の加算やがん専門医研修への補助金などが受けられる。原則、4年ごとに更新する。

 群馬大病院と千葉県がんセンターで14年、がん患者らが腹腔(ふくくう)鏡手術後に死亡したことが問題になった。拠点病院の指定要件に医療安全に関する事項はなかったが、安全管理体制が不十分などを理由に厚労省は15年の更新時に両病院を拠点病院に指定しなかった。

 検討会は、医療安全管理部門を設け、常勤の医師や薬剤師、看護師の配置を定めるとまとめた。責任者には医療安全に関する研修の受講を求める。医療安全上に重大な疑義がある場合は、指定の取り消しを検討する。

 ほかに患者の心身の苦痛を和らげる緩和ケアの実施件数も要件に加え、外来や院内で実施した緩和ケア件数の報告を求める。保険適用外の「がん免疫療法」の実施は原則、安全性を評価したうえで臨床研究として行うよう見直す。新たな要件を満たす拠点病院は、今年度中に指定する予定。

新専門医制度は地域医療を破壊する 

新専門医制度は、医師の研修制度以外に、地域への医師の配置が目的となっていた。それが、地域医療を崩すという指摘は昨年来行われてきた。こちら。

だが、そうした指摘に対して、きちんと対処することなく、新専門医制度が動き出した。それへの批判が下記の論考だ。この厚生労働大臣は感話でもっともなことを述べているが、こうした制度のモーメントには利権がからんでおり、いったん動き出したら止まらない、ということなのか。

以前から述べている通り、こうした利権組織が現実を無視して突っ走る現象はいたるところで起きている。それを監視し、訂正しまたは停止させるのが、立法の役目だと思うのだが。行政、学会、大病院経営者の一部にとっては、医師の人事権はのどから手が出るほど欲しい利権なのだろう。

以下、引用~~~

新専門医制度:今こそ厚生労働大臣談話に立ち返るべきである

安城更生病院 副院長 
安藤哲朗

2018年2月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
---------------------------------------------------------------------
平成29年8月2日に当時の塩崎厚生労働大臣が、「新たな専門医制度」に対する厚生労働大臣談話を発表した(1)。その内容は「新専門医制度には、地域医療への悪影響の懸念、専攻医が望む研修ができなくなる懸念がある。日本専門医機構および各学会は、この懸念に真摯に向き合い、運用の中で問題があれば速やかに是正が行われる必要がある。そして万が一新たな専門医制度によって地域医療に影響を及ぼす懸念が生じた場合には、厚労省は医療法上の国の責務に基づいて実効性のある対応を求める。」と要約できる。

この談話を受けて、専門医機構の松原謙二副理事長は平成29年8月4日の機構理事会後の記者会見において、「機構は2018年4月から新しい専門医制度を開始する。ただし、途中でいろいろな議論で問題が出てきた時には、私たちは真摯な態度で対応する。各学会や厚生労働省とよく相談しながら、適切な形で決して地域医療に偏りが出ないように対応する。それを前提として開始したいと思う」と説明した(2)。

つまり、厚生労働大臣談話における2つの懸念が真摯な態度で対応されることが前提条件として、1年間延期された新専門医制度の2018年4月からの開始が決まったのである。逆に言うと前提条件が崩れた場合には、開始すべきでない。それではこの2つの懸念に対応がされているかどうかを検証してみよう。

一番目に、「地域医療への悪影響の懸念」については、すでにいくつかのメディアから検討結果がでている(3,4,5,6,7)。それに対して専門医機構の松原氏は、「大都市集中、内科激減は間違い」と言っているが、その根拠となるデータは示していない。内科が15人以下の県が9県もあり(高知5人、宮崎9人、福井11人、島根12人、山口・香川13人、秋田・鳥取・徳島14人)、外科が5人以下の県が14県もある(群馬・山梨・高知1人、福井・奈良・島根・宮崎2人、青森・香川3人、山口・佐賀4人、山形・徳島・愛媛5人)。これらの県の友人の医師達に聞くと、地域医療の維持に大変な危機感を持っている。私の病院のある愛知県は内科志望者をみると132人と数は多いが、従来の平均と比べての減少人数は全県で一番多いと推定されている。実際に近隣の中核病院の状況を聞くと、例年の半分程度しか内科志望者があつまっていないところが多い。その一方で、東京の大学病院の友人達に聞くと、例年に比べて増えているところが多いようだ。東京はシーリングがかかっていたはずなのに専攻医全体が例年の50%増というのはどのように理解したらいいのだろうか?しかし、不思議なことに機構の松原副理事長は、「偏在はない。内科は減っていない」と根拠を示さずに繰り返しコメントしている(8)。

