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産科医療事故 

医療事故が起きた時、関与した医療従事者は、大きな自責の念に捕らわれることが多い。そうでなくても、周囲から批判の目に晒される。故意に起こした犯罪的なものでなければ、医療従事者の情報は秘匿されるべきである。それが、医療事故の真相を明らかにし、次の事故を防ぐためになる。2005年WHOのガイドラインにはそのように記されている。こちら。

坂根医師は、下記の記事で、いわば医療従事者の「過失」を追及し、社会的にそれを示す懲罰的な対応をする、日本産婦人科医会と日本医療機能評価機構の問題を論じている。彼女の述べる通り、医療事故当事者の医療従事者は保護されなければならないのは、最初に述べた通りだ。両者が、産科医療の萎縮をもたらし、産科医療を危機に陥らせている、と警鐘を鳴らしている。

ここでは、天下り組織である日本医療機能評価機構の産科補償制度について検討してみたい。

日本医療機能評価機構は、補償金の掛け金と、補償金の差が大きく、莫大な内部留保をため込んでいる。同機構のウェブサイトを見ても、財務状況が公開されていない様子なので、大まかな推測をここでしてみる。

同機構のウェブには、掛け金について以下のように記されている。

『本来必要となる掛金の額は、1分娩あたり24,000円となりますが、本制度の剰余金から1分娩あたり8,000円が充当されるため、分娩機関から支払われる1分娩あたりの掛金は16,000円となります』

4年前に、掛け金が30、000円から16、000円に引き下げられた。内部留保が、おそらく数百億円のオーダーで溜まっていると想像されるが、そのごく一部を掛け金の値引きに宛てているようだ。また、ウェブでは、同機構のこの産科医療補償制度に加入している医療機関が99.9%であると繰り返し述べられている。

年間出生数を大まかに100万人とすると、掛け金の総額は 16、000円/出生一人x100万人/年=160億円/年

一方、補償金を給付するケースはここ数年減少してきている。少子化の進展とともに、補償金給付条件を厳しく出産前後の原因不明の脳性麻痺に限定しているためだろう。平均して200人前後のようだ。補償金は、一人当たり3、000万円(20歳まで分割されて支払われる)である。

補償金総額は 3,000万円/一人x200人/年=60億円/年 

かなり大まかな概算だが、年100億円前後が内部留保としてため込まれている可能性が高い。

これだけの内部留保を保持する特殊法人は、それほどないことだろう。同機構が、医療事故の情報をマスコミに流し、医療事故は医療機関、医師の過失である、という世論を誘導するのは、同機構が存続する理由作りのように思える。これでは、医療事故の本当の原因究明に寄与しないばかりか、医療を萎縮させることによって、国民に大きな損害を与えているということになる。

日本産婦人科医会、日本医療機能評価機構は、医療事故対応を根本的に改めるべきである。

以下、引用~~~

産科医療補償制度と日本産婦人科医会は産科医をリスクにさらしていないか

現場の医療を守る会世話人代表              
つくば市 坂根Mクリニック 坂根 みち子

2017年6月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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このところ、産科医療事故の報道が続いている。最初は、2016年12月12日だった。愛知県の産婦人科診療所で3年間に2人の妊産婦死亡があり、日本産婦人科医会が直接指導に乗り出したとの報道で、15日には同会常務理事の石渡勇氏が記者会見を開いた。ネット上では早速診療所の同定とバッシングが始まった。その診療所は、医会より分娩停止を指導され、結局閉院している。

そして、年が明けて2017年4月17日からは、ターゲットが無痛分娩になった。麻酔を使った「無痛分娩」で13人死亡・・厚労省急変対応求める緊急提言というものであった。

読売新聞(yomiDr.)の記事を良く読むと、厚労省の提言ではなく、厚労省の一研究班(池田班)のもので、2010年1月から16年4月までに報告された298人の妊産婦死亡例のうち、無痛分娩を行っていた死亡例が13人(4%)あったというものだった。うち、麻酔が原因でなくなったのは1人。これを「無痛分娩」で13人死亡し、厚労省が緊急提言した、という見出しで出したのだ。

