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リスク情報の共有を 

東電福島第一原発事故拡大の責任は、当初、民主党政権、特に菅元首相、それに東電に押し付けられた。東電が、完全撤退をしようとしていたことはほぼ確実で、そうなったら、関東全域も避難対象になっていた。そうしたなかで、当時の政権はむしろ善戦した。

問題は、こうした事態を想定しようとしてこなかったシステムにある。そうしたシステムを作り上げてきた政官業にこそ責任はある。その政の中心に居続けた自民党、参議院選挙公約で原発再稼働を進めることを公約に掲げている。原発導入を決め、毎年原発を増設し続けてきた。地震多発地帯で、54基の原発を抱えることは、理性的に考えれば、あり得ないはずのことだ。増設をここまで推進してきた勢力が、原発再稼働を行おうとしている。

リスクを共有し、あらゆる情報から学ぶシステムが、日本には欠けている。そうしたシステムの構築ははたして可能なのだろうか。


以下、MRICより引用~~~


倫敦通信(第8回)~フクシマにおけるリスクコミュニケーション

星槎大学客員研究員
インペリアルカレッジ・ロンドン公衆衛生大学院客員研究員
越智 小枝(おち さえ)

2013年7月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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先日国際会議で知り合った方から、「福島原発事故の時のリスクコミュニケーションとソーシャルメディアの役割」について話をしてくれないか、と依頼がありました。日本国内の知り合い何人もに断られたとのことで、私自身も専門家ではないのですが、相馬でお聞きしたことを広める機会と思い、お受けしました。

招かれたのはヨーロッパ・アジアの公衆衛生の専門家30名程のワークショップで、コンフィデンシャルな環境で忌憚のない意見を話し合い、新たな戦略を模索するというものです。参加者は政府やWHO(世界保健機関)・ICRC(国際赤十字)などの公衆衛生担当者が多く、各々の立場から見たソーシャルメディアの新しい役割につき意見が交換されました。自然災害だけでなく紛争時の援助の経験談など、人災・天災両方の視点から学ぶ意味でも有意義でした。そのような中で、ディスカッションの叩き台として文献を元に以下のようにケースを提示させていただきました。

・福島の原発事故は、単独の事故でなく、大きな自然災害の直後に起きた。このため政府も含め対応の人手が不足しており、また通信手段も障害されたため現地情報が不足した。
・職員の安全の問題から、マスコミなども現地に人を送って情報収集することが難しかった。
・日本では原爆の歴史があり、放射線=即死、というイメージの為に恐怖感が強かった。
・しかしその困難を差し置いても、発災前のコミュニケーション不足、危機の過小評価、不確定要素を伝えない方針、など、リスクコミュニケーションの理論から「やってはいけない」対応(1,2)がいくつかあった
・政府とマスメディア情報に対する不信感が急速に増す中で、東大の早野龍五教授のような一流の科学者がソーシャルメディアを有効に使い、放射線量情報を広めたり、人々と実際にコミュニケーションを取る、などの活動をしたことは非常に有用であった(3)。

驚いたことは、日本人ならほぼ誰でも知っているこのような状況につき、知っている人がほとんどいなかった、という事です。日本の災害対策を学ぼうと積極的なフィリピンやインドネシアの人々からは、「日本の対応はとても素晴らしかったとしか聞いてこなかったので、驚いた」
と言われました。日本の対応は全般的にとても優秀だったと思う、しかしその評判を重視するあまり、失敗を世界に共有できないのも欠点かもしれない、とコメントさせていただきました。

一方、少し状況を知っていた人にとっても、国民が情報を知らされていなかったことは意外だったようです。国際原子力機関(IAEA)に関わっていた方からは、
「日本の情報の信ぴょう性が低いことは知っていたが、国民にも知らされていないとは知らなかった」と言われました。日本が世界と情報共有できないことで、国民全体が事態を隠そうとしている、と取られている可能性もあることを初めて知りました。

それに関連して「日本の学会やマスコミはなぜこういう情報を世界に発信しなかったのか」という質問もありました。他の日本人の出席者と共に
海外へ発信しようとすると、学会などからもstigmatiseされる(烙印を押される)可能性があった。実際に発表しようとして上司に止められた、という人もあるようだ。」
「政府会見は招待性なので、記者があまり厳しいコメントを書いたりすると二度と招待してもらえない可能性があると聞いている。」
「国内の人間がこのようなことを海外に伝える時には、職業生命をかける必要もあった。だから今回このようなプレゼンテーションを引き受ける人が留学生の私しかいなかったのでは。」
などと回答しました。

