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歯科医療の倫理的崩壊 

私の仕事場の近くに、大学時代の同級生が、歯科医院を開業している。私が開業するよりも大分前に開業したらしい。地域歯科医師会の幹部をしているようで、時々、診療報酬レセプトのチェックに駆り出されている様子だった。私の開業当初は、お祝いを持参し、何くれとなく訪れ、さらにご家族の健康管理を任せてくださった。心細かった開業当初に、大学時代の顔見知りが来てくれるのはありがたかった。

私も歯に問題が生じると、彼の診療所でお世話になってきた。昼休みが終わる直前に、お願いして、診てもらっていた。通わないで済むように、処置を一回ないし二回で済ませてくれた(こちらがお願いしたことではない)。何時も驚かされたのが、診療費の自己負担の少なさ、だ。歯科の診療報酬の公的な部分が、激安であることは以前から聞いていたが、数百円から千数百円の自己負担を請求されて、一体これで診療所を経営できるのかと心配になったものだった。

歯科は混合診療で、私費部分で収入を上げ、経営が成立するのだろうと漠然と思っていたが、どうもそれだけではないらしい。歯科の開業医が、MRICにその事情を記している。歯科開業医の方が、このように赤裸々に実情を記されることに敬意を表したい。最後に、この方の個人情報も載せられていたが、MLからの転載なのでここでは省いておく。

我々を含めて、患者側としては、医療はすべて低廉な料金で受けられれば、それに越したことはない。だが、低廉さも程度問題だ。6年間の専門教育を受け、その後数年間ないし十数年間の研修を積み、大きな初期投資を行って、スタッフを雇い入れて開業する。それに見合っただけの診療報酬が、確保されるべきだ。それは、各診療手技・材料費に、各歯科医・スタッフの人件費・社会福祉厚生費、さらに施設・診療機器の投資回収費用等を積み重ねれば、適切な金額が自ずと明らかになるはず。

ところが、現在の歯科医療は、滅茶苦茶なバーゲン料金になっている。まともな医療が成立しがたい診療報酬だ。で、この記事の筆者の言う「手抜き」が頻繁に行われることになる。歯科のその「手抜き」が止むに止まれぬものであることは、容易に想像がつく。それを行政は、もぐら叩きのように叩こうとする。行政の「指導」は、時に言葉の暴力を伴う。「指導」によって、自殺者が出たという話も聞く。その「手抜き」は、ますます地下に潜行する、という構図なのだろうか。

まともな診療報酬を保障せず、一方で行政的な締め付けを行い続けると、歯科医療は、経営的に立ち行かなくなる前に、倫理的に崩壊する。恐らく、その過程に既に入っているのだろう。専門家の倫理が崩壊すると、その被害は深く進行し、回復には大きな犠牲を要する。滅茶苦茶な歯科医療行政を行う政治・行政と、それに安住する国民に大きなツケが巡ってくる。

いや、歯科医療の問題は、他岸の火事ではない。開業医の担う地域医療でも、それに段々近づいている。歯科以外の医療の場合は、これまで経済的に比較的恵まれてきた高齢の開業医がリタイアを早めるという形で、この問題が表面化することだろう。それによって、地域医療の文字通りの崩壊(というか、不在)と、急性期医療機関への患者の殺到が起きる。それから、慌てても、容易には回復しないだろう。



以下、MRICより引用~~~

▽ 歯科の本当の姿、問題点 ▽

                    津曲(つまがり)雅美

         2009年10月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行
                 http://medg.jp


 まず、歯科の診療報酬が物理的に診療行為として実行不能な低点数だということを、皆さまになんとかわかっていただきたいと思います。例えば、虫歯のムシがくった、罹患した部分をエンジンや、手でスプーンを使って取り除く行為は根気のいる仕事で30分から1時間もかかることもありますが、これが16点(1点10円ですから160円、以下同様)です。また根の治療が140円でこれも時間がかかる根気のいる仕事です。入れ歯の型取り、これは場合よっては2日2回に分けて、2時間くらいかかることもありますが、これが2250円です。総入れ歯を入れた時は22800円ですが、技工代、材料代などを払えば私の場合は1万円ほどしか手元に残りません。あれだけやったのにです。

