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「コロナ後の世界」大野和基編、文藝春秋刊 

「コロナ後の世界」大野和基編、文藝春秋刊、を読んだ。

欧米の著名な知識人六名に、編訳者の大野氏がインタビューした内容である。先月20日に初版が出たばかり。手にした後考えると、この時期に「コロナ後の」というタイトルをつけるのは、やや早いのではないかとも思った。少なくとも、この本のためにインタビューを行っている時点では、いや今でさえ、コロナ禍は現在進行形だったからだ。大野氏の後書きを読むと、当初、この本は六人の方々に、21世紀半ばに向かうにあたり、世界と日本への提言を問うために企画した、とあった。そこにコロナ禍が進行し、インタビューをし直す、または追加するということで、この本が出来上がった由。そのために各インタビューの内容は、総説的なものに留まっている。掘り下げがやや足りない内容になっていることは否めない。

六名の方の内、私が少なくとも知っていたのは、経済学者ポール クルーグマンと心理学者スティ―ブン ピンカーの二人だけ。全般に、現状を俯瞰したうえで、比較的楽観的な見方が全員の見解に共通していたのが印象的だった。日本の現状が厳しいことは皆が認めるところだが、少子高齢化で経済が退縮している現状でも、より良い方向に向かうことができるという点では一致している。その見方は、日本人向けのインタビューであり、外交辞令が入っていることを差し引く必要はあるが、悲観論に陥るばかりになるべきでないことを示唆している。ここでは、最後に取り上げられている二人、スコット ギャロウェイについて、少し取り上げてみたい。

ギャロウェイは、ニューヨーク大学の教授。自身アントレプレナーの経験もあるらしい。IT業界の四強、GAFAを、ヨハネ黙示録の四騎士に擬えた(ということは、どちらかというと批判的、否定的に捉えた)「The Four GAFA」という著作を記し、ベストセラーとした方らしい。ハイテク産業、そしてGAFAについて、私には未知のことが多く、面白く読めた。SNSやブログにどっぷりつかっている自分を少し反省させられた。

彼の論考の抄録・・・と言っても、大分長くなってしまった・・・。

GAFAを含むビッグテック企業は、このパンデミックによって、ますます強固になっている。彼ら以外の企業が、ロックダウンによって守勢に回らざるを得ない一方で、ビッグテック企業は、豊富な資金力で攻勢に出られるからだ。facebookは、多企業に出資し、また買収もしている。同社、アップル、アマゾンは、5,6、4月に株価の最高値を更新している。米国の緊急経済対策は、3兆ドル規模だが、その恩恵にもとも与るのは、アマゾンとウォルマートだ。米国政府が、彼らと競合する企業の98%に、感染拡大阻止のためとして閉鎖を命じたからだ。

この20年ほどで、GAFAは人々の生活にとってなくてはならないユーティリティ、公共サービスのようになった。GAFAは、人の脳・こころに直接働きかける。これは成功するビジネスの共通点だ。さらに、他社との差別化、世界展開、AIによるデータ活用等により、世界の覇権を握った。

さらに、GAFAは、他の企業がそのビジネスにアクセスできないように独占状態を作っている。米国では、動画配信に際して、アマゾンやアップルに一定額の手数料を動画配信会社は支払っている。顧客の数が増えるほど、事業価値が高まるネットワーク効果を梃にして、GAFAは独占状態を作り出した。その結果、新しい企業が市場に参入し難くなっている。すなわち、イノヴェーションが起きにくくなっている。GAFAに独占禁止法を適用すべきか検討する必要がある。

GAFAは、社会の分断をももたらした。広告収入を増やすために、facebook、グーグルのアルゴリズムは、読者がクリックを多くする、即ち「つながる」ことを求める。それをもたらす一番の要素は「怒り」。そのような投稿を目立つようにする。それが、フェークニュースを生み出す。このアルゴリズムは、視聴者に対して、自分の意見に合う記事を進めるだけでなく、反対派の印象を悪くする記事も影響する。それがフェークニュースであろうが、なかろうが構わない。その結果、社会の分断が進行する。

facebookは、自分たちは真実の判定者ではない、メディアではないと自己弁護している。ただ、facebookを始めとするビッグテック企業は、今回のパンデミックについてはフェークニュースが拡散しないように配慮しているようだ。唯一の例外がツイッター。facebookのような企業に、フェークニュースを流さないようにさせる努力を政治を通して行うべきだ。

