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コーヒー一杯分の医療・・・ 

この4月の診療報酬改訂で、診療所の再診料が1割前後下げられるそうだ。病院の窮状を救うため、病院の再診料を上げるそうだ。医療費全体の2割程度しか費やされていない診療所の医療費を下げることで、財源がどれだけ病院に回せるというのだろうか。

再診料は、これで650円(本人負担は、3割負担で200円弱)になるらしい。これに複雑な指導料とか、処方箋料がつくのだが、基本的な医師の技術料は、コーヒー一杯のコストである。実際の収入減少はもとより、技術料が如何に低く見られているか、怒りを通り越して、何か脱力する思いだ。

一方で、様々な特殊法人のからむ特別会計の多くには、手が付けられていない。労働保険特別会計では、毎年1から2兆円の黒字が出ているようだ。例の「事業仕分け」では、こうした特別会計、特殊法人には、殆ど切り込まれていない。「事業仕分け」を計画実行した財務省は、最初からそうする積りだったわけだ。

下記の血液内科の医師がDPCという包括支払いの制度と格闘している様子が、我々にはよく理解できる。医療費を削減することは、結局、そのコストに見合った医療しか国民に提供できないことを意味する。その一方では、官僚の既得権益は温存され、むしろ拡大している気配すらある。

外来で患者さんの親御さんに尋ねてみたいものだ・・・コーヒー一杯の費用の医療を受けたいか、と。



以下、MRICより引用~~~

診断群分類との格闘」
~DPC対応クリティカルパスが生まれるまで~

帝京大学ちば総合医療センター
血液内科教授 小松恒彦

2010年1月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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●はじめに
2003年に診断群分類(Diagnosis Procedure Combination: DPC)に基づく包括医療費支払い制度が特定機能病院で開始された。その後DPC対象病院は増加の一途を辿り、2009年にはとうとう全一般病床の50%に達した。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/05/dl/s0509-3g.pdf
当初は一部の高度特定機能病院を対象として始まったが、今や様々な規模や機能の病院(病床)が対象となり、しかも出来高算定病院との棲み分けも不明瞭である。筆者の個人的な感想だが、敢えて制度を難解にすることは既得権擁護とすら感じてしまう。しかしそのような大きなテーマはさておき、一医師としてDPC制度との格闘の歴史を振り返ってみたい。

●血液内科は不要なのか?
筆者が初めてDPCでの請求レセプトを見た時の印象である。
2004年7月、当時勤務していた茨城県のT病院がDPC試行病院となった。多くの臨床医がそうであるように、私も医療に関わる制度や医療にはあまり関心がなかった。T病院の理事長先生は太っ腹で、「どうなるか解らんから、とりあえず2ヶ月は今まで通りやってよい」とのお言葉だったので、当時使用していたクリティカルパス(以下パス、作成者は自分)通り、一応の「計画医療」を行った。
そして8月、先月分の出来高、DPC両方のレセプトを見て目を疑った。殆どの患者で出来高に比べ収入が減少しており、1ヶ月分で約300万円の減収であった。当時は1人医長で負担は大きかったが、血液内科は収入が高額なことが大きな支えであった。それが瓦解したのである。これでは何もしないで酒でも飲んでる方がマシである。
これが、筆者がDPCに深入りすることになったきっかけである。その過程でDPCとパスが極めて親和性が高いことにも気づいていった。

