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引退小児科医の戯言 

小児科医、それも市中の臨床最前線の小児科医として仕事を続けてきて感じたことの一つが、所謂風邪症候群への対処について、系統だった研究もなければ、そうした研究に基づく対処方法の知見も乏しいことだ。私は、研究をしたわけではないし、臨床現場でその不足を感じてきただけなのだが、感じたことを少し記してみたい。

所謂、風邪症候群の多くはウイルスによる上気道炎だが、同症候群と判断されてきた症例に、かなりの頻度で、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎が単独またはウイルス感染と併存することがあるように思える。以前にも記したが、私の受けた現場教育では、診療に際してルーティンに、鼻腔を覗くことをしてこなかった(今は、この点改善されているのかもしれないが、一般臨床では、まだまだ小児科医は鼻腔は観ないことが多いようだ)。が、良く観察される口腔と同等、またはそれ以上に重要な所見を呈するのが、鼻腔だ。これまでの小児科医は、鼻・耳の問題と考えると、すぐに耳鼻咽喉科への紹介を考える。でも、鼻腔・副鼻腔の問題が、所謂風邪症候群に持つ意味の大きさを考えると、小児科医も鼻腔所見はぜひとも取るべきだろう。耳鼻咽喉科でも、幼少児の場合、内服薬投与と吸引吸入をして終わりということが多く、繰り返すことへの対処をされぬことが多い。

鼻汁・鼻閉を繰り返すこと、具体的には、口呼吸をする、いびきをかく、飲み込みにくいということが、繰り返していないかを尋ねることも大切だ。朝、痰のからむ咳をすることも、後鼻漏を反映していることが多い。年長児であれば、後鼻漏を直接訴えることもある。allergic shinerや allergic grimace等の所見も有用だ。全身状態は良いのに、こうした症状を繰り返している場合は、鼻炎・副鼻腔炎を考慮する必要がある。親は、それを当たり前のことと思い込んで、医師に訴えぬことも多い。

鼻炎・副鼻腔炎があると、生活の質を落とし、狭い意味での風邪症候群を生じやすくなる。また、乳児の場合は、哺乳困難になる。また、睡眠が十分とれなくなる。虫歯・中耳炎等を起こす。等々の問題を生じる。

鼻水・咳があると、機械的に去痰剤を出すだけという処方をされる小児科医が多い。さすがに、抗生剤をバンバンだしたり、中枢性の鎮咳剤を処方したりする小児科医は減ってきたが、まだ時折見受けられる。慢性の、または繰り返す鼻水・咳を観たら、必ず鼻腔を観察し、さらに鼻炎・副鼻腔炎を念頭に置いた病歴の聴取を行うべきなのだ。

もう一点、気管支ぜんそくの小児の8割では、慢性副鼻腔炎・鼻炎の合併があると、奥田元日本医大教授は、その好著「アレルギー性鼻炎」のなかで記しておられる。副鼻腔炎と気管支ぜんそくの関連は、昔から記載されてきた通りで、気管支ぜんそくの場合、鼻炎・副鼻腔炎を念頭において診療すべきだと思う。気管支ぜんそくを専門に治療している医療機関でも、慢性副鼻腔炎・鼻炎への対処が不十分ないし全くなされていないことが結構ある。後者の治療が不十分だと、気管支ぜんそくのコントロールに悪影響を及ぼしうる。

と、偉そうに記してみたが、引退した小児科医の戯言として誰からも注目されないのだろうな 苦笑。鼻炎・副鼻腔炎は、生活の質を落とすことはあっても、生命にかかわることはないし、多くの場合、自然治癒傾向がある(でも、一部は確実に大人まで問題を持ち越すが)ので、大学や基幹病院での研究テーマにはなりにくいのだろう。それに、研究の方法論がなかなかなさそう。

陳腐な自己肯定ととられるかもしれないが、これらの慢性副鼻腔炎・鼻炎をいつも念頭において診療してきたことで、少なくともいくばくかの患者さんには生活の質を上げ、様々な合併症を起こさないで成長してもらえたのではないかと、信じている。科学的な知見の集積というよりも、いわば現場での経験に基づく技術的が知見が身に着いたということだろう。残念なことに、それを次代の小児科医に継承してもらうすべはない。学問と言う形を取らないのだから、それはそれで仕方のないことなのかもしれない。もしここをご覧になっている若い小児科医諸君がいたら、鼻腔・副鼻腔という炎症の好発部位も、診療の際に注意して観察し、それに関する病歴・所見を取ってもらえたらと念願する。