二番目に、「専攻医が望む研修ができなくなる懸念」についてはどうか。愛知県では、初期研修から後期研修まで一貫して同一の市中病院で研修して、その後医師不足の病院に1年前後赴任してから大学に帰局するというシステムが40年以上前から出来上がっている。屋根瓦式の研修制度が、今までもっともうまく機能していた地域であるが、それが今回の循環型プログラム研修で危機的状況に陥る危険性がある(9)。愛知県の研修医達が口をそろえて言うことが「循環型プログラムが困る。何とかして欲しい。」という希望である。彼らは様々な不安を持っている。まだ内科医として一人前になる前の時期で、subspecialtyも固まってない時期に、指導医や教えてくれる先輩医師のいない病院に半年から一年間移動することは、重要な研修時期を無駄に過ごすことになる可能性が高いのでは?身分保障はどうなるのか?引っ越しをしなくてはいけないことになるのでは?その病院のシステムや電子カルテになれるのに半年から1年かかるので研修の実があがらないし、地域医療に貢献もできないのでは?機構も内科学会も現在までのところ循環型プログラムの原則を崩す姿勢を見せていない。これは、「専攻医が望む研修ができなくなる」状況と考えられる。

さらに、シーリングのかかった眼科で起こった事態を耳にした。ある大学では一次募集のときに眼科専攻医の定員を減らせと言われて、何人かの研修医に、今年はプログラムに入らずに市中病院で研修して、来年のプログラムに入れるという約束をしたそうだ。すでに眼科などでは少なくないキャリーオーバーが発生しているのだろう。これを、「専攻医が望む研修ができなくなる」状況と言わずして何と言うのだろうか。

2点の懸念を検討してみると、もはや新専門医制度開始の前提条件は崩れている。残念ながら機構には「真摯な態度の対応」が期待できない。となると厚生労働省に「医療法上の国の責務に基づいて」対応していただくしか、医療崩壊を阻止する方法はないように思う。プロフェッショナルオートノミーの原則からみて、厚労省の関与を嫌う医師もいるかもしれない。しかし、専門医機構がやっていることは「プロフェッショナルオートノミー」ではなく、一部の重鎮達の独断専行である。機構は愛知県病院協会の要望書(10)に対しても全く対応せずに無視している。国民も医師も迷惑極まりない新専門医制度を根本的に見直すには、多くの国民の声を受けて厚労省に強権を発動してもらうしかない

引用資料
(1)「新たな専門医制度」に対する厚生労働大臣談話(厚労省HP:2017年8月2日)www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000173575.html
(2)新専門医制度2018年度開始、「地域医療等に配慮」が前提(m3.com:2017年8月4日) https://www.m3.com/news/iryoishin/549804 (医師限定HP)
(3)専門医研修、地方は低迷、外科「10人未満」27県 (共同通信:2018年1月28日)https://this.kiji.is/330245957391041633
(4)「内科15.2%減、外科10.7%減」、専攻医の領域別割合(m3.com:2018年1月4日)https://www.m3.com/news/iryoishin/578074(医師限定HP)
(5)京都50.8%増、東京50.0%増、専攻医の地域差は拡大(m3.com:2018年1月13日)https://www.m3.com/news/iryoishin/578909(医師限定HP)
(6)「新専門医制度」は医師にも患者にも“迷惑”だ(東洋経済on line:2018年2月9日)http://toyokeizai.net/articles/-/207487
(7)上昌広:内科・外科志望医が激減、眼科志望医ゼロの県も…新専門医制度失敗で地方の医療崩壊(Business Journal:2018年2月8日)http://biz-journal.jp/2018/02/post_22256.html
(8)「大都市集中、内科激減は間違い」、日本専門医機構(m3.com:2018年1月20日)https://www.m3.com/news/iryoishin/581029(医師限定HP)
(9)安藤哲朗:愛知県の救急医療は新専門医制度により崩壊する(MRIC:2016年7月19日)http://medg.jp/mt/?p=6874
(10)新専門医制度に関する緊急要望書(愛知県病院協会HP:2017年7月11日)www.byouin-k.jp/aichi/?p=713

たばこの「損益計算」 

たばこによる健康被害が、医療費ベースで1・5兆円に達するという記事。

これだけの被害が出ているのに、財務省はたばこ税を大幅に増やすという政策を取らない。その理由の一つは、その税金をある程度確保したいとの思惑があるのだろう。たばこがあまりに値上がりしてしまい売れなくなると、税収が減る、それを望まないということだ。

もう一つ、よりブラックな事実だが、禁煙が広まることで、国民の寿命が延びる、すると年金など社会保障の需要がさらに増える、ということもあるのではないか。医療社会学のテキストの一つに、その可能性が記されていた。今後、年金財政はさらに厳しさを増すはずなので、この推測もあながち誤りではないだろう。

喫煙する本人、周囲で受動喫煙に晒される人々が、健康被害にあって苦しむことを考えたら、たばこはすぐにでも止めさせる方向に政策の舵を切るべきなのだが・・・。

以下、引用~~~

たばこで医療費1・5兆円 がん、脳卒中、心筋梗塞で 厚労省研究班
18/01/15 記事:共同通信社

 たばこが原因で2014年度に100万人以上が、がんや脳卒中、心筋梗塞などの病気になり、受動喫煙を合わせて1兆4900億円の医療費が必要になったとの推計を、厚生労働省研究班が15日までにまとめた。国民医療費の3・7%を占めるという。

 05年度の推計と比べると、喫煙率の減少に伴い1千億円余り減少した。ただ受動喫煙に関しては、因果関係が判明した心筋梗塞や脳卒中の患者を新たに対象に加えた結果、医療費が倍以上の3千億円超に膨らんだ。