 また、話をわかりやすくするために、内容を簡略化しますが、同じ前歯の抜歯でも医師がやれば4578円、歯科医がやれば1500円です。同じく親知らずの埋もれている歯を抜歯すれば、同じく54830円と11500円です。抜歯と言えども外科手術です。神経も使いますし、事故などの危険性もある程度はあります。こんな点数で勘弁して下さいというのが正直な気持ちです。
  
 また、歯周病(歯槽膿漏)の手術では、先進医療(混合診療)の時は58000円ほどだったのが、保険に導入されたら9000円になり、材料代が15000円~31500円かかり、実際には施術できません。
  
 九州大学の水田副学長によると、歯科の1カ月の売り上げは外科の1日分だそうです。
  
 こういっても、にわかには信じられないと思います。今でこそ歯科医はワーキングプアとも言われ、前ほどは儲かる仕事ではなくなったが、昔は、または少し前までは儲かる仕事の代表の一つではなかったのか、儲かっていたということは、保険点数は、そこそこはもらっていたのだろう、歯科医の困窮化は数が増えすぎ たことだけが問題なのではないか、と思われるでしょう。当然です。
  
 その理由を書かせていただきます。日歯学会編纂の『歯科診療行為(外来)のタイムスタデイ調査2004年版』で、各診療行為に要する時間が精査されています。各診療行為にかかる時間を複数のモニターを使って精査しています。現在、歯科保険医療機関が一か月当たりに上げる平均保険点数は約30万点(300万円)ですが、これを1時間あたりに換算すると、一日9時間働くとしても1400点(14000円)/時間です。各診療行為の点数を1時間当たりに換算して、この14000円と比較します。抜歯、サシ歯、義歯など高い診療行為で700点/時間で平均の半分、義歯の調整、根の治療など低い診療行為で70点/時間つまり平均の5%、歯科の診療行為中『平均の1400点/時間を上回るものがない』のです。これは明らかに矛盾しており、日歯学会は日歯の内部組織ですから『日歯自身が多くの歯科医が手抜きで食っている』といっているのです。このタイムスタデイどおりに診療したら、月に30万点どころか10万点ほどしか上がらないと思います。これは私個人が言っているのではなく、日歯自身が言っているのですから、我々は十分なる証拠だと考えます。点数が低いぶん、パッパッと手早く、手抜きでやっているのです。日歯がそう言っているのです。

 手抜きには、不正・不当に密接に関連する部分があります。療養担当規則というものがあり「歯科医学上妥当適切に行うこと」と記載されているから、手抜きは同規則違反でもあります。外科や口腔外科なら、例えば抜歯したはずの歯が口の中にある、手術してないのに手術をしたことにして保険請求した・・・そんなこ とでもない限り基本的にはやった、やってないが全てで、不正も何もないわけです。だから我々一般歯科医のことは理解しづらい面があると思います。

 我々が多く手がける一般歯科とでもいうべき治療、例えば虫歯の治療ですが、軟化牙質(虫歯のムシ食いの部分)を残して、パッパッと詰めモノを詰める、これは手抜きであると同時に、療担規則違反の不正請求になります。上から詰めてしまうから、ムシ食いが残っていることは、外からはわかりません。患者さんにも わかりません。前述の外科の不正に比べ、この入り組んだ、わかりにくい構成が何とも言えない特徴です。手抜きは不正・不当と密接に関連しますし、手抜きでした、下手なんです、スイマセンでは済まない面があります。『手抜きとは、十分なことをしないで、十分なことをやったとして保険請求することですから、それは当然不 正請求になります』。
  
