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がんワクチン報道の波紋 

東大医科研の上氏が、朝日新聞がんワクチン報道問題の経過を分かりやすくまとめられた。特に、朝日新聞の内部事情についての記載が興味深い。もしこの通りだとすると、大阪地検特捜部の証拠でっち上げ問題にも通じる、制度・システムの問題がありそうだ。記者は、周囲からスクープ記事を出すことを期待され、また出さなければ生き残れないような状況にあるのだろうか。「報道機関が世論を作り上げる、そのためには多少の不正も許される」という、マスコミ人の驕りが基本にあるのかもしれない。

どのような理由であれ、彼等のでっち上げが免罪されるわけではない。彼等のそうした体質、体質を生む報道機関の制度を変えないと、報道機関自体がゆっくりと自殺することになる。


以下、MRICより引用~~~

朝日新聞 がんワクチン報道の波紋

東京大学医科学研究所 先端医療社会コミュニケーションシステム
上 昌広

※今回の記事は村上龍氏が主宰する Japan Mail MediaJMMで配信した文面を加筆修正しました。
2010年11月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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 前回の配信で、朝日新聞のがんワクチン報道が医療現場を混乱させていると報告しました。
http://ryumurakami.jmm.co.jp/dynamic/report/report22_2216.html

あれから2週間。色んな動きがありました。今回は事件の経過をご紹介したいと思います。


【各地から抗議が殺到】
 10月15日のスクープ記事を受けて、最初に動いたのは東大医科研の清木元治所長です。18日、医療ガバナンス学会が発行するメルマガMRICに『朝日新聞「臨床試験中のがん治療ワクチン」記事に見られる事実の歪曲について』を寄稿しました。http://medg.jp/mt/2010/10/vol-32720101015.html

 それに続いたのが、41のがん患者団体です。20日、厚労省記者クラブで『がん臨床研究の適切な推進に関する声明文』を発表しました。記者会見では、多くの患者・家族が不安になったことを紹介し、臨床研究の予算が削減されないこと、被験者保護のための情報開示、さらに「誤解を与えるような不適切な報道ではなく、事実をわかりやすく伝えるよう、冷静な報道」を求めました。早い段階で、患者が主体的に動いたことは、医療界が変化しつつあることを象徴しているように感じます。

 22日には、日本がん学会、日本がん免疫学会、さらにオンコセラピー・サイエンス社が抗議声明を発表しました。さらに、23日には日本医学会会長である高久史麿氏が、個人的見解と断りながら、『事実を歪曲した朝日新聞のがんペプチドワクチン療法に関する報道』を発表しています。http://medg.jp/mt/2010/10/vol-331.html#more

 その後、27日には、帝京大学の小松恒彦教授を発起人代表とする「医療報道を考える臨床医の会」が発足し、署名活動が始まりました。署名開始後4日間で2000筆以上の署名が集まっています。

 同日、朝日新聞の社説の中で研究者の倫理観を問われ、ナチスの人体実験に喩えられた中村祐輔教授(東大医科研)は、朝日新聞秋山耿太郎社長宛に抗議文を送り、名誉毀損のため訴訟を準備していることを明らかにしました。

 29日には日本医学会が、『事実を歪曲した朝日新聞がんペプチドワクチン報道』と公的見解を発表。30日には、朝日新聞で「患者出血、「なぜ知らせぬ」、協力の病院、困惑」と報じられた臨床研究グループCaptivation Networkが、参加施設代表者76名の連名で抗議しました。その中で、「医科研病院患者の出血(2008年10月)に先んじて、2008年2月1日にグループ内で他患者の消化管出血情報が既に共有されており」、「我々の施設の中には、直接取材は受けたが、朝日新聞記事内容に該当するような応答をした「関係者」は存在しませんでした」と述べ、朝日新聞の記事が「捏造の疑いが強い」と主張しています。

 更に、11月1日には東京都保険医協会が抗議声明を発表。これまで、朝日新聞記事を擁護する医療関係者はなく、今後も抗議は続きそうです。

 今回の抗議活動の特徴は、患者会、Captivation Network、医療報道を考える臨床医の会などのインフォーマルなネットワークが早期に動いたことです。民をベースにしたボトムアップの合意形成システムが構築されつつあるようです。


