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混合診療拡大の動きを前にして 

安倍政権は、医療介護と農業を成長分野と定め、そこで規制緩和を進めるつもりらしい。

医療での規制緩和といえば、即ち混合診療の拡大である。混合診療が拡大されると、患者の自己負担が増える。治療の選択肢が増えるという甘言が、混合診療拡大にはついてくるが、その恩恵を受けるのは、持てる者だけ、ということになる。さらに、この規制緩和で医療がさらに市場化されることで「儲け」を得るのは、保険資本等巨大グローバル資本だけである。

そのことを踏まえた上でも、現在の医療制度は経済的に成り立ち難くなっている。先日、とある眼科に初診患者としてかかった。七項目の検査が行われ、初診料を合わせても、自己負担は3千円台だった。私が医療関係者であることは伏せておいた。眼科医は、多くの患者をかかえ、一人の患者に十分な時間をかけられず、さらに少しイラついているように見受けられた。私の病状に対してこれだけの検査が必要だったのか、また私の疑問に十分答えて頂けない、その余裕が医師になさそうなのは何故だったか、しばらく考えていた。結局、現在の診療報酬制度では、全体的に診療報酬が低すぎて、患者数を多くして収入を確保せざるを得ない、ところからすべての問題が来ているように感じた。かっての医療従事者・経営者であることから、医療機関・医師側の立場に立ちすぎかもしれないが、現実問題として、眼科のように初期投資が必要な科では、現在の診療報酬では厳しかろう。医師の説明が不十分という声が患者側から聞かれることも多いが、初診料2000数百円で20、30分以上医師を一人の患者が占有することは医療経済的に無理なのだ。

混合診療が拡大されると、市場原理が導入され、利潤の上がる医療の領域、対象だけが拡大し、そうでない領域、対象は置き去りにされる。そうなりつつある、ということがどれだけ国民に理解されているのだろうか。少なくとも、これまでの医療制度を続けるわけにはいかなくなっている。政府・行政の思惑を超えて、すでに制度疲労がたまってきている。

混合診療は、止む無しなのではないか、と最近思うようになってきた。ただし、混合診療が無法図に拡大されると、医療を支配する市場原理は、自己増殖的に医療の隅々まで覆い尽くす。その利潤追求の歯止めがかからなくなる。その利潤追求の動きは、主に米国のグローバル企業が主導することになるだろう。そうなると、わが国政府・行政は対処できなくなる。

社会的共通資本としての医療制度の根幹を残しつつ、改革はできないものか。ハゲタカのようなグローバル金融・保険資本から、日本の医療を守る手立てはないのだろうか。現状の医療制度では立ち行かないとしても、このまま規制緩和に流されると、日本の医療制度は、グローバリゼーションの波に飲み込まれてしまう。それをひしひしと感じつつ、焦りのような気持ちだけが残る。


以下、MRICより引用~~~

医療への「幻想」を捨て去るときが来た 何が変わるのか?安倍政権が打ち出す医療の規制緩和

※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです。
http://jbpress.ismedia.jp/

武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕

2013年5月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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安倍政権の産業競争力会議(成長戦略を議論する会議)において、医療では以下のようなことが検討されています。
「疾病の種類に応じて自己負担を変える、例えば風邪の場合は自己負担7割」
「自己負担の“最低”限度額を設定し、少額な治療費は全額患者の自己負担」
「軽度のデイサービスは全額自己負担、デイケアは3割負担」
「(医療)市場の拡大が財政負担とならないように保険制度のあり方を見直す」
「介護予防や軽症者へのサービス、中重度の上乗せサービス(例えば配食サービス)は民間保険(自己負担)でカバーする」
「規制撤廃により保険外併用療養費のさらなる範囲拡大」
他にもあるのですが、これら検討されていることは全て “医療の公的負担を減らし、民間に任せる”(=自己負担で受けてもらう)以外のなにものでもありません。
私たちは、「求める医療を、いつでも好きなところで、お金の心配をせずに自由に受けられる」ことがもはや幻想だと気づいて、現実としっかり向き合う心構えをするべき時期なのではないでしょうか。

