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「インフルエンザ特措法」 

新型インフルエンザ対策を行政が講じる根拠となる、新型インフルエンザ等対策特別措置法案が検討されている。2009年の新型インフルエンザ流行時に厚労省が取った対策をそのまま法制化し、さらにそれに強制力を与えるものだ。それに伴い、国民の権利は制限されることになる。医療従事者には、インフルエンザに対する診療を行うように、都道府県知事が指示することができるとされているようだ。下記の論考で、小松秀樹氏が述べている通り、これは憲法を停止するに等しく、戒厳令と類比される状況をもたらす。

問題点は二つ。

厚労省官僚が、インフルエンザ対策に直接かかわることが、現場の混乱を助長すること。2009年の経験から、彼らの対策は全く無効であったことが判明している。

国民の基本的人権が一時的にせよ行政によって、強制的に停止される事態を、許してよいのかどうか。有事立法で、国民の基本的人権が制限されうることが、法的に規定された。それも大いに問題だが、この厚労省の行うと言う有害無益な対策に伴って、基本的人権が犯されて良いはずがない。こうした例を作ると、行政は、国民の基本的人権を侵すことを平然と行うようになる。日本国民は、「お上」を信頼する傾向が強い。が、それは大きな誤りであることが歴史の説くところだ。

新型インフルエンザ対策を、国が直接指揮し、現場の手足を縛ることには反対だ。


以下、MRICより引用~~~


インフルエンザ特措法は社会を破壊する

亀田総合病院 
小松 秀樹

2012年3月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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新型インフルエンザ等対策特別措置法案(以下、特措法案)は、「新型インフルエンザ等緊急事態措置その他新型インフルエンザ等に関する事項について特別の措置を定めることにより」「国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすることを目的とする」(第1条)。特措法案は、この目的を達成するために、行政に大きな権限を与えるものである。

特措法案では、検疫、停留措置を行うことが前提とされている。停留措置のための施設が足りない場合、所有者の同意が得られない場合でも、特定検疫所長は空港などの周辺の施設を使用することができる(第29条)。さらに、政府対策本部長が日本への船舶や飛行機の来航を制限することを要請する権限(第30条)、厚生労働大臣及び都道府県知事が医療関係者にインフルエンザに関する医療を行うよう指示する権限(第31条)、都道府県知事が、集会可能な施設の管理者に対し、施設の使用や集会の停止を指示する権限(第45条)、土地使用の必要があれば、所有者の同意が得られない場合でも、都道府県知事が土地を使用する権限(第49条)、緊急物資の運送又は医薬品等の配送を行うべきことを行政機関の長が業者に対し指示する権限(第54条)、都道府県知事が特定物資を収用する権限(第55条)など、憲法に抵触するような強大な権限を行政に与えるものである。権限を与えるだけでなく、重要な物資やサービスの価格が高騰したり、供給不足が生じたりするおそれがあるときは、買占め、売り惜しみに対する緊急措置に関する法律、物価統制令などによる適切な措置を講じなければならない(第59条)として、権限の行使を命じている。これでは、戒厳令に近い

この法律は、幻想の上に成立している。国に強大な権限を与えると、インフルエンザから国民を守ることができるという幻想である。国家にはそのような能力がないことは、2009年の新型インフルエンザ騒動が十分に示している。権限が大きくなればなるほど、混乱が大きくなる
一目で分かる特異な症状がなく、無症状の潜伏期間がある疾患の侵入を、検疫によって阻止したり遅らせたりすることなど到底できることではない
2009年の新型インフルエンザ騒動では、成田空港において、2009年4月28日から、6月18日までの52日間で、346万人を検疫して、10名の患者を発見した。大型コンピューターを使ったシミュレーションでは、 空港で8名の患者が発見される間に、感染者100名が通過していると推定された(文献1)。

