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医療の市場化のもたらすもの 

「人口減少社会の設計」というタイトルの本がある。松谷明彦・藤正巌著、中公新書。2002年、小泉政権が動き出した年に書かれた著作だ。松谷氏は、大蔵省主計局長の歴任者であり、この書籍に書かれた内容が、現財務省の考えに引き継がれていることは想像するに難くない。

この本の中ほどに、高齢化・人口減少社会における医療の問題について記されている。医療費の増加分は、高齢化等自然増と、医療技術の進歩による増加分に大きく分けられる。診療報酬を削って、医療技術の進歩分の増加を抑える、GDPの伸び(ないし縮小)に相当する範囲に収める必要がある。さらに、混合診療を導入し、医療を市場化することによって、「市場の見えざる手」が医療の生産性を向上させ、医療費の削減の動向が生じる、と記されている。(医療の生産性とは、「入院期間の短縮」か・・・様々な付随する事象を切り捨てて、こうした単一指標で物事を判断する単純さには呆れる・・・。)

医療費の削減と、混合診療の導入は、官僚にとって、必然であり、信奉すべきドグマなのだ。民主党連立政権に代っても、その方向性は変えられていない。規制改革会議は、混合診療の導入を最優先事項に挙げている。

下記の、MRICでの多田 智裕氏の文章は、混合診療導入時の一断面を的確に示している。混合診療が導入されると、医療機関の競争が、本来社会的な弱者である患者を犠牲にする形で進行するであろうことが予測される。さらに、国民は、病気に備えて、今よりも大きな医療保険商品を買わざるをえなくなる。民間保険資本は、利潤を上げるために、本来セーフティネットであるべき医療保険を利益追求の道具にする。さらに、同資本は、保険給付を絞るために、医療現場に強い拘束力を及ぼすことになる。それも結局は、患者の大きな不利益になる。

松谷氏らがこの本を記した時から、また大きく時代は変わった。米国流の市場原理主義が立ち行かなくなることを我々は目の当たりにした。米国では、医療の脱市場化を進めつつある。なのに、日本では、まだ医療を市場化しようという思想に、官僚が囚われ、政治家は彼等の言うがままだ。

混合診療の導入によって、医療に全くかかれない人々と、最先端の医療にかかれる人々が峻別されるようになる。医療は疲弊の極にあるから、今のままの医療体制では立ち行かなくなっているのは明らかだが、市場原理の無法図な導入は、医療の退廃を招く。すでに混合診療導入に動き出してしまっているように思えるが、医療現場を知る人間として、このことを警告しておきたい。

また官僚は、混合診療導入・公的医療の窮乏化による、国民の痛みを、医療現場の責任にしようと画策しているように見える。それは、医療現場の士気を落とし、さらに専門家集団である医師の倫理観を突き崩すことになる。士気はそう簡単には戻らない。また専門家が倫理観を無くすと、極めて深刻な事態が深層で進行することになる。そうした医療内部の精神的な荒廃がもたらすものは、結局患者・国民に降りかかることになる。それも改めて警告しておきたい。


以下、MRICより引用~~~

vol 117 解禁してはいけない「混合診療」
武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕
このコラムはThe hottest OPINION site in Japan JBpress http://jbpress.ismedia.jp/ よりの
転載です。
2010年3月31日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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 3月15日の日本経済新聞に「質が高くて効率的な医療・介護をぜひ」と題した社説が掲載されていました。医療の提供体制、高齢者の医療と介護、保険財政の改革などを提言するものでした。
 その中で、「高い医療技術を生かして医療・介護産業を育てる」という視点から、「保険診療と保
険外診療の組み合わせ(混合診療)の原則解禁が欠かせない」と述べられていました。
 内閣府の規制改革会議でも、最重要課題のトップに「保険外併用療養(いわゆる「混合診療」)の在り方の見直し」が挙げられています。