●低所得者は良質な医療が受けられなくなる
検討項目中の「風邪の診療の7割負担」や「軽症の病状の場合の診療費全額自己負担」は分かりやすいかと思いますが、「規制撤廃により保険外併用療養費のさらなる範囲拡大」の部分は多くの人にとって分かりにくいかと思われます。
そこで、保険外併用療養が拡大された後で、大腸がんが見つかり手術を受ける場合を考えてみましょう(あくまで架空の例です)。病院の説明はこうなります。
「今回の大腸がん手術ですが、通常の開腹手術であれば保険範囲内で50万円、実際の負担額は高額療養費制度により20万円になります」
「オリンパスとソニーが共同開発した最新鋭の手術機材を使用して手術する場合は、腹腔鏡手術のもと、がん転移の可能性のあるリンパ節をより正確に 切除できます。しかし、こちらは保険外併用療養となり、手術代金は自己負担分150万円が加わって合計で170万円になります」
「保険外併用療養費の拡大」とは、このように保険でカバーされない医療が数多く発生するということなのです。10倍近くに医療費が跳ね上がれば、低所得者層は良質な医療が受けられなくなるのは必然でしょう。
日本医師会が頑なに「必要な医療は全てを速やかに保険診療の対象とするべきである」という主張を一歩も譲らないのはこのためなのです。
しかし国側の対応は、シンプルかつ反論の余地のない一言「財政が持ちません」で片付けられてしまっています。
保険外併用療法(実質的には混合診療)に関する議論は、10年間以上このような状況で平行線をたどり続けていたのです。

●保険範囲内だけで良質な医療を維持するには現場の犠牲が必要
話を大腸がん手術の例に戻して続けます。このような場合に「じゃあ、170万円の方で」と返事をする方は(当たり前ですが)限られます。
多くの場合は、「私はとてもそれだけの金額を支払えませんので、従来の方式でけっこうです。ただし、手術の上手い先生にお願いします。時間を倍くらいかけて丁寧に、最新機材を用いた手術と同じ結果になるように行って下さい」ということになります。
これは、“保険範囲内でも、でき得る限り最高の医療を提供するべきである“という正当な要求であるのは間違いありません。
しかしながら、保険範囲内では「ドクターフィー」(医師の指名料金)は認められていませんし、医師の側からすると時間を倍かけても手術料は全く変わらないのです。
保険外併用療養拡大が正式決定された曉には、「拡大しても保険診療の質は保たれる」と説明されることでしょう。しかし、それは現場がボランティアの犠牲を払うことが前提でもあるのです。
それほど時間が経たないうちに「医師の指名が可能なのは、170万円の方の手術を受ける方だけです。保険範囲内の方は、保険範囲内で十分に配慮を払った手術しかできません」となることでしょう。

●理想は大事だが、そろそろ現実を直視すべき
私の専門分野で言うと、胃や大腸の内視鏡検査を行う際に「眠っているうちに終わらせる」静脈麻酔の使用は、保険では認められていません。
うとうとする程度の鎮静剤使用であれば、(私を含めて)持ち出しでやる施設もありますが、私の経営する診療所について言えば、保険診療分は赤字で、治験収入(保険外収入)で決算をなんとかプラスにしているというのが実情です。
保険範囲内で最善の医療を提供するのは当然だとは思いますが、「保険範囲内で鎮静剤を多く使用して(その際の合併症の対応も含めて)、眠ったうちに全く何も感じない状態で検査をしてくれ」という要望に対しては、「できません」と断らざるを得ません。
もちろん、保険外併用療法が認められればこの問題は解決します。でも、胃や大腸の内視鏡検査代金を現在の1万円程度から5~8万円程度にまで高騰させて良いのでしょうか?
日本医師会は、保険外療養費を認めると「低所得層が良質な医療を受けられなくなる」と主張しています。それに対して、「国家の保険負担が減り、その分みんなが経済的に恩恵を受けられる」と反論する人たちがいます。
しかし、浮いた財源をもってしても、増え続ける医療費を無制限にカバーすることはできません。そうである以上、どう言いつくろうとも「医療を公費で負担する限りは、抑制する範囲を決めなくてはならない」ということです。
今まで日本の医療は、「求める医療を、いつでも好きなところで、お金の心配をせずに自由に受けられる」ことを前提条件としてきたかと思います。
理想としては非常に大事だとは思うのですが、現実に議論されていることは、「抑制する範囲を決めてどこまで我慢してもらうか」でしかありません。そこまで日本の財政は追いつめられているということなのでしょう。
安倍内閣が打ち出す医療の規制緩和は、10年間の閉塞を打破する大胆なものになる可能性が十分にありますし、変化が必要なのは間違いないでしょう。しかしそれは、日本国民に、いつまでも幻想にとらわれていないで現実を直視するように心構えを変えることを強いる改革でもあるのです。

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