 研究班の五十嵐中(いがらし・あたる)・東京大特任准教授は「脳卒中などの循環器系の病気は、たばこの対策を取れば比較的早い効果が期待できる。受動喫煙の防止策を早く進めるべきだ」としている。

 研究班は、たばことの因果関係が「十分にある」ことが分かっている、がん、脳卒中、心筋梗塞などの病気に着目。これらの病気の治療に使われた40歳以上の人の医療費や、たばこによる病気のなりやすさに関するデータを基に試算した。

 その結果、喫煙で1兆1700億円、受動喫煙で3200億円の医療費が発生したとみられることが判明。患者数は喫煙が79万人、受動喫煙が24万人だった。

 喫煙者では、がんの医療費が多く、7千億円を超えた。心筋梗塞をはじめとする虚血性心疾患や脳卒中などの脳血管疾患の医療費も、それぞれ2千億円だった。

 受動喫煙では、がんによる医療費が300億円。虚血性心疾患は1千億円、脳血管疾患は1900億円と推計した。

 経済的な損失額も試算。病気による入院で仕事ができなくなったことによる損失は喫煙と受動喫煙を合わせて2500億円、勤務中に喫煙するために席を離れることによる損失は5500億円と見積もった。

 ※たばこと健康リスク

 喫煙者が吸うたばこの煙には約70種類の発がん性物質があるとされ、受動喫煙で周囲の人が吸い込む副流煙にも発がん性物質やニコチンなどの有害物質が数多く含まれている。厚生労働省のたばこ白書によると、喫煙者がなりやすい病気には、肺がんや胃がんなど多くのがんや、運動時の呼吸困難を引き起こす慢性閉塞(へいそく)性肺疾患、脳卒中があり、妊娠中では低出生体重児の原因になる。受動喫煙では脳卒中や肺がん、心筋梗塞になりやすくなるほか、乳幼児突然死症候群の危険が高くなる。

新専門医制度が地域医療を破壊する 

新専門医制度が、医療全体、とくに地域医療を破壊する、という議論は、すでに何度も取り上げてきた。ここに、地域医療現場からの声を載せる。

この新専門医制度は、行政と学会・大病院経営陣のために考案されたもので、メジャー科の研修に問題があり、女性医師の生涯キャリアー形成にも障害となる。また、大都会での研修が有利となるために、医師の地域的偏在をさらに助長することが指摘されてきた。

この論者の意見では、地域医療現場で医師を教育し、地域医療の担い手を育てることが難しくなることが指摘されている。それに対して、新専門医機構は対応していない。

社会的共通資本である医療制度を、特定の人々・グループの利益のために改変することが現に行われているわけだ。それは社会的共通資本を破壊することに他ならない。

大学医局から人事権を奪った行政が、地域医療を立ち行かなくさせ、さらに行政が主導したこの新専門医制度が医療制度を破壊する。

以下、MRICより引用~~~

なぜ新専門医制度が地域医療を崩壊させるのか

安城更生病院副院長
安藤哲朗

2018年1月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
---------------------------------------------------------------------
新専門医制度で公表された一次募集の結果は、内科激減、東京の大学一極集中という衝撃的なものであったが、これは十分予想された結果であった。少なからぬ研修医は、内科の新専門医制度が自分の将来にとって不具合であることや、地方では専門医資格を取得するのに苦労しそうなことを察知して、合理的な選択をした。まさに「上に政策あれば、下に対策あり」である。私の病院や近隣病院の研修医で、進路を内科とマイナー科を迷っていた研修医のほとんどがマイナー科を選択した。内科は専門医取得まで無意味にハードルが高くなったのに対して、マイナー科は従来とそれほど変わらないと考えたようだ。今までならば内科を選択してくれそうな素養を持っている研修医が、ことごとくマイナー科を選んだことに私は衝撃を受けた。

専門医機構と内科学会は、この結果を真摯に受け止めて、速やかに大胆な改善をするべきである。ところが、専門医機構は「偏在はない」と、内科学会は「内科志望者は減っていない」と合理的根拠を示さずに主張している。これでは制度の改善はままならない。

専攻医の内科激減、東京の大学一極集中による直接的な地域医療への悪影響も重大であるが、実は今後の日本の地域医療に対してもっと重大な悪影響を及ぼすことが二つある。

一つめは、地域医療に役立つ医師を育てるのが難しくなったことである。バトルフィールドに役立つ能力を身につける最も効果的な方法は、そのバトルフィールドに入って学ぶことである。忙しい地域医療現場では、たくさんのcommon diseaseの患者を効率よく診療する能力が必要で、その能力を身に着けるには、地域医療の現場に直接入って学ぶのが効果的である。都会の大学病院に入れば都会の大学で役立つ能力は身に着けやすいだろう。しかしその能力が必ずしも地域医療の現場で役立つ訳ではない。もちろん指導医の存在は重要で、地方の病院の中でも指導医の能力によって、研修効果は差があるだろう。その点で都会の大学病院には指導医が豊富にいるからよいという反論も予想される。しかし都会の大学病院の少なからぬ指導医は、専攻医教育よりも自分の研究業績をあげることに関心がある。総体的に、地域医療現場で後期研修をする医師が減少したことは、将来の地域医療を担う人材が減少したと言ってもいい。

