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日本救急医学会、医療事故調大綱案に反対表明 

日本救急医学会が、厚生労働省の医療安全調大綱案に対して反対している、ないし疑問を呈している。

比較的穏やかに、歩み寄りを求める文面にも読めるが、両者の溝は深い。

法は、何事かをしてはならぬという規則を示し、事件が起きた後で、その規則を適用し、処罰するという機能を持つ。言ってみれば、後方視的な発想だ。その背後には国家権力が存在する。一方、医療は病気というすべてが見通せるわけではない人の病理現象に向き合い、限られた手段・知見に基づいて、ベストと思われる治療を行う。いわば、前方視的な作業だ。医療のよって立つシステムは、現に限られた人的資源による医療制度という脆弱なシステムだ。

両者が果たして相容れるのか。どこかで歩み寄れるのだろうか。私は、どうもそうは思えない。業務上過失致死・致傷罪を原則適用除外として、医療内部で自律的な、医療事故の原因究明・再発防止の制度を作るしか解決策はないのではないだろうか。

この日本救急医学会の見解に合わせて、医療システムの瑕疵について検討するためには、この制度の主体は、担当行政官庁であっては決してならないと思う。


以下、MRICより引用~~~



厚生労働省「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」に対する見解について


有限責任中間法人日本救急医学会
代表理事 山本 保博

診療行為関連死の死因究明等の在り方検討特別委員会
委員長  有賀  徹

※この記事の内容は日本救急医学会のHPに掲載されており、ご許可を頂き転載し
ております。


 この度、厚生労働省「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」について、本学会特別委員会「診療行為関連死の死因究明等の在り方検討特別委員会」において、見解がまとめられました。

 この見解を厚生労働省のパブリックコメントに投稿いたしましたので、会員の皆様にご案内申し上げます。


厚生労働省「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」に対する見解


平成20年8月28日

 日本救急医学会「診療行為関連死の死因究明等の在り方検討特別委員会」では、厚生労働省の「診療行為に関連した死亡に関わる原因究明等の在り方に関する検討会」による「第三次試案」(平成20年4月3日)に対して、是非とも見直しを行うことにより“よりよい試案”が作成されるように希望したところであります(平成20年4月9日)。この度「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」
(平成20年6月13日)が厚生労働省から示されました。しかし、本法案(以下、大綱案)は、よりよい内容に至っていない、またはより劣った内容であるとさえ判断できますことから、日本救急医学会「診療行為関連死の死因究明等の在り方検討特別委員会」ならびに日本救急医学会理事会は大綱案に反対いたします。


I はじめに

(1) 医療安全を構築することと紛争を解決することの違い

 大綱案は、厚生労働省の「診療行為に関連した死亡に係る原因究明等の在り方に関する検討会」による「第三次試案」(平成20年4月3日)を法案として示されたものです。しかし、日本救急医学会が既に指摘(上述、平成20年4月9日)いたしましたように、原因究明を通じてより安全な医療を展開しようとする作業と、原因に関する責任を追求する作業とが本質的に異なる手法であるにもかかわらず、大綱案ではこれらの「両者を行う」という枠組みが維持されています。これは間違った方法であり、救急医療の厳しい現場において真摯に医療の安全を築き上げようとする、私どもの立場からも、この枠組みを受け入れることができません。

(2) 背景にある諸問題

 近年、医療側にとって、特に救急医療の現場に携わる私どもからみて、理解不能な刑事訴追や書類送検(検察官送致)、医療の実態を無視した民事判決があり、加えてそれらに関するマスメディアの過剰とも言える報道が散見されます。後者には実名報道なども含まれます。そのような状況にあって、原因究明を専ら行うことができて、公正性・透明性の確保された第三者機関の設置を望んできたところでもあります。

 そして中でも、業務上過失致死傷罪で起訴する際の法的判断に対する疑問への解決があり得ることについて特に注目してきました。しかし、この問題は単に医師法第21条(異状死の届け出)における届け出の範囲を設定することにとどまるものではありません。ここには、前段で理解不能と表現した諸々に関する私どもの不安や不満があります。従って、このような点を基本に置きながら、原因究
明を行うことのできる、公正性・透明性の確保された第三者機関の設置について再考していく必要があると考えます。

