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産科医療への根拠無き誹謗が、産科医療を疲弊させている 

産科医療への言われ無き誹謗に、分娩誘発剤を多用して、分娩を日中に行い、その中で、分娩誘発剤による副作用を児に生じさせているというものがある。これは、事実誤認である。医学的適応下に行なわれる、日中の予定帝王切開・誘発分娩の数から、説明のつく事実であって、産科医の「都合」で行なっているものではない。それを、下記のMRICでの産婦人科医の発言は指摘している。

医学の発達した現在でも、分娩に関連して年間60名ほどの尊い母体の生命が失われている。母体の死亡率は、それでも先進国中でも優れた位置に属する。分娩とはそれほどリスクのあるもので、それと必死に産科医は戦っているのだ。また、児の周産期死亡率は、世界のトップクラスの成績を、これまで収めてきた。日本の周産期医療の実績は、これまで世界的にみても極めて優れたものであった。

そうした成果を収めてきた産科・新生児科医療を、上記のような偏見,、誤った意見が、疲弊させている。それにマスコミ・一般の方々が気付くまでは、産科・新生児科医療は、崩壊を続ける。


以下、MRICより引用~~~ 

     ■□ 産科医療への誤解を解く □■
   ―日本の赤ちゃんたちは人為的な操作と誘導で生まされているのか?

                    尼崎医療生協病院 衣笠万里


 ここ数年、産科医不足の話題が再三、マスメディアでも取り上げられるようになってきた。その原因として多くの医師が指摘するものは、まず非人間的とも言える昼夜を分かたぬ長時間の勤務あるいは拘束と、医事紛争の多さである。筆者自身、1ヶ月に300時間以上の病院勤務(当直を含む)に入っており、また不本意ながら医事紛争にも関わってきたので、その二つについて異論はない。もちろん医事紛争については医療者側に問題がある場合も少なくないだろう。「医師が患者にきちんと真実を説明して標準的な医療をおこなっておれば、結果責任を問われることはない」、ある市民運動家はこう明言した。しかし私の経験ではそんなに生易しいものではなかった。「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」といわれるが、不幸な転帰に至った症例を後方視的に詳細に分析すれば、直接の因果関係があるか否かは別にして診療の過程で一つや二つは何らかの瑕疵が見つかるものである。それを個人の過失として厳しく糾弾されることによって医師は疲弊していく。

 今回は上記の二つ以外にもう一つ産科医のモチベーションを下げているものについて言及したい。それは日本の産科医療に対する評価の低さ、あるいは誤解に基づく偏見である。国民は日本の産科医療に対してどのようなイメージを抱いているのだろうか?それは言うまでもなくマスコミ報道によって大きく左右されている。たとえば医師主導のお産はやたらと人工的な介入が多く、医学的には不必要な陣痛促進剤を用いて平日の昼間に出産を終えるように仕向けている。そのために医療事故が後を絶たない。また重症例を「たらい回し」して恥じるところがない。一方で助産所は女性が本来持っている「生む力」を最大限に引き出す、安心で満足度の高いお産を提供している、等々。そのすべてが間違っているとまでは言えないが、搬送を受け入れられない実情や助産所分娩でのリスクなど、多くの点で十分に理解されていないことも確かである。たとえば出生時間のコントロールについて触れてみよう。

 厚生労働省がまとめた国内の出生に関する統計資料によると、平日午後1-3時の出生数が抜きん出て多く、単位時間当たりの出生数が夜間帯の2倍以上になっている(文献1)。一方で助産所や自宅での出生数は各時間帯でほぼ均等に分布しており、むしろ午前中にやや多い傾向であった(文献2)。この事実から、ある市民団体は「日本の赤ちゃんたちは産科医の都合で人為的な操作と誘導によって生まされている。つまり陣痛促進剤によって無理やり日中に産まされている」という推論を繰り返し展開している(文献3)。出生時間の偏りに関する彼らの解釈は国内に広く普及しており、国会の厚生労働委員会では自民党・民主党・社民党の議員がそれぞれこのデータを引用の上、「あまりにも不自然な実態」として問題視している(文献4・5)。ちなみにこの社民党議員は小児科医師でもある。

