Nivolumabの高薬価問題 

以前、ここでも取り上げた、高薬価のオプジーボ(Nivolumab)の問題を、東洋経済オンライン昨日付の記事でも取り上げられている。こちら。確かに、肺がんにまで適応が広げられ、毎年5万人が使うとすると、この一つの薬だけで、薬剤費は1兆円を超す。この記事の記者は、この高薬価の薬剤による公的保険への負担を減らすために、どのようなケースにこのように高価な薬を用いるのか、ガイドラインを作るべきだ、という主張をしている。要するに、すべての患者に投与するのではなく、投与対象を限定すべきだ、というわけだ。

確かに、それも一理はある。だが、日本の薬剤費の医療費に占める割合がもともと20%と先進国中最高であるという背後の問題がある。かつ、製薬企業は軒並み好決算を計上している。製薬業界にさらに大きなパイを与えようという、政治・行政の意向が働いているのではないだろうか。

オプジーボの高薬価は、本来悪性黒色腫という比較的まれな悪性腫瘍だけを適応症として決められたためだった、と言われている。悪性黒色腫でのみ用いられる希少疾患薬剤オーファンドラッグ扱いだったわけだ。その薬価を、患者数の多い肺がんなどに適応症を拡大する際にそのまま援用したということらしい。これでは、薬剤費が膨れ上がるのも無理はない。こうした薬価設定の仕方に大きな問題がある。

もともとの開発、製薬に関わるコストを厳密に査定し、さらに適応症が拡大した場合は、それによって見込まれる当該薬剤による製薬企業の利益の増加分を考慮して、薬価を決めるべきだ。このプロセスが、製薬企業にだけ有利に働くように行われているようにしか思えない。

高薬価問題 

先日、Nivolumabという抗癌剤の薬価がきわめて高いことを取り上げた。こちら。その後、ネット上の情報から、この高薬価は、同薬が悪性黒色腫という比較的まれな癌に対してつけられたもので、その後適応症が患者数が多い肺癌などに拡大されたために、アンバランスに高価な薬価になってしまった、ということのようだ。このままでは、公的保険は破綻するので、何らかの動きがあるはずだ。おそらく、自己負担の大幅な引き上げになる可能性が高い。

米国でも、高薬価は大きな問題になっている。ジェネリックでも、薬価がどんどん高くなっているようだ。下記の報告。

何度も繰り返すが、医療には経済原則が適用されない。生命にかかわるとなれば、経済合理性を超えて人々は新薬や新しい治療方法に支出する。そこに付け込んで、不当な利益を、製薬会社等が上げることがあってはならない。だが、現実は、政治と行政は、企業側に立つ。そこに国民が批判的な目を向けていないと、やがて金を持たないと満足な治療が受けられぬことになる・・・なりつつある。

以下、引用~~~

米国で深刻化する「薬価」問題(上)ジェネリックが暴騰する仕組み

この原稿はForesightより転載です。
http://www.fsight.jp/articles/-/40871

大西睦子
2016年4月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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通称「ダラプリム」と呼ばれる、62年前に開発された薬剤をご存じでしょうか。これは妊婦が感染すると死産や流産を、あるいは免疫力が低下しているエイズ患者や一部のがん患者などが感染すると重篤な脳症から場合によっては死に至るというトキソプラズマ症や、高熱や頭痛を引き起こす感染症であるマラリアの治療薬として利用されています。

昨年9月、その薬剤に関するニュースが全米の注目を集めました。米製薬会社「チューリング医薬品(Turing Pharmaceuticals)」の32歳のCEO(最高経営責任者)マーチン・シュクレリ氏が同年8月、ダラプリムの製造販売権を買収し、なんと、一晩で薬価を1錠13.50ドル(約1620円)から750ドル(約9万円)へ、実に55倍以上も引き上げたのです。米メディアはシュクレリ氏を「米国で最も嫌われる男」と呼んだほどでした。

