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角を矯めて牛を殺す 

繰り返し、このブログで取り上げているが、診療報酬支払のシステムにおいて、本来対等であるべき医療機関と、行政・保険者の関係が、前者が圧倒的に不利になっている。支払いをする後者が、支払いを受ける後者を監督指導する強大な権限を持つからだ。

医療機関の診療報酬に関わる不正が酷いから、もっとその不正摘発を厳しくせよ、という議論が、中医協でなされている。これは繰り返し、保険者・支払基金から提議されていることで、実際、医療現場にいると、その圧力をひしひしと感じる。

支払い側の白川修二委員(健康保険組合連合会専務理事)が述べる通り、もっと摘発を厳しくすべきなのだろうか。それには、大きく三つの問題がある。

一つは、現在の「書類上だけの審査」で不正を暴くには限度があるだろうということだ。書類だけの審査であり、当該専門科目の臨床に詳しくない審査員が、審査をすると、結局、行政が作り上げた巨大な診療報酬体系に少しでも抵触した請求を撥ねるということになる。その判断は恣意的と思われることも少なくない。医療機関側もそれに対処するために、形式だけを整えることに懸命になる、という構図だ。

もう一つは、上にも記したが、診療報酬を審査する審査員と、指導監査を担当する行政官の力量の問題がある。特に後者。各県に恐らく数人程度しかいないであろう、行政官である医師が、臨床から離れてすべての医療領域をカバーするのはまず無理な相談だ。私が、個別指導らしきものに一度だけ、新規開業時にでたことがあるが、行政官は、小児科の臨床を殆ど知らない様子だった。で、行政が作り上げた初診・再診の区別、指導料算定の際のカルテへの記述の量・仕方といった曖昧な規定を振りかざし、臨床側に「不正」を指摘することになるわけだ。

それに、「不正」と判断される根拠となる、診療報酬体系が複雑極まる。また、その内容の解釈が、地方自治体ごとに違っていたりする。行政は、この体系によって、医療行政を進めようとするために、そこにincentiveと罰則をてんこ盛りにする。incentiveには、臨床現場の実情に合わないものが多くある。こうして張り巡らされた、複雑かつ恣意的運用が可能な診療報酬体系により、医療現場は縛られている。

どのような業界でも故意に悪事を働く人間はいるものだ。刑事告発に至ったケースが、過去15年間で20件、一年平均1件とちょっと、というのは、病院が7000、診療所はその数倍あるなかで、異常に多い数字なのだろうか。現在のやり方で、「不正追及」を行政が始めると、角を矯めて牛を殺すになるのではあるまいか。

診療報酬支払いと、医療機関の監督指導に関して、行政サイドにだけ権限があるという構図が医療を歪めている。


以下、引用~~~

医療介護CBニュース 10月31日(水)14時57分配信

東京医大茨城医療センターの保険医療機関取り消し問題を受け、厚生労働省は31日、2010年度の保険医療機関の指導、監査に伴う診療報酬の返還対象総額が43億4397 万円に上ることを明らかにした。同日開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)の総会で公表した。委員からは、悪質な医療機関への調査体制の強化を求める声が相次ぎ、監査 でカルテなどをチェックする指導医療官の不足や待遇の不十分さに対する指摘もあった。

同省によると、10年度、出頭命令や立入検査などを伴う監査は、医科の保険医療機関に対し98件、保険医には263人。歯科は47件、134人、薬局は14件、38人。保 険医療機関の指定取り消し(処分前に廃止した場合を含む)は医科が8件、歯科12件、薬局2件だった。医科の指定取り消し件数(同)の推移は、06年度15件、07年度2 1件、08年度14件、09年度3件となっている。1997年度以降、各地の厚生局が警察に刑事告発した例は20件という。

支払い側の白川修二委員(健康保険組合連合会専務理事)は「悪質な不正請求、架空請求などかなりある。これは弱い患者さんからだまして、不当な診療報酬をまき上げる詐欺行 為」とし、もっと積極的に告発してほしいと要望。また、厚生局の姿勢について、「保険者からかなり調査依頼を上げているが、動いていただけない」と言及し、機動的な監査を 求めた。

監査体制については、診療側の安達秀樹委員(京都府医師会副会長)が、厚生局に配置される医系技官である指導医療官の不足を指摘。指導医療官の待遇や条件について、「(医 療知識が十分な)現役の医師でなければならず、給与もそんなに高くない」と説明し、「実際に京都府医師会に『お願い』されるが、現役の医師は現場で求められているし、医師 と指導医療官の給与差も大きい」と、待遇の改善がなければ対応が難しいという見解を述べた。厚労省によると、医科の指導医療官は、現在定員の約半数が欠員だという。【大島 迪子】

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