 はたして彼らの言う通り、日本の赤ちゃんたちは人為的な操作と誘導で生まされているのだろうか?まず2005年の調査では日本国内で全分娩の17%程度が帝王切開術(帝切)によっているが、これは欧米と比べて決して高率ではない(米国では30%近く、他の英語圏諸国でも概ね20%以上である)。その中でも予定帝切は平日午後に実施される場合が多い。また医学的に正当な理由のある陣痛誘発・促進も当然存在し、その多くはマンパワーの豊富な平日の日中に実施されている。

 実際に筆者が勤務する尼崎医療生協病院での分娩統計に基づいて出生時間の偏りについて調査した。当院では医学的適応を厳格に守って陣痛促進剤を使用している。原則として妊婦や家族の希望、病院都合による誘発や帝切は実施しておらず、分娩予定日超過症例は概ね41週4日以後、前期破水は24時間経過後も陣痛未発来の症例に誘発を勧めている。それ以外の誘発適応は胎児発育異常・心拍異常、胎位異常、合併症妊娠例などである。また微弱陣痛のために数時間以上にわたって分娩が進行しておらず、産婦の疲労感が強い場合に促進剤使用を提案し、同意が得られれば使用している。

 2006年における陣痛誘発・促進率は併せて12%であり、帝切率は15%であった。調査の結果、当院でも平日日中午後(12-18時)の出生数は他の時間帯を大きく上回っており、出生数全体の28%を占めていた。この比率は2004年の全国集計データとほぼ一致していた。10年前と比較すると、1996年における当院での陣痛誘発・促進率は16%とやや高かったが、帝切率は6%と低く、平日午後の出生集中率は24%であり、2006年よりも低かった。実際に分娩様式別に出生時間の分布をみると、午後1-2時の出生数のピークはもっぱらその時間帯に選択的帝切(予定帝切)が集中しているためである。また当院では陣痛誘発例のうち46%が夜間・早朝(18時-翌朝8時台)に出生しており、必ずしも日中に分娩を終えられるとは限らない。一方、過去11年間の周産期死亡例(妊娠後期の死産例および早期新生児死亡例))のうち、入院時には胎児心拍が確認されていて後方視的に救命の可能性があった症例は6例であったが、そのいずれもが深夜・早朝あるいは休日の分娩であった。

 このように医学的適応を守って帝切や陣痛誘発・促進を行っても、出生時間の偏りは生じうる。全国データにおける平日午後の出生集中率:28%という数字は平均帝切率17%という数字から十分に説明可能であり、陣痛促進剤の濫用によるものではない。一方で監視態勢・緊急対応が手薄になる休日・夜間帯は周産期死亡のリスクが高くなるため、日中の帝切や陣痛誘発・促進には一定の妥当性がある。もちろん今回の検討結果は全国津々浦々で陣痛促進剤が適正使用されていることを証明するものではない。しかし強調しておきたいのは、最初に示した時間別出生数のグラフ―出生時間の偏り―によって日本の産科医療が貶められる根拠はまったくないということである。

 現在、日本における周産期死亡率の低さは世界一の水準である。米国などに比べればはるかに格安のコストで良質な医療を提供してきたといってよい。われわれ産科医は陣痛促進や吸引・鉗子分娩あるいは帝切などの医療の介入について妊婦や家族に時間が許す限り十分に説明して納得いただいた上で、これらを実施すべきである。同時に産科医療についての誤解を払拭し正当な評価を受けるために、社会に対して自ら積極的な情報提供に努める必要がある。

(1)厚生労働省:平成17年度 出生に関する統計の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/syussyo05/syussyo3.html
(2)厚生労働省「出生に関する統計」の概況(人口動態統計特殊報告)
http://www-bm.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/syussyo-4/syussyo3-7.html
(3)陣痛促進剤による被害を考える会:「陣痛促進剤 あなたはどうする」神戸市 さいろ社
2003年
(4)参議院会議録情報 第164回国会 厚生労働委員会 第26号
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/164/0062/16406080062026a.html
(5)衆議院会議録情報 第165回国会 厚生労働委員会 第7号
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/165/0097/16512010097007a.html

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