新専門医制度がもたらす地域医療の歪 

研修医、若手医師が臨床経験を積むのには、大学病院ではなく、市中病院が適している。新臨床研修医制度で、卒後すぐの多くの医師が大学病院ではなく市中病院を研修先に選択したのは、それが大きな理由の一つだ。下記の論考でも明らかなとおり、臨床経験の多寡については、大学病院はむしろ不利なのだ。

若手医師という「駒」の少なくなった大学病院医局は、専門科により相違はあるが、それを何とかしようと、専門医制度の改変に伴い、大学病院での専門医研修を必須とした。それが新たな医師の偏在を生み出そうとしている。

福島では、浜通り、中通りは阿武隈山地で遮られ、浜通りに住む患者・妊婦が中通りに通ったり、緊急時に駆けつけたりすることは無理だ。その無理を、患者・妊婦に押し付けようとしているのが、新専門医制度だ。

そもそも、専門医制度を医師の偏在対策ないし大学医局の若手医師の回帰誘導策として用いることは問題がある。専門医制度は、あくまで臨床の専門医としての力量を判断する制度であるべきなのだ。

確かに、産婦人科等は、医師の集約化が必要なのだが、その地域毎に専門医制度とは異なる視点で、進める必要がある。

新専門医制度は、元来、科毎の専門医のレベルを平準化するという目的(口実)で始められた。だが、内実は、医師の偏在をただすという口実で、大学病院等の大規模施設、各学会それに行政の利権のための制度になっている。医師の配置、人事を、この新専門医制度に絡めるべきではない。新専門医制度は、このままで行くと、新たな地域医療の崩壊をもたらす。


以下、MRICより引用~~~

「基幹施設は大学が基本」が招く産科医療の危機 ~地方から考える産婦人科
専門医制度~

この原稿はm3.comからの転載です。
https://www.m3.com/news/iryoishin/500501

南相馬市立総合病院研修医
山本佳奈

2017年2月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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1年間の開始延期が決まった新専門医制度。日本専門医機構は新しい理事会になったとはいえ、残念ながら根本的に制度は変わっていないようだ。

私は2年間の初期研修を終え、この4月より産婦人科を専攻しようと考えている。専攻医を取得する場合、専攻医研修を開始する時点で日本産科婦人科学学会会員になる必要がある。2017年1月20日、その日本産科婦人科学会は専攻医の配置に関する声明を出した。「全基幹施設を対象に調査した結果、専攻医配置の地域間不均衡の拡大は認められなかった」と。だが、どう拡大が認められなかったのか、声明の中に根拠は全く示されていない。

果たして本当にそうなのだろうか?福島県と神奈川県を例に挙げて議論したいと思う。

私が初期研修を行った福島県の南相馬市立総合病院の産婦人科の常勤医は、たった一人だ。年間約230件ものお産を、常勤医一人でこなしている。一方、福島県立医科大学は常勤医18人に対し、年間分娩数は499件だ(2015年度)。常勤医一人当たりの分娩数はたったの24件である。どちらの施設で研修する方が、より経験を積むことができるかは一目瞭然だ。

だが、南相馬は一人しか指導医がいないため、福島県立医大の連携施設の扱いだ。専門医を取得したければ、基幹病院である福島県立医大に所属しなければならない。どうすれば南相馬で研修ができるのかと、福島県立医大の産婦人科教授に相談したところ、「産婦人科医師が一人しかいない病院に専攻医は派遣することはない」と断言されてしまった。南相馬にいる方が、福島県立医大に所属するより約10倍近い出産を1年間で経験することができるのにも関わらず、研修すらできず専門医も取得できないというのは、おかしな話ではなかろうか。

福島県だけの特殊な話ではないのか、とお思いの方も多いだろう。そこで、幾つか例に挙げて説明したいと思う。データは、各医療機関のホームページなどを参考に独自に作成したため、データの年度が医療機関により異なること、また非常勤医師数などは不明のため、完全に比較可能なデータとは言えない。しかし、データを分析するために、厚生労働省に照会したが存在しなかったため、やむを得なかった。エビデンスを持った政策展開をするためには、体制に不備があることを最初に指摘しておきたいと思う。

