木立の葉の揺れる音 

昨日は、真夏の到来を思わせる晴天だった。少し陽が陰ったころ、庭に出て、草むしりを始めた。雑草とのいたちごっこで、あちらがおわるとこちらが生えるということの繰り返し。でも、飽くことなく、草むしりを続ける。

「さわさわ」という木の葉が揺れる音が、耳に入ってきた。大きな木蓮の木と、その東側にある栗の木の葉が、そよ風に揺れているのだ。この木の葉の音に、なにかとても懐かしいものを感じた。私のもっとも古い記憶の一つが、この木の葉の揺れる音なのだ。私が生まれた小さな結核の療養所・・・以前にも何度か記したが、療養所というより、身寄りのない結核患者を受け入れ、その人生最後の日々を過ごしてもらうために、伯母が戦前に雑木林を開墾して作った施設。今思うと、本当に粗末なバラック小屋が、一定間隔でそびえる松の木の間に点在するだけの施設だった。その一角に、私の両親・家族が住む家、やはりバラック小屋があった。幼い私は、窓辺で昼寝でもしていたのか・・・さわさわという木立の音がうとうとしている私の耳に優しく届く。それが、私のもっとも古い記憶なのだ。

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あの療養所を知る人は、とても少なくなった。私の姉、信州に住む従妹、それに二三の遠い親戚の人々くらいか。だが、私の記憶のなかには、今も生き続ける。あたかも時間の流れが止まったかのようだ。この木の葉の音は、私の揺籃の時期を思い起こさせてくれる。

私は、人生の終の時期に差し掛かろうとしている。あの木の葉が揺れる音の世界に、ゆっくりと戻ってゆくのだ。あの療養所で亡くなった人々、患者を看取った人々、私の両親を含めて、みな、同じように、あの木の葉の揺れる音の世界に戻っていった。私も同じようにあの静謐な世界に戻ってゆく。

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