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院内感染の届出義務化 

帝京大学病院の多剤耐性アシネトバクター院内感染問題を契機に、院内感染の届出義務化を、行政はするつもりらしい。

彼らの意図は、二つあるように思える。

一つは、責任回避である。低医療費政策下で、院内感染に十分なマンパワーと設備・検査を充てることができない、システムエラーは放置したままである。その点の責任を行政が追及されぬように、下記の井上論文が示すとおり、刑罰化を念頭に置いた届出義務化を医療機関に課す。それによって、自らの責任を目立たなくし、医療機関に責任を負わせる積りなのだろう。

もう一つ、こうした責任追及のシステムを作り上げることにより、行政が医療機関を支配しようとする意図をひしひしと感じる。院内感染の届出を受けて、行政は、様々な指示を行い、それに従うことを強制するはずである。彼らは、通知一通で医療機関を如何様にも動かせるのだ。この届出制度もそうしたシステムの一環になるはずだ。ひいては、行政の悲願である「医療事故調」を実現する梃子に利用する積りなのだろう。その時に、天下りの多数の席を備えた、医療の支配制度が確立することになる。

医療のこうした問題を刑事罰の対象に挙げることだけで、医療は萎縮する。刑事罰の対象にされることを避けることが、医療従事者にとって一番の関心事になる。リスクのある医療、リスクを負った患者の受け入れに消極的にならざるをえなくなる。最終的な被害を受けるのは、国民である。

院内感染を、殺人等重大犯罪を担当する、捜査一課が捜査するのは、ブラックユーモア以外の何者でもない。


以下、MRICより引用~~~

院内感染の届出義務化と刑罰化

井上清成(弁護士)
2010年10月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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1.院内感染への過剰反応

 帝京大学医学部附属病院(東京・北区、以下帝京大病院)で発生した多剤耐性アシネトバクター・バウマニの院内感染につき、9月初めに病院自らが発表したところ、マスコミや厚生労働省、警視庁が過剰反応してしまった。医療者や医療団体が次々に沈静化を求める見解や声明を発表したため、過熱報道をはじめとする過剰反応も、少しは平静を取り戻しつつあるように感じる。

 しかし、こんなヒステリックな反応をしていたのでは、院内感染情報の公開や共有化を進めることすらままならない。公表するよりも、まずは病院自身で院内感染への対策を積み重ねてきた帝京大病院の対応が正しかったと評価できよう。

 今後の情報公開・情報共有化を推し進めるためにも、マスコミ・厚生労働省・警視庁はその過熱ぶりを反省すべきである。

2.厚労省による届出義務化の動き

 長妻昭前厚生労働大臣は、帝京大病院の公表後すぐに、多剤耐性アシネトバクターの院内感染発生を感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)上の届出義務化してはという趣旨の動きをした。間もなく、「多剤耐性菌の動向把握に関する意見交換会」も開かれている。しかし、アシネトバクター感染症を感染症法第6条第6項に定める「5類感染症」に加えるべきでない、と考える。

 5類感染症と言えば、有名なところではインフルエンザ・ウイルス性肝炎・後天性免疫不全症候群・梅毒といったところである。到底、アシネトバクターが同等とは感じられない。院内感染で言えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症もある。そもそも弱毒のアシネトバクターを入れたのでは、余りにもバランスを失していると言えよう。

 もちろん、5類感染症に加えたならば、感染症法第12条第1項第2号で届出義務を課されかねない。感染症により死亡した者の死体を検案した医師も届出義務を課されてしまう。まるで医師法第21条の異状死届出と同様に扱われかねない。当然、届出義務違反に対しては、感染症法第77条第1号で刑罰が科される。

 翻って、仮に届け出たとして、厚労省はどういう効果的な対処措置を講じうるのであろうか。予防、感染拡大は、厚労省というよりも、感染症専門家や病院自身の多大な手間と労力に頼るほかはない。かと言って、厚労省は人的・物的資源に対する緊急予算措置も難しいであろう。また、感染した患者に対する治療の側面でも、厚労省には有効な手立てが今はないらしい。つまり、届出をしても効果的な権限を行使できないのに、医療者に対してだけ届出義務を課しても無意味である。かえって有害ですらあろう。

 厚労省は、届出義務という規制ではなく、本来の給付をすべきである。現在、治療に有効かもしれない未承認薬として、コリスチンとチゲサイクリンという医薬品があると聞く。これもドラッグ・ラグの一側面であるので、直ちにこれらを給付(つまり、承認)すべきではないか。具体的には、これらの医薬品を薬事法上の承認は飛ばして、直ちに大臣告示を発して薬価基準に収載して保険適用すべきであろう。それは法的にも十分に可能であると考えられる。

3.警視庁による刑罰化の動き

  警視庁も、帝京大病院の公表後すぐに、院内感染に介入した。業務上過失致死罪(刑法第211条第1項)の容疑に基づく任意捜査だという。しかし、院内感染は犯罪捜査の対象ではない。

 現に、全国医学部長病院長会議をはじめ各医療者の団体が声明を発表した。たとえば、9月14日に発表された全国医学部長病院長会議は、次のように述べている。「今回、警視庁が当初より、業務上過失致死罪に該当する行為があるのかどうか、誰が同罪の容疑者となりうるか、任意であるとはいえ同病院関係者から事情聴取を行っていることに対し、全国医学部長病院長会議は大変遺憾に思うと同時に、強い懸念を抱いております。私たちは、医療現場における刑事捜査はその対象を明らかな犯罪や悪意による行為に限るべきであると考えております。刑事責任の追及を目的とする捜査は、医療現場を萎縮させます。」

 その他の団体による声明も皆、同じである。院内感染の何たるかもわからないまま、公然と病院内に入って捜査に着手したため、マスコミに大きく取り上げられ報道された。これでは、一般国民は、病院が犯罪を犯したと勘違いしてしまう。この報道を見た他の病院は、もしも(いつも当り前に存在する)院内感染が知れたら警察がいつ何時事情聴取に来るのかと疑心暗鬼になるかもしれない。

 おそらく警視庁は、大々的にマスコミ報道されたので、「とりあえず」捜査に入ったに過ぎないのであろう。本格的な犯罪捜査というよりも、内偵もしくは情報収集活動という方が近い。しかし、その「とりあえず」の捜査がもたらす悪影響は甚大である。結局、その被害は、巡り巡って一般国民が受けてしまう。

 警視庁は、直ちに帝京大病院の捜査を終結すべきである。警察は今後も、院内感染を犯罪捜査の対象とすべきでない。

4.院内感染対策は医療者自らで

 院内感染は、病床を抱えている病院にとって宿命であり、日常のことでもある。病気退治に抗生剤を多用してきた現代の医療にとって、やむを得ないことでもあった。

 にもかかわらず、マスコミは社会部を中心に加熱し、厚労省はその効果も影響度も考えずに規制強化をし、警察も相変わらずで犯人探しをしている。いずれも医療の特質と社会における重要度を十分に考慮していない。いつものワンパターンを繰り返しているだけである。これでは、せっかく医療崩壊から立ち直ろうと努力している医療機関と医療者をまたつぶすだけであろう。

 院内感染対策は医療者自らが行うことである。マスコミは、院内感染の何たるかを自らできちんと理解して、国民に分かりやすく報道すれば足りよう。厚労省は、いかにしたら医療者を支援できるかを、まず考えるべきである。警察は、そもそも介入すべきことではない。

(月刊『集中』2010年10月号所載「経営に活かす法律の知恵袋」第14回を転載)

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