国家がGAFAの規制に向かう可能性はある、GAFAが選挙の公平性を損なっている、社会が分断されている、経済的利益の大部分が国外に持ち出されているからである。EUでは、GAFAが巨大な個人データを収集していることに対する反発があり、EU域内での個人データを保護する法律GDPRが2018年に施行された。米国でも、グーグルが閲覧履歴等を追跡収集していることに対して、連邦盗聴法を根拠に訴訟が提起されている。ケンブリッジ・アナリティカ社が、facebookで得た政治に関する個人情報を2016年の米国大統領選でトランプ陣営のために利用し、批判され、その結果GDPR法と同様の法律が制定された。

2020年代に生き残るのは、どこか。GAFAのなかでアップル以外は、年20%強の成長率を維持している。だが、成長を続けるためには、互いのビジネス領域を食い合うことになる。グーグル、facebook(インスタグラム)は、アマゾンの領域であるショッピングに進出している。facebookは、商品検索の領域で、グーグル、アマゾンを侵食している。新たな成長戦略として、facebookは仮想通貨リブラを計画し、アマゾンは輸送業に参入しようとしている。著者には、GAFAのなかで生き残るのは、アマゾンだと考える。クラウドビジネス分野で、AWSアマゾンウェブサービスの存在感が増している。現在世界でシェアトップ32%。新型コロナによって在宅勤務が増えており、クラウドを通してデータをやり取りする。それがAWSに多大な利益をもたらしている。

この5年間で最もイノべーティブなハードウエア商品は、アマゾンエコーだろう。その分野で7割のシェアを占めている。GAFAの事業分野は互いに重複しているが、アマゾンと重なる場合は、たいていアマゾンが勝っている。

このパンデミックによる「都合の悪い事実」は、格差の拡大だ。どの業種でもトップ2,3の企業が回復し、残りは「間引き」されることになる。株式市場は今後も好況が続く。それは実体経済を反映せず、富裕層トップ10%の経済的繁栄を反映するからだ。政府は、スモールビジネスを助けるための政策を打ち出した。従業員給与、賃料等に充てるために一事業者あたり1000万ドルのろローン(一部返済免除あり)を提供するもの。これは富裕層を助けるものに他ならない。スモールビジネスのオーナーは、アメリカのもっとも裕福な層であるからだ。

NEXT GAFAと目される企業は、中国のBATである。BATは中国・東南アジアで成長しており、アフリカ・インドでGAFAと競合することになる。中国は、外国企業を迎い入れ、その知的財産権を奪ってから追い出し、真似をして起業した国内企業に利益を得させるという手法を取ってきた。また、中国では個人データを国が収集している。これらの点は、自由・プライバシーを重んじる西側諸国と相いれない。

次にイノベーションの起きる領域は、ヘルスケアの分野だろう。

私たちの生活のほとんどすべてを、GAFAに負っている現状を反省すべきだ。GAFAを我々が偶像崇拝し、 GAFAが豊富な資金力で政府をも動かす事態は、危険なものだ。GAFAの目的は、社会的な使命の追求ではなく、つまるところ金儲けだからだ。スティーブジョブスを始め、多くのテック企業幹部は、自分の子供たちにデジタルデバイスを使わせなかった。そうしたテクノロジーのもたらす害を知っていたからだ。GAFAの負の側面から目を背けるべきではない。

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ポール クルーグマンの論考も興味深かった。彼がリフレ派の経済学者であることは多少知っていたが、アベノミクスを徹底させることをこれほど強く主張しているとは知らなかった。消費税増税が失敗であったとも述べている。ただ、日本はプロダクトエコノミーを築き上げてきた、即ち良品を生産する経済体制を築いてきたから、やがて復活するだろうと楽観的な見通しを述べている。彼には、安倍政権が破壊した三権分立、とくに行政の劣化、さらに1000兆円をこす政府の負債、それをまわすために毎年100数十兆円の国債の借り換えをおこなっていることについてどう考えるのか尋ねてみたいものだ、と読みながら感じた。長期利率が1%上がれば、国の財政負担が10数兆円増えるのだ。また、追記として、あのBLM問題に触れ、米国の奴隷制度の歴史を「原罪」とまで言い切り、この問題を米国が乗り越えられるのか確信が持てないと述べているのが印象的だった。

映画を見ることは普段はないのだが、たまたま家人がDVDで借りてきた「グリーンブック」という映画を見た。天才的な黒人ジャズピアニストと、貧困層上がりの白人マネージャーが、車での演奏旅行を続けるうちに、互いに理解し合うようになるという、一種のロードムービー。1960年代にあった実話をもとにした話。様々な映画賞に輝いた作品だ。最後に、マネージャーの自宅にピアニストが招かれ、あたたかく迎えられるというハッピーエンドである。クルーグマンが、原罪とまで言い切った人種問題、というか白人による黒人差別問題の深淵を想うと、このエンディングは、米国人には我々が感じる以上の感慨をもたらすものなのだろう。

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