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マグネットホスピタル 

今夕のクローズアップ現代で、地域医療の危機について議論されていた。

この番組によると、新臨床研修制度により、新人医師が自由に研修先を決められるようになり、魅力のない(とは明言していなかったが)地方の大学病院に残る医師が少なくなった。地方に医師を派遣していた医局に代わる医師派遣機構として、500床程度の基幹病院(マグネットホスピタルと呼んでいる)を各地に作り、そこで研修医を受け入れ、そこから僻地への医師派遣も行なう。500床規模の医療機関がなければ、200から300床規模の医療機関を、まとめてマグネットホスピタルとする。僻地へ派遣された医師は、マグネットホスピタルに戻ることを可能にし、僻地派遣への医師の抵抗感を減らす、というものだ。これは、厚生労働省のプランに沿ったものなのだろう。コメンテーターの東北大学教授は、これを実現するためにも医師の大幅増員が必要だと述べていた。

この番組は、厚生労働省のプランの宣伝番組のような趣で、地域医療の現場の状況をどれだけ取材したのかと、まずは疑問に思った。地域医療での医師不足を強調していたが、何故医師が不足したのかの徹底した取材・検討がなされていない。地域医療を担っていた医師達が良いように酷使され、
訴訟になれば、裁判の矢面に立たされるという現実に気付き、そうした現場から静かに立ち去っている、ということが、NHKの番組制作者はまだ分かっていないのだろうか。

中堅医師が、地域医療現場から立ち去っているのだが、それへの対処はせずに、新人を補給すれば良いだろうという発想が、この厚生労働省のプランだ。前線の兵士が疲弊し倒れても、どんどん新兵を送り込み、戦闘に従事させようという、昔の軍部の発想にも通じる。足りなければ、医師を増員すればよいというのは、この安易な政策によるのだけではなく、医師の労働市場を買い手市場にしようという、官僚の思惑も見えてくる。

上記の厚生労働省プランは、現実論から言っても机上の空論である。各地に研修医をひきつける500床以上の公的な医療機関があるだろうか。公的医療機関は、どこでも経営難で青息吐息の状態だ。特に、200から300床に医療機関の経営は厳しい。こうした医療機関は、医師がいないので規模縮小をし、それが更なる経営難をもたらすという負の連鎖に陥っている。稀に経営が何とか上手く行っているところでも、DPCの導入などにより、医師への負担は、さらに増えている。

さらに、勤務医の負担軽減策として、診療所への診療報酬を減らす動きが、官僚サイドでは活発だ。これは、勤務医の開業への逃げ道を閉ざし、さらに医療費削減にもなると踏んでいるのだろう。診療所の医師の平均年齢は60歳近く。診療所の医師にかなりの数は、こうした診療所を潰す政策によって引退をせざるをえなくなる、ないし引退を早めることになることだろう。地域医療のかなりの割合を担ってきた、診療所によるプライマリーケアの崩壊だ。これは、後々ボディブローのように、病院による医療を痛めつけることになることだろう。

勤務医に対して開業への道を閉ざしておいて、マグネットホスピタルで余剰となるかもしれない、研修終了後の医師をどうするのだろうか。500床規模の医療機関であっても、抱えられる医師数はせいぜい数十名だ。医療機関の管理職になるのは、その内のごく少数。残りの勤務医を一生涯雇い続けるキャパはない。さらに、そうした将来の先行きのない職場に医師が集まるかどうか、また将来マグネットホスピタルに戻すという約束(否、嘘八百を)を医師に信じさせることができるのだろうか。

そもそも、マグネットホスピタルという呼称は、米国のANCCという看護団体が看護ケアに優れた医療機関に付与するものであり、医師をひきつけるというよりも、看護師と患者にとってより良い医療機関という位置づけのようだ。マグネットホスピタルについての記述を参照。わが国は、看護師不足もあるが、喫緊の問題は、医師が地域医療から立ち去っていることだ。医師を引き付ける医療機関とするためには、丁度ANCCが看護師の専門性・職能の独立専門化という方向性を打ち出しているように、医師の立場と待遇を守り、強化することから始めるべきなのではないか。ただ単に養成医師数を増やせばよいという政策は、明らかに誤りだ。横文字の名称だけを、その意味するところから離れて、官僚にとって都合よく用いるのは笑止千万だ。

