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官僚の責任逃れ 

官僚の天下り先の一つ、日本医療機能評価機構が、先ごろ、産科医療補償制度を始めた。その制度は、医療機関の負担する保険料の半分が、同機構と保険会社の懐に収まるトンでもない制度であることを何度か記してきた。

この制度を医療全般に拡大しようという動きがあることも何度か目にした。

臨床研究に際しての無過失事故に対して、患者に補償することを医師に義務付ける指針が、厚生労働省から出されたらしい。上記の動きと頚城を一にするものだろう。

ところが、抗がん剤等副作用の必ず起きる薬の臨床研究に対しては、保険会社がビジネスにならないとして、保険給付の対象から外すと言っているらしい。

下記のMRICで配信された東大上准教授の発言にあるように、こうした臨床研究に伴う無過失事故・副作用等の患者救済は、国が担うべきことだ。それを医療現場、医師に押し付けるのは、官僚の責任回避以外の何者でもない。

またしても、官僚が、医療を破壊している。こうした事態に対して、国民が異を唱えなければ、事態はどんどん悪化するばかりだろう。


以下、MRICより引用~~~


■□ 国内での臨床研究が事実上不可能に □■
~がん難民時代~

東京大学医科学研究所
先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門
准教授 上 昌広

■「高度医療」制度は事実上、実行不可能

骨髄移植を待っている患者さんがこの3月頃から移植を受けられなくなる可能性があることが、先般、明らかとなった。必要なキットの不足が確定的という。国内未承認のキットを輸入して使用する道もあるにはあるが、600~900万円程度の医療費が患者負担となり、事実上、骨髄移植は手の届かないものとなる。そこで全国骨髄バンク推進連絡協議会(会長:大谷貴子氏)が、厚労省に迅速な対応を求めるための署名活動を行っている。

※電子署名はこちら
http://spreadsheets.google.com/viewform?key=pqieimcJLRy0uIomKE4-eZw

いっぽうの厚労省は、「高度医療」という制度(http://www.mhlw.go.jp/topics/2008/04/dl/tp0402-1a.pdf)をこの国内未承認のキットに適用し、手続き的なことを含め医師にあたらせることを考えている
という。ところが問題は、「高度医療」制度そのものが様々な問題を内包し、事実上、実行不可能な面が多いことである。すなわち残念ながら、「高度医療」制度を適用しても患者さんが骨髄移植を受けられる解決策とはならない。

以下、「高度医療」を事実上、運用不可能にする要因のひとつ、厚労省の「臨床研究に関する倫理指針」に着目してみたい。


■厚生労働省が「臨床研究に関する倫理指針」を改定

平成20年7月31日に改定された「臨床研究に関する倫理指針」(以下「本指針」という)が本年4月1日より施行される(http://www.mhlw.go.jp/general/seido/kousei/i-kenkyu/rinsyo/dl/shishin.pdf)。

今回の改訂で注目すべきは、被験者保護の規定が新設されたことである。その理念自体は肯定されるべきではあるが、方法を誤れば、わが国の医療に壊滅的な打撃を与えかねない。実際、本改訂により、将来の国内のがん治療に大きな影響を与える条項が含まれることとなったので、以下に紹介する。


■臨床研究による健康被害に対し医師個人が無過失賠償責任を負うことに

本指針の「第2研究者等の責務等1研究者等の責務等(4)(以下「本条項」という)」では、「研究者等は、第1の3(1)1に規定する研究(体外診断を目的とした研究を除く。)を実施する場合には、あらかじめ、当該臨床研究の実施に伴い被験者に生じた健康被害の補償のために、保険その他の必要な措置を講じておかなければならない。」と規定されている。なおここで、「第1の3(1)1に規定する研究」とは「介入を伴う研究であって、医薬品又は医療機器を用いた予防、診断又は治療方法に関するもの」を指し、「その他の必要な措置」とは、「例えば、健康被害に対する医療の提供及びその他の物又はサービスの提供」のことである。

