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マイロターグ発売中止 

マイロターグという白血病の薬が発売されなくなったようだ。白血病細胞の細胞膜に表現されるCD33という抗原に対する単クローン抗体に、抗白血病薬をつけてた製剤だ。抗体によって白血病細胞に結合し、薬の効果で白血病細胞を破壊しようというアイデアの薬のようだ。問題は、かなり高価なことと、致死性の肝臓の静脈炎を起こすことがあることらしい。でも、下記の文章にある通り、高齢者等通常の寛解導入療法が実施できない、または効果が見られない患者にとっては、一縷の望みを託すものだった。

だが、多剤併用療法にこの薬を加えることで、むしろ患者の生存期間を短くしてしまったという研究結果が出て、製薬会社は、製造発売の承認を求めることを取りやめたということだ。しかし、この記事の筆者が述べている通り、上記のような通常の治療が実施できない、効果が期待できない患者にとっては、まだ存在価値はあり続ける。

製薬会社にとっては、いかなる事業であっても、基本的に利潤を上げることが主要な目的だ。この製剤を製造発売することを取りやめたのは、何らかの理由で、利潤を上げることが期待できないと判断したのだろう。恐らく、上記の多剤併用療法の研究結果は、製造発売を中止する、表面上の理由に過ぎないように思える。

理由を想像してみるに、以下のようなことが考えられる。マイロターグの適応になる患者は少なく、所謂オーファンドラッグと同等の位置づけで、元来収益が多く見込めなかった。副作用が多く、それへの対処、もしかすると、訴訟への対応が必要になったのかもしれない。会社のリソースを、より多くの収益のみこめる部門に重点的に回すために、このように収益の見込めぬ薬剤は切り捨てた。・・・といったことが考えられるだろう。グーズナーの著書によれば、製薬企業は、時代を画するような薬品の開発にはあまり投資をせず、むしろ市場の確立している製剤に少し手を加えて得られる二番煎じの製剤、そのマーケッティングに、より多くの投資を行っている、という。

マイロターグに期待していた急性白血病の患者達は、どのような思いで、この製薬会社の決定を見ていることだろうか。

昨年10月に亡くなった、友人N氏も同じようにこの薬に最後の期待をかけていた。かなりのお金が必要になるが、病的細胞を減らして、全身状態がよくなれば、この薬を使うのだ、とマイロターグという薬の名を何度も口にしていた。希望を込めて、彼は、この薬の名を口にしていた。残念ながら、マイロターグを使う前に、帰らぬ人になってしまった。その一周忌を迎える。



以下、MRICより引用~~~

白血病治療薬 「マイロターグ」
製薬会社はなぜ、自主的に承認を取り下げたのか。

坪倉正治
2010年10月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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【はじめに】
マイロターグという薬剤をご存知でしょうか? CD33に対する抗体(ゲムツズマブ)にカリケアマイシンという抗がん剤を結合させて作られた、新規抗がん剤の一種です。日本では2005年に承認され、再発又は難治性のCD33陽性急性骨髄性白血病(AML)に対して使用されています。

現在、このマイロターグはファイザー社にその所有権がありますが、2010年6月21日、米国ファイザー社は米国内でのマイロターグの販売中止と自主的な承認の取下げを行うことを発表しました。ファイザー社はこの発表と同時に、医療者に向けて発信した文章の中で、今回の決定の根拠となった試験の結果について説明しています[1]。

今回はこの決定に関する問題点と、この決定が与える日常診療への影響について解説したいと思います。

【マイロターグ承認から発売中止まで】
そもそもこのマイロターグはワイス社(アメリカ)によって開発された薬剤です。他の化学療法の適応がない60歳以上のCD33陽性急性骨髄性白血病、再発患者に対し、単剤療法で用いる薬剤として2000年に米国食品医薬品局(FDA)に迅速承認されました。迅速承認とは、癌などの重篤な(生命に関わる)疾患のための薬剤を、市販後に臨床的有益性を確認する試験を実施して追加データを提出することを条件に、有効性に関する早い段階のエビデンスに基づいて承認するという米国独自のシステムです。

その承認段階では、142人の再発急性骨髄性白血病患者を対象とした、3件の非比較試験が審査に用いられ、その試験結果は、寛解率が30%であるというものでした[2]。2000年のアメリカでの迅速承認後、日本では2005年に承認されており、2007年での日本国内売上高は5.5億円に上ります。

【今回の承認取り下げとなった理由】
上記に述べた、市販後試験の結果が、去年のASH(米国血液学会議)で発表されました。この試験(SWOG S0106)は未治療の急性骨髄性白血病患者を対象に、標準的な初回寛解導入療法であるダウノルビシン塩酸塩とシタラビンの併用療法へのマイロターグの併用効果、及び、大量シタラビン療法による地固め療法後のマイロターグの追加投与の効果を検討しています[3]。結果は、マイロターグ併用による生存率の延長は認められず、逆に致死的有害事象がマイロターグ併用群で有意に高い(5.7% vs 1.4%)というものでした。

【ファイザー社の自主的な販売中止】
米国ファイザー社は、このSWOG S0106試験の結果を基にし、FDAと合議の上、米国内でのマイロターグの販売中止と自主的な承認の取下げを行うことを決定したと発表しています。このSWOG S0106を根拠とした今回の決定は科学的に妥当であったのでしょうか?私にはそうは思えません。

