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医師としての半生を終える 

泣いても笑っても、退職まであと2か月半。医師として仕事をしなくなるわけではないが、一つの区切りになるわけで、様々な思いが去来する。医師・医学への思いは、生きてゆく中で少しづつ変わってきた。

医師を目指した頃・・・以前にも記したが、医療の環境で育ち、両親・姉も医療従事者であり、エンジニアへの道から医療に関心が移っていった。高専を卒業するころ、学校の教師になるか、医師になるかと考えた。生身の人間を相手にする仕事についてみたいと思った。当時読んだ、フランクルや、ヤスパース、ミンコフスキー、神谷美恵子といった思想家・精神医学者の著作に影響されたこともあり、精神病理学が面白そうだと思っていた。当時、成績が多少良いと医学部を目指すような風潮があったのもあり、医学部を考えるようになった。精神科医になりたいと考えていた。

大学に入り、授業や実習をすると、精神科があまりに非力な(失礼)専門であるような気がしてきたのと、治療効果の上がる小児科と、知見が陽の昇る勢いで増え、新たな地平が開け始めていた免疫学に関心が移った。それほど真面目に勉強していたわけではなかったが、他人には精神科を勧め、自分は小児科を専攻することに決めた。

大学を卒業し、こちら北関東の大学で研修を始め、血液免疫を志向していたのだが、実現できそうもなかったので、母校の免疫遺伝学教室に専攻生その後大学院生として在籍させて頂いた。1980年代後半、HLAについて、怒涛のように新たな知見が得られてきていた頃のことだ。HLAによる拘束の問題や、疾患感受性との関連性さらに免疫学的多様性の問題等々、下働きが多く、大変な毎日だったが、知的に強烈な刺激を受けた日々だった。朝早くから終電になるまで研究室にこもった日々だった。でも、家庭を持ちながら、単身赴任を続けることに限界を感じ、自宅に近い別な大学にスタッフとして入れて頂いた。そこでは、教授選がらみで様々な軋轢に巻き込まれ、また人間関係では苦労した。研究の面でも、先が見えてきて、さらに少人数の医局での過重労働がしんどくなり始め、大学医局の外に出て臨床だけで生きることにした。意図したと言うよりも、ところてん式に外に出ることになったというべきか。

市中病院、そして自分の診療所での20年超の臨床医としての日々。何か、流されてきたという感じがしないでもない。研究生活のように、明確な意思と目的があるメリハリのきいた生活ではない。外来で患者に対応し、行政との砂をかむようなやり取りに「いらっ」ときて、後は収入と支出のバランスを考える日々。大学にいたころ、田舎の開業医には決してなるまいと思ったこともあったが、見事にその線で生きることになった。

私と一緒に仕事をしたがっていた父と、数年間だったが、同じ職場で仕事をできたこともありがたいことだった。昼過ぎ、父が昼休みの受付の代理の仕事を終えて、ゆっくりとした足取りで駐車場に向かって歩く姿を、二階の自室から眺めていたことが良くあった。私が、彼の年齢にもうすぐ近づこうとしている。

開業医になって痛感したのが、自分で事業を進める者の孤独感であった。これは、個人事業主の自由さと裏腹の関係なのだろうが、ちょうど男の更年期に差し掛かったこともあり、かなりしんどいことでもあった。特に、健康を害して、倒れたらどうするかという思いがいつも付きまとっていた。お隣で開業した、別な専門の医師は、開業後数年で不慮の事故で亡くなられた。その後を継いだ医師も、最近悪性腫瘍にり患し、しばらく休診することになったようだ。これはどのような職種でも個人事業主である限り同じだろうが、開業医が楽して儲けているといった、財務省主導のプロパガンダには辟易させられたものだ。同じ孤独感のなかで開業医として仕事を続けておられる諸兄姉に、こころからの支援の意を表したい。

思い返すと、思い通りにはならなかった医師としての半生だったが、安易な自己肯定ではなく、これで良かったのではないかという思いも強い。外来で相手をする患児達が大きくなり、その子たちが結婚し、子供を連れてやってきてくれる、それだけでも臨床医として生きてきた甲斐はあったと言うべきだろう。人生において、成し遂げられる事業は、たかが知れている。少なくとも、世間からみたらそうだ。ある程度、作り上げたものも、やがて時間の流れの中で消えてゆく。でも、生命の大きな流れのなかで、その流れに与り、流れが途切れることなく進むように、寄り添い、時にそっと手を差し出せたこと、それだけで十分ではないか。

さて、これからどのような人生のページが開かれることだろうか。残された時間をどのように生きるか。やがて、人生そのものを終えるときに、反省ばかりをするようでありたくはない。自他ともに充実させることができるように生きてゆきたいものだ。

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