【朝日新聞の対応】
 では、朝日新聞はどのように対応したのでしょうか。

 まず、がん患者団体の抗議を21日の朝刊で報じました。しかしながら、そのタイトルは『患者団体「研究の適正化」』。患者団体が訴えたことは、患者への適切な情報公開、がん研究予算削減阻止、そして「報道の適正化」でした。朝日新聞は、患者の抗議を自らの都合に良い形でねじ曲げて報じました。

 ついで、22日の日本がん学会などの抗議に対しては、23日になって『医科研記事、癌学会など抗議 朝日新聞「確かな取材」』との見出しで報じました。読売・毎日・産経・日経・共同通信などは、前日に記事を配信しており、朝日新聞の対応の遅れは際だちました。また、朝日新聞の広報部が「確かな判断」や「見解の相違」ではなく、「確かな取材」とい良い方に留まったことは示唆に富みます。記事の解釈ではなく、取材の手続きの正確さを保証したに過ぎません。

 ちなみに、22日の読売新聞の記事では、「朝日新聞が報じていなかった問題」と、朝日新聞を暗に批判しました。読売新聞の変わり身の速さが際立ちました。新聞各社は、朝日新聞のスクープ記事に追随した記事を書いており、今更、否定しにくかったでしょう。記者たちは、朝日報道を読んで違和感を抱いたらしいのですが、トクオチを恐れるデスクを説得するには至らなかったようです。横並び新聞報道の構造的問題を示しています。

 その後、朝日新聞が、この件を報道したのは、28日の『教授の人権侵害と朝日新聞に通知書 東大医科研報道』だけです。11月1日現在、朝日新聞記事を捏造の疑いありと訴えたCaptivation Networkの記者会見や、「医療報道を考える臨床医の会」などのインフォーマルネットワークの活動は全て無視されています。


【メディア・ネットワーク】

 一方、新聞・テレビ以外のメディアは朝日新聞に対して批判的です。一番、最初に問題を取り上げたのは日刊ゲンダイです。19日に『がん治療ワクチン報道で朝日新聞と東大が火花』という記事を掲載しました。同紙は28日にも『1面デカデカスクープ報道にアチコチから怒りの声明』との記事を掲載し、朝日批判の論陣を張っています。これ以外に、週刊現代、週刊新潮、J-Castニュースなども同様の記事を掲載しました。電車の中吊りなどでご覧になった方も多いでしょう。

 医療界に関しては、メディファックス、メディカル・トリビューン、日経メディカルオンライン、エムスリー、キャリアブレイン、MRICなどが連日のように問題を報じました。このような医療メディアを通じ、多くの臨床医が問題を認識したのではないでしょうか。筆者が参加している医療関係のメーリングリストでも、繰り返し話題になりました。

 他のオンラインメディアも動きました。例えば、JMMや楽天の「内憂外患」でも繰り返し取り上げられ、金融やITなどの他業界にも広がりました。ネットやメールメディアが情報のハブとして機能したように感じます。

 ツイッターが果たした役割も無視できません。「医療報道を考える臨床医の会」は、ツイッター(@iryohodo)を用いて積極的に情報を発信しました。このような発信を通じ、メディアのあり方自身に問題意識を持つ上杉隆、平野啓一郎、内田樹、岩上安身氏などが問題を認識し、上杉氏(@uesugitakashi)、岩上氏(@iwakamiyasumi)は、ツイッター上で応えました。このようなやりとりを通じて、彼らのfollowerが問題を認識しました。

 このように、今回の事件ではマスメディアが動かなかったにも関わらず、様々な媒体が有機的に連携することで、関係者の認知度があがりました。福島県立大野病院産科医師逮捕事件以降、医療界は様々な事件を経験してきました。このような試練を通じ、医療界と社会を繋ぐメディア・チェーンが形成されつつあることを実感します。