【混合診療を解禁するといいことづくめ?】
 現在の日本の保険診療では、保険診療と保険外診療(自由診療)を併用すること、つまり混合診療は原則として禁止されています。保険で認められていない保険外診療が診療内容に加わった場合には保険が適用されず、全額が患者の自己負担となります。
 例えば、「海外では普通に使用されているけれど、日本でまだ未承認の薬で治療してほしい」という場合には、1カ月分3万円の薬代金を追加で自己負担すればよいというわけではなく、保険適用診療分も全額自費での治療になります。
 この場合、混合診療が認められていれば、診察検査代金7万円の自己負担(3割)分2万1000円+薬代3万円=5万1000円で済みます。
 ところが、混合診療が認められていない現状では、保険適用診療分も全額自己負担となりますので、診察検査代金7万円+薬代3万円=10万円になってしまうのです。
 このように、混合診療を認めれば、保険外治療を望む患者の自己負担額は大幅に減ります。また、保険外治療分は国庫負担が生じないため、医療費の削減効果も見込まれます。
 こう考えると、利用者の多彩なニーズに応えることができて、なおかつ健康保険料からまかなう医療費負担も減るのであれば、「さっさと解禁して、余裕のある人は医療費を多く支払って望む治療を受けられるようにすれば良いじゃないか」と思うことでしょう。
 でも、混合診療解禁問題は、そんなうまい話では決してないのです。

【自由診療サービスが病院の収入源に】
 もしも混合診療が解禁されると、病院でどのようなことが起きるでしょうか。
 「症状はないけれど腫瘍マーカーをチェックしてください」とか、「胃や大腸の内視鏡検査は静脈麻酔を使用して、痛みなくやってください」などといった患者の要望は、現状の保険診療ではカバーされていません。
 もしも混合診療が解禁されると、患者は追加料金を支払うことでこれらの要望を受け入れてもらえるようになります。
 一方、病院の側にしてみると、現状ではほとんどの病院が低い医療保険点数のため赤字に苦しんでいますので、保険診療以外に数万円の追加収入が得られる自由診療サービスはどんどん提供したいところです。
 混合診療が解禁されれば、多くの医療機関が上記のみならず患者の細かなニーズに応えた様々なサービスを打ち出して、収入アップを図ることでしょう。
 実際に、差額ベッド(追加料金が発生する個室などのこと)の比率制限が全病床の2割から5割に引き上げられた時には、大部分の病院が上限の5割まで差額ベットを増やして対応しました。病院にとって1日3万円の差額ベット代金は、売り上げの1割以上を占める貴重な収入源なのです。

【公的保険診療しか行わない病院は「完敗」する】
 ここまでの説明だと、「今まで国民皆保険だからという理由で十分なサービスを行なってこなかった医療機関が、必死にプラスアルファのサービスを行なうようになるのだから、良いことではないか」と思われるかもしれません。
 しかし、話はそれでは終わりません。
 数万円の追加収入が得られるサービスを次々と提供した病院は、その利益を再投資して最先端の医療機器をどんどん導入します。スタッフにも高待遇が提示できるため、優秀なスタッフが集まってきます。
 一方、追加自己負担金をなるべく生じさせないで、現在の医療費の枠内で頑張っている病院は、待遇を改善できずにスタッフを引き抜かれ、赤字のため医療機器も最新のものが揃えられず、設備がどんどん老朽化します。
 「混合診療を導入しても、保険診療部分が維持される」と考えるのは幻想です。公的保険でカバーされる部分だけで治療を行なう病院は、混合診療を取り入れた病院に、数年のうちに完敗するでしょう。
 気がついた時には、健康保険適用外の自己負担金を支払わないと満足な医療が受けられないような状況になっているのです。

【医療における消費格差を生み出す】
 現在でも、「1日当たり3万円の差額ベッド代金がかかる部屋ならばすぐに入院できますが、差額なしの病室は現在空きがありません。入院は1カ月先まで待っていただくことになります」という事態が頻発しています。
 「追加分を自己負担すれば多様な医療サービスを受けられる」という状態を制度的に認めると、お金を支払うことができるお金持ちは良い治療を受けられることになります。
 一方で、お金のない人は必要な医療を受けられない、良い薬が手に入れられないという状態を作り出すことになるのです。
 誰でも病気になった時に、必要な医療を少ない負担で受けられる状態を維持するためには、医療単価をアップするしかありません。それがこれほどまでにスムーズに進まないのは、私には信じ難いことです。
 日本の総医療費は約30兆円で、パチンコ産業の売り上げとほぼ同じくらいだとよく言われます。ただし、そのうち国庫負担分は12兆円にしか過ぎないのです。
 混合診療は、「みんなに広く平等に」という現在の医療の方向性に、真っ向から相反するものです。支払い能力によって受けられる医療に格差がつく社会にして、本当にいいのでしょうか?

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