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医師増員は、医療崩壊を救うか? 

過去に医師の大幅な増員が実際行なわれたのは、1980年代始めのことだ。各県に一つの医大を、というスローガンの下に、国(公)立、私立の医学部、医大が、ぞくぞくと作られた。その当時は、人口が増え、さらに経済も右肩上がりの状態だった。それで、医師の大幅増員が可能であったし、その社会的な要請もあったのだろう。

現在の医師不足は、上記の大増員以降の医師数抑制策が効いてきたこともあるが、医師の数をより多く必要とする医療の発達と、それを支えきれぬばかりか、削減され続けてきた医療費の問題によって起きている。現政権は、こうした問題を根本的に改善することなく、医師数を増やそうとしている。現在、医師は、地域的に、さらに専門科により、偏在しているといわれている。医師数を増やせば、医師数の相対的に少ない「裾野」、即ち、地方と、リスク・労働環境の大変な専門科に医師が流れてゆかざるを得なくなると踏んでいるのだろうか。また、医師が過剰になれば、行政による、医師の強制配置が可能になると予測しているのだろうか。医療費は実質据え置きのまま、医師数を大幅に増やすという政策は、現在の医療の根本的な問題を解決しようとするものではないことは明らかだ。

そのような思惑通りに事が運ぶとは思えない。低医療費では、問題の根本的な解決はないからだ。さらなる歪が出てくることだろう。さらなる過酷な労働環境が医師に与えられたら、家庭に入る女性医師は必然的に増えるだろうし、団塊の世代の多くの医師が退職する、または第一線から退くことが早まる。女性医師は、医師全体の3割を占め、さらに開業医の半数は団塊の世代以上なのだ。これまで医療制度がようやく保たれてきた背後にある、医師の倫理観・エートスは、失われるに違いない。専門家の倫理観・エートスが失われる事態は、法律や、行政の命令では強制的に改善し得ない、恐るべき問題になる。行政の強制力の及ばない、自費診療に生きようとする医師も増えるだろう。

臨床家として分かりやすく医師増員問題(この場合は、医学部数ないし医大数を増やす問題)を分析している、多田智裕氏の論文が、MRICに載っていたので紹介する。


以下、MRICより引用~~~

医師を増やせば医療崩壊は本当に解決するのか

武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕

※このコラムは世界を知り、日本を知るグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載
されたものを転載したものです。他の多くの記事が詰まったサイトもぜひご覧ください。 URLはこ
ちら→http://jbpress.ismedia.jp/

2010年5月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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 民主党は、政権を勝ち取った2009年の総選挙の際に、医療 崩壊を防ぎ、医療を成長産業とするために「医師数1.5倍」と「医師養成数1.5倍」を実現するとマニフェストに明記していました。2010年2月には 「医学部新設へ申請、3私立大が準備 認可なら79年以来」(朝日新聞)との報道もありました。

 一昨年、医師不足により閉鎖した銚子市立病院の例を見るまでもなく、「医療崩壊の原因は医師不足である。だから、医師の数および養成数を増やせば医療崩壊は解決する」と言われれば多くの人は納得してしまうことでしょう。

 しかし、医師不足だから医師の数を増やせば良いという理屈で医学部を新設することは、実は現状の日本の医療にとっては「百害あって一利なし」なのです(全国医学部部長病院長会議が医学部新設に反対する声明(http://www.ajmc.umin.jp/22.2.22youbou.pdf)を連名で公開していますので、参考までご覧ください)。

【そもそも日本の医学部は少ないのか?】
 日本には現在80の医学部が存在します。ちなみに米国の医学部は130校ほどです。人口が日本の約1億3000万人に対して米国は約3億人ですから、人口比率の上で日本の医学部の数はすでに十分すぎるのです。

 しかも、既にこの3年間で各医学部の定員を増やすことにより、1200名(医学部12~13校分)、割合にして16%もの医師養成数増加を達成しているわけです。これだけでも、毎年4400人ずつ医師は増加していきます。