シンガポールなど政府の力の強いアジアの国々の方にはこのような状況をイメージしやすいようでしたが、ヨーロッパ圏の方には、言論の自由のある日本でこのようなことが起きることが衝撃だったようです。

印象的だったのはニュージーランドの復興責任者の医師のコメントです。彼は、放射線量情報が民間の独自の判断で公表された、という事に最も驚いていました。
「Triple Disaster(三重災害)と言われるこの災害では、多少の判断ミスがあっても仕方のない状況だと思う。一番の問題はそれが隠されている事だ
「この情報化社会で、オープンスペースで起きた事故に対し、なぜ政府は『情報を隠せる』と思ったのだろうか」

今の世の中、大きな事故があれば必ず誰かが記録に残し、ソーシャルメディアに載せる。そのような中では情報は隠せないことを前提にするべきだ、というのが彼の意見です。ソーシャルメディアの力が強力な「監視力」となって日本の組織全体の隠ぺい体質を変えることができる可能性があるのだ、ということを改めて感じました。

しかし今回の出席者の中には、むしろ「なぜ国民が上手に政府を動かせないのか」という疑問もあったようです。ヨーロッパでの官民一体の取り組みを見ていると、日本では国民が政府を信用なくなっているだけでなく、政府も国民を信用できていないと感じます。ミスを認めることが不信につながる、というのも迷信だと言われていますが、これを受け入れられる程政府は国民やメディアを信用していないのだろうと想像します。

大きな事件というのは、個人のミスではなくシステムの欠陥によって引き起こされることが大半です。医療の世界でも非常によくみられることですが、特定の団体や個人を責める風潮がミスの隠ぺいにつながり、その結果システムが改善されず、新たな失敗を呼ぶ。日本がフクシマの経験から上手に学ぶためには、国全体に未だ根強い「Accuse, Blame, Criticism(非難、誹謗、批判)」というABCの負の文化を断ち切る必要があると思います。
「今回の失敗を踏まえて日本はどのようにリスクコミュニケーションの改善をしているのか」
という質問に対し、私は残念ながら明確な回答をすることができませんでした。

またWHOで立ち話をしていた時には、「被災地の住民は当事者なのだから冷静に話し合いをするのは難しいだろう。第三者が間に入るべきでは」という意見も聞きました。確かにヨーロッパに比べると、国民も政府との交渉を当事者だけに任せる傾向にあるのかもしれません。私自身も含めフクシマを知る人々全員が、自分たちの立場から何かできなかったのか、できないのか、多様な方向から改めて反省する必要があると思いました。

1) Understanding Risk Communication Theory: A Guide for Emergency Managers and Communicators Report to Human Factors/Behavioral Sciences Division. (2012) Science and Technology Directorate, U.S. Department of Homeland Security
2) Slovic P. (1999) Trust, Emotion, Sex, Politics, and Science: Surveying the
Risk-Assessment Battlefield Risk Analysis, Vol. 19, No. 4, 1999
3) 立入勝義 (2011) 検証 東日本大震災 そのときソーシャルメディアは何を伝えたか? ディスカヴァー・トゥエンティワン, 東京.

略歴:越智小枝(おち さえ)
星槎大学客員研究員、インペリアルカレッジ・ロンドン公衆衛生大学院客員研究員。1999年東京医科歯科大学医学部医学科卒業。国保旭中央病院で研修後、2002年東京医科歯科大学膠原病・リウマチ内科入局。医学博士を取得後、2007年より東京都立墨東病院リウマチ膠原病科医院・医長を経て、2011年10月インペリアルカレッジ・ロンドン公衆衛生大学院に入学、2012年9月卒業・MPH取得後、現職。リウマチ専門医、日本体育協会認定スポーツ医。剣道6段、元・剣道世界大会強化合宿帯同医・三菱武道大会救護医。留学の決まった直後に東日本大震災に遭い、現在は日本の被災地を度々訪問しつつ英国の災害研究部門との橋渡しを目指し活動を行っている。

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