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権利と義務 

今夜、Bob K6RRと交信して、とても驚かされたことがあった。Bobとは、恐らく1960年代から、記録上は80年代から交信を重ねてきた。90年代から数年前までは、ほとんど彼の信号を聞くことはなかった。が、最近、夕方から夜にかけて、しばしばお目にかkるようになった。いつも、夜遅くまで仕事をしていた、または早朝から仕事だと仰っていたので、何をなさっているのかと思っていたが、数日前、ひょんなことから、彼も医師であることが分かったのだった。

今夜の交信では、まず尋ねようと思っていた、彼の仕事について伺った。10年前まで、自分の診療所を経営していたらしいが、その後は、パートタイムの仕事、主に救急の仕事らしいが、を続けているようだ。彼もすでに79歳。もう引退なさっていて良い年齢なのだが、何故、このように高齢になっても仕事を続けているのだろうかと不思議に思った。実際のところ、とても長時間仕事をされているようなのだ。

彼が仕事を続けねばならない理由は、2年前に51歳の若さで亡くなった奥様が受けた医療に対する借金にあるようだった。彼女は、亡くなる2年前に、カルシノイドに冒され、インターフェロン療法や、度重なる手術で、総額「20億円」の医療費がかかったとのことだった。最後には、肝膿瘍を生じ、不幸にも、その若さで逝去されたとのこと。キューバ出身のとても美しい方だったようだ。

彼の一族は、長寿の家系で、90歳代まで仕事を続けた人間もいるから、と要って、笑っておられたが、79歳で救急の仕事をするのは、尋常なことではない。奥様は、医療保険に入っていたが、十分な保障を得られなかったらしい。

なんと数奇な運命なのだろう・・・と思ったが、このように莫大な医療費がかかることは珍しいことではない、彼女のために出来るだけのことをしたとむしろ自らの人生をあるがままに受け入れておられる様子だ。

今日も、これから14時間連続の仕事だと言い残して、私との交信を終えた。その直後に、Jim W6YAが、私と彼を同時に呼んできた。が、Bobは既にリグの前から居なくなった様子で応答がない。私がJimに応答する。Jimは、現役の歯科医である。Jimは、Bobと50年来の付き合いとのことだった。Bobがロマリンダ大学の医学部に在籍していた頃に、無線で知り合ったらしい。医療を受けるのに「20億円」かかることが実際普通にあることなのかと、Jimに尋ねた。彼も、Bobがそのように語るのを聞いた、実際、様々な高度医療でそれだけのお金が必要になることもあるのだろうとのことだった。週末にBobに会うから、よく尋ねてみると仰っていた。

米国の医療が最先端を行くとして、誉めそやす人々が、わが国にも少なくない。しかし、米国での医療費は、十分な保険に入ることの出来る富裕層以外では、Bobが経験したようなことになるのだろう。個人の自己破産の二番目の理由が、医療費であることがよく分かる事例なのだろうと思った。そうした経験をされている方が、これほど身近にいることが、大きな驚きだった。

話は少し飛ぶが、今日ネットサーフィンをしていて、「医療過誤原告の会」という組織のウェブサイトを見つけた。様々な医療事故に対して民事訴訟を起している方々と弁護士達の集まりらしい。彼等の主張には、医療事故の真相究明・再発防止といったことも挙げられているが、とりわけ関心を惹いたことがあった。彼等には安全な医療を受ける権利がある、病気ではなく、診療行為によって生命を失ったり、障害を負った場合は、それに対する補償を受ける権利がある、ということだ。これは凄まじい主張に思えた。医療の不確実性、生命の有限性という根本的な現実を受け入れず、安全な医療によって良い結果を期待することが当然のこととする主張だ。この肥大した(と私には思える)権利意識が実現するのと同時に、米国での医療の高コストを受け入れることが要求されることを、彼等は知っているのだろうか。これまでと同様に、極めて低廉なコストで、かなり優れた医療を、格差なしに受けることができる医療制度は、崩壊しつつあることを知っているのだろうか。

本当にこれで良いのだろうか・・・。

コメント

20億とは想像を絶する高額ですね。生命保険でも払えないんじゃ死んでも死にきれないです。日本もそんな世の中になっていくのでしょうか・・

その方向に確実に向かっています。

医療技術の進歩が、医療のコストを押し上げているという側面もあるのですが、決してそれだけではなくて、医療を草刈場にしたいと目論む財界と、医療への公的支出を極限までしぼりたい政官の思惑が一致して、患者サイドへの医療コストの負担はこれから大きく増大して行きます(これまで低すぎたということも言えますが、これからは大病をしたら、破産するというケースが増えるでしょう)。

医療サイドでも、現在の絞り上げられた状態よりはマシということで、米国医療と同じようなシステムも致し方ない、ないし積極的に望むという声が強くなりつつあります。

Bobの場合は、語ることのできぬ事情がもしかしたらあるのかもしれませんが、79歳の医師が一日10時間以上仕事をしているのは驚きでした。

集中治療室ですと1泊10万円程度かかるのはどの国でも同じですが、日本は国民皆保険ですのであまり意識してません。赤ん坊の保育器でもそんなもん手す。 日本は保険によるカバーという点ではかなりめぐまれている国ということになります。岩波新書「貧困大国アメリカ」が参考になるかと思います。
 江戸時代の朝鮮ニンジンのために娘をうるという状況がアメリカにはまだ存在することになりますねえ。

 破産のおおさかですが、アメリカは移民の国ですので過去に貧困時代があったことは寛容ですから破産についても寛容だといえるのかもしれません。400年さかのぼったら原住民以外は貧困層ということになるのですし。(日本は60年さかのぼればくうやくわずですが)