 今後は高齢化が進むために医療需要が増大していくのか、それとも日本の人口減によって医療需要は実はそれほど伸びないと見るのか。その予測は難しいものがあります。

 でも、経営再建中のJALですら、不採算路線の削減は様々な反対に遭ってスムーズに進んでいません。いったん医学部を新設してしまったら、投資し た設備や従業員のことなどを考えると、「10年経って医者が足りてきたから、必要数を見直して閉鎖統廃合する」なんてことはほぼ不可能でしょう。

【現在の医師数でもより高いサービスは実現できるはず】
 今の医療崩壊の本質は、医療現場で働く人材が不足しているため、利用者(患者)がサービス面で不利益を被っているということです。

 ですから、医療スタッフの数を増やことは確かに重要です。しかし、これは、ただ単に医師の数を増やせば良いということではないのです。

 一例を挙げましょう。日本において、年に50件前後(週に1件程度)しか全身麻酔手術を執刀していない外科専門医は数多く存在します。その主な原因は、外科医が手術を行えない状況にあるからです。

 医療事務や看護師などの「コメディカルスタッフ」を倍増して、外科医がもっと手術に専念できるような環境にすれば、1人当たり3~5倍の件数を執刀することは十分に可能でしょう。

 このようなことが各科目内で達成できるならば、実は医師数を増やす必要はないのです。現在の医師数でも、より高いサービスが提供できるようになるのです。

 なぜ、これが実現できていないのかというかと、コメディカルスタッフを増員する余力が医療機関にないからです。

 よく挙げられる例ですが、米国では盲腸手術代金が平均243万円なのに対して、日本では37万円に過ぎません。これに加えて、輸入手術消耗機材 は、物によっては米国の約3倍の値段で購入しているのです。ですから現場にしてみれば、スタッフを増員することなど常軌を逸した夢物語でしかないのです。

【数を増やしても質が伴わなければ本当の医療崩壊をきたす】
 弁護士を見てみましょう。2002年度に、司法試験合格者数は約1000人でした。それを、ロースクール増設によって、2009年度は2000人にまで倍増させました。

 しかしその結果、弁護士の質の低下をきたし、さらに1人当たりの仕事が減ることで質の向上が図られないという悪循環に陥っています。

 冒頭の全国医学部部長病院長会議の声明の中で、「医学部を新設すると、医学部スタッフとして地域の働き盛りの現場の医師を引きはがしてしまい、地域医療の崩壊を悪化させる」という指摘がありました。

 その指摘はもちろん正しいのですが、しかし、もっと問題なのは、単純に6年間の医学教育を施しただけでは一人前の医師は育てられないという事実です。

 医師は医学部卒業後、優秀な指導者のもとでさらに5~10年の実地指導を受けて経験を積むことで、初めて一人前の医師として活動できるのです。

 医師を急激に増やした場合、弁護士と同じく、卒後研修施設への就職すらままならず、未熟なまま独立せざるを得ないる医師を増やすだけでしょう。

 「医原性」(医療を受けたことで病気が発生すること)という言葉もあるように、医療行為によって逆に危害を被る可能性もゼロではないのです。卒後の教育体制まで見据えないまま医師の数を増員すれば、真の意味での医療崩壊を引き起こすことでしょう。

【150億円を超える予算を注ぎ込む必要があるのか?】
 鳩山由紀夫現総理は2009年の総選挙前の党首討論で、「(医療費増額を数%としている麻生太郎総理とは違い)診療報酬を2割ほど上げないと厳しい(医療崩壊は食い止められない)と感じている」と発言しました。

 しかし、蓋を開けてみれば、総選挙後の2010年4月の診療報酬改定結果は、プラス0.19%に過ぎませんでした(その後、新薬値下げ分のマイナス0.16%を除外していたことが判明したので、実質はプラス0.03%でした)。

 医療に回す予算を増やせない以上、マニフェストにいくら「医師養成数1.5倍」と記載されていたとしても、150億円を超える膨大な費用を新設医 学部につぎ込む必要はあるのでしょうか? それよりも既存医学部の定員増加の方が、はるかにかかるコストは少なくてすむはずです。

 特色ある医学部を新設することで、これまでとは異なる多様性を備えた医師を育てることができるかもしれません。

 しかし、全体の政策として見ると、他の部分を削ってまで新設医学部に莫大な予算を注ぎ込むのは、日本の医療の現状に即していないのではないか──。私にはそう思えてならないのです。

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