 そのようなわけで不正しているから技官が怖い、保険の個別指導が怖い。歯科医の技官への恐怖心は半端ではありません。引退し閉院し、子供が跡を継がない、保険指導が怖くいない歯科医しかモノが言えないと言っても決して言いすぎではありません。怖いから国民や厚労省や技官にモノが言えない、点数を上げてくれと言えないのです。だから営々と低点数でやってきたのです。
  
 それと歯科の低点数を国民の皆さんに理解してもらうのは、大変に困難だと思います。歯科が低点数なのは事実なのです。前述のとおり、点数が低いなら点数を上げてくれと言えばいいではないということになります。しかし、やましいから、点数を上げてくれと言えない。「歯科医の困窮は、数が増えすぎたことだけで はないのか。昔はまたは少し前までは歯科医は金持ちの象徴だったのだから、点数が低いというのはどういうことなのだ」と言われれば、まさか「実は点数は低かったのです。だから手抜きで食ってました」とは中々言えません。「言うに言えない」状態で悶々と出口の見えないトンネルの中を彷徨っていると言っていいと思います 。医科は大まかにいえば歯科に比べて、「高点数で高収入」です。歯科は今まで述べたとおり「低点数で高収入」です。
  
 低点数で、数で捌いて手抜きで稼いでいましたなど言ったら、大騒ぎになるでしょう。耐震偽造の事件では、誰しも建築業界ではこれが常識になっているのではないか、調べようがありませんが、業界の多くの業者がこんなことをしているのではないか、という疑念を持ったと思います。有罪判決を受けたイーホームズ(廃業)の藤田東吾社長が、今でも国民に訴えておられます。

 しかし、この類の事件は、検察も新聞も深追いしないし、検察もある程度で捜査を打ち切るのは、周知のとおりです。マスコミもここまでは載せてくれません。だから国民に伝わりません。事実が全て明らさまになれば、国中が大混乱に陥るからでしょう。政治家の不審な死に方や自殺も、このような事件に関わっている からではないのか、と思っている人は多いと思います。
  
 この歯科の低点数などの問題も、これに属するほどの件だと思います。国民は自分たちが手抜きの治療を受けていたと知ったら、それは簡単にはすまないでしょう。歯科界から社会、厚労省に保険点数の大幅アップを訴えるのは、そういう理由で中々に困難です。しかし、私たちは歯科の低点数の問題を正面から見据え主 張しないと、歯科医療、歯科界の再生はない、歯科医療は救われないと思います。物理的にできないものは、あくまでもできませんとしか言いようがありません。

 保団連は「保険でいい治療を」と言います。逆にいえば「保険でいい治療はできない」と言っているのに等いのです。それなら、自費収入が保険の不採算をカバーできるほど多い歯科医または、自費収入が少なく、かつ、規則どおりにキチンとマジメに診療し、その結果当然なこととして極貧に喘ぐ歯科医など、それら以 外の多くのというより、ほとんどの歯科医が、毎日手抜きしながら歯科保険医療制度の改革を望むという自家撞着に陥ります。毎日手抜きしながら改革を望むことになります。

 近年、厚労省の暴力とも言える指導監査が行われ、保険医、保険医療機関取り消し事由に当たらないのではないか、と思われえるケースでも、処分が行われています。さすがに、このままでは厚生行政に抹殺されるという思いが、医療界を立ち上がらせていると思います。

 拙文を読んでいただいた方、ありがとうございました。ご意見、ご質問等あれば下記にご連絡ください。

コメント

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091101-00000116-yom-soci

こういう事態を迎えながら、開業医のやる気をそぐような話ばかりですね。インセンティブが働かなければ誰もこんな仕事やりたくありませんよ。まったく。

そうですね~。またもや、開業医と勤務医を並べて比較する、意図的な世論誘導を中医協がやっていますね。民主党が政権を取れば、こうした可笑しな恣意的な議論は影を潜めるかと思いましたが、どうも与党政治家は、官僚にコントロールされ続けているような気がします。

「8時間待ち」で医療にアクセスできた時代が懐かしいということにならなければ良いのですが・・・。

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