二つめは、使命感を持って地域医療を担いながら研修医教育に努力してきた指導医達の士気を奪っていることである。日本各地の市中病院には多くの志の高い指導医がいる。しかし、新専門医制度によって施設基準のハードルが上がり、後期研修医を採用できなくなる場合もあり、強制的な循環型プログラムやローテートで教育や診療がしにくくなる。また新専門医制度のために大量の書類仕事の増加が見込まれ、時間を奪う形式的な委員会も増える。このような状況ですでにやる気をなくしつつある医師もいるだろう。社会共通資本としての医療は、医師集団の使命感、志に支えられているところが大きい(1)。かつてサッチャー政権時に医師達がmotivationを失ってイギリスの医療が崩壊したように、日本の医師達がこのままmotivationを失ったら、それを取り返すのは容易ではない。


超高齢社会、縮小社会に突き進む日本は重大な転換点に来ている。この局面でこの新専門医制度は日本の医療に致命的なダメージを及ぼす危険性がある。今後の日本の医療を守るために、速やかな制度の再検討が必要である。

参考文献
(1)宇沢弘文:人間の経済.新潮新書、2017.

ピンピンコロリは理想のように見えるが・・・ 

某SNSで、「死に方」について議論されていた。いわく、癌で苦しむのはいやだ、ボケて何も感じなくなって死んでゆきたい、という意見。

主観的な希望として、その気持ちはわからぬでもない。だが、死亡の原因からして、確率の高い死因はやはり悪性新生物である。認知症になったとしても、最終的に亡くなる直接の病因は、悪性新生物・感染症他であり、認知症自体ではない。記憶が障害されているとしても、疼痛や苦痛のコントロールは必要だ。また、その前に、認知症の経過中には、大きな不安感と孤独感に襲われるもののようだ。認知症になって亡くなるのも、それ以外の経過の死亡と同じような問題を抱えるのだ。

脳血管障害、虚血性心疾患等で、瞬時に死ぬことができれば、本人にとっては良いのかもしれない。だが、残された家族にとって、それはぬぐい難い喪失感をもたらすだろう。やはり、時間をかけて身辺整理をし、周囲の人々・家族に別れを告げて亡くなる方が、残される人々にとっては良いのではないだろうか。それに、この二疾患群では、「助かって」後遺症を残し、残りの人生を歩むことになる可能性の方が多い。

こうした議論をしていて、強く感じるのは、社会的な死の視点が欠けていることだ。

今後、しばらくは悪性新生物で死亡する可能性が最も高いのであるから、それに対応する社会基盤の形成が必要になる。ところが、以前のポストにも記した通り、毎年100万人死亡するこの時代に、その半数以上を占める悪性新生物他の患者にターミナルケアを施すホスピスの絶対数が足りない。たった、7000床しかないのだ。この病床が、年に2人、3人の方に利用されるとしても、絶対数が圧倒的に不足している。

ホスピスの診療報酬の算定要件に、日本医療機能評価機構の「評価」が必要とされていることは繰り返し述べた。この「評価」なるものが、形式的で意味のない内容であり、結局、同機構が悪性新生物患者を人質にとって、利権を貪っている構図である。この天下り団体のこの悪行が社会的に問題にされることがない。天下りの最悪の側面が、このホスピス診療報酬問題に表れている。

さらに、厚労省は、在宅医療をがむしゃらに推進している。悪性新生物末期の患者も、在宅医療で対応させる積りのようだ。疼痛コントロール、その他の身体管理、さらに精神的なケアを、家族を失いつつある家族構成員に24時間体制で行わせる、それが一体可能なのだろうか。在宅医療自体が困難を極めるのに、末期患者のケアとなれば、とても可能とは思えない。

自分は楽に死ねたら良いと希望を語るのは結構だが、現実は厳しい。後の世代のためにも、この「多死」の時代にあるべきターミナルケアのインフラを整備するように政治・行政に強力に働きかけるべきなのではないだろうか。

医療を破壊する新専門医制度 

新専門医制度が、東京一極集中、基幹専門科である内科・外科の専攻医の減少を招いている。

新専門医制度は、各科専門医のレベルを同一にするためとして計画された。だが、行政、関係学会・大病院経営陣等の意向が入り込み、いつの間にか、専門科・地域毎の医師の偏在を是正するという名目が加わった。

専門医専攻の実務は学会に丸投げで、大学病院・大病院の労働力確保が優先された。専門医機構の面々は、今後の若い医師から吸い上げる、専門医認定・継続による収入を見込んで、金を使い込み、制度の徹底した議論を行うことなく、新制度を見切り発車させた。

その挙句が、この様である。

今後、新専門医資格を餌にして、地方への医師の強制配置、専門科の強制移動を行わせるのだろうか。その強制は、憲法違反の可能性が高く、少なくとも現在の資格取得によるメリットでは若い医師にアピールしない。今後飛躍的に増える女性医師のキャリアー形成が、この制度では難しくなる。彼女たちのかなりの数が、キャリアー形成をあきらめて、医療の前線から姿を消す可能性がある。生じるであろうことは、基幹科目の専門医が減少し、地方での医師が激減する状況。まさに医療崩壊である。

