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信州へ「冬の旅」その2 

前ポストにも少し触れたが、この旅行の目的は、存じ上げているピアニスト臼田さんが出演される「冬の旅」全曲の演奏会を聴きに出かけることだった。臼田さんは、大学時代のオケの後輩である。大学オケで私が唯一チェロのトップを受け持ったベト7の演奏会終了時に、臼田さんと同じ大学の音楽科に在籍していたバイオリンのKさんに伴われて挨拶に来られたのが、お河童頭で色白の臼田さんだった。そのバイオリニストの方と、「大公トリオ」を全楽章演奏した記憶がある。残念ながら、チェロは1,2年で辞めてしまわれたが、専門のピアノの腕を見込んで(あぁ、おこがましい)彼女にいろいろと伴奏や、室内楽の相手をして頂いた。技術的に完璧で、冷静沈着な演奏をされる方だった。

お互いに、就職・結婚等があり、年賀状で挨拶するだけの行き来だったが、私がチェロに本格的にカムバックした10年とちょっと前に、まず伴奏・室内楽のお相手をお願いしようと考えたのが臼田さんだった。快く申し出に応えてくださり、上京して何度か室内楽に加わり指導して下さった。数年前に松本で演奏オフ会を開いた時には、モーツァルトの協奏曲20番を室内楽用の編曲版で弾いてくださった。そのカデンツァが凄い迫力だったのを今でも覚えている。ブラームスのピアノ五重奏曲1楽章や、メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲ニ短調1楽章も一緒に弾いてくださった。その際のことは、ブログ上ここ等で何度か記している。彼女は、地域の短大で教鞭を取ったり、サイトウキネンの合唱の伴奏をなさり、ピアノの教師として忙しい日々を過ごしておられた。そのオフ会、今にして思うと、畏れ多いことだったが、音楽仲間と一日中室内楽漬けになった楽しい日々だった。

この夏、彼女から、松本市の「あがたの森」講堂でシューベルト「冬の旅」全曲演奏をするから聴きに来るようにとお誘いを受けた。父上の篤愛の曲を、旧制松本高校の講堂で演奏される特別の演奏会らしかった。家内と一泊の予定を組み、聴きに出かけた。

歌曲は、私にとってほとんど未知の音楽領域だった。出かける前に、ムーアの伴奏で、ディースカウが歌う音源を何度か聴いた。失恋のために厳冬のなか、あてどのない旅に出る若者の歌だ。一度聴いて、マーラーの「さすらう若人の歌」を思い出した。特に、その第四曲「彼女の眼が」である。シューベルトのこの曲は、しかし、マーラーのようにごく私的な経験を音楽化したのではなく、より普遍的な時代精神のようなものを表現したかったのではないかと感じた。

で、臼田さんのピアノ、それに同じくプロのバリトン歌手である太田さんの歌唱による「冬の旅」について記そう。柔和だが、芯のあるバリトンにぴったりと寄り添い、時にリードするかのようなピアノ。タッチがとても美しい。ころころところがる玉のような音。あがたの森講堂という木造の建物の特性からくるのだろうか、ピアノと歌が渾然一体となって、聴衆を包み込むように思われた。暗く陰鬱な音楽なのだが、聴くもののこころにぽっと暖かいものを点してくれるかのようだった。終曲の「辻音楽師」になる頃には、まだまだ終わって欲しくないという思いになっていた。「辻音楽師」の弾くピアノの動機が何と虚ろな響きだったことだろう。でも、こころにはぬくぬくとした思いが残っていた。不思議なことだ。

終演後ちょっとご挨拶をして帰ろうかと思ったが、忙しくしておられたようなので、土産のお菓子を置いて帰路についた。来てよかったねと、家内と話しをしながら、暗闇に包まれた山道を車で飛ばした。自宅に帰りつく頃、臼田さんから携帯に電話があり、感想とお礼を手短にお話しした。

もう一点、この音楽会で印象に残ったのは、聴衆のことだ。中高年の方々が多く、とても熱心に聞き入っておられた。居眠りをしているような方はほとんど見当たらない。背筋をピンと伸ばして、演奏に耳を傾け、演奏者の姿をじっと見入っているのがよく分かった。斜め前に座った70歳代後半と思われる女性は、途中で何度も眼をハンカチで拭っていた。臼田さんと太田さんは共に松本深志高校の同窓である。太田さんは、臼田さんの父上に高校時代教えを受けたらしい。同高校の音楽部の現役・OBの集まり、志音会が、この演奏会をバックアップしている様子だった。志音会は1000名ほどの会員を持ち、定期的に演奏会を自ら開催している様子だった。こうした支援組織があるから、このような音楽会を開くことが可能になるのだろう。

「冬の旅」の有名な曲「菩提樹」は、暗く厳しい冬の旅路にあって、ほっと一息つくことができる休息のとき、言わば小春日和を表現した曲であることを知った。現在が、私の人生にとってまさしくそうした時期なのかもしれない。これから、あの「辻音楽師」で奏でられる虚しく暗い日々が待ち受けているのかもしれない、という思いを強くした。でも、この音楽会は、確かに私のこころに暖かなものをしっかりと点してくれたのだった。

コメント

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臼田さん

コメントをありがとうございます。別途メールします。

マキさん

テンプレを変更しましたが、如何でしょうか。確かに、前のテンプレは少し見難かったですね。いつもコメントをありがとうございます。

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