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研修医の強制配置は間違っている 

亀田総合病院は、千葉の外房地域という田舎にありながら、全国有数の規模の医療機関
であり、数多くの研修医を集めている。その病院の院長が、変更されようとしている臨床研
修制度について、意見を述べている。

臨床研修制度によって医師不足が生じた、だからそれを変更し、地方と大学に研修医を
強制的に配置しようという、今回の変更策は、問題を全く解決しないように思える。

医師不足の問題と、良い臨床医を育てるための研修制度の問題を直接リンクさせることは
間違いだ。医師不足に対しては、これまでの医療政策全体を見直すべきだ
研修制度は研修医に臨床経験を十分積ませるに足る症例数、それを支える設備と指導者をいかに整えるかということがポイントになる。研修制度を手直しし、研修医を地方に強制的に配置することでは、医師不足を解決することは出来ない


以下、MRICより引用~~~


■□ 臨床研修制度検討会の提言を受けて □■

                       亀田総合病院長
                       亀田信介

 地域の医師不足問題を受け、厚生労働、文部科学両省の臨床研修制度のあり方
等に関する検討会が提言案を発表したが、本当に地域医療崩壊や医師不足問題の
解決に繋がるのであろうか?

 そもそも、臨床研修制度は質の高い医師を育成するために始められた制度であ
り、議論の根本がすり替わってしまっている。当院は人口37000人の過疎地に立
地しているが、卒後研修の必修化がスタートする遙か前から、臨床研修病院とし
てスーパーローテーション方式による研修プログラムを行っており、多くの研修
医が集まってきていた。

 臨床研修の必修化は、まだ始まったばかりであり、改善すべき問題点は多々存
在する。しかし、医師不足の原因となっているかと言えば、スタート時の2年間
はある程度影響があったと思われるが、既に5年が経過している現在ではほとん
ど関係ない
と言わざるを得ない。医師不足の最も大きな原因は、高齢者人口の急
激な増加と医療の高度化、医療安全や質に対する国民意識の変化等による医療ニー
ズの増大にある。つまり当然予見し得たこれらの問題に対し、医療費削減政策を
とり続け、1985年以来医学部の定員を減らし続けてきた政策ミスこそが根本的な
原因である
ことは明かである。

 その付けを、臨床研修医に持って行くのは、あまりにも理不尽と言わざるを得
ない。

 今回の提言では、総定員枠の削減と、都道府県ごとの定員設定、更に都道府県
内の研修指定病院の定員削減による大学への研修医のシフトを行おうと考えてい
る。つまり研修医の強制配置を行おうとしているわけであるが、このような方法
論で地域医療の崩壊や医師不足が少しでも改善されるのであればまだしも、更に
悪化する
と考えられる。

 そもそも初期研修医を単純に労働力と考えることが間違いである。勿論、しっ
かりした環境があれば、ある程度医師としての働きは出来る。しかし、屋根瓦方
式のような教育システムや指導医が整っていなければ、教育のために必要な労力
は非常に大きくなるであろう。そもそも臨床に追いまくられ疲弊している指導医
に、更なる負荷がかかり、しかも満足な教育も出来ない
。一方アンマッチによっ
強制的に配置された研修医は、モチベーションも上がらず、研修に対する不満
も募り、多くが初期研修を終えた段階で去って行き
、地域の労働力としては殆ど
機能しない可能性が高い。そして、最も手の掛かる2年間の面倒を見た指導医も、
教育に対するモチベーションは下がり、疲れ果て去って行く
という悪循環を作り
出す危険性が大きいのではないだろうか。

 地域で欲しい医師は一人前の医師であり研修医ではない。将来にわたって地域
の医療を支えられる医師を育てるためには、初期研修及び後期研修における教育
が重要である。後期研修は専門医教育であり、その為には、症例や手技の数や種
類が十分経験されなければならない。つまり、後期研修に於いて専門家がこれら
を考慮すれば、各科の患者数に見合った医師数しか育成することは出来ず、地域
的にも人口、つまり症例数に対応したプログラム定員になるはずである。しかも、
この様なプログラムこそが専門医研修には求められている。

 日本の医師卒後研修システムは、非常に未熟であり、これから構築していくよ
うな段階である。当然のことであるが、良い医師を育てることと、地域医療を向
上させることは矛盾するものではなく、同時に達成できる
はずである。短絡的に
狭い視野と低い視点で考えるのではなく、もう少し広い視野と高い視点で考える
べきであろう。
以下、私の意見を述べる。