若い医師諸君の向上心を、医療の現実に必要とする医師の在り方に組み込み、より良い医療制度を立ち上げる、そうした方向に徐々に改善してゆくことが求められたはずが、こんな歪な制度になってしまった。行政が枠組みを作り、関連する学会・医療機関の上層部が、自らに都合よく作りあげた制度が、医療制度そのものを危うくしている。

若い医師諸君も、災難なことだ。若い医師諸君は、こうした行政・業界の都合だけで決められる制度にもっと発言をしてゆくべきではないだろうか。

結局は、国民がこうした制度の破壊的変更による、痛みと不便とに苦しむことになる。こうした本末転倒の姿が、我が国の行政、政治のいたるところで見られる。国民は、その破壊が身辺に及ばないと、気が付かないのだろう。

以下、引用~~~

東京一極集中を招いた新専門医制度の弊害 ~医師偏在対策は予想通り大失敗


専門医制度の「質」を守る会共同代表          
つくば市 坂根Mクリニック 坂根 みち子

2018年1月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
---------------------------------------------------------------------
来年度から始められる新専門医制度が大変なことになっている。

専門医の質の担保より偏在対策を優先させ、医療現場から挙った多くの反対の声(1)を押し切って開始した新専門医制度の一次登録(専門医の卵:以下専攻医で統一)が締め切られ、大勢が判明した。
結果、全科で専攻医の地域偏在が拡大し、内科の激減、東京の一極集中が顕著となった。
2012年~14年の全国専攻医(人口比)の平均地域最小最大格差が3.09倍だったのに対し、今回の地域格差は4.67倍(!)にもなっている。特に東京の登録数は、過去に比べて50%増え、東京の一人勝ちとなった。(ただし正確には、都会の基幹病院から地方へ派遣される場合は、今回のデータでは都会でカウントされるのでその分は割り引く必要がある)
医学部の増員により、医師国家試験合格者数は前記の時期に対応する2010年-12年平均が7637人に対して、2016年は8630人、13.0%増えているが、今回、内科希望者は実数で123人減り、相対的には-15.2%と激減した。外科は実数ベースで767人と横ばいだが、相対的には-10.7%と大幅に希望者を減らした。つまり、内科外科離れが著明なのである。反対に数を増やしたのは、眼科、耳鼻科、泌尿器科などのいわゆるマイナー科である。それぞれ、相対的に24.5%、16.5%、16.0%も増加している。

問題は、偏在の拡大により、専攻医数が極めて少なくなった県である。内科は、希望者が集中した東京が520名に対して、高知県5人、宮崎県9人、福井県11人、島根県12人、この人数で一体どうやって医療システムを継続させていくのだろう。
外科を見てみよう。高知県・山梨県・群馬県は、外科の希望者全県でたった1人である。宮崎県・島根県・福井県・奈良県も各2人ずつしかいない。
小児科に至っては、希望者数0の件が2県(徳島県・佐賀県)、岩手県・山形県 富山県・山梨県も希望者が1人しかしない。
産婦人科もたった1人しか希望者がいない県が、7県もある(岩手県・福井県・鳥取県・徳島県・香川県・大分県・宮崎県)
これらの県では、社会的共通資本である医療体制がこのままの状態でいけば、若い人を呼び込んで子供を産み育てることがかなり厳しくなるだろう。

そもそも研修施設数に対して、専攻医数が絶対的に少ないのは、当初より医療現場からは指摘されており(2)、この事態は想定出来たのである。それでも日本専門医機構はごり押しした。一応特定の地域に集中しないようにキャップもかけていた、はずだった。
具体的にいうと、5都道府県は、専攻医数の制限がかかっていたはずである。
それが何故これほどの集中と偏在をもたらしたのか。この結果から考えるに、機構は科別の過去5年間の平均専攻医数すら、きちんと把握していなかったのではないか。そうでなければ、なぜ機構はデータを一切公表しないのだろうか。

機構はガバナンスが欠如している。今機構を仕切っているのは、日本医師会と各学会の幹部であり、機構はこれらの団体から借金している身の上で、独立した第三者機関どころか、全依存状態である。筆者は借金の形にこの制度を強行するにしても、これからの医療を担う若い医師達のためにせめて以下のことだけはやって頂きたいと主張してきた(3)。同様の意見は他の多くの現場の医師達からも出されていた。

「質」を担保するための統一基準を公表し、「質」が担保されるのであれば、単独施設での研修も認めること
基本領域の選定再議論も平行して進めること
基幹施設となる大学病院の理不尽な仕打ちや不自然な循環型プログラムを拾い上げ具体的な改善策を示すこと
専攻医の身分保障をすること
・機構の議事録をはじめとする情報を速やかに公開すること
・機構は、制度の検証?改善という仕事に特化すること

