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コンシエルジュ ドクター 

現在、マイケル サンデルの「それをお金で買いますか 市場主義の限界」を読んでいる。なかなか面白い。市場の原理で扱えないもの、領域が、社会にはある、ということについて記されている。読み終わったらまた紹介したいと思っているが、米国の医療の一側面が記されていて、興味深かったので、その点をまず紹介しておきたい。

米国では、プライマリーケア医の診療に対して、保険会社が報酬をあまり支払わないので、開業医は、多数の患者をかかえ大急ぎで診療をするとある。で、その多数の患者とは、一日に25から30人なのだそうだ。一人当たり、10から15分程度かけるらしい(これが、忙しい医療現場ということらしい・・・日本では、この時間をかけられたら、むしろ丁寧に診たということになる)。私が、自分の仕事場で一日に100人近くの患者を診たなどと米国の友人に言うと、例外なく大層驚かれたのを思い出した。この人数でも、多数の患者ということになるとすると、100人などと言うと想像すらできない世界になるのだろう。

で、最近、米国ではコンシエルジュドクターというシステムが流行し始めているらしい。患者は、ある額の年会費を払うことによって、当日予約を取ることができる、ないし医師に24時間いつでも診療を受けられるというシステムだ。年会費は、1500から25000ドルとのことだ。このシステムは会社が経営しており、年会費の2/3が医師の取り分である、とか。これで、医師は、一日10名程度の患者を診るだけで済む。

こうした医療の市場化は、患者の自由意思の尊重と、社会的効用の最大化という功利的な観点から、首肯する立場もある。が、サンデルの主張では、医療のこうした市場化は、公平さを欠くうえに、当該職種、この場合は医療ということになるが、の公共善を実現するのではなく、私的利益の源として扱うことにより、それを「侮辱している」、即ち「腐敗をもたらしている」と述べられている。この問題については、また読了してから詳しく論じるとしよう。

ここで私が考えざるを得ないことは、米国の悲惨なプライマリーケアの状況よりも、格段に悲惨な日本の現状である。日本の開業医の場合、一日25から30人の患者では、暇を持て余すことになる。一人の患者さんにかける時間が短いことが通常のことになっているからだ。また、この患者数では、初期投資規模にもよるが経営的にも立ち行かない可能性が高い。プライマリーケアの収入の多くは、医師の技術料になるが、それは10円単位で削られ続けている。再診料についていえば、コーヒー一杯の値段程度しか得られない。

昨今の新しい予防接種の薬価の多くは、一人一回当たり1万円程度する。一方、それに対する技術料は、3000円程度であろうか。これは予診を取り、診察、そして予防接種の接種、さらに母子手帳や予診表に書き込み、副作用・効果・予防接種計画について説明する一連の作業に対する報酬である。事務受付、看護師、それに医師が関わる。予防接種バイアル一本1万円に対して、あまりに技術を低く評価されていないかと感じざるを得ない。

予防接種の開発には、巨大な研究・設備投資が必要になることはよく分かるのだが、一つの予防接種で、日本だけで毎年数十億円から数百億円の収入が、予防接種を生産する企業に入る。世界的な規模では、数千億円の額になることだろう。それが、10年、20年単位で続くのである。日本では、医療は原則社会主義的なシステムになっているので、医療の外側、即ち、薬品・医療機器それに医療を管理する行政の外郭団体への、このような資本移転が大きい。

サンデル教授の言う「腐敗」は、より積極的に医療を私的利益の源として利用するやり方にあるが、こうした医療技術への報酬を少なくすることも、結局は医療専門職への「侮辱」なのではあるまいか。社会主義医療体制下では、こうした形での「腐敗」が進むのだ。金を医療側にたくさん寄こせという単純な議論ではない。医療技術への敬意の問題だ。こうした安価な医療のもと、最終的に、「侮辱」されるのは、きちんと診察を受けられぬ患者たちになる。

医療現場の声も医療市場化の流れの中ではかき消される。政府も、混合診療の方向に舵を切った。コンシエルジュドクターが日本に現れるのも、そう遠い将来のことではあるまい。ただし、日本の官僚が支配する似非社会主義体制下でのことなので、医療現場はさらに搾取されることになる。これを読まれた方は、数年後この記事を是非思い出してもらいたい。この通りになっていること、請け合いである。

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