まずは、図1をご覧いただきたい。神奈川県における主な基幹病院と連携施設の年間分娩数と、産婦人科の常勤医数を示したものだ。常勤医一人当たりの年間分娩数は、北里大学病院は92件、聖マリアンナ医科大学病院は21件、東海大学医学部付属病院は28件、横浜市立大学付属病院は19件であった。一方、連携施設における常勤医一人当たりの年間の最多分娩数は、日本医科大学武蔵小杉病院の202件であった。福島県だけでなく、神奈川県においても、大学病院よりも連携施設における常勤医師一人当たりの分娩数の方が圧倒的に多いケースがある。

http://expres.umin.jp/mric/mric_043-1.pdf

図1 神奈川県内の分娩施設と分娩数
・各医療機関のホームページを参考にデータを作成。
・2014年、2015年、2015年度のいずれかのデータ、日本医科大学武蔵小杉病院は2011年。
・カッコ内は、常勤医1人当たりの分娩数。

次に、各医療機関のホームページで把握可能だった、全国の主な大学医学部の付属病院と、分娩で有名な市中病院の年間の分娩数と常勤医数を図2に示した。大学病院における常勤医一人当たりの年間分娩数は、東北大学医学部付属病院は91件、九州大学医学部付属病院は76件、 東京大学付属病院は19件、京都大学付属病院は13件だ。ちなみに母校の滋賀医科大学医学部付属病院は31件、福島県立医科大学付属病院は28件だ。一方、連携施設である市中病院を見てみると、淀川キリスト病院(大阪府)は178件、都立広尾病院(東京都)は152件、東京医療センター(東京都)は103件などだ。大学医学部付属病院における常勤医一人当たりの年間分娩数が、全国の有力な市中病院と比較して圧倒的に少ないことが分かる。

http://expres.umin.jp/mric/mric_043-2.pdf

図2 全国の主要大学と主要市中病院の産婦人科常勤医1人当たりの分娩数
・各医療機関のホームページを参考にデータを作成。
・2013年、2014年、2014年度、2015年度、2016年のいずれかのデータ、東北大
学は2008年。

であるにも関わらず、現行の産婦人科専門医制度では、大学病院を主とした大規模施設が認定されている基幹病院に所属しなければ、産婦人科専門医を取得できない。一人当たりの分娩数が市中病院よりも明らかに少ない基幹病院での6カ月以上の研修が義務づけられているから、これまたおかしな話だと言わざるを得ない。常勤医師一人当たりの分娩数の少ない病院にいなければいけない理由は、いったい何なのだろうか。

基幹病院に属さないと専門医を取得しにくい今の産婦人科専門医制度は、基幹病院である大規模施設に若手の医師を集約化する。2013 年12月13日には日本産科婦人科学会から「わが国の産婦人科医療再建のための緊急提言」が出された。提言の中に「地域の基幹分娩取扱病院は、重点化・大規模化を迅速に推進し、勤務医の当直回数の削減、当直明け勤務緩和、交代制勤務導入等の勤務条件の改善が可能な体制とすること」という記載がある。

この提言を読むと、日本産科婦人科学会は産婦人科医の待遇改善が喫緊の課題と考えているようだ。ところが、どうもやり方が適切でない。この提言の「真意」は分からないが、福島県で進行中の集約化が住民のためになるとは思えない。福島県内では福島市周囲の二次医療圏以外には、基幹病院が存在しなくなるからだ。

分娩は地域性がとても強い。会津やいわきの妊婦が福島まで通うことなど、現実的でない。医師は集約できても、妊婦を基幹病院に集約化することは不可能だ。このまま産科医の集約化が進めば、住む場所によっては妊婦が平等に安心して出産を迎えることができなくなってしまうのは想像に難くない。現状に合わせて方向転換をする必要がある。

もちろん、産婦人科専門医になるための研修は、分娩数だけではなく、婦人科を含め、幅広く研修する必要がある。また指導体制も充実していることが求められるが、幅広く研修する必要がある。また指導体制も充実していることが求められるが、何より分娩数が少ないことには、十分な研修ができないことは明らかである。

以上のことを踏まえると、専攻医を大規模病院に集約化せず、連携施設と認定されている地域の施設に所属し、たくさん経験を積み、特殊な症例のみ大学病院や専門病院で経験できるような制度の方が、真の専攻医研修が行えるのではなかろうか。それが、妊婦が安心して出産を迎えることができる環境を整えることにもつながるのではなかろうか。そして、どこの施設で研修したとしても、最低限決められた症例数に達成すれば専門医になることができる、という多様性を認める制度にすれば、地域の医師不足も解消されるのかもしれない。

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