残念なことに、機構はどれひとつとして、手をつけていない。
今、専攻医の登録をしていない研修医に対して、機構からすぐ登録をして志望先を決めるように連絡が来ているそうだ。誰もが専門医になる必要があるわけでもないのにそれ自体随分強引な話だ。ところが、さらに驚くべき事に機構はどのプログラムが定員いっぱいでどこが空いているかを公表していないのだ。
二次応募の研修医のことを全く考えていないのだろう。
他にも、基幹病院に希望者がたくさん集まり過ぎたところでは、1年待つように言われたり、民間病院に行くように言われたりといった、所謂キャリーオーバーが発生しているという。これらについても、機構は一切公表していない。
あちこちで挙っている制度のほころびを拾い集め検証することをせず、小手先の帳尻合わせに躍起になっている、何とも情けない事態である。
そして医療の質の担保より、偏在対策を優先させたにもかかわらず、偏在はさらに悪化してしまった。機構の詭弁に弄された全国知事会、市長会はこの結果をどうとらえるのだろうか。

何度も繰り返してきたが、本制度には現場の医師達、特に指導医、若手、女性医師の意見が反映されていない。制度設計を高齢・男性医師で占められている機構のメンバーだけに任せてはいけない。この制度が医療崩壊の最後の一手を打ったと言われないために、機構は現場の声を聞き、改善のために最大限の努力をすべきである。このままでは、医療の未来のみならず国民の未来も危うい。

出典
厚生労働省公式ホームページ「新たな専門医の仕組みについて」
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/323.pdf
日本専門医機構公式ホームページ「専攻医一次登録採用数について」
http://www.japan-senmon-i.jp/news/doc/ichjitourouku.pdf
仙台厚生病院 医学教育支援室 遠藤希之 消化器内科 齋藤宏章 作成デー
タ http://stop-it-shin-sen-mon-i.webnode.jp/
(参考)
(1)新専門医制度の2018年度開始に反対、1560人分の署名『専門医制度の「質」を守る会』、厚労相宛に提出 https://www.m3.com/news/iryoishin/547029
(2) 日本専門医機構が固執する「循環型研修」は、地域医療の崩壊を招く遠藤 希之 氏(仙台厚生病院 医学教育支援室 室長)
https://epilogi.dr-10.com/articles/2254/?mr=abcs
(3) Vol.164 これから専門医を取ろうとしているドクターへ この制度の問題点を知ろう
http://medg.jp/mt/?p=7749

医療の現実 これから向かう方向 

新年そうそう、MRICに同サイトの主催者である上昌広氏の記事が掲載された。いささかショッキングな内容だ。

大都会から医療が立ち行かなくなる、というのは納得できる指摘だ。国民の多くは医療とは無縁で過ごしているが、この現実を目の当たりにして、驚かされることだろう。これが、残念ながら現実なのだ。

ただ、混合診療の推進以前にやるべきことがまだまだある。国の予算で、医療を含めた社会保障に回す予算はまだあるはずだ。トランプに肩を叩かれて、一基1000億円以上のイージスアショアを二基ポンと購入する安倍首相は、国民の安寧と福祉を考えていない。ますます酷くなっている官僚の天下り、彼らの天下り企業と、それに政権の仲間に垂れ流す国家予算はどれほどあるのか見当もつかない。

今春の診療報酬改定で、医療は0.54%の引き上げだと喧伝されているが、消費税増税でその増加分はすぐに消え、医療機関は、さらなる経営不振に陥ることだろう。消費税分の診療報酬は、地域医療を推進するためとして、行政の立ち上げた特殊法人会計に組み込まれ、医療機関の自由にはならない。

混合診療が進められると、医療費が下がると上氏は述べているが、それは新自由主義経済の論者が盛んにこれまで述べてきたことで、そうはならない。自分の生命・生活の質に直結する医療は、経済の論理が通用しないからだ。混合診療・自費診療の本場、アメリカの医療費を見ればよい。先日も、カリフォルニアの友人が報告してくれたところでは、奥様がアレルギー診療を三回某有名大学で受けたら、それだけで200万円かかったと嘆いていた。過日、アリゾナに住む友人のお嬢様が、心臓の不整脈治療でablationを受けたところ1000万円請求され驚いたと述べていた(以前にこちらにポストした)。米国だけではない、他の国々の医療費も少し調べれば、我が国の医療費が低廉であることがすぐに分かる。市場原理を持ち込むことで、それがさらに下がるというのは幻想か、それによって利益を上げる人々のデマである。

正直に言えば、現在の国民皆保険がそのまま続けられるとは到底思えないのも事実。なし崩し的に、実質的な混合診療が進められている。公的扶助の範囲もどんどん狭められている。当局は、高齢者の高額医療費補助制度を大幅に縮小する(現在の1/5になる)ことを検討している。高度先進医療が、普通の人々にとって手が届かないものになる事態がすぐそこに来ている。

だが、医療制度を持続可能な形にする上で、国の統治機構、予算配分の仕方を変えるために、国民の意見が尊重されるべきだろう。まずは、医療が高額なものになり、普通の人々が受けられなくなる状況がすぐそこに来ていることを知るべきなのだ。

以下、MRICより引用~~~

2018年新年によせて

上昌広

2018年1月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
---------------------------------------------------------------------
明けましておめでとうございます。新しい年を迎え、いかがお過ごしでしょうか。
お陰様で、2004年1月に始まったMRICは、今年で14年目を迎えます。ここまで続けることができたのは、皆様のお陰です。この場をお借りし、感謝申し上げます。