(3) 法曹界への要望

 上記(1)にありますように、そもそも「不適切であった可能性のある自らの処置など」については、責任の追及とは無関係な状況のなかでこそ述べられるものです。責任を追及される懸念を抱きながら述べることなどあり得ません。しかし、大綱案に則れば、刑罰をもってこれを当事者に強要する建前となっており、これはテロリストにすら与えられる権利、国民に等しく保障されている権利さえも奪うものと主張する意見が法曹界にみられます。

 そして、その大綱案に記載されている法的な文章は、私ども医師にとりましては、非常に難解であり、文章自体ならびに行間に含まれる意図を十分に読みこなすことができません。それ故、法曹界には、より積極的に大綱案の法的な解釈について多角的な検討を加えるなどして、私どもに易しく理解を促して下さいますように切望いたします。


II 問題点と今後の課題・提案など

(1)大綱案にある“喫緊”の問題点

 大綱案は、日本救急医学会「診療行為関連死の死因究明等の在り方検討特別委員会」が「第三次試案」(平成20年4月3日)に対して公表した見解( 平成20年4月9日)で示した問題点を解決することなくそのまま含んでいます。従って、基本的な問題点については、この見解を参照していただきたく思います。しかし、法律の文章の案としての大綱案が持つ問題点として、救急医療に携わる立場から
日本救急医学会が最も切実で重要であると考えるのは、以下の通りです。

 すなわち、「IV 雑則 第25 警察への通知」の中に「(2)標準的医療から著しく逸脱した医療に起因する死亡」があります。この表現が非常に曖昧で、私どもにはその具体的な内容が特定できません。現在の医師法第21条に関連した混乱と同様の状況に恐らく陥るであろうことを懸念します。
 
同じことは「VI 関係法律の改正 第32 医療法の一部改正 (2)病院等の管理者の医療事故死等に関する届け出義務等」の項目でも指摘できます。「(4)医療事故等に該当するかどうかの基準」についても、その「基準を定め、これを公表するものとする」と記載されているだけで、未だにその内容は示されておりません

 本来は、この問題こそ厚生労働省の検討会において十分に検討し、具体的に提案すべき事項であったと考えます。


(2)医療における業務上過失致死傷罪の判断基準が不明確であることについて

 重要で本質的な問題として「医療における業務上過失致死傷罪の対象となる範囲が不明確であること」が挙げられます。これを明確にすることが是非とも必要です。これが明確化されない限り、私どもにとって“いつ刑事訴追されるか分からないまま”の不安な状況は続きます。そして、その間にも紛争のリスクが高い急性期医療を中心に“萎縮医療、防衛医療、勤務医の病院からの立ち去り”が進行して行きます。「救急患者を断った方が安全」という考え方が少なからず医師の間に浸透している現状は、残念ながらすでに周知の事実です。

 検察庁を含む法曹界は、医療における業務上過失致死傷罪の対象となる基準を明らかにして、医療側の不安を早急に払拭する必要があります。法曹界には I(3)にあります要望と同様に、医療における業務上過失致死傷罪の客観的な判断基準などに関しても積極的な関与を賜りたく思います。


(3)上記(1)(2)に関連する提案

 刑事事件として起訴する要件の一つとして、ある検事によれば、それは「過失の明白さ」であると言います。つまり「医学会で議論の余地のない程の明快さ」を挙げています。

 日本救急医学会「診療行為関連死の死因究明等の在り方検討特別委員会」では、「重大な過失」あるいは「標準的医療行為から著しく逸脱するもの」があまりに曖昧であることから、これらに代わるものとして、「医療における明白な過失」という概念があるのか、またそれがあったとしてどのようなものなのかについてなど、現在も検討を進めています。今後その成果について必要に応じて提案する
ことも考慮したく思います。


(4)法と医の対話を

 医療に携わる私どもも、最近では「I はじめに」の(2)で言及しました状況に鑑みて、法律の基本的な概念について真剣に理解するように努力をしています。しかし、どのように努力を尽くしても、私どもにとって法律の知識は非常に限られたものであることを否めません。そして、また同様に、法曹界にある方々にとっても、医学・医療について十分な知識を持っているとは言えません。