ところが、元々がヘッジファンドマネージャーであったシュクレリ氏は、人々の注目を浴びたがる究極のナルシストとも言われ、傲慢な態度でテレビに出演したりソーシャルメディアに情報を発信したことで、皮肉にも、連邦捜査局(FBI)や証券取引委員会(SEC)の調査のターゲットになりました。その結果、昨年末の12月17日、彼が以前所有していた会社が「ポンジ・スキーム」と呼ば
れる投資詐欺を行っていた容疑で逮捕されました。その事件が契機となり、再び米国で薬価高騰の問題に関心が集まっているのです。

【Drug Goes From $13.50 a Tablet to $750, Overnight,The New York Times,Sept.20】

【Reviled drug CEO Martin Shkreli arrested,CNN money,Dec.17】

●製薬会社が自由に薬価を吊り上げ

2003年、米国の連邦法として定められた法律「メディケア処方薬剤改善、近代化法」は、製薬会社に2つの大きな利益をもたらしました。

1つ目は、米国の高齢者および障害者向けの公的医療保険制度であるメディケアによって、アメリカ食品医薬品局(FDA)で承認されたすべての抗がん剤の治療費を公的保険でカバーしなければならなくなったことに起因します。しかも、ほとんどの州の民間保険会社も、メディケアに準拠します。つまり、製薬会社にとっては薬剤の販売チャンスが飛躍的に増大することになりました。

2つ目は、米国では政府が薬価について製薬会社を規制できないことになりました。つまり、製薬会社が自由に薬価を設定できるのです。

この2点によって、製薬会社が、古い薬でも新しい薬でも価格を思うままコントロールできる環境が生み出されました。すなわち、シュクレリ氏がダラプリムの薬価を一挙に55倍以上も上げたことは、不道徳ではあっても、政府が薬価を規制する日本を含む多くの他の国と違い、米国では全く合法なのです。

それだけに、シュクレリ氏の事件後、専門家や識者らは製薬会社への批判を強めました。たとえば、『ニューズウィーク』誌によると、クリントン政権時の労働長官で、現カリフォルニア大学バークレー校公共政策大学院教授のロバート・ライシュ氏は、「シュクレリ氏のやったこと(薬価の大幅値上げ)は、巨大製薬会社がずっとやってきたことだ」と指摘しています。

これに対し、製薬会社やバイオ企業などの業界団体である「米国研究製薬工業協会」(Pharmaceutical Research and Manufacturers of America:PhRMA)は、シュクレリ氏は薬の開発をしているわけではなく、古い薬の製造販売権を買収して薬価を上げただけで、製薬会社ではなく投資家である、と反論しています。

しかし、米国の製薬会社は、シュクレリ氏のように薬価を一気に55倍は上げていなくても、がんや高コレステロール血症、糖尿病などの薬価を毎年10%以上も上げています。そうした実態があるからこそ、ライシュ教授の指摘に多くの人が共感するのです。

【Shkreli Was Caught Doing What Big Pharma Does All The Time,Newsweek,Dec.24】

1年で80倍以上暴騰!

一方、日本でも近年普及してきたジェネリック医薬品とは、特許が切れた新薬を他の製薬会社でも製造販売できるようになった薬剤のことです。新薬と同じ有効成分、同じ効き目でありながら、複数の製薬会社が競って販売できるため、低価格になるのが魅力です。米国のジェネリック製薬協会によると、現在米国内で処方されている薬剤の86%がジェネリック医薬品ですが、購入された総
額から見ると、薬剤全体の27%にしかなりません。これはつまり、新薬の価格がいかに高額かを示しているデータです。

ところが、低価格であるはずのジェネリック医薬品についても、米国では近年、価格の上昇が問題になっています。2014年10月、米国上院議会の健康に関する小委員会メンバーが、一般的な10種類のジェネリック医薬品を調査したところ、1年間で最低でも388%、最高で8281%も価格が上昇していることが明らかになったのです。

こうした実態に対し、ハーバード大学医学部のアロン・ケッソルハイム教授らは、ジェネリック医薬品を販売する競争相手がいないため、市場を独占して薬価が上げられていると批判する論文を医学雑誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』(The New England Journal of Medicine:NEJM)に発表しています。

本来ならば複数社が競合することで低価格になるはずなのに、なぜ競争相手がいないのでしょうか? 

