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警察庁『一定の病気に関わる運転者対策』 

警察庁は、道路交通法改正試案についてパブコメを募集している。取り上げるのがいささか遅くなってしまったのだが、明日までの募集だ。試案の内容は、こちら

この試案で注目したのは、「一定の病気等に係る運転者対策」という項目。

試案の内容のあらまし・・・

1)運転者の病気によって、運転者が意識を喪失したり、場合によっては突然死し、それが重大な交通事故に結びつく、ということから、運転者の「一定の」病気に関して、免許取得時・更新時に公安委員会が、申請者に質問をする制度を作ろう、というものだ。

質問に虚偽の回答をした場合は、罰則(1年以下の懲役または30万円以下の罰金)が科せられる。

2)「一定の」病気とは

〇統合失調症  〇てんかん  〇再発性の失神  〇無自覚性の低血糖症  〇躁うつ病  〇重度の眠気の症状を呈する睡眠障害  〇認知症  〇アルコール・麻薬等の中毒 等

3)医師による任意の届け出制度も創設される。「一定の」病気等に該当する者を診断した医師は、その者が運転免許を受けていることを知った時は、公安委員会にその診断の結果を届け出ることができる、とされるようだ。


最近、てんかんの患者が抗てんかん薬を服用しないで発作を生じ、それが重大な人身事故につながったケースがあったことが、このような道交法改正を行おうとする動機なのだろう。それはそれで、理解できないではない。が、この改正には問題点が多い。

一つには、この改正を検討する会議の人選の問題。交通事故被害者、法律家等が含まれているが、医療側は、神経内科の医師と、医師会代表の二人だけである。該当対象疾患患者の多くを扱うであろう、精神科医師が抜けている。また、患者会の代表にも入ってもらうべきではなかっただろうか。行政の意向を反映した結論に導くための人選と言われても仕方あるまい。

次に、該当対象疾患の多さ、またその対象人数が莫大な数になることが想定される。統合失調症・てんかん・躁うつ病だけでも数百万の患者が対象になる。彼らが運転をできないと判断された場合の影響は甚大だ。そうした点から、この改正は慎重に検討する必要がある。

病気が原因の事故はどの程度あるのか。独協医大の一杉准教授によると、フィンランドではすべての交通事故死のうち約10%が運転中の病気発症が原因といわれている、とのことだ。交通事故全体では、病気の絡むケースは相対的に少なくなる可能性があるが、かなりの数に上ることが想定される。一方、運転者の突然死の原因として、循環器・脳血管疾患によるものがほぼ半数を占める、といわれている。てんかん・精神科的疾患は、それに比べると、少ないようだ(1/4程度であったと記憶している)。運転者の精神科的疾患およびそれに対する投薬が原因で、交通事故を起こすことはあるだろうが、それはほかの疾患群と比べて、圧倒的に多いと言うことはない、むしろマイナーな部類に入ると考えられる。それを考慮して、重い罰則付きの自己申告義務を、これら精神科的疾患を中心とする疾患群の患者にだけ課すことが適切なことなのかは、疑問が残る。少なくとも、報道に載った少数の事例だけで、一部の疾患患者を差別的に扱っていないか、事故全体に占める原因のなかでどのように位置づけられるのか、詳細かつ慎重な検討が必要だろう。

3)の医師による任意の届け出義務も、行政が責任を医療現場に丸投げする、無責任であると考える。現場の医師は、こうした事例に遭遇した場合、患者のプライバシーと生活を優先すべきか、それとも交通行政の命じるところに従うべきか、大きく迷うことになる。この改正案では、個人情報漏えいが問題になるだろうことを先取りして、「刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、当該届出をすることを妨げるものと解釈してはならない」と述べられている。これが解釈の問題であるなら、医師が訴えられた場合、やはり個人情報漏えいに当たるとされる可能性は残るのではないだろうか。例えば、患者が、免許をはく奪されることによって生活ができなくなり、自殺に追い込まれたといった場合である。また、届け出を行った医師は、当該患者と治療関係を結ぶことは極めて難しくなることだろう。なぜ、「任意の」届け出義務なのか、大いに疑問が残る。

3)の届け出を医師が行った場合、警察当局は、治療内容が自動車運転を妨げないか、当該医師に尋ねてくることが当然予想される。すると、精神科領域の治療薬の殆どは能書に「運転注意」と記されているから、医師はその通り答える必要が出てくる。それで、警察当局は免許の取り消しに動くことになるだろう。ここでも、免許取り消しの責任は、医師・医療現場に丸投げされることになる。



運転者の持つ病気によっては、重大な事故に結びつきうることを否定するつもりはないし、そうした不幸な事故を避けるためにできることをしてゆくべきだろう。だが、多くの国民が関わり、その生活基盤自体に関わるこうした決定は、慎重になされるべきだ。また、医療現場に実際上判断不可能な判断を求めることは止めてもらいたい。

コメント

法制審議会

私は、こちらの方で見ていました。

法制審議会-刑事法(自動車運転に係る死傷事犯関係)部会

http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi06100044.html

関係学会からは、要望書も出ているようなんですが。

Mikeさん

本文中に書き忘れたのですが、少なくとも当地のような田舎では、車を運転できないと生活できないという事実があるのですよね。そうした社会になっている事実をもう少し重く受け止めてもらいたいものです。

だから、意識障害の危険性のある方に運転をさせるということにはならないとは思います。ケースによってきめ細かな対応が必要なのと、医療現場に無用な責任を押し付けないでもらいたいと思っています。

よく就職や資格取得などで「この者は精神疾患を有しない、または薬物中毒者でない」旨の診断書を書かされることがあります。薬物検査なぞしようものならコストが何十万にもなってしまうので、勢い問診だけで書くことになりますが、考えてみればかような診断書を書いてくれと持ってきたものが、なんで自ら上記の者にあてはまると告白するでしょうか。いざ何かあったら医師に責任を押し付けようということなんでしょうが、こんな無意味な診断書何とかならんもんでしょうかね。
おそらく運転免許取得に関しても同様の診断書を求めてくるんだろうと思います。あほくさいの一言で済ませられればいいんですが。。。

そうですね・・・医療現場、医師に最終的な責任を負わせる構造になりそうな気配ですね。

患者の診断を公安委員会に報告する「任意の」義務が医師に課せられるようですが、その報告が、患者の個人情報の守秘義務にかかわるものと「解釈されるべきではない」という、のも結局曖昧な規定で、警察および患者双方からの責任追及が、医師に及びそうな気がします。

そこはかとなく、これら「一定の病気」への偏見が背後にありそうな改正案ではあります。

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