条文のままではわかりづらいが、要するにこの条項は、医師個人に、臨床研究の実施に伴い被験者に生じた健康被害に対し、

●無過失賠償責任を負うことを前提に、本指針に伴い民間保険会社により新設される予定の無過失賠償保険等に加入することを義務付けることないし、

●健康被害に対し医療の提供を行ったり、財物やサービスの提供をするなど履行の方法を例示して、無過失賠償責任を負わせることを規定している。

ちなみに、本指針「第4インフォームド・コンセント1(1)」には「・・・臨床研究に伴う補償の有無・・・十分な説明を行わなければならない。」とあるが、上記のように「研究者等の責務」として無過失賠償義務を規定している以上、補償が無い場合は想定できず、無意味な記載である。

また、同じく「第4インフォームド・コンセント1(3)」の細則に但書として「研究者等に故意・過失がない場合には、研究者等は必ずしも金銭的な補償を行う義務が生ずるものではない」と示されており、医師は原則として無過失賠償責任を負うものの、例外的に負わない場合がありうる旨が記載されているが、それが本来あるべき医師の責務の編に無く、何ゆえインフォームド・コンセントの編にあるかは不明である。さらに言えば、例外的に負わないのはどのような場合かがまったく不明である上に、そもそも本則と相反する規定を細則で定めるという、矛盾を含んだ指針となっている

そうしてみると結局、本条項の意味するところは、臨床研究によって被験者に生じた健康被害について無過失賠償責任を医師等に負わせること、また、その支払いを確実にさせるために、新設される予定の無過失賠償保険等に加入する義務を医師に負わせること、というように言い換えられる。


■厚労省医系技官が医師個人へ責任転嫁

本条項が被験者保護の理念にもとづくものであり、この理念が重要であることについて異論はまず出ないであろう。しかし問題は、これを医師個人の責任とすべきなのか、そもそも国として責任をもって取り組むべきことなのか、という出発点の議論がすっぽり抜け落ちていることである。「医師の過失責任を追及する民事訴訟とは異なる発想から患者の健康被害を救済しよう」という理念は、医療政策の一環として、まさに国が実現すべき施策であるとは考えられないだろうか。厚労省医政局研究開発振興課の医系技官が、このような政策立案に正面から取り組むことなく、はなから医師個人の責任であるとして議論を進めたのは、なぜなのだろうか。

本指針の改正に向けて厚労省の作業が開始されたのは、2007年6月である(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/08/dl/s0817-7b.pdf)。厚労省はこれまでも多くの国家賠償訴訟に悩まされ続けてきたが、2006年、2007年といえば、ちょうど薬害肝炎訴訟の結審が各地の地裁・高裁で立て続けに出されていた時期だ。

被験者保護という国民本位の発想というよりは、国家賠償訴訟を恐れ、官僚の責任回避を第一とする思惑が見え隠れしないだろうか


■損害賠償額の高騰化

仮に、医師に過失がなくても賠償責任を負うとした場合について考えてみよう。

昨今、裁判において認容される損害賠償額が高騰化し、訴訟数は増加の一途をたどっている。特に死亡事例や障害等級の高い事例では1億円を超える判決が多く見られるようになった。(実際、それにより日本でも医賠責(医師賠償責任保険)は破綻寸前、あるいは実質的に破綻しているといってよく、医師が医療を続けられなくなる医療崩壊もすでに現実的とする識者もいる。)

ここで、重度の障害が発生した場合には、いわゆる積極損害に当たる入院費用(ほとんどの場合、入院費用は数百万円以内には納まる)については、金銭に代えて現物給付として医師自らが診療をすることで代替できるが、その後の障害に対する介護費用や逸失利益については、金銭をもって支払うより外ない。また死亡事例においては、現物給付の余地はないので全額が医師負担となる。

となると、医師にそのような資力があることは稀であるから、保険への加入が必要不可欠となる。


■新設予定の「臨床研究補償保険」の穴

しかし、本指針作成のために行われた平成20年7月10日の科学技術部会「臨床研究の倫理指針に関する専門委員会」において、特別ゲストとして参加した東京海上日動火災および損害保険ジャパンの両社ともに、「リスクの高い抗がん剤、免疫抑制剤等は保険対象外」との意見を述べた。

東京海上日動火災:「抗がん剤についてはご指摘に近いような、引受けが困難な状況は考えられるのではないかと思っています」

損害保険ジャパン:「基本的なスタンスとしては、抗がん剤は持たない方向で検討したいと思っています」

第6回議事録(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/02/txt/s0213-2.txt)
第6回議事資料(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/02/s0213-6.html)