日本で、保険制度が整備されたのは、1960年代ですよね。それが、50年も持たずに、崩壊しようとしている、ということなのですね。

米国の医療システムだけは、倣うべきものではないように思います。それだけで、問題が解決するなどとはとてもいえませんけれど・・・。

中央公論 2008年9月に医療制度についての特集があります。目次をアップロードしておきます。
中央公論 9月号
平成二十年九月一日発行
第百二十三年 第九号 一四九三号 
雑 誌:06101-09
 
目 次
【特集●】
 日本の医療は沈没する
  近年、危機を指摘されながらも悪化の一途を辿る医療。
  さらなる破滅のシナリ オが明らかになった――
〈医療崩壊に対応できない政治家、官僚たち〉
  あまりにも現場を知らなすぎる!
  「最も困るのは患者さんです」(鎌田)………対談 鎌田 實/久坂部羊
 〈“たらいまわし”、全国ワースト1!〉
  首都東京で続出する救急難民………福島安紀
 〈医療問題に対応できる新医師組織を〉
  公益法人制度改革がもたらす日本医師会の終焉………小松秀樹
  医療費削減の迷走はまだ止まらない………村上正泰
 〈病院ランキングでは分からない〉
  情報を隠し続ける厚労省の罪………川渕孝一
 “観客型民主主義”が医療を破壊する
  「なんでも役所のせいにするな!」………舛添要一
【ナショナリズムの近代に学ぶ】
 満州国と戦後日本の光と影
  ―――その連続性と断絶を問う
     「満州への関心は高度成長への関心です」(佐野)………対談 佐野眞一/山室信一
 中国とインドは「近代の超克」の轍を踏むか ………対談 松本健一/中島岳志
  戦後の「戦死者」をどう弔うか
   ―――新追悼施設建設に向かうドイツ………三好範英
 李明博弱体政権を振り回す、竹島、金剛山、狂牛病………池東 旭
 世界狂乱経済の行方とその後の三つのシナリオ………田中直毅
〈民主党副代表インタビュー〉
 政権交代がすべてに優先する
  「勝つためには手段を選ばずという考え方もあります」………岡田克也/聞き手 橋本五郎
〈大分県教員採用汚職事件の裏側〉
  教育委員会を腐敗させたのは誰か………寺脇 研
〈全国調査から見える現実と可能性〉
 閉塞社会に希望はあるのか………玄田有史
【時評2008】  
 日韓は近代国家制度の運用力を磨け………中西   
 無差別殺傷事件の裏側に見えるもの………佐野眞一  
 真夏に考える原子力エネルギーの未来………竹内 薫
【特集●連続企画 知的生活への誘い】
 この夏読みたい文庫100冊
  何でもありの玉手箱を開けよう
   ―――女優・漫画カバー、新訳、古本、夏のフェア………対談 岡崎武志/永江 朗
  旅先で読むミステリー………北上次郎
  眠気も吹き飛ぶ時代小説………縄田一男  
  銀河を眺めつつ読むSF………松本零士
  青春小説はロイヤルゼリー………池内 紀  
  エロは時を超えて………切通理作  
  近現代の日本へ時間旅行………井上寿一
  追体験したくなる旅の本………嵐山光三郎
  ノンフィクションの冒険………武田 徹
〈プロ野球コミッショナー回想録・上〉球界再編の嵐の中で………根来泰周
 会議の日本史 ―――古代から中世まで………美川 圭
〈新連載小説〉
 人質の朗読会 
  ―――夜のラジオから流れる“偶然残された”物語………小川洋子
〈連載小説〉 夢のなかへ(17)………町田 康
〈連載小説〉 教室の亡霊(6)………内田康夫
著者に聞く『錦』
 「二十代の頃から龍村平蔵を書きたいと思っていました」………宮尾登美子
【グラビア】
 新・時代を創った顔………孫正義
  撮影・文・井上和博
 stage: 文・大笹吉雄
 film:  文・岡田秀則
 art:   文・住友文彦
 私の仕事場 ―――四方田犬彦
 燃えあがるタイの仏塔………撮影・文・太田 亨
 セカンドライフ羅針盤(6)  
 真の若々しさを保つ秘訣
【連載/コラム】
 大統領になりそこなった男たち………内藤陽介
 人物交差点………楊逸/今田竜二
 臨床政治学………伊藤惇夫
 知的な者ほどよく笑う………早坂 隆
 さすらいの佛教語………玄侑宗久
 新聞の論点………長山靖生
 足の向くままいちにち散歩………池内 紀
 高座舌鼓………林家正蔵
 ブックレビュー
  山形浩生/北田暁大/小池昌代/五味文彦/小倉千加子/田中秀征
 古典再読………半藤一利
 ベストセラー温故知新………岡崎武志
 遺書、拝読………長薗安浩
 恋愛書簡術………中条省平
 説 苑
 外交最前線
 特別企画 日本の医科大学
  大阪医科大学
 最前線ウォッチング

madiさん

情報をありがとうございます。タイトルは、結構刺激的ですね・・・買ってみようかな。論者のなかに、臨床の最先端で働いている方がいないように思えることと、マスコミの問題を誰が論じているのかが気になります。

最近、日本という国が崩壊しつつあるという思いが強くなってきました。医療崩壊は、その一側面ではないか、と。

西濃運輸の組合健保が解散し、政府管掌健保に移るというニュースが流れていました。政府が、民間に高齢者医療の医療費をさらに負担させようとしたが、それを民間はきっぱり拒絶した、ということで、これが進めば、政府・官僚の思惑は、完全に外れて、経済的に医療崩壊がさらに進行しますね。

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