仕組みはこうです。たとえば、A社が開発したB薬の特許が切れて、他の3社がジェネリック医薬品を製造販売し始めたとします。するとA社は3つの会社のジェネリックの製造権を買収し、ジェネリックの販売を止めることで競合をなくし、B薬の価格が下がることを防ぐのです。あるいは、買収したジェネリックの価格そのものを上げることもできます。もちろん、市場の独占は米国でも違
法ですが、他の会社が販売しようとしない薬(上記のケースで言えば、買収された3社以外の会社が参入しないこと)を単独で販売することは、残念ながら違法ではないのです。(つづく)

【http://www.gphaonline.org/media/cms/GPhA_Comments_on_Docket_FDA-2013-N-0500.pdf】

【http://www.sanders.senate.gov/download/face-sheet-on-generic-drug-price-increases?inline=file】

【High-Cost Generic Drugs-Implications for Patients and Policymakers,NEJM,Nov.13,2014】

大西睦子(おおにし・むつこ)
内科医師、米国ボストン在住、医学博士。1970年、愛知県生まれ。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月からボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月から2013年12月末まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度受賞。現在、星槎グループ医療・教育未来創生研究所ボストン支部の研究員として、日米共同研究を進めている。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。『「カロリーゼロ」はかえって太る!』(講談社+α新書)。『健康でいたければ「それ」は食べるな』(朝日新聞出版)などがある。

超高価な新薬と、TPP 

米国では、カーター元大統領が転移を生じた悪性黒色腫から生還したと大きなニュースになっている。肝臓と、脳に四か所腫瘍が見つかったが、治療により、スキャン上腫瘍が消失したということらしい。あの尊敬すべき元大統領が、90歳を過ぎて、悪性黒色腫という、ちょっと前まで絶対予後不良であった癌から生還したというのであるから、こころから喜びたいと思う。

どのような治療を行ったのか関心があったので、ネットで調べた。予想通り、抗PD1抗体を製剤化した薬を用いたらしい。PD1は、リンパ系細胞に表現されており、それがあると腫瘍免疫が阻害される・・・したがって、PD1を阻害すれば、腫瘍免疫が活性化されるとして、さまざまな悪性腫瘍に使われ始めているらしい。我が国でも、悪性黒色腫の保険適応はすでにあり、近々、非小細胞性肺がんにも適用が拡大される、ということだ。

だが、問題はその値段である。米国の商品名Keytrudaという、この薬剤の米国におけるコストは、年に15万ドル、約1800万円という。我が国では、ネット上の情報では、月額500万円ということだ。この薬剤が、悪性黒色腫のみならず、非小細胞性肺がんにまで保険適応が拡大されると、保険財政は完璧に破たんする。今のところ、この製剤の薬価を飛躍的に下げるという話題は聞こえてこない。下げたとしても、対象患者数の多さから言って、保険が財政的に成り立つとは思えない。

実は、これ以外にも、薬剤がどんどん高騰している、というか、新しい薬剤がきわめて高価なのだ。C型肝炎をインターフェロン以外で治療する新たな薬剤は、月額200から300万円と聞く。べらぼうな価格である。

で、政府は、これらの超高薬価の薬剤を一体どうする積りなのか。確たる情報はないが、健康保険での取り扱いを止める、したがって、自費扱いにするしか方法はないのではあるまいか。いや、それしかないと断言できる。

TPP交渉の中身が、我々に理解しやすい形で表に出てこないが、最近号の「世界」に、元衆議院議員の首藤信彦氏が、寄稿している論文によると、次のような筋書きができているらしい。