●具体的な収支
血液がんで頻度の多い「悪性リンパ腫(括弧内は略号、ICD-10コード)」について検討してみる。
例えば、「びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL、C833)」に対する標準的抗がん剤治療である「R-CHOP(R:リツキシマブ+C:シクロフォスファミド+H:アドリアマイシン+O:ビンクリスチン+P:プレドニゾロン)療法」と、「末梢性T細胞性リンパ腫(PTCL、C844)」に対する「CHOP療法」を入院治療するケースを比較してみよう。
2004年4月版のDPC点数早見表(医学通信社、2004年7月発行)で非ホジキンリンパ腫の樹形図(130030)をみる。
まず「手術」の有無で分岐がある。おそらく多くの血液専門医は「手術ってなに?」と思うであろう。ここでの手術とは、A)リンパ節摘出術、B)胃切除術・脾摘出術・自家造血幹細胞移植・臍帯血移植、C)同種骨髄移植・同種末梢血幹細胞移植、が挙げられる。
多くの医師はこの時点で既に違和感を感じるであろう。これらの手術ごとに点数と対象日数が異なり、さらに同種移植でも臍帯血移植は包括で、末梢血・骨髄移植は出来高算定となる。
ここで「でも今回は手術なしだから」と気を取り直して「手術なし」をみる。しかし次にも「手術・処置等2」という分岐がある。これに該当するのが、中心静脈栄養、人工呼吸、放射線療法、血漿交換療法、インターフェロン、化学療法、リツキシマブである。この内前三者が「01」、後者が「02」に分類される。
さらに副傷病(感染症や出血などの合併症)の有無で分岐し最終的なDPCコードが決定される。副傷病まで及ぶと読者が興味を失うのでそこは省く。
ここでの最大の問題は「化学療法」と「リツキシマブ」が同じ範疇にあることである。即ち、DLBCLに対しR-CHOP療法を行う場合とPTCLに対しCHOP療法を行う場合の点数(病院の収入)が変わらないことである。
R-CHOP療法およびCHOP療法に必要な薬剤費を現在の公示薬価で計算(体表面積1.7m2とする)すると、R-CHOP療法は332,959円(R: 298,181円+C: 2,669円+H: 22,480円+O: 6,999円+P: 1,000円+その他: 1,630円)、CHOP療法は34,778円と、約10倍の開きがある。
1泊2日入院とすると医療機関の収入は144,260円なので、R-CHOP療法では188,699円の赤字(コスト率230%)、CHOP療法では109,482円の黒字(コスト率24%)となる。
実際はさらに検査費や人件費を考慮しなくてはいけない。人件費を55%としhttp://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/igyou/igyoukeiei/anteika1801.pdf
仮に許容される薬剤費率を40%とすると、抗がん剤以外何も使用しないという条件下では、R-CHOP療法では17日、CHOP療法では2日の入院日数が必要となる。
非ホジキンリンパ腫という同一の範疇に含まれる疾患に対する標準療法にも関わらず、薬剤費のため必要な入院日数に大きな差異が生じる。悪性リンパ腫に限らないが、がん化学療法での「1泊2日」入院は広く行われており、これが大赤字の原因の1つであった。
原因は判明したが、果たして医師として「貴方はDLBCLだから17日入院してね」とか「貴方はPTCLだから2日でいいよ」と説明できるだろうか?
おそらく日本中で同様の問題が噴出したのであろう。2005年7月から、非ホジキンリンパ腫でリツキシマブを使用した場合は出来高算定(Rだけではなく、当該入院期間全ての医療費が対象)されることとなった。一瞬安堵したものの、よく考えてみると「こんな重要なことが考慮されていなかったのか」である。
確かに医師(特に勤務医)は、医療費や薬剤費のことなど殆ど考えたことはなかった。その非は確かに責められるべきである。しかし、ここまで複雑では「制度を研究する(?)」という本末転倒な作業が必要となる。研究というのは未知の物事を知るための作業であって、人間が作った制度を対象とするものではないであろう。だが役所的には、「試行」に自ら手を上げて参加したのだから文句はいうな、である。この変更は一片の通達で示され、しかも「次期改訂に見直す」とある。
詳細は省くが、他の疾患や造血幹細胞移植でも同様の困難が生じていた。
当時の筆者は健気にも「必要な医療を提供するためには、臨床医の視点でDPCを熟知しなければいけない」との結論に達した。筆者は1999年頃より血液領域におけるパスの作成を積み重ね、造血幹細胞移植も含め既に約40種類のパスを使用していた。それらの全てに樹形図毎の点数と薬剤費・検査費を入力し、形式を一定とした全面改訂を開始した。また薬剤費も体表面積から自動的に計算される関数を挿入した。これらのパスは誰でもダウンロード可能としてある。
http://public.me.com/komatune
※薬剤費やDPC点数が全て最新版ではなく病院毎の実情も異なるので、使用は各人の責任でお願いいたします。

●2年毎の改訂への対応
このように地道な計算を積み重ね、やっと収支が改善したのもつかの間、2006年度の改訂が行われた。
「診療報酬改訂」の2008年度は0.82%減、2010年度は0.19%増、が話題になっている。DPC点数の改訂はそのような生ぬるい変化ではない。平気で数十パーセントの変更があり、かつ、DPCと出来高の間の変更も珍しくないのである。
しかもその過程はブラックボックス。不思議なことにメディアは一部の専門誌を除き、全く触れていない。
率直に言えば包括医療制度とは、如何に低コストで同等の成果(アウトカム)を得られるか、がポイントである。しかし一般にはコストを下げれば質も下がる、というのは普遍的な常識だ。介護保険との連携の難しさとも相まって、この頃からがん難民、未承認薬、適応外使用などの問題がクローズアップされてきた。
筆者は包括医療に反対ではなく、むしろ賛成している。なぜなら、「医療は人もお金も有限でありそれを現状として踏まえるべきである」、というのが1つ、もう1つは「包括医療ならば、例え困難でも低コストで同じアウトカムを達成できれば病院の収益増となる」ことだ。給料は増えないだろうが、医療の質向上に使える資金を産み出せることは極めて有用だと考えている。しかしこの「大改訂」はそれらの地道な努力では到底吸収不能である。
しかし実はそこに医療費を減らすため「外来化学療法」という大きな伏線が貼られていた。
・・・続く・・・

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