問題の本質は、行政が科学を扱えないことにある(文献2)。行政は、法に基づいた組織であり、事実の認識ではなく、規範が優先される。
日本の2009年の新型インフルエンザへの対応は、規範優先で現実に基づいていなかった。危機を煽って、世界の専門家の間で無意味だとされていた“水際作戦”を強行した。“水際作戦”の遂行を規範化して、冷静な議論を抑制した。意味のない停留措置で人権侵害を引き起こし、日本の国際的評価を下げ、国益を損ねた。
医療現場のガウンテクニックの原則を無視して、防護服を着たまま複数の飛行機の機内を一日中歩きまわった。これによって、インフルエンザを伝播させた可能性さえある。知人の看護師は“徴集”されて、病院業務の代わりこの無意味な業務に従事させられた。ガウンや手袋の使い方を見て、唖然としたという。検疫の指揮を執った厚労省の担当官に、非常時だから、医療現場の常識と異なっても黙っているように言われたという。彼らも、水際作戦が役に立たないことを知っていたのではないか。
インフルエンザの防止ではなく、義務を果たしたというアリバイ作りが目的だったのではないか。言い換えれば、現実より規範が医系技官を動かしたように見える。

関西圏での新型インフルエンザの発生で「舞い上がった」担当者たちは、実質的に強制力を持った現実無視の事務連絡を連発し、医療現場を疲弊させた。行政発の風評被害で、関西圏に大きな経済的被害をもたらした。感染拡大後の対応についての議論まで抑制し、対策を遅らせた
厚労省の医系技官の思考と行動は、大戦時の日本軍を思わせる。レイテ、インパール等々、現実と乖離した目標を規範化することで、膨大な兵士を徒に死に追いやった。行政が、規範によって、インフルエンザを抑え込もうとすれば、壊れた巨大なロボットのような乱暴な動きで、人権を蹂躙し、国際交通、物流、医療制度を機能不全にしてしまう
特措法案は、危機を煽って国民の権利を制限することにおいて、治安維持法に似ている。日本の厚生労働省は旧内務省に由来する。警察も内務省の管轄下にあった。特措法案には、厚労省の法令事務官ではなく、警察官僚が関与したと政府筋から伝わってきた。

日本弁護士連合会は、2012年3月2日、新型インフルエンザ対策のための法制に関する会長声明を発表し、「科学的な根拠が不十分なまま、各種人権に対する過剰な制約を伴うものとならないよう政府に求めるとともに、上記問題点を十分に検討することなく性急な立法を目指すことには反対する」と懸念を表明した。
日本国憲法は、国家権力を制限して、個人の尊厳を守るという基本構造を持っている。これは、立憲主義とよばれ、近代憲法の基本的な考え方である。憲法は公務員に憲法擁護義務を負わせているが、一般国民には負わせていない。人権を侵すのは公権力であり、憲法は国民に戦えと命じている。すなわち、憲法12条前段は「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」としている。
近代憲法は、アメリカ独立戦争、フランス革命を通じて形成された。アメリカ独立宣言の起草者であるトマス・ジェファーソンの下記認識は、厚労省の医系技官の行動を見る限り、現代でも現実的な意味を持つ。

「われわれの選良を信頼して、われわれの権利の安全に対する懸念を忘れるようなことがあれば、それは危険な考え違いである。信頼はいつも専制の親である。自由な政府は、信頼ではなく、猜疑にもとづいて建設せられる。われわれが権力を信託するを要する人々を、制限政体によって拘束するのは、信頼ではなく猜疑に由来するのである。われわれ連邦憲法は、したがって、われわれの信頼の限界を確定したものにすぎない。権力に関する場合は、それゆえ、人に対する信頼に耳をかさず、憲法の鎖によって、非行を行わぬように拘束する必要がある。」(法律学全集『憲法』pp.90, 1776年. ウィキペディアからの孫引き)

私は、かつて、新型インフルエンザについて、二つの文章を書いた(文献3、4)。2009年の新型インフルエンザ騒動のさなかに書いた文章を、特措法案についての議論のために再掲する。

<参考文献>
1.H. Sato, H. Nakada, R. Yamaguchi, S. Imoto, S. Miyano and M. Kami.: When should we intervene to control the 2009 influenza A(H1N1) pandemic?. Euro Surveillance, 15(1):pii=19455. 2010.)
2.小松秀樹:行政から科学を守る. MRIC by 医療ガバナンス学会Vol. 408, 2012年2月20日.
http://medg.jp/mt/2012/02/vol408.html#more
3.小松秀樹:新型インフルエンザに厚労省がうまく対応できない理由.MRIC by 医療ガバナンス学会Vol. 129, 2009年6月5日. http://medg.jp/mt/2009/06/-vol-129.html#more
4.小松秀樹:「岡っ引」日本医師会.MRIC by 医療ガバナンス学会Vol. 33, 2010年2月2日.
http://medg.jp/mt/2010/02/-vol-33-1.html#more

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