官僚よ、医療崩壊を生じさせ、促進しているのは貴方だ。将来、その責任をとるべきは、諸君だ。

コメント

実はこの時のクローズアップ現代の取材を受け、またNHKの記者さん達とも相当話し込んだ者です。

管理人様とは居住地も違うので一概には言えないのですが、本県の医師不足の原因は、明らかに新人医師の供給不足です。本県は関東のように、訴訟が頻発していく中で、病院勤務医が退職して開業医になっていく、という構図ではないように思います。本県では訴訟数はそれほど多くないように思います(ないわけではありませんが)。

これまで本県は大学病院が医師派遣元として十二分に機能してきたものが新臨床研修制度によって研修医が大学を離れ、しかもその多くが本県を後にする、という構図の中で地方の医師不足は顕在化してきております。

以前より45歳前後で勤務医は開業を考えることは多く、本県でも開業医指向はあります。以前は勤務医が開業しても、それをわずかに凌駕する新人医師の供給があったため問題にならなかったのだと理解しています。

関東地方における、或いは日本の平均的な地域における医師不足の主たる原因は存じ上げないのですが、本県にあっては新人医師の供給不足、これに尽きます。訴訟を嫌って開業医になっていく、というわけではないようです。開業医でも裁判で訴えられていますし、逃げ場はないって雰囲気でもあります。

ここはきっと管理人様と同じ意見になるのですが、開業医の待遇を悪くすることでなく、勤務医の待遇を今よりもましにすることで開業医へ向かう医師を少しでも病院に止めて欲しい、と切に願います。毎年、誰それが開業するという話を耳にするたびに、その医療機関に残される同僚の事を思うと悲しくなります。

医師養成数を増やして解決できる問題ではない、というのはその通りなのですが、付け加えさせていただくならば、医師養成数を増やさずに解決できる問題でもない、と思います。

医師数を増やすことは必要だと私も思います。ただ、医療費を増やすことも同時に行わないと、問題は解決しないばかりか、勤務医諸氏の待遇改善には繋がらないと思います。

別なコメントにも記しましたが、一緒に休日診療を昨日担当した開業医の方は、これだけ開業医への風当たりが強くなってきているので、近々リタイアしたいという希望を述べておられました。私も、同感でした。比較的コストをかけずに、プライマリーケアを担当していた診療所が姿を消してゆくと、病院への負担は尋常ではなくなることでしょう。その前に、混合診療が推し進められ、一般国民が医療へのアクセスを強く制限されることでしょうが・・・それでも、救急は、勤務医・国民双方にとって悲惨なことになるでしょうね。

政府・官僚は、医師を増産して、買い手市場にもってゆこうと考えているように思えます。そのような状況で地域医療がどのように変わるのでしょうか。少なくとも、良い方向に行くようには到底思えません。

大学病院の現状は、良く分かりませんが、研修医を雑用係として酷使することはなくなってきたようですね。すると、研修医のすぐ上の世代の医師達への負担が増えているということはないのでしょうか。大学病院の魅力を打ち出すことが必要ではないでしょうか。

パンドラの箱を開けてしまったのですから、研修先同士の競い合いもなかなか厳しいものがあるように思います。ドイツや、英国では、若い医師の待遇が悪いので、国外への流出が恒常的に起きています。これからの問題意識のある若い医師達は、外国に行くことも視野に入れて、勉学・研修するようになるのではないでしょうか。

安易に「マグネットホスピタル」という呼称を用いる官僚に対する批判が、上記エントリーの主旨でした。

医師数を増やすということは、状況を改善する必要条件の一つ、それも即効性と有効性に疑問がつく条件の一つに過ぎないと思います。

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