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産科医療事故原因分析の杜撰さ 

産科医療補償制度ができて8年。掛け金を集め、補償に回す主体は、日本医療機能評価機構である。

5年目の段階で、同機構はこの制度により670億円程度の余剰金を生み出した。だが、それを医療現場に還元するという話しは聞こえてこない。どうも同機構が懐に入れたままのようだ。その後も、同じ程度の余剰金が集積しているとすると、すでに1000億円程度をため込んでいるものと推測される

同機構は、あからさまな天下り組織である。天下った役人の給与、退職金にふんだんにこの余剰金が用いられているのだろう。1000億円の余剰金があれば、その利息だけでも結構な額になる。天下り役人にとっては、甘い汁そのものだ。

同機構が本来行ってきたのは、医療機関の評価である。その内容が、重箱の隅をつつくようなものであり、医療現場では不評をかこっていた。以前、ここでも何度かアップしたが、同機構は、医療事故、その手前のヒヤリハット案件の分析を行っている。が、原因の多くを医療従事者の不注意にあるとして、彼らに注意を喚起するだけにとどまっている。医療従事者の過重労働による注意力不足まで踏み込んでいない。医師は36時間以上の連続就労が当たり前のように行われており、医療事故案件の原因分析では、そうした医療従事者の労働条件の分析が必ず必要なはずだ。だが、同機構はそれを怠っている。

その上!!、下記の論文のように、産科医療事故に対する分析が、独りよがりのいい加減な内容である、という指摘が、医療現場から出された。医療事故の分析は、担当する医療従事者の見解を十分に把握し、彼らとの討論のなかで行われるべきものだ。ガイドライン等ほとんど意味がないケースが多い。患者、疾患の個別性を考慮すれば当然のことだ。それを、ガイドラインを機械的に適用して、独善的に、そして時には誤ったやり方で、医療事故のケースに適用し医療現場を断罪している。このような原因分析は、医療の質向上に役に立たないばかりか、医療現場を萎縮硬直させてしまう。

このような天下り組織が社会でのうのうと甘い汁を吸い続けている。一方、彼らが行う医療事故の分析は、誤りと独善に満ちたものだ。それは、日本の社会への害悪でしかない。このような天下り組織を放置していると、日本が立ち行かなくなる。

以下、引用~~~

産科医療補償制度 原因分析報告書についての検討

池下レディースチャイルドクリニック院長
池下 久弥

2016年8月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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要約

産科医療補償制度から発行された原因分析報告書について、報告書自体の評価
を行った。20事例について評価を行ったところ、明らかな判定間違いが2例、
指摘そのものの誤りが1例、誤った基準の適合が1例、矛盾した判定が2例、指
摘通りに実施すると深刻な事態を招く事例が1例見つかった。産科医療補償制
度はその見解の優位性および独占性において、その実質は裁判所であり、その
設置は憲法違反とも言える。しかも、産科医療補償制度はその裁判所の設置条
項である当事者の見解の陳述、及び異なる見解の許容すら許可しておらず、近
代裁判所の基準すら満たしていない。


はじめに

わが国では、公益財団法人日本医療機能評価機構のもとで産科医療補償制度が
運用されるようになり、医療機関から提出されたカルテをもとに産科医療運営
組織で原因分析報告書が作成され原因分析が行われてきた。ところが、原因分
析報告書自体についての評価はこれまで存在しなかった。そこで私は、原因分
析報告書そのものについて評価すべく、現在まで公開された入手可能な原因分
析報告書について検討を行った。


方法・対象

対象は公益財団法人日本医療機能評価機構より発行された原因分析報告書の全
文版に掲載された入手可能な事例1)20例について分析した。原因分析報告書は
巻頭に 『 産科医療補償制度の運営組織である当機構の責任のもとに、当機
構に設置した原因分析委員会において作成 』とあり、分析者は原因分析委員
とした2)。 原因分析報告書の情報源は巻頭に『当該分娩機関からご提出いた
だいた診療録等に記載されている情報およびご家族からのご意見に基づいて、
原因を分析し医学的評価を行ってとりまとめたものです』とあり、診療録等お
よび家族の情報とした。


結果

適切な判定がなされていることを想定し、現場に反映する目的で検討を行った
が、現実と矛盾し理論的に説明できない報告がなされていることが認められた
。以下にその内容と問題点を事例ごとに報告する。