そう言えば、今は亡き五十嵐先生も、耳鼻科的な診察・診療技術が、小児科にとって必要なことを、身を以て教えてくださったことがあった。彼が自治医大の小児科を去り、北海道厚岸町の町立病院に赴任なさり、地域医療を実践し始めたころ、自治医大で姿をお見受けしたことがあった。どうして戻ってこられたのかお聞きしたら、耳鼻科で研修を受けているのだと仰っていた。彼は、ものごとを突き詰めて考える小児医であったので、臨床現場で耳鼻科的な診療技術がどうしても必要だと考えたのだろう。

こうしたありふれた問題が、医学教育でいつ重要なこととして取り上げられるようになるのだろうか。もう変化は生まれているのだろうか。一生に一度お目にかかるかかからないかという病気を詳細に研究することも医学の進歩だろうが、ありふれていて重要な疾患が置きわすられているようにも思えるのだ。

コメント

的はずれかもしれませんが、先日耳鼻咽喉科アレルギー科で受診したら、花粉症だと思っていたのが、実は花粉はシロで、ハウスダストとダニがアレルゲンでした。

内服液と、噴射式の薬を処方されましたが、それよりも、生活指導と性能の良いマスクの着用を義務づけられました。
アレルギーがひどくならないようにとのことでした。

子どもの頃にかかった気管支喘息や、風邪をしょっちゅうひいていたことと、アレルギーは関係があったのかもしれませんね。

難病を研究することはとても大事ですが、身近な病気を研究することもそれと同じくらい大事だと思います。そういうお医者さんが沢山出てくると良いと思います。

Re: タイトルなし

sugiさん

アレルゲンの相違は、症状の出やすくなる季節が異なる程度で、基本的には症状は変わりません。ダニがメインですと、年がら年中症状が出やすいということですね。あと、棉埃のなかに、ダニの死骸や排泄物があり、症状を引き起こしやすい・・・おっとっと、私はリタイアしたんだっけ 笑。

子供の場合、こうした鼻炎や軽い喘息の見落としが、いまのところかなりありそうな気がします。

でも、私の出番は終わりと自分に言い聞かせて、第二の青春に突っ走って行きたいと思います。

子供じゃなくても

子供の頃からアレルギー性鼻炎があり耳鼻科に通っていました。

成人してから風邪をひいて近所の内科医院に行くと、これがいつもなかなか治らないんですよ。
それで鼻やのどの症状もある場合に耳鼻科にも行くと、風邪による副鼻腔炎とか喉頭炎とか咽頭炎とかの病名がついて、薬をもらって…これが治りが早いんです。

そんなことが続いてから、風邪をひいても耳鼻咽喉の症状がある場合は、はじめから耳鼻科に行ってました。働いてると、すぐ治るのは有り難いです。
内科の出番は腹痛の時くらいになりました。

最近医者に行くほどの風邪はひいてませんが、行きつけの耳鼻科の先生が引退してしまったので、ひどい風邪をひいたらどこに行こうかと考えちゃいますね。

Re: 子供じゃなくても

millefuilleさん

そうでしたか。適切な対応を受けられて、良かったですね。昔ながらの、あまり意味のない薬を出されて、自然経過で良くなるということもあるでしょうが、基礎にそうした問題があると、長引くのですよね。是非、信頼のおける主治医をまた探してください。

そうそう、所謂OTC薬の総合感冒薬といわれる薬も、「インチキ」ですから、あれだけは買わない方が良いです。いろいろな成分がごちゃ混ぜに「少量」づつ配合された薬剤なのです。副作用も出難いかわりに、殆ど効果がありません。

ところで、millefuilleさんって、私のことを個人的にご存じでしたか・・・以前コメントをいただいたときに、ちょっとそんな気がしまして・・・。また、コメントをお待ちしています(なかなかコメントし難いポストばっかりで・・・苦笑)。

ビッグコミックオリジナル連載の漫画で

真夜中のこじか、という女性小児科医師を主人公にしたものがあります。4月20日号(現在発売中のもの)が咳の長引く患児の蓄膿症の発見を扱っています。

Re: ビッグコミックオリジナル連載の漫画で

おぉ、漫画でも取り上げられていましたか。作家の方は、そうした慢性の咳嗽の原因に、慢性副鼻腔炎があることを知って書かれたのでしょうね。で、頻度が比較的多いのに見過ごされているということも書いているとしたら、素晴らしいです。慢性の咳嗽は、しかし、様々なほかの原因もありますので、慎重に鑑別しなければならないのですが・・・。

漸く、ペーパーワークの山を越しそうです。法人化したのが間違いでしたね・・・。会計事務所の口車に乗せられたというと語弊がありますが、法人のメリットは少なく、ただ会計事務所への支払いと、やたら事務作業が多くなっただけでした。でも、私の職場についていえば、先は見えてきました。

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