1.初期研修について

イ.厚生労働省の規定している必要要件は、あまりにも細かすぎる。各病院の創
意工夫を促し、研修医や指導医からの評価によるカリキュラムの改善や、ベンチ
マーク手法による卒後研修の底上げを狙うべきであり、その為にプログラムの弾
力性を認める。

ロ.臨床研修病院の認定要件を明確化し、公正、厳格な評価により研修の質を保
障する


ハ.初期研修に於ける各病院の募集定員は、行政側から厳格に規定するのではな
く、研修医の評価を重視する。当然多すぎる定員は研修医からの評価を落とすこ
とになる。マッチ率が低いプログラムは自動的に定員を減らし、応募者がある期
間無ければ認定を取り消す。公正、厳格な評価により新たに認定を受けた医療機
関の参入は推奨され、結果として適正な自然淘汰と自助努力を喚起する。

ニ.初期研修において、意図的に定員を削減することは、貴重な研修資源を十分
活用出来なくなる可能性があり、更に適正な競争原理による自助努力のインセン
ティブが減り
、日本全体としては医療の質の低下に繋がるおそれがある。

ホ.初期研修医の強制配置は、前述の如く地域における医師不足解消には繋がら
ない。


2.後期研修について

イ.施設を認定するのではなく、プログラムを認定する。つまり、行政側から規
定するのではなく、各地域の実情に合わせ、1施設でも多施設を活用しても自由
であり、専門家同士が研修内容を厳密に評価する。

ロ.期間中に経験できる症例や手技の最低数や内容を明確にし、更に研修後のア
ウトカムを評価する。症例数、つまり患者のニーズが増えれば定員も増やすこと
が出来る
が、症例数と無関係に研修医が集中する事は無くなる。結果として、地
域医療のニーズに応えられるばかりでなく、研修の質も向上する。

ハ.手技や手術における適切な適応を守るため、行政ではなく専門家によるレビュー
システムを構築する。

ニ.大学病院の症例数では、後期研修医の育成は限られる。従って、地域の研修
病院に指導医を派遣し、連携プログラムを創る必要が生じる。その結果、症例を
提供する研修病院と、指導医を派遣する大学とは、お互いを補完しあうイコール
パートナーシップの関係が構築される。


最後に.

 医師不足の根底には、偏在ではなく政策ミスによる医療ニーズに対する絶対的
な不足
が存在する。これを解消するには少なくとも10年以上を要すが、この解
決策については、今回は触れないこととする。

 地域に質の高い病院や医師が存在することが、住民にとって好ましいとの意見
に異論を唱える人はいないであろう。現在の問題は、地域に研修病院を作っても、
研修出来る病院を創っていないことである。きちんと研修の出来る病院を創れば、
研修医は自然に集まる。そのためには、何よりも素晴らしい指導医を集めること
である。現実的には、様々な面で都市部よりも待遇を良くする必要がある。しか
しながら、入院基本料の地域加算に見られるように、現在の診療報酬制度は、公
務員給に倣って東京を最も高くしていると言ったばかげたことを行っている。勿
論、医師以外の給与水準や物価水準の問題は存在するであろうが、そうであれば
ホスピタルフィーとドクターフィーの考え方を導入すべきである。何れにしても、
順番が反対である。質の高い医師を招聘し、質の高い医療を行い、研修医が集まっ
てくることが、地域にとっても研修医にとっても指導医にとっても最善である

パンドラの箱が開いた現在、北風政策で問題解決を図ることはあまりにも浅はか
であり、成功はしないであろう。誰もが納得し、皆に等しくメリットのある太陽
政策を構築すべきである

コメント

No title

研修制度改革のおかげで、医局というものの権威が幻想だったことが明白になったためでしょう。いざとなったら医局辞めればいいのです。教授や医局長の命令であっても、今じゃあ酷い待遇の病院に行く必要がないからですよね(笑)

困るのは医局の方ですから。

No title

パンドラの箱を、官僚が開けてくれたことはきっと良いことなのでしょう。

しかし、旧い世代の私にとっては、医局がこれまでのような形では存在しえなくなることは、寂しいことですね。

大学での研究活動が低下することも心配していますが、そういえば、10年位前に、日本医学会の会頭までやられたお方が、研究は、日本で一つ・二つの大学でやればよいみたいなことを言っていましたっけ・・・今のような状況になることを見越していたのかどうか・・・。

