国民への組織的宣伝の効果 

米国の友人たちのSNSでの発言を見ていると、移民、それにイスラム教徒に対する反感、敵意が目立つ。手紙でながながとイスラム教徒への敵意を述べた旧友もいた。リベラルな考え方の持ち主もいるが、少なくとも私の知る限り少数派だ。こうしたネットでの保守的な人々の思いが、どのように形成されたのか理解できぬこともない。特に9・11の彼らへの衝撃はすさまじいものがあったことが容易に想像できる。また、異文化の人々が自らのコミュニティに入ってくる違和感もあるのかもしれない。

だが、9・11の事件から、イスラム教徒への戦争を主張することは誤りだ。一つは、イスラム教徒のなかのごく一部の過激派がテロリスト化しているのであって、イスラム教徒全般がテロリストなのではない。テロリストを根絶するなど無理。それが生まれる背景に対する対処をしなければいけない。

もう一つ、より深刻なのは、テロリストに対する米国のダブルスタンダードである。アルカイダはアフガン戦争前に、CIAのてこ入れで勢力を伸ばした。サダムフセインもイランイラク戦争当時は、米国がてこ入れしていた。フセインを倒し、あの地域のパンドラの箱を開けたことによって、現在の中東の混迷が生じ、イラクバース党の残党がISISという鬼子のようなテロリスト集団になった。テロリストとの戦い、すなわちイスラム教徒との戦争には決してなりえない。むしろ米国のテロリズムへのダブルスタンダードを大いに反省すべきなのだ。

また、テロリズムとの戦いという米国のスローガンが、ダブルスタンダードであった別な事件がある。1980年当時、米国は中南米の小国でファシズム政権にてこ入れをしていた。それも表面上はテロリストとの戦いという名目であった。かつ、米国は集団的自衛権行使を名目にして武力介入をしていた。そうした小国での米国の覇権を維持し、共産化を防ぐためだったのかもしれないが、米国はこのような国々で戦争犯罪を犯している。米国の唱える、テロリズムの戦いは、この意味からも誤りである。

なぜこのようなダブルスタンダードが、米国で生じたのか、という点について、チョムスキーは「メディア・コントロール」という本のなかで、マスコミを用いた組織的宣伝が常に行われ、その対象である大衆「さまよえる人々」が財界と政権担当者の思惑通りにコントロールされてきたことを指摘している。組織的宣伝は、第一次世界大戦中米国の大統領になったウッドロー・ウィルソンの時代にさかのぼる。当時、米国の世論は平和主義が主流であった。それを、好戦的な世論に転換したのが、政権によって組織されたクリール委員会であった。同委員会は、半年間でその劇的な変化をもたらした。のちの、「赤狩り」等にも同じ手法が用いられている、という。現在においても、この組織宣伝による大衆のコントロールは続いている。

9・11の際に繰り返しマスコミに流される、テロリストの乗った旅客機が、世界貿易センタービルに突っ込んだ瞬間の画像。献身的に救助活動をする消防士たち。そうした画像が、米国国民の反テロリスト感情を拡大再生産してゆく。それが、中東などにおける米軍の武力行使を積極的に支持する、大衆の動きになっているわけだ。この組織的宣伝は、国民の政府に対する不満の視線をそらす効果もあるのだろう。また、武力行使によって、軍事産業複合体に転がり込む巨万の利益を生み出すことにも役立っている。

目を転じて、我が国の状況はどうだろうか。政府が、安全保障環境の悪化を喧伝し、それをマスコミは大声で反復復誦し続けている。特に、中国の経済的、軍事的台頭が目に見える形であるために、そうした組織宣伝に、国民は乗せられやすくなっている。中国が、毎年軍備を増強し続け、さらに海洋覇権を国家にとって重要な要素であることを言明している。ただ、中国が、米国そして我が国と直接ことを構えると考えるのは行き過ぎだろう。この状況は冷静に観察し、判断する必要がある。我々は、我が国においても、20世紀初頭世論誘導を米国で行ったクリール委員会と同じような組織宣伝が行われていると考えるべきである。そちらの方が、よほど危険だ。

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