さて、今年はどのような年になるでしょうか。私は、医療崩壊が加速すると考えています。

高度成長期に確立した国民皆保険制度、医系技官制度、医局制度は、高齢化・情報化・グローバル化した世界に適合していません。新たな仕組みを確立するまでの産みの苦しみが続くと思います。
では、具体的にどこが問題となるでしょうか。私は、今春の診療報酬改定に注目しています。立ちゆかなくなる医療機関が出てくるでしょう。
年末の予算編成で、診療報酬本体が0.55%引き上げられたことが話題になりました。安倍総理、横倉義武・日本医師会会長のリーダーシップなしでは実現できなかったでしょう。医療界にとっては福音です。
ただ、医師・看護師不足などの理由で人件費が上がっている昨今、この程度では焼け石に水です。
このままでは、都心部の医療機関の破綻は避けられないと考えています。

なぜ、都心部に限定するかと言えば、我が国の診療報酬が全国一律に厚労省によって決められているからです。診療報酬が抑制されれば、物価が高い都心の医療機関がもっとも影響を受けます。後述するように解決策は自明なのですが、幾つかの病院が破綻するまで、合意が形成できないでしょう。
では、どのような医療機関が特に危険なのでしょうか。それは総合病院です。
不採算の診療科を切り捨て「選択と集中」ができず、どうしても収益性が上がらないからです。

既に東京女子医科大学、日本医科大学、聖路加国際病院のような有名病院でさえ大赤字を出していることが、メディアでも大きく報じられています。最近になって、千代田区の財閥系の有名病院が債務超過であることも判明しました。
この状況は東京の医療にとって、極めて危険です。それは、東京の急性期医療を、私立大学の附属病院を中心とした民間医療機関が担ってきたからです。
東京には13の医学部がありますが、11は私立大学です。中国・四国・九州には21の医学部がありますが、17が国立であることとは対照的です。民間病院は赤字が大きくなれば、「倒産」するしかありません。補助金で穴埋めされる国公立病院とは違います。どうすれば、東京で民間病院が生き残っていけるか、本気で考える時期がきています。
ただ、この問題の解決が難しいのは、診療報酬を上げれば、保険財政は破綻してしまうからです。

医療費を抑制しながら、東京の医療を救うには、診療報酬を東京は1点12円、僻地は1点9円のように傾斜配分するのが、一つの解決策ですが、これは政治的に困難です。
医療機関は、基本的に地方ほど、特に医師不足の地方都市ほど儲かります。都心の病院が経営難に喘ぐ中、東北地方や九州の病院は都心に進出しているなど、その証左です。
地方の医療機関の経営者の多くは、地元の名士です。同時に国会議員の有力な支援者です。これは与野党を問いません。有力な後援者の不利益となる政策を主導するはずがありません。
このままでは近い将来、医療財政は破綻するでしょう。ある厚労官僚は、そのタイミングを「5年以内」と言います。
どうすればいいのでしょうか。国民皆保険の体制維持のためにも、健康保険がカバーする範囲を制限すること(免責)を議論すべきです。

厚労省も保険の免責を進めています。ただ、厚労省が主導すれば、真っ先に免責されるのは政治力が弱い中小の民間病院が担っている慢性期医療からです。
製薬企業は資金力があります。彼らが開発した抗がん剤には、数ヶ月延命するくらいしか効果がないのに、年間に数千万円の支払を認めています。一方で「在宅医療推進」という美名のもと、慢性期病院から強制退院させられる患者が後を絶ちません。多くの国民がおかしさに気づき始めています。
今後、私たちがしなければならないのは、どこまでの医療を公的保険でカバーし、どれを外すかです。風邪薬、先進医療、高齢者の慢性期ケアの何れを保険から外すかは、価値観の問題です。官僚、医師会、製薬企業でなく、国民が決めるべきです。

我が国では「有効性が証明された医療行為は、すべて健康保険でカバーされている」という前提に立っていましたが、保険を免責すれば、一部の患者から「有効だけど、優先順位が低い医療行為」を受ける権利を奪います。こうなると、混合診療規制を緩和しなければならなくなります。これは東京の医療を再生するきっかけになる可能性があります。
それは、東京には多くの医療ニーズがあり、付加価値があれば対価を払おうとする「市場」があるからです。ところが、現在の保険制度は、このような多様なニーズに応えることができていません。それは、混合診療が規制され、少しでも保険外の医療を併用すれば、保険がカバーする分まで自費で支払わなければならないからです。

一部の医師は「混合診療を解禁すれば、金持ちしか医療を受けられなくなる」と言いますが、それは何の根拠もない屁理屈です。混合診療規制があるために、保険外の医療サービスを受けることが出来るのは富裕層だけになっています