抗がん剤治療においては、軽度のものも含めれば、ほぼ100%の患者に何らかの副作用が発生する。このような高頻度の健康被害に対する保険は、ビジネスとして成立しないということは、容易に理解できよう。

したがって、この時点で本条項は医療現場に不可能を課す条項となったのである。であれば当然、削除しなければならなかったにもかかわらず、厚労省は、上記専門委員会から3週間後の7月31日に告示された「臨床研究に関する倫理指針」において、本無過失補償条項を強行に採択した。

そして予定通り、東京海上日動火災や損保ジャパン、三井住友海上など大手損保各社は、新設する「臨床研究の補償保険」において、抗がん剤を保険対象外とする見込みとなっている(日刊薬業2009/01/20)。


■がん治療に対する臨床研究は事実上不可能に ~がん難民時代~

本指針はあくまで厚労省の「指針」であって、厳密な意味での法的拘束力は有しない。しかし実際には、研究費等を“てこ”に事実上の強制力を持つこととなり、結果として厚労省医系技官の更なる権限強化に与するものである。また、医師が無過失賠償責任条項を含んだ臨床研究契約を個々の被験者と締結した場合には、当然に法的拘束力を生ずることとなる。何より、医師が行う臨床研究は、製薬会社が新薬開発を目的として行う治験とは異なり、それを行うことで収益を生ずるものではない。にもかかわらず医師に過度な金銭的負担を負わせるというのは、事実上の禁止を言い渡しているのと同じである。

厚労省が医療についての監督・責任官庁であらんとするならば、山のような書類と責任を現場へ押し付けて自己保身ばかりするのではなく、現場に活気を与え、「何かあったら責任は厚労省が引き受ける」という気概を見せなければ、現場との溝は深まるばかりである。

■まとめ

以上、本年4月1日の「臨床研究に関する倫理指針」の施行により、国内での抗がん剤の臨床研究が困難となることは明らかである。冒頭に紹介した骨髄移植についても、「高度医療」制度による患者救済は、もとより見込めないといえる。日本のがん治療は世界から大きく遅れ、日本のがん患者が適切な治療を受ける機会を奪われることとなるだろう。

コメント

無過失賠償は必要

無過失賠償責任制度は医療の本質から見て必要だと思います。将来的には全ての医療にこれを適用し、運用は保険会社にやらせてもいいですが、赤字が出たら国家が補填すればいいのです。そのために医療費が高騰しても、それは必要な経費と言うことで国民に納得して頂くしかありません。

無過失賠償責任制度を作るとしたら、医療の不確実性の国民による理解が前提で、なおかつ国の行う事業でなければなりませんね。

医師個人にその責任を負わせるなどもっての外だと思います。

不遜な医者による人体実験

抗がん剤の臨床研究など、極めて高度かつ政治的な分野は、製薬会社(による治験)に任せておけばよいのです。
製薬会社に任せずに医師自らが行う抗がん剤の臨床研究などは、ナチスや731部隊の人体実験と同じことではないでしょうか。

  • [2009/02/08 11:54]
  • URL |
  • 基礎医学従事MD
  • [ 編集 ]
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基礎医学従事MDさん

抗がん剤の治験の問題は、海外で開発された先進的な製剤が治験を改めてわが国でも行わなければならないために、タイムラグが生じることではないでしょうか。元東京女子医大教授だった押味氏がMRICで述べておられましたが、治験をわが国で繰り返す意味は少ないようです。

製薬会社に治験をさせる場合も、結局は、臨床医が行っているのではないでしょうか。その際に、製薬会社と臨床医が不透明な関係でつながり、効かない薬・副作用の多い薬がそうでないかのような結果を、その医師達が出すことは問題だと思います。

大学時代に、副作用の調査を含めて、治験を何度か行いましたが、上記のようなバイアスが現場でかかる要因は少ないように思いました。ダブルブラインドの手順を守ること、得られたデータを製薬企業と利害関係の無い機関・個人が分析することが担保される必要があります。

治験現場から離れていますので、見当はずれなことを申し上げているかもしれませんが、少なくとも、このエントリーで述べた厚生労働省の責任逃れは、医療を後退させるものだと思います。

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