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開業医エレジー 

昨夜、0時を過ぎてから、寝る気になり、二階の寝室に向かった。階段を途中まで昇ったところで、下にフォーレのピアノトリオのスコアを忘れたことを思い出した。寝る前に、演奏を聴きつつ、スコアを眺めるのだ。取って返そうと思った瞬間、左足を階段の滑り止めに引っ掛けてしまった。左足を残したまま、危うく転落しかかった。手すりに捕まって、転落は免れたが、左ひざを外側に過伸展してしまった。何か鈍い音がして、激痛が走った。左ひざ周囲のじん帯を損傷したのだろう。

大した怪我でもないが、その痛みの中で最初に考えたのが、今日の仕事のこと。仕事に行けるか、休まなくてはならなくなったらどうしようか、ということだった。家人に手助けしてもらって、何とかやすむことができたが、目が覚めたときにまず行ったのは、左ひざを動かせるかという確認。曲げたり、外側に少しでも曲がったりするときに、激痛が走るが、左下肢を伸ばしていれば、何とか移動できる。何とか仕事に行けるか、と判断した。

「開業医が楽して儲けている」とはトンでもない言いがかりだと何時も思ってきた。大きな借金をかかえ、こうした健康上のトラブルを抱え込んだら、即刻アウトだ。出身医局とも疎遠になり、大学の人事事情を考えれば、一介の診療所に、手助けの医師を続けて出してくれることなど期待できない。保険にも入っているが、数ヶ月で、経営は行き詰る。その間、仕事をしてくださる方々に給与は出し続けなければならない。借金の返済は続く。開業当初は、健康上の少しの変調でも、ノイローゼになる一歩手前の状態になった。でも、自分の病気のために休診にしたことは一度もなかった。開業とは、ハードな事業だ。40歳代、50歳代になってから、新規に開業することは、医師に大きなストレスをもたらす。

現在、開業当初のようにあくせくしなくても良くはなってきたのだが、休診にするには大きな勇気が要る。患者さんに迷惑をかけることと合わせて、こちらの経営からすると、患者さんが少なくなる心配がある。診療所では、競争が激化しており、さらに診療報酬の切り下げで、経営的にはぎりぎりのところまで来ている。しかし、今回の捻挫を経験して改めて感じたことだが・・・年齢から来る病のために、休診や、廃院にせざるを得なくなることが何時来てもおかしくない。その準備を進めておく必要がある。

開業当初からこちらでパートで働いてくれていた、30歳代の看護師さんが、先日辞めたいと言ってきた。明るく責任感があり、しっかり仕事をこなす看護師さんだったので、引き続き働いて欲しかったのだが、引き止めることはしなかった。彼女は、経済的な理由でフルタイムの仕事を希望しており、さらに上記の私の心準備としても引き止めることはできなかった。今後も、スタッフが減って行ったとしても、求人はしない積りだ。

どのような仕事であれ、様々な苦労があり、大変なことは良く分かるが、開業医エレジーは、これまでもあったし、今後はさらに辛いことになって行くだろう。そろりそろりと軟着陸を考えてゆかなくてはならない。

生前、膝を痛めていた父が用いていた杖を使って、ゆっくりゆっくりと仕事場に歩いてきた。

コメント

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コメントをありがとうございます。私の捻挫とは比べ物にならぬほどの大病をなさったのですね。その際には、きっと不安感と、前倒しで行うべき実務で精一杯だったことでしょう。私も、先生より少し長いだけの開業暦ですが、そろそろ店仕舞いの準備をといつも考えています。お互いに、無事軟着陸できますように。

「拍手コメント」を下さったお二人、ありがとうございます。・・・でも、非公開のコメントですから、何方なのか分かるヒントをいただけると、尚一層嬉しいのですが・・・匿名の世界に留まることがより望ましいのでしょうか 笑。でも、コメントいただき嬉しかったです。

歳を考えて、身体を動かすようにいたします。足底をしっかり持ち上げて歩く練習が必要になってきたのかもしれません。

でも、捻挫部位が脚でよかったです。無線を楽しみ、チェロを弾くことができます。仕事も・・・。

お見舞い申し上げます

先生、お大事にされてください。

当方でも、パートの看護婦さんが経済的な理由からフルタイム勤務を希望され、退職されたことがありました。良い方だったのですが、慰留はできませんでした。一流といわれる会社に旦那さんは勤務されていたのですが。


QRT中さん

ありがとうございます。歳のわりには、順調に回復しています。今日も、急患対応で仕事場にでかけてきました。

良い看護師さんに来て頂くことは、小さい施設の場合、難しいですね。

今回お辞めになる看護師さんは、暖かく送りだしてあげたいと思っています。

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