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病院の震災対応 (その2/2) 

行政の行動原理が、被災現場に害をもたらした例が述べられている。

行政は、自らの責任回避のためには、国民が損害を被ることには構わない、むしろ積極的に責任転嫁をし、その結果損害を被る国民が出現する。双葉病院事件の行政の責任を明らかにすべきだろう。同じことを繰り返さぬために。



以下MRICより引用~~~

病院の震災対応 (その2/2)

この記事は日本評論社の経済セミナー増刊『復興と希望の経済学』に掲載された記事を転載したもの
です。

亀田総合病院 副院長 
小松秀樹

2011年9月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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(その1/2)より

○3. 福島県庁
行政の問題の具体例として、福島県庁の2つの事例に触れる。

(1)双葉病院事件
複数のソースから得られた情報をまとめる。
・3月11日、14時46分、大地震発生。
3月12日、早朝、避難指示が原発3km圏から10km圏に拡大され、双葉病院と関連の老人保健施設が避難地域に入った。昼、外出した双葉病院の職員が防護服を着た誘導者に「なぜ避難誘導がないのか」と尋ねたところ、「双葉病院はもう誘導したはずです」と返ってきた。
・14時、町からバスの迎えがあり、209名の比較的状態のよい患者と数十名の職員が避難。
15時36分。福島第一原発1号炉で水素爆発。病院は、電気、水道が使えず、外部との通信が途絶していた。この状態でほぼ2日間、残った職員で患者の世話をした
・3月14日昼前、自衛隊が到着した。患者・施設入所者130名を搬送した。患者98名と院長ら職員4名、警察官が残り、自衛隊の救援を待っていたが、自衛隊が来るという時間になっても、来なかった。
待っている間に3号炉で水素爆発が発生した
3月15日、午前1時、院長と職員は、警察の車で強制的に川内村に避難させられた。院長一行は再び病院に戻ろうとしたが、避難指示のエリアということで許可されなかった。午前から午後にかけて、自衛隊が残された患者を搬送した。搬送中・搬送後、21名の患者が死亡した。
3月17日、午後4時、福島県災害対策本部が「病院関係者の付き添いはなかった」と発表した。多くの報道機関が、事実を確認することなく、いっせいに「患者を見捨てて逃げた」と病院を非難した

双葉病院は長時間、孤立無援の状態に置かれた。双葉町役場そのものが避難する状況で、福島県災害対策本部に病院の避難誘導の責任があったのではないか。誰のどのような判断に基づいて記者会見を行ったのか。詳細な調査が必要である。

(2)知的障害者施設
亀田総合病院は、千葉県と鴨川市に働きかけて、福島県の知的障害者施設を4月初め、「鴨川青年の家」に迎え入れた。3月28日の朝日新聞夕刊がきっかけだった。「知的障害者200人転々 生活維持『もう限界』」という見出しで「いま3か所目。付き添う職員やボランティア約50人とともに、小さな建物で限界の生活を続けている」と伝えた。4月22日段階で、鴨川への避難者は、福島県福祉事業協会傘下の9施設の利用者278名、職員92名、職員家族3家族に達した。知的障害者の施設の主なものは原発に近接しており、元の場所に戻るのは不可能と思われた。「新しい施設を建設するまで、相当期間滞在することになる」という認識を、千葉県を含めて関係者で共有していた。千葉県と鴨川市は迅速に対応した。しかし、福島県の障がい福祉課の対応には大きな問題があった。以下、箇条書きにする。

1)避難先を転々として困り果てていたときに、福島県は利用者をばらばらにして、さまざまな施設に分散収容するように、施設側に提案した。職員は、これを受け入れると、結果として施設が解散することになると理解した。施設が解散すれば、知的障害者は慣れた職員から離されることになる。職員は職を失うことになる。

2)知的障害者施設の多くは、福島原発の10km圏内にあった。急に避難を強いられたため、名簿が持ち出せなかった。利用者の多くは、抗てんかん薬をはじめ、重要な薬剤を投与されていた。法令上、生年月日が分からないと、正確な年齢が分からず、処方箋が書けない。このため、福島県の災害対策本部及び障がい福祉課に対し、生年月日データの有無とない場合の対応について相談したが、自分たちの責任で対応するよう言われ、一切の協力を拒否された。結局、国保連の好意によって、過去のレセプトから氏名と生年月日のデータを入手でき、この問題が解決した。