1)明らかな判定間違い
妊娠初期の切迫流産に止血剤である アドナ3)及び トランサミン4) を処方
し服薬と安静により切迫流産が治癒した症例。母体および胎児に合併症は発生
していない。ところが報告書では、切迫流産に止血剤であるアドナ及びトラン
サミンを処方したことを『一般的でない』と判定している。そしてその根拠を
線溶系を抑制し凝固による血栓症を起こすからとしている。何を言っているの
であろうか。止血剤なのだから凝固するのがあたりまえである。凝固すること
により出血点を凝集させ止血するのである。それでなければ止血剤として機能
しない。
もし、この事例が血栓症を起こし有害事象が発生した事例であれば上記指摘は
適切であるが、何事もなく治癒しているのである。そして、独立行政法人医薬
品医療機器総合機構 医療用医薬品の添付文書情報において、カルバゾクロム
スルホン酸ナトリウム水和物 (商品名アドナ)及びトラネキサム酸(商品名
トランサミン)の処方に問題はないと記載されている。また、一般産科診療に
おいて、切迫流産にアドナ 及び トランサミンを処方することは、日常的に
行われており5)特殊な処方ではない。この事例での処方は 禁忌処方を行った
わけでもなく、有害事象が発生したわけでもなく、処方により治癒しており、
一般的であり適切な処方と考える。

2)指摘そのものの誤り
分娩中に母児間輸血症候群を発症し、急激な胎児失血により胎児循環不全に起
因する低酸素脳症をきたした症例。この症例において報告書では、28週にB群
溶血性連鎖球菌培養検査を行ったことを『一般的でない』としている。その理
由として、産婦人科診療ガイドラインでは、B群溶血性連鎖球菌は新生児に産
道感染を起こすため、分娩前の33~37週に膣周辺の培養検査を実施し、陽性で
あれば抗生剤により感染予防を行う6)から、としている。
ところが、この症例は切迫早産のため子宮収縮抑制剤であるリトドリンを大量
に使用しており、早産の危険性が極めて高かった症例である。早産の可能性が
ある症例に時期を早めて行ったことは適切であり、むしろ早産になった場合、
行わなかったほうが児を感染の危険にさらす。あるいは、一般的でないとした
根拠を33週~37週に再度実施していないことを指摘しているのかとも考えたが
、28週に実施したB群溶血性連鎖球菌は陰性であり、しかも、新生児にB群溶
血性連鎖球菌感染症は発生していない。したがって培養陰性症例に本態とは無
関係な培養検査を再度行わなかったのは適切であり、指摘そのものが誤りであ
る。

3) 誤った基準の適用
分娩中に突然激しい臍帯炎を発症し胎児血流が遮断され、重篤な胎児機能不全
が発生したため緊急帝王切開を実施したが低酸素脳症となった症例。報告書に
も、突然の臍帯炎であり原因は不明、予防方法もなく対処法もないと結論付け
ている。実際、陣痛発来前のモニターにも異常は認められず経過中のモニター
にも異常はなく予測は不可能であった。
ところが、この症例がVBAC(帝王切開後経腟分娩)であったため、異常が発生
していない陣痛発来前の時間帯にモニターを連続で装着していないことをガイ
ドライン7) に照らして 『基準から逸脱している』と判定している。VBACに
よる胎児機能不全は、子宮破裂による大量失血が本態であり失血による胎児循
環不全なので、全く関連がない。しかもこの症例では子宮は破裂していない。
したがって、陣痛発来前に連続してモニターを装着していても予知はできず、
かつ、予防もできず、かつ、解決方法にもならない。しかも、連続装着してい
ないだけで、適宜モニタリングを行っており、そのモニターに異常は認めてお
らず、報告書もそう記載してある。
したがって、陣痛発来前の段階で子宮破裂を予見する目的でモニターを連続装
着しないのは適切な判断であり、指摘そのものが誤っている。産科医であれば
この指摘は誤りだと容易に理解できる。ところが、医学知識のない新生児の両
親には、この指摘の誤りに気がつくことは不可能である。関連のないVBACの基
準をあてはめ、かつ、発生時期と関係のないモニターの連続装着を指摘して、
『基準から逸脱した』と判定してあれば、文字どおり報告書こそが『基準から
逸脱している』と理解する。