 私どもは、医学界と法曹界とが、今や共に上記(1)(2)の問題について真剣に議論すべき時期が到来していると考えます。同じく(3)はそのための、いわゆる叩き台となるかもしれません。いずれにせよ、法と医の対話なくしてこれらの諸問題は決して解決できるものではありません。

 大綱案の細部についての議論が既にここかしこで行われていることは承知しております。しかし、そのような議論に先駆けて、上記(1)(2)に関して「法と医が対話する場の設定」を強く要望いたします。医療における業務上過失致死傷罪の対象となる基準を作成するためにも、法曹界と医療界が一致協力して議論すべきであり、私どももそのための協力を惜しむものではありません。


III まとめ

(1)厚生労働省による「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」(平成20年6月13日))は、それに先立つ「診療行為に関連した死亡に係る原因究明等の在り方に関する検討会」による「第三次試案」(平成20年4月3日)に比して、よりよい内容に至っていない、またはより劣った内容であるとさえ言うことができます。

日本救急医学会「診療行為関連死の死因究明等の在り方検討特別委員会」ならびに日本救急医学会理事会は大綱案に反対いたします。

(2)大綱案の持つ問題点は、例えば医療安全を構築することと紛争を解決することの違いを区別できないままの枠組みが維持されているなど、「第三次試案」と本質的に同様であると言うことができます。

(3)上記の例示にあるような矛盾の帰結として、大綱案には、自白を強要するかのごとき“憲法違反”の可能性をも新たに包含するに至っています。法曹界の積極的な関与が切望されます。

(4)大綱案にあります「警察への通知」、「標準的医療から著しく逸脱した医療に起因する死亡」や、関係法律の改正に伴う「病院等の管理者の医療事故死等に関する届け出義務」、「医療事故等に該当するかどうかの基準」などに鑑みますと、“医療における業務上過失致死傷罪の判断基準を明確にすること”がなにより優先すべき課題であると考えます。

(5)日本救急医学会「診療行為関連死の死因究明等の在り方検討特別委員会」では、「重大な過失」あるいは「標準的医療行為から著しく逸脱するもの」に代わるものとして、「医療における明白な過失」という概念について検討を進めています。このことに関連して、また“医療における業務上過失致死傷罪の判断基準”を明確にするためにも、今や医学界と法曹界とが真剣に議論すべき時期が到来し
ていると考えます。そのような「法と医が対話する場」の設定を強く要望いたします。

 日本救急医学会としては、今後も、必要かつ適切な救急医療を提供することに、引き続き全力を尽くす所存であります。そのためにも、原因究明を行う、公正性・透明性の確保された第三者機関の設置が大いに期待されるところではありますが、ここに述べました意見などを充分に汲まれますことを希望いたします。拙速な法律の策定とならないようにここに強く要望いたします。

以上

コメント

政局が流動的な、この時期に厚労省の医療安全委員会の検討会議が再開されるそうですね。
大綱案へのパブリック・コメントの紹介や反対する臨床系各医学団体の意見聴取も予定されているとのこと。
単なる予算消化のための行事で、役所による年度末の道路工事みたいなものです。
やったからって、メリットもない。

ま、首相が2回も途中で放り出して、ごたごたして中断されていましたから、今更、再開しても、中断中の経過説明以外に何の意味も無い会議です。
安部首相の肝いりの教育再生会議も、いつまにか無くなっちゃいましたね。

11月までに数回予定されているそうですが、今のねじれ国会では厚労省案が通る見込みもなし。
第一、検討会議の最中に総選挙があって政権政党が変る可能性のほうが大きい。

前の首相も、その前の首相も能無しのKYでしたが、厚労省の役人は一貫してKY。
こりゃ、だめだわ。

何方かが、ネットで発言していましたが、官僚が大綱案で押し通したいなら、とっくに法案上程をして通すことを試していたと思います。参議院可決でも、衆議院での再可決がありますでしょう。それをしなかった(していない)のは、やはりこのまま法律化することに躊躇があるのではないでしょうか。

あまり甘い見通しを持つことは禁物で、今後とも反対の意思表示をしなければいけませんが・・・。

一番の問題は、反対する医師達が、「疲れて」反対の意思表示を止めてしまうことでしょうか。

それに、代案を医療側から出さなければならないのですが、医師会はあのザマですし、どうなりますか。日本救急医学会には頑張ってもらいたいものです。

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