3)この直後、てんかん発作の重積状態で障害者が1名死亡した。福島県はこれを受けて、投薬などが適切に行われているか、避難所に調査にきた。

4)鴨川市への避難が決まったあと、当事者抜きに、福島県と千葉県の間で「鴨川青年の家」の利用が7月までと決められた(7月になって撤回された)。少なくとも、千葉県は、新たな施設建設まで受け入れを継続することを了解していた。筆者は、この決定を知って、福島県の障がい福祉課の稲村課長に電話した。福島県知事から千葉県知事に依頼する形をとりたかったのだが、知事につないでもらえなかった。当事者抜きに決定したことについて、稲村課長は、頼む側だから遠慮があったと説明した。県庁の役人が、被災者を踏みにじる決定を下す権限があると思っているようだった。後日、関係者、メディアから聞いたところでは、福島県の担当者が7月までと期限を切ったという

○4. 結論
官僚の論理的整合性すなわち責任回避へのこだわりが、東日本大震災の危機的状況で、迅速かつ臨機応変の対応を阻んだ。日本の行政の行動原理が危機管理に不向きであることを、国民の共通認識にすべきである。災害時の基本方針として、病院は、常識と想像力に基づいて、それぞれの病院にあった簡潔なマニュアルを作成しておく、指揮官を決め、災害本部を設置する、指揮官は、状況を見極めて、大きな判断を下す、職員は、いざとなれば自分で何が正しいか考えて行動する。

文献
1 小松秀樹:後方搬送は負け戦の撤退作戦に似ている:混乱するのが当たり前.MRIC by 医療ガバナ
ンス学会 メールマガジン;Vol.89, 2011年3月26日.  
http://medg.jp/mt/2011/03/vol89.html#more
2 小松秀樹:ネットワークによる救援活動 民による公の新しい形.MRIC by 医療ガバナンス学会
メールマガジン;Vol.103, 2011年4月5日.
http://medg.jp/mt/2011/04/vol103.html#more
3 小松秀樹:災害救助法の運用は被災者救済でなく官僚の都合優先.MRIC by 医療ガバナンス学会
メールマガジン;Vol.112, 2011年4月9日.
http://medg.jp/mt/2011/04/vol112.html#more
4 小松秀樹:知的障害者施設の鴨川への受入れと今後の課題.MRIC by 医療ガバナンス学会 メール
マガジン;Vol.124, 2011年4月14日.
http://medg.jp/mt/2011/04/vol124-1.html
5 小松秀樹:日本赤十字社義援金は能力なりの規模に 免罪符的寄付から自立的寄付へ. MRIC by 医
療ガバナンス学会 メールマガジン; Vol.126, 2011年4月16日.
http://medg.jp/mt/2011/04/vol126.html#more
6 小松秀樹:行政が大震災に対応できないわけ. 月刊保険診療, 66, 46, 2011.

表1 病院における災害対応の原則
(1)法令より常識と想像力 臨時組織より既存組織 完璧は危うい
・緊急対応の決めごとは単純に。法令より常識と想像力をよりどころにする。
・既存組織を優先。臨時組織にできるのは、簡素な機械的対応のみと心得る。
・完璧を期すと、意味のない連絡や作業が増え、結果を悪くする。
・詳細情報は時間と労力を奪う。詳細情報そのものが、迅速な行動の阻害要因になる。
・緊急時には、やりとりに食い違いが生じるものだと覚悟しておく。
(2)指揮官
・集まれる幹部で当面の指揮官を決定し、適切な場所に災害本部を立ち上げる。
・指揮官は、災害本部の設置を院内に周知する。
・指揮官の任務は、全体像を把握し、組織としての行動の方向を決めること。
・指揮官は、手に入る情報でとりあえず状況を判断する。必要に応じて適宜修正する。
・指揮官の横には参謀、観察者、情報係、装備係、遊撃隊などを適宜置く。
(3)職員
・機能する上司が存在しているかどうか確認する。
・存在する場合は、その上司の指示に従う。
・上司が、明らかに危機対応できない場合には、適切な指導者をさがす。
・適切な上司・指導者がいなければ、自律的に被害を最小限にすべく行動する。
・自分の生命が危ういと感じたら逃げる。
(4)災害本部からの放送と指示
・状況判断と大方針を院内に伝える。
・NHK第1放送を院内放送で流し続ける。
・簡潔な指示を適切な部署に伝える。細かい対応は現場の裁量に任せる。
(5)報告
・各部署は、本部に簡潔な報告をする。本部は必要以上の詳細報告を求めない。
(6)判断
・患者・職員の安全確認。建物の安全確認。避難誘導の指示。院内院外の通信手段の確認。電気、水
道の確認や被災者の受入れなどは、状況に応じて考える。
・判断は迅速に。優先順位を明確に。
・行動しながら事態の変化と行動の結果を予想・観察しつつ、最適行動を変更する。
・下記レベルの大方針を決定し、周知する。1.外部に救援を求める 2.患者や負傷者を外部に搬送す
る 3.全員院外に避難する

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