都内では富裕層を対象とした?完全自費サービス?が急成長しています。
例えば、私が社外取締役を務めるワイズ社(東京都中央区)は、健康・介護保険でリハビリがカバーされない急性期の患者を対象に、自費でのリハビリサービスを提供しています。首都圏を中心に9施設展開しており、利用者は3年間で2,000人を超えました。「パソコンができるようになりたい」、「楽器が演奏できるようになりたい」、「料理ができるようになりたい」といった個々の目標に応じたパーソナルなリハビリを提供しており、多くの利用者の状態が改善しています(自費ですから、状況が改善しないと、すぐに止めてしまいます)。費用は月額約30万円で、応募者は後を絶ちません。
また、当研究所の研究員である坂本諒さん(看護師)は、在宅看護を研究しています。24時間の完全看護を自費で受ける場合、都内では「年間に5000万円以上支払う患者が少なくない」と言います。

都内では高付加価値サービスの「市場」が急成長しているのがわかります。このような新規事業が立ち上がったのは、厚労省がリハビリ実施日数、入院期間などを短縮して、保険から免責した領域です。
興味深いのは、このようなニッチ領域に飛び込んだのが、これまで医療界をリードしてきた大病院でないことです。彼らは、保険医療と自費医療を併用することで、混合診療の規制にひっかかることを怖れています。患者の医療ニーズは変わりつつあるのに、大病院は厚労省の規制のために、旧態依然とした姿のままです。

戦後、厚労省は医療サービスの供給量と価格を統制し、どんな病院も「倒産」しないように守ってきました。ところが、保険財政が破綻目前となり、この「護送船団システム」は継続できません。このままでは体力の弱い東京の総合病院から破綻します。
医療機関は自らの努力で生き残るしかありません。そのためには、患者から評価される高付加価値サービスを提供するしかないと考えています。

ところが、彼らは「混合診療禁止」という規制で手足を縛られています。混合診療規制を緩和すれば、「悪徳医師が患者を騙す」と主張する人もいます。確かに、その可能性は否定出来ません。ただ、私は、そのリスクは低いと考えています。その理由は、メディアの医療報道が増え、患者の医療知識が増えていること、医師が多い東京では、医師間の競争が熾烈で悪徳医師は淘汰されるこ
と、混合診療を対象とした保険商品が開発され、保険者が悪徳医師をチェックするからです。

私は、混合診療規制が緩和されれば、むしろ医療費は下がる可能性が高いと考えています。都心部の医療機関は激しく競争しています。広告やコンサルタントに依頼するなど、様々な手を使って患者を集めようとしています。
ところが、患者集めも厚労省が規制しています。最大の規制は「値下げを認めていない」ことです。皆さんがクリニックを受診した際には、2-3割の自己負担を支払います。不思議なことに、医療機関は、この自己負担を受け取ることが厚労省から義務化されています。患者に経済負担をかけたくない院長がいて、この自己負担だけ受け取らなければ、処分されます。どのような背景で、
このような規制が出来たかは、誰でもお分かりでしょう。そこに患者視点はありません。

もし、混合診療規制が緩和されれば、風邪の診療などで価格破壊をもたらす医療機関も出てくるでしょう。現在、風邪の診察は数分で4000円程度の収入となります。これを2000円でやろうとするクリニック経営者もいるでしょう。
赤字に悩む健保組合は、組合員をこのようなクリニックに誘導するでしょうから、結果として医療費は抑制されます。
このような規制緩和には、日本医師会が猛反対し、厚労省も同調せざるをえないでしょう。記者クラブ制度が続く限り、マスコミからも、このような問題意識はでてこないでしょう。
どうやったら、我が国の医療が持続可能か、そろそろ、本気で考える時期がきています。私は、このような議論をするプラットフォームとして、MRICがお役に立てればと願っています。

本年も宜しくお願い申し上げます。

急性期病床の3割削減のインパクト 

急性期病床の3割削減のインパクトは、医療従事者には明白なのだが、一般市民にとっては病気・医療制度は当面の自分の問題ではなく、他人事なのだろう。

今後、高齢化がピークに達し、病気に罹患する人が急激に増える。そこで、急性期病床を大幅に削減することは、実質的に病床をさらに多く削減することを意味する。

65歳以上の高齢者は、2015年時点で、約3390万人。それが2040年まで増え続け、2040年時点で約3868万人になると予測されている。約14%の増加。高齢者は、急性期、重篤疾患にかかる可能性が、他の年代よりも高いので、この高齢者の人口増加は、急性期病床の必要性をおそらく20から30%程度引き上げる可能性が高い。すると、急性期病床の3割削減は、実質5割削減程度に相当することになる。

急性の重篤疾患でも入院ができない、一旦入院しても手術などの処置が終わればすぐ退院させられる、術後処置のために病院近くに宿をとり、そこから通う、手術等は数週間、週か月待ちになる、といった状況になる。

それに、大量増産した看護師と医師は、給与などの労働条件の悪化に直面する。

そうした状況になって初めて、国民は、この医療制度を破壊する政策の痛みを知ることになる。今の働き盛りの世代が、高齢化した時に、医療の崩壊の現実に直面することになる。

以下、引用~~~

金子勝氏twitter

【看護師大量首切り】選挙直後に、自公政権のいいだした38万床の急性期病床3割削減を亜急性期にして、もし看護師7:1から15:1にすれば、11万4千床減で、看護師は1万6千人から7千人へ。9千人の首切り。人手不足解消のつもりか?