理由は、そもそもSWOG S0106が61歳より若い白血病の患者のみを対象とし、大量化学療法に対するマイロターグの上乗せ効果を検討した試験であるからです。急性骨髄性白血病の患者の発症年齢中央値は67歳と言われています[4]。通常、高齢の白血病患者さんに大量化学療法を用いることはなく、マイロターグが使用される場合、当初の承認通りの単剤使用が主です。今回のSWOG S0106は、若年者のみを対象とし、多剤併用化学療法でのマイロターグの効果を比較したに過ぎないのです。この結果に基づいて、急性骨髄性白血病に対してマイロターグの有用性が認められなかったと拡大解釈することはできません。

ファイザー自身も、先ほどご紹介した、ファイザー社が医療者にあてた文章の中でも、「今回のSWOG S0106の結果は、マイロターグ単剤として効果がないということを証明するものではない。」と述べています。ではなぜ、SWOG S0106がマイロターグ販売を完全に中止する根拠となり得るのでしょうか。

【白血病患者さんへの影響】
急性骨髄性白血病に対しては、アントラサイクリン系薬にシタラビンを加えた治療法が広く用いられ、50~80パーセントの寛解導入率が得られています。しかしながら、大半の患者さんが再発をしてしまい、長期生存が得られるのは全体の3割に満たないのが現状です。なかでも今回のSWOG S0106では対象とならなかった60歳以上の高齢者では治療に苦戦する場合が多く、寛解導入率は50パーセント以下、長期生存率は0~15パーセントときびしい状況でした。はじめから化学療法の効かない難治例の割合も全体の半数以上にのぼり、難治例や再発例に対する次の治療手段が強く望まれていました。マイロターグは、現在その位置付けにあります。今回のファイザーの決定により、このような患者さんたちの治療機会が奪われてしまう可能性があります。

確かにマイロターグは、最初の承認時点から、致死的な静脈閉塞性の重篤な肝疾患と関連があるとされており、この発生率は市販後において増加しました。また、そもそも抗がん剤としての生体内での安定性の問題点も以前から指摘されています[5]。しかしながら、高齢の白血病患者さんにおいては治療薬の一角を担っていることは確かですし[6]、一部の白血病患者において、従来の化学療法に取って代わる程の効果が認められつつあります[7]。

確かに承認後に発表されたデータに基づいて、販売継続が議論された薬剤は存在します。つい先日も、ロシグリタゾン(商品名;アヴァンディア)という薬剤の販売継続の可否がFDA諮問委員会にて議論されました。この薬剤はかつてアクトスに競り勝ってアメリカでの年間売り上げ30億ドルを誇った糖尿病薬なのですが、2007年のメタ解析で心血管リスク上昇を指摘され、その後の売上は激減していました。33人の諮問委員のうち20人が販売続行を支持した結果、この薬剤は販売続行を勝ち取っています。

今回のマイロターグのような、ある特定の患者群に対する試験にて良い結果が出なかったことを理由とし、別段積極的な議論も無く販売を中止するのは筋が通りません。

製薬企業も、2010年前後に大型医薬品の特許が一斉に切れることにより、収益に重大な影響をもたらすといわれる、いわゆる「2010年問題」の真っ只中にあります。今回の件も、ファイザーの製薬会社としての経済的理由から、抗がん剤販売の選択と集中を目指した結果なのかもしれません。ファイザー社およびFDAにはもう一度この問題に対する十分な議論を望みます。

Reference

[1] Dear Healthcare Professional Letter. [cited; Available from: http://media.pfizer.com/files/products/mylotarg_hcp_letter.pdf

[2] Sievers EL, Larson RA, Stadtmauer EA, Estey E, Lowenberg B, Dombret H, et al. Efficacy and safety of gemtuzumab ozogamicin in patients with CD33-positive acute myeloid leukemia in first relapse. J Clin Oncol. 2001 Jul 1;19(13):3244-54.

[3] Stephen P, Kenneth K, Robert KS, Richard AL, Thomas JN, Leif S, et al. Preliminary Results of Southwest Oncology Group Study S0106: An International Intergroup Phase 3 Randomized Trial Comparing the Addition of Gemtuzumab Ozogamicin to Standard Induction Therapy Versus Standard Induction Therapy Followed by a Second Randomization to Post-Consolidation Gemtuzumab Ozogamicin Versus No Additional Therapy for Previously Untreated Acute Myeloid Leukemia. Blood (ASH Annual Meeting Abstracts). 2009;114(Nov
2009):790.

[4] SEER Stat Fact Sheets: Acute Myeloid Leukemia.

[5] Suzuki R, Kobayashi K, Murashige N, Kami M. Mylotarg is not a "magic bullet". Int J Hematol. 2006 Aug;84(2):188-9.

[6] McHayleh W, Foon K, Redner R, Sehgal R, Raptis A, Agha M, et al. Gemtuzumab ozogamicin as first-line treatment in patients aged 70 years or older with acute myeloid leukemia.
Cancer. Jun 15;116(12):3001-5.

[7] Ravandi F, Estey E, Jones D, Faderl S, O'Brien S, Fiorentino J, et al. Effective treatment of acute promyelocytic leukemia with all-trans-retinoic acid, arsenic trioxide, and gemtuzumab ozogamicin. J Clin Oncol. 2009 Feb 1;27(4):504-10.

コメント

安全な薬など無いのに

それを求める国民とメディアがありますからね(笑)
 止めるのが企業としては最善の選択かと。
 副作用の強い抗癌剤や、たとえ有効であってもハイリスクな治療手段は、社会的に淘汰されるんでしょうね。

製薬企業にしてみると、そのように考えるのかもしれませんね。でも、絶対予後不良の高齢のAML患者にとっては、治療の選択肢がなくなるのは辛くないでしょうかね・・・。

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