大学での未払い賃金の問題があちこちで労基局から指摘されていますね。もう元には戻らないのでしょうね。良い意味でも、悪い意味でも。

No title

>>地域的にも人口、つまり症例数に対応したプログラム定員になるはずである。

この文言を素直に受け取るとするならば、今回、都道府県別の人口から定員の上限を設定するというやり方は、研修医一人当たりの症例数を設定する意味で研修の質を高めるためには合理的のように見受けられます。

東京の病院で2年間研修したものの研修医が多すぎて、点滴もろくに指すことができずに終わった、なんて話は研修医教育の最前線では良く聞く話です。それを是正するために研修医の病院毎の上限を設けるのも合理的と考えます。

それから何でもかんでも規制緩和、自由放任はいい結果を生まなかった、というのが小泉改革の総括であり、建設業界でも郵政民営化でもいわれておりますが、今回の臨床研修制度についても、その流れと考えています。

何でもかんでも研修医の自由にしても皆がハッピーにはなれない、ということだと思います。
亀田病院は勝ち組みです。その院長が何を言おうとも、村上ファンドの社長が「Winner takes all」と宣ったのと同じ論調でしか、私には受け取れません。

生意気を申し上げてすいません。
ただ、医療教育現場の最前線でまだ文字通り身体を張っている一医者の嘆きとお受け取り下さい。

No title

QWWさん

ご苦労はよく分かるのですが、研修医不足を自らの利権の拡大にこそこそと利用しようとしている官僚の意図をよく掴んでおかないと、後でさらに酷いことになるのではないですか。

何しろ、後期研修の場所は、彼等が主導する都道府県単位の何とか委員会が決めることになるらしいですよ。大学で一人前にしたら、後は官僚に人事権を握られるということになるようです。

医学生の有志が、この新しい研修制度に反対を表明しましたね。

研修制度と医師不足をごちゃ混ぜにして、官僚の利権を拡大させるだけに終わるような制度改正は是非やめてほしいものだと思います。

No title

NUTさんの論調では、官僚の利権拡大を阻止するためであれば、地方の医師崩壊は更に進んでも構わない、地方がどうなろうとも構わない、ということなのでしょうか?とすればこれ以上論じることもありませんが。

先生方関東の医者は、官僚の利権拡大は面白くない、程度の話でしょうがこちらは文字通り生死がかかっております。3次医療圏まで含めての医師数は全国で最下位から2番目の当県としては切実です。官僚の目論見と合致しようともありがたい話です。

研修制度と医師不足問題のゴチャ混ぜはいかん、といってもともに医師数に関わる話ですから絡んでくるのは必然です。それを分けるほどにもう余裕もないということです。それに現行の研修制度は確かに問題点が多々ありましたので研修医教育の現場にある身としては、今度の制度の方がずっといい研修ができると思います。

No title

官僚の利権拡大を阻止するためであれば、地方の医師崩壊は更に進んでも構わない、地方がどうなろうとも構わない、ということなのでしょうか?>>

とまで仰られると、水掛け論になりますので、これ以上は止めておきます。

今日アップした堤教授のインタビュー記事もお読みになってみてください。

No title

すいません。
私も感情的になって、行間も読まずに書き込んでしまいました。
そういうことを仰っているわけではないことは、よく分かります。

あとで記事を読んでおきます。

「強制配置」という言葉

もう一つ気になることがあり、書き込ませてもらいます。これでこの件は最後にしますが…お許し下さい。

「強制配置」という言葉です。

「たらい回し」という文言は正確なものではなく「受け入れ不能」とかもっと適切な言い方をして欲しい、と思っています。そうしないと正しい情報が国民に伝わりませんし、多くの現場の医療者も同様に感じていると思います。ところが、同様にこの「強制配置」も「たらい回し」と同様に事実とかけ離れた扇情的な文言として使われているように私は思います。

「強制配置」といいますと、なんだか国家試験合格後の研修医にある日突然赤色の手紙が来て「貴殿は4月より○○県△△市●●病院勤務を命ず」
みたいな、感じを受けてしまいそうですが、全然そんなことないんですよ。
この辺りは、皆様ご存じなのでしょうか?