4)ガイドラインに準じて実施しても救命できない矛盾した判定
分娩進行中9cm開大したところで破水し臍帯脱出をきたしたため、超緊急で急
逐分娩を行い9分後に経腟分娩したが低酸素脳症となってしまった症例。
報告書では、子宮口全開大前、臍帯脱出をきたした症例に、頚管用手開大、ク
リステレル圧出法、吸引分娩を行ったことが不適切だと指摘している。その根
拠として、ガイドライン8) に準拠しないからとしている。そしてこの場合、
胸膝位や骨盤高位を保持した状態で膀胱への生理食塩水の注入や内診指による
児頭先進部圧迫を行い緊急帝王切開の準備を行うことが最善の方法であると指
導している。
ところが報告書の提言どおりに実施し救命できなかった症例があるので重ねて
提示する。分娩進行中 子宮口2cm開大 st-3の時点で破水し臍帯脱出をきたし
た症例。上述の指摘どおりに内診指による児頭圧迫を行い緊急帝王切開を実施
したが、低酸素脳症となっている。ガイドラインに準拠していないのが不適切
というのならばガイドラインに準拠していれば救命できるはずである。救命で
きないというのであればガイドラインの引用が不適切であり、責任を取るべき
はそのガイドラインを誤って引用し、そのガイドラインを利用して判定を下し
た産科医療補償制度である。

5) 勧告どおりに実施することにより深刻な事態を招く事例
妊娠35週、突然の激しい腹痛にて受診。来院時、既に常位胎盤早期剥離を起こ
しており、胎児心拍80拍/分にて回復せず、経腹超音波にて血腫を確認し、常
位胎盤早期剥離の診断にて、搬送先分娩機関に連絡をとり、搬送後22分で緊急
帝王切開にて分娩となったが低酸素脳症となった症例。報告書では、搬送元の
適切な受診の指示、胎児機能不全の診断、緊急母体搬送の迅速な手配と的確な
医師への情報連携は、医学的妥当性があるとしていると評価している。
そして、この症例を緊急母体搬送事例と判断しているにもかかわらず、搬送元
のカルテ記載について受診から母体搬送に至る経過、検査所見、妊婦及び家族
への説明が不備であるとしている。ところが、この症例は、報告書でも記載さ
れているように、緊急母体搬送事例である。ゆるりとカルテに経過や検査所見
、妊婦や家族に説明をしている事態ではない。これらを割愛し、迅速に診断、
連絡、連携したからこそ、報告書でもこれらが迅速で適切であると評価してい
るのである。
そして、家族の意見にもこれらが不足しているとは意見されていない。そして
、不備であると記載されているが状況はここに記載できるほど充分に収集され
ている。むしろ、指摘どおりに充分な検査を実施し説明を実施した場合、迅速
な救命はなされるのか。本当にこの報告書の指摘どおり実施するのが救命につ
ながるのか。そして 報告書の指摘どおり実施して救命できない場合、当然、
その勧告をした産科医療補償制度が責任を引き受けるべきである。


考察

1)見解の優位性、独占性
切迫流産や絨毛膜下血腫に止血剤を併用することは周産期医療で日常的に実施
されており添付文書で禁忌とされている処方でもない。しかしこれが『一般的
ではない』 と判断された報告が2例認められた。何を基準にして判断したの
であろうか。日本国内で使用される薬品は、独立行政法人医薬品医療機器総合
機構が審査を行い添付文書が発行されており、添付文書はれっきとした専門機
関の見解である。
何の根拠があって、薬事の専門家でもない産科の原因分析委員会が覆せるのか
。語弊を恐れずに述べるなら、ここに産科医療補償制度の本質が表れている。
どんな基準があろうとも、どんな勧告があろうとも、原因分析委員会が決めた
ことがルールとして適用されるということである。つまり、原因分析委員会こ
そが法律であり、裁判所だということである。

2)見解の相違の不許容
報告書を作成するのも人間であり、残念ながらすべてにおいて完璧ということ
はありえない。指摘自体の誤り、誤った基準の適合は、当然ありうることであ
る。しかし、この報告書は、訂正することも反対意見を述べることもできずに
発行され、報告書に誤りがあっても、誤りのまま患者家族に直接送付される。
そして、本来は多数の観点があるように多数の見解があり、その数だけ救命す
る手段があるにもかかわらず、原因分析報告書以外の観点はすべて誤りとされ
る。
そして、たとえ誤った見解であっても正解の見解として周知されることによっ
て、誤った見解であってもそれがルールだと理解され、しなくてもいいことが
行われ、事例によっては救えるはずのものが救われなくなる。
当然、それを是としない気骨ある医療機関も存在する。しかし、医療機関の見
解と機構の見解が異なるため、見解の異なる原因分析報告書の患者家族への開
示が分娩機関への信頼回復に繋がるはずがなく、患者家族は『医療機関の説明
は報告書の見解と違うじゃないか 医療機関は嘘をついた』と捉えるのが当然
である。そうなるともはや信頼関係は完全に崩壊してしまい、話し合おうと思
っても話し合えないし、医療者も見解が異なるので話のしようがない。産科医
療補償制度は、それを解決すべき現場の問題9)として報告しているが、解決す
べきは産科医療補償制度の方だと思うが、いかがであろうか。