実質的なTPP交渉は、二国間交渉の積み重ねになっている。それら11件の対米国、二国間協定に、「保険等の非関税処置に関する並行交渉」という章がある。その内容は、以下の分野の非関税障壁について取り組むこととなっている。対象分野は、保険、透明性、投資、知的財産権、規格・基準、政府調達、競争戦力、急送便および植物検疫である。これらは、1980年代以降、日米構造改革協議、年次改革要望書によって米国が、我が国に繰り返し要求してきた事項である。米国企業が、我が国で全面展開する際の制度障壁をすべて取り除くようにという要求だ。それを、この二国間交渉によって一括して我が国政府は吞んだということだ。

透明性を確保するということから、中医協による診療報酬の決定プロセスに、製薬企業を入れることを、米国側は確実に要求してくる。そこで、医療保険が参入障壁になっていると、彼らは指摘し、少なくとも米国と同じように、薬剤に関してはすべて自費にすることを要求するはずである。それを見越して、政府は、最初に上げた高額な新薬の価格をそのままにしているのではないだろうか。その方が、製薬企業、医療保険民間企業の儲けが大きくなるからだ。

米国でTPPを推進する企業の急先鋒は、製薬企業であるらしい。すでにロビー活動で100億円を政治家に配ったという情報もある。

TPPは反対、農産物関税維持といっていた我が国の政府は、いつの間にかなし崩し的に、農産物関税についても大幅な譲歩を行った。米国がTPPによって得たいと考えている主要な領域は、医療保険分野である。国民皆保険は崩さないと政府は言っているが、すでに皆保険制度は風前の灯となっている。これからは、米国の保険資本による高額の民間保険に加入せざるを得なくなる。

メガファーマの闇 

4月3日、スイスにあるノバルティスファーマの本社社長は、「日本の社員は、患者との関係よりも、医師を優先する傾向がある。欧米とは異なる。変革が必要だ」と語ったらしい。高血圧治療薬の治験データを改ざんして宣伝に用いていた問題についての発言である。

彼の発言の主旨は、日本支社固有の問題であること、日本の医療現場では医師が優先されていることの二点である。この発言の背後には、今回の問題は、日本の社会および医療制度固有の問題であって、ノバルティス社の問題ではない、ということだろう。

はたして、そうだろうか。

日本の医師が優先されているという言い方には、苦笑させられたが、医師全体をノバルティス社は敵に回したも同然である。同社の高血圧治療薬治験の問題を指摘したのは、そのほかならぬ日本の医師であったのだ。

ノバルティス社は、現時点でも、米国で医師への収賄が問題にされている、また、GSK社等と一緒に、中国でも、賄賂を送ったことが問題になっている。少なくとも、日本固有の問題と切り捨てることはできない。むしろ、グローバル企業としてのノバルティス社の企業倫理の問題と言えるのではないだろうか。

ノバルティス社は、1996年、ともにスイスの製薬企業の老舗であったチバガイギー社と、サンド社が合併してできた。医療用医薬品では2012年度には製薬企業として世界で最高の利益を上げたらしい。名実ともに、世界有数のグローバル企業である。

規模を拡大し、グローバル化をする企業の常として、内部留保を最大化し、企業買収によって、さらに規模拡大を目指す、いわば自動運動を始めることが多い。地道な研究活動をするよりも、その方が、利益を大きくする可能性が高いのだろう。そのような企業活動を続けていると、利益を最大化するためには、汚れた方法を取ることも厭わない、という会社の体質が生まれるのではないだろうか。

恐らく、ノバルティス社は、そんな指摘を受け入れるはずはないだろう。しかし、同じような問題を世界各地で起こしているのは事実。今回の問題を、日本固有の問題と片付けて恥じないノバルティス社トップの言動は、むしろこの体質こそが、ノバルティス社の一番の問題であることを示唆しているように思える。