現行で行われているマッチングの定数を、きちんとした症例数を経験できるように、例えば関東の某大学病院が140人もの研修医をとったり、研修医が多すぎるために点滴の練習も十分にできないような研修をしているところがあるので、そういうところの定員を減らし、きちんと研修医が経験を積めるようにしよう、との配慮なのです。
それに調整を受けて第一志望の病院で研修できなくなる研修医は激増するわけではないと思います。それは今でも、全ての研修医が第一志望の病院で研修できているわけではないので、同じ事かと思います。

言葉の使い方は、本当に難しいです。
「強制配置」といえばとんでもないことのように聞こえますが実際は、きちんとした研修をできるようにするための「適正な人員調整」とでもいう方が正しいように思います。それに恐らく8割以上の研修医は自分の志望した医療機関で研修ができるはずです。

亀田の院長からしてそうなのですが、「たらい回し」に敏感に反応する医師達がなぜ「強制配置」を無批判に使えるのか不思議に思うのです。
私の理解が浅く、官僚の意図が読めないだけなのでしょうか…。無礼の段ご容赦下さい。

No title

言葉の妥当性については、各人の感じ方、捕らえ方の違いが反映しているのでしょう。

今回の初期研修医の配置については、各医療機関の研修人員人数を行政が決め、さらに各県の研修人数上限を決める。さらに、後期研修も、各都道府県単位で行政が中心となる組織が、医師を振り分けることになるようです。大学に医師が戻ったとしても、それは旧来の医局の再現を意味しません。

研修医の研修先決定は、その研修プログラムの内容で、研修医が行うことが原則だと思います。不適切な研修しかできないことが明らかな場合は、その研修先は、先細りになるでしょう。強制力ではなく、魅力によって研修医をひきつけるべきです。

行政権力を背景にした、こうした人員配置は、私の目には「強制」と映ります。行政は、今後、これ以上の強制配置を考えているようです。

こうした背景・全体像を見なければ、現在進められている制度変更の意味が分からないのではないでしょうか。

No title

>>さらに、後期研修も、各都道府県単位で行政が中心となる組織が、医師を振り分けることになるようです。

えっ?これどこから出てきた情報ですか?本当ですか?私は大学の臨床研修の最前線におり、先の懇談会や医道審議会の情報などは会の翌日に受け取って見ておりますが…そのような情報は、得ておりませんが…。

これが真実ならば先生の仰るとおり、たいへんな事であるのは確かです。

No title

厚生労働省と、日医のなかでは、合意事項のようです。まだ決定ではないようですが。日医のグランドデザイン2009をググッてみて下さい。m3でも議論になっていたと思います。

この都道府県単位の医師派遣組織には、医師会・大学・病院・住民等々が含まれていますが、結局行政主導だと思います。それに、研修医が中に入っていなかったような・・・。

No title

グランドデザイン2009を拝読致しました。「研修医の配置」として35頁付近に「都道府県地域医療研修ネットワーク」なる組織が「初期」研修医の割り振りを行う、との文言を見つけましたが、「後期」研修(つまりはどの科に進むかということ)を割り振る話はついぞ発見することができませんでした。

それからこれは日医の希望であって、政策でも法令でもありません。拘束力はありません。私たちの現場にはこのような情報は何も入ってきておりません。

間違うといけませんので、もう一度3月2日に行われ翌3日に配布された「医道審議会医師分科会医師臨床研修部会」の資料を一通り確認してみましたが、都道府県地域医療研修ネットワークという文言を見つけることはできませんでした。
「あり方等に関する検討会における主な意見」ということでフリーにいろいろと話した内容をまとめた部分にも上記文言を見つけることはできませんでした。

この部会には日本医師会の常任理事である飯沼さんという方が入っておられますので、もしそのような合意事項があれば少しくらい文言が出てきそうですが…。

ここに出てこない文言はいくら日医と厚労省の同意事項だからといっても、唐突に出されて実現されることはあり得ません。ご安心下さい。「都道府県別の定員の上限」一つに付けてもこれだけもめるんですから、ましてや「後期」研修医の強制的な割り振りなどどう考えても不可能です。

No title

後期研修の医療施設の割り振りです。専門科の割り振りではありません。

私も詳細な情報を持っていませんが、大学医局解体から、行政による医局機能の肩代わりへの動きは確実だと思います。

日医のこのプランのこととは離れますが、初期研修で強制的に研修医が大学に戻らされても、大学の研修に魅力がなければ、初期研修が終わると同時に学外に出てしまうことでしょう。

今回の臨床研修制度の改変は、大学の人手不足を補うためにものでは決して無いということは言えそうです。

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