【朝日新聞のガバナンス】
 この事件の真相は不明です。真相解明には、朝日新聞社、あるいは第三者機関による調査を待たねばならないでしょう。

 ただ、現時点で朝日新聞の記事は捏造の疑いが強いと言わざるを得ません。例えば、中村祐輔教授は朝日新聞からインタビューを受けていませんし、東大医科研から朝日新聞への回答と記事内容は全く異なります。また、中村教授との利益相反を示唆され、報道後に株価が暴落したオンコセラピー・サイエンス社は朝日新聞から一切の取材を受けていません。今回の記事を、当事者から直接取材することなく、記者たちの「先入観」に基づいて組み立てたのですから、大問題です。

 これでは、朝日新聞の自作自演と言われても仕方ありません。その構造は、1989年に問題となった珊瑚記事捏造事件と酷似します。この事件では関係者は処分され、一柳東一郎社長(当時)は辞任しました。また、不起訴となったものの、カメラマンは刑事告発されています。

 知人のメディア関係者は朝日新聞の問題点を象徴していると言います。今回の記事を書いた出河雅彦編集委員、野呂雅之論説委員は、1983年産経新聞の同期入社組です。その後、朝日新聞に異動します。朝日新聞が即戦力確保のため、他社からスター記者を引き抜くのは有名です。出河氏は医療分野で、野呂氏は大阪本社社会部のデスクとしてイトマン事件や防災問題で活躍しました。このようなスター記者たちが、独自に進めた取材に対し、後輩の記者たちやデスクがチェック出来たか、甚だ疑問です。編集局長は、社内でのどのような議論の末、記事掲載に至ったかを説明する義務があるでしょう。

 一方、朝日新聞の経営不振は有名です。日経新聞ほどインターネットにウェイトを置くわけでなく、読売新聞ほど紙媒体の販売を促進しているわけでもありません。最近は、人件費削減のため、早期勧奨退職を勧めています。社長など幹部職員は生え抜きが独占する朝日新聞で、途中入社組の出河・野呂氏たちは、どのような思いを抱いていたのでしょう。社内での立場、あるいは次のポジションを確保するためにも、スクープ記事が欲しいと思っても誰も批判できないでしょう。

 余談ですが、10月6日、朝日新聞大阪本社がスクープした検事資料改竄事件が、新聞協会賞を受賞しました。この記事で中心的役割を果たしたのは、下野新聞から途中入社した板橋洋佳氏です。かつて所属したグループの活躍は、野呂氏にどのように映ったでしょう。

 私は、今回の記事は氷山の一角に過ぎないと考えています。探せば、同じような報道は沢山あるのではないでしょうか。例えば、2007年出河氏は『薬の臨床研究、国が補助金打ち切り 慶大医学部長、財団と二重受給』とのスクープ記事を発表しました。小泉改革で運営交付金が減少し、大学病院は臨床研究の継続に苦労していました。このような医療現場の実情を無視して、「細かい手続きの不備」を批判しました。実害を被った患者はいませんでした。今回と全く同じ構造です。当時、患者は勿論、医療界からも記事批判の声はなく、この報道以降、大学病院の臨床研究は失速しました。

 朝日新聞は医療事故報道に熱心です。その中心は出河氏。著書『ルポ医療事故』(朝日新書)は、2009年の科学ジャーナリスト賞(日本科学技術ジャーナリスト会議)を受賞しました。その中で、出河氏は医療機関の隠蔽体質を糾弾し、医療事故から逃げない、隠さないことの重要性を訴えました。私も彼の主張に賛同します。今回の記事は、医療現場に大きな被害を与えた「報道事故」です。真相を究明し、再発防止に努めるのは朝日新聞の義務です。彼らの矜持が問われています。

コメント

今回は誤報どころか捏造ですから、朝日としてはダンマリを決め込むつもりでしょう。損害賠償請求や名誉毀損の訴訟を期待してはいますが、諸先生方がマスゴミ相手に貴重な時間を費やしたあげくに見つけるのが困難なほど小さな謝罪記事やスズメの涙ほどの賠償となりそうで・・・。

こうした記事を生み出すシステム上の問題を明らかにし、さらに記者・デスク諸氏の医療への態度を改めないと、新聞社は見限られますね。これまでの栄華の記憶に頼っていては、新聞社は生き残れぬことを分かっていないのでしょうか。

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