3)機構の勧告を順守しても救命できないという矛盾
産科医療補償制度が医療者の主張を取り入れることなく、自己の見立てにより
鑑定を行い裁定を公表する場合、当然、その結果にも責任を伴う。 産科医療
補償制度が採用した基準を実施しても救えなかったということは、その基準を
採用した産科医療補償制度の責任であり、その基準により救えなかった事例に
おいて損害賠償責任は産科医療補償制度がすべて担うべきである。そして、最
低限、産科医療補償制度の勧告を医療現場に強制的に順守させることにより、
本来は不利益を被らないですむはずの胎児と妊婦に不利益を被らせることだけ
は、絶対させてはならない。

4)ガイドラインは絶対的な基準か
産科医療補償制度は主に産婦人科診療ガイドライン産科編を基準に裁定を下し
ている。ゆえに、ガイドラインを遵守しても救命できなかった場合、その責任
はその産婦人科診療ガイドライン産科編とそのガイドラインを制作したガイド
ライン制作者となる。ガイドライン作成に関与した作成委員やコンセンサスミ
ーティング委員にとっては迷惑千万な話である。
ゆえに、ガイドラインの制作に関わるメンバーは自分たちが製作したガイドラ
インが絶対的な基準で、どんなことがあってもガイドラインを順守すれば絶対
に助かるという絶対的な根拠と自信がないのであれば『このガイドラインは不
完全な基準であり、遵守しても救命できるという基準ではなくましてや絶対的
な基準ではない』と明言すべきである。
そして、『ガイドラインを根拠とした一切の裁定 及び 根拠としての使用を
禁ずる。とくに産科医療補償制度 および 医療裁判等の裁定で使用されるこ
とを断固拒否する』と明記し、使用したことが判明した場合は強く抗議すべき
である。なぜなら、今後、ガイドラインの不備が判明した場合、制作者が紛争
に巻き込まれる可能性が充分ありうると見ている。ガイドライン制作者には、
是非とも紛争に巻き込まれないよう身を守っていただきたい。


おわりに

日本国憲法に 『特別裁判所は、これを設置することができない10)』とある
。産科医療補償制度はその見解の優位性および独占性において、その実質は裁
判所であり、その設置は憲法違反とも言える。しかも、産科医療補償制度はそ
の裁判所の設置条項である当事者の見解の陳述、異なる見解の許容すら満たし
ておらず、近代裁判所の基準すら満たしていない。ゆえに、当事者不在で一方
的に裁定を下すという点において、中世の糾問式の裁判とも似ている。

引用・参考文献
1)〒101-0061 東京都千代田区三崎町1丁目4番17号 東洋ビル
公益財団法人日本医療機能評価機構 産科医療補償制度運営部
2)公益財団法人日本医療機能評価機構 産科医療補償制度 原因分析委員会 
 委員一覧
http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/outline/pdf/BunsekiMemberALL_201601.pd
f
3)〒100-0013 東京都千代田区霞が関3-3-2 新霞が関ビル
独立行政法人医薬品医療機器総合機構 医療用医薬品の添付文書情報
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/3321401A1077_1_05/
4)〒100-0013 東京都千代田区霞が関3-3-2 新霞が関ビル
独立行政法人医薬品医療機器総合機構 医療用医薬品の添付文書情報
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/3327401A1127_2_05/
5)杉村 基 【早産リスク-最新の評価法と対策-】 絨毛膜下血腫と流早産対策
 産婦人科の実際(0558-4728)61巻4号 Page555-561(2012.04)
6)編集・監修 日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会 産婦人科診療ガイド
ライン 産科編2008 p148-149 2008.
7)編集・監修 日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会 産婦人科診療ガイド
ライン 産科編2008 p111-112 2008.
8)編集・監修 日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会 産婦人科診療ガイド
ライン 産科編2008 p120-124 2008.
9)産科医療補償制度7年の実績とその社会的影響に関する考察 第96回記者懇
談会 日産婦医会報4月号 p5-8 2016.
10)日本国憲法 第六章 司法 第76条2項

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