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ターミナルケア 

昨日、T先生をお見舞いした。T先生は、89歳、無教会主義キリスト教の独立伝道をずっと続けてこられた方だ。私の一家もいろいろとお世話になってきた。過剰な宗教性を感じさせない普段の立ち居振る舞い・言動、ユーモアに溢れた暖かい人柄の方で、我が家、それに周囲の人々は、敬愛の念をこめてT先生とお呼びしてきた。

先週半ば、姉から、T先生の具合が良くない、元気が無く、時々血圧が上がるようだと連絡があった。T先生の周囲には、ご家族、医療関係者もおられるので、一度加減を伺う電話を差し上げただけで、週末にでもお見舞いに伺おうかと考えていた。

先週土曜日に姉から再び連絡があり、T先生の容態が急に悪化、救急車で病院に運ばれ入院になったとのこと。大変残念なことに、肺がんの末期とのことだった。昨日、日曜日、急患を診てから、家族とともにお見舞いに伺った。

半起座位で臥床されていた。酸素吸入・点滴を受け、心電図モニター・飽和酸素モニターを装着されていた。意識レベルが低下して点滴を外すことを防ぐためだろうか、両手がベッドの柵に抑制されていた。呼吸は浅く速い。苦しそうであったが、私を見るとすぐに私であることが分かった様子だった。苦しそうな息遣いで、「おぉ、見学か?」と言葉をかけてくれた。私が、研修医をしていた頃をイメージしていたのだろうか。「呼吸が苦しい、医師は原因が分からないと言っている」と仰っていた。

手を握り締め、10分程度でお暇した。

これまで医療機関にかかっておらず、飛び込みで重症化してから入院されたので、一般病床でこのようなケアを受けること自体仕方の無いことかもしれない。が、T先生は、ターミナルケアを必要とする状況だ。その後、ホスピスに移っていただくように周囲が動いていると伺った。ホスピスで適切なケアを受け、少しでも楽な状態になって頂きたい。

人が死に行くことは、本人にとって生誕と同じように大きな事業だ。死に行く人々は、社会のなかで大きな存在であるのに、その声は社会システムには反映されにくい。死に行く人々は、多くの場合、無言で去ってゆく。これから高齢化社会がいよいよ深まって行く中で、死に行く人々のことを自分のこととして考える必要があるのではないだろうか。

死に行く病であり、死期が何時訪れるかを、誰がいつ、如何様に本人に告知するのかが、大きな問題だ。T先生のご家族から、姉に、告知についても話があった様子だ。キリスト教信仰に堅く立って人生を過ごされたT先生のような方に対してでも、告知をどのようにするかは、周囲で肌理細やかな配慮を必要とする。ご家族にとっても、大きな喪失を目の前にして、告知は微妙な問題だ。告知を受ける心構えを、私自身が出来ているかと問われているような気がする。

ターミナルケアを在宅で受けられる方は、本当に恵まれている方だ。死に際の苦しみを、家族がケアし、看取ることは極めて難しい。またそのためのマンパワーがない家庭が多い。

ターミナルケアを行うホスピスが、現在どれほどあるのだろうか。最新のデータでは、全国で、195施設、3869床だけらしい。当地では、3施設だけ。病床数も恐らく数十という単位だろう。毎年、男性の20万人強が、女性の15万人弱が、がんで死亡する。恐らく、現在でも、ホスピス入所の要望を満たしているということはなさそうだ。人生の大きな出来事である、死に行くことを、不要な不安・恐怖と、苦痛を伴わずに、平安に周囲に看取られて実現するために、ホスピス・関連する施設・そこで働くスタッフを大幅に充実させることが必要ではないのだろうか。

ホスピスの診療報酬算定要件に、その施設が、日本医療機能評価機構の「認定」を受けることが挙げられている。この「認定」なるものは、繰り返しこのブログで取り上げている通り、殆ど無意味なもので、医療現場にペーパーワークを強要し、無駄な会議を繰り返させるものだ。その一方で、認定に数百万円のオーダーの認定料を、同機構は医療機関に要求し、さらに毎年数十万円のオーダーで会費を徴収する。この組織の実質は、官僚の天下り先だ。死に行く人々を食い物にするこうした組織は、まず第一に「事業仕分け」をしてもらいたいものだが、厚生労働省は、こうした天下り先を切り捨ている積りは毛頭なさそうだ。同機構は、莫大な収入となる産科補償制度も取り込み、自己増殖を続けている。

死に行くことを考えるのは、決して心地よいことではない。が、死は、我々一人一人に必ず訪れることだ。死に行くことへの心構えを常に持つ必要がある。また、死に行く人々が、現世と家族・友人達と平安に別れを告げることが出来る社会制度が確保されるようにする必要がある。

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