嫌な予感がした。

この後も報道が続く。特に読売新聞のyomiDr.では詳細で持続的な報道が続いた。

5月10日 読売
「無痛分娩」妊産婦死亡など相次ぎ・・・件数や事故状況、実態調査へ
麻酔で出産の痛みを和らげる「無痛分娩」をした妊産婦に死亡を含む重大事故が相次いでいるとして、日本産婦人科医会が実態調査に乗り出した。(中略)医会の石渡勇常務理事は、「無痛分娩そのものが危険なわけではないが、実施には十分な技量と体制整備が必要で、希望者が安全に受けられる仕組みを整えたい」と話している。
5月27日 産経
医療ミスで出産女性が死亡 神戸の産婦人科病院長を刑事告訴 業務上過失致死罪で(以下筆者)この事例では、示談金を支払い後に遺族が刑事告訴している。
5月31日 朝日
「無痛分娩」全国調査へ 妊産婦死亡受け、産婦人科医会
医会の石渡勇常務理事は「人員配置が不足していないかなどを調べた上で、安全対策のマニュアル整備や、安全性を担保する認定制度が必要か検討したい」
6月6日 読売・報知
帝王切開時の麻酔で母子に重度障害・・・報告せず
京都府の産婦人科診療所が昨年、帝王切開で同じ方法の麻酔をして母子が重度障害を負う例があったにもかかわらず、日本産婦人科医会に報告していなかったことがわかった。
6月12日 朝日
無痛分娩の麻酔で母子に障害 京都の医院、別件でも訴訟
この医院では昨年5月にも同じ麻酔方法で母子が重い障害を負っており、日本産婦人科医会が調査を始めている。
(以下筆者)この事例は、産科医療補償制度で有責とされ、原因分析報告書と3000万円の補償金のうち初回の600万円を入手後、9億4千万円の損害賠償を求める訴訟が起こされている。

一体何が起こっているのだろうか。

まず最初に確認しておきたいが、日本の妊産婦死亡率は妊婦10万人あたり4人前後で推移しており、年間死亡数は40人から50人と世界トップクラスの低さを維持している。

筆者は産科については全くの門外漢であるが、医療事故調査制度については多少なりとも関連を持ってきた。そして今回の一連の報道で感じている問題点を3つ挙げる。

1.妊産婦死亡の自主的な報告を集めている日本産婦人科医会が、記者会見をして事故について公表した点。これにより報告した当事者が大きな不利益を被った。

日本産婦人科医会への妊産婦死亡の報告は、今後の医療のために各医療機関から自発的に行われているものである。当然の事ながら報告するからには、WHO医療安全のためのドラフトガイドラインを遵守して、有害事象の報告制度の1丁目1番地、「報告者の秘匿性と非懲罰性が担保され」なければならない。

ところが、日本産婦人科医会の石渡常務理事は記者会見して公表してしまったのである。そして、医療機関、医師情報は、メディアにより詳しく報道拡散され、医療者は世間からバッシングを受け、身内の医療界からも断罪され、さらに遺族からは民事でも刑事でも訴えられている。

この展開は、群大腹腔鏡事件のデジャブのようである。

2.産科には、日本初の無過失補償制度が出来たと聞いていたが、産科医療補償制度が実際には無過失補償制度ではなく、かつ、訴訟を防ぐ制度設計になっていないために、高額の訴訟を誘発してしまった点。

この制度について調べると驚きの連続だった。

産科医療補償制度に申請すると、行った医療の評価が報告書に記載され、それが患者遺族にも渡され、インターネットで公開されている。報告書は、個人が識別出来てしまうような内容が記載されており、新聞報道と併せて誰でも詳細な情報を知り得る。この制度では、事故の当事者である医師が、機構の評価に対して異議申し立てをする機会は与えられていない。報告書を公表する前の確認さえない。そして、過失があったとされた場合は制度で補償されない。つまり自分で支払わなければいけない。さらに支払われた補償金を着手金として訴訟を起こされ、報告書が鑑定書として裁判で使われている。

当事者の産科医には、何とも気の毒としか言いようのない根本的に大きな問題を抱えた制度だと知った。

有害事象が起こってしまった時、患者家族と同様に医療従事者も、精神面、業務面ともに大きな影響を受け、最終行為者は「第2の被害者」と言われており、専門的なサポートを必要とする。それがないと、その後の医療に悪影響を与えると、アメリカのハーバード病院のマニュアルには10年も前から明記してある。ところが、日本では当事者が「第2の被害者になりうる」という認識さえされておらず、産科医療補償制度ではサポートするどころか、当事者を精神的にも金銭的にも社会的にも追いつめ、ベテラン医師の現場からの立ち去りを誘発している。

明らかな人権侵害である。

産科医療補償制度には、日本産婦人科医会の石渡常務理事も深く関わっておられるが、制度の委員に真の医療安全の専門家がいないのではないか。そうでなければ、これほどの欠陥が放置されるわけがない。

3.無痛分娩が危険であるかのような報道がなされた点。

アメリカやフランスでは60~80%を超える無痛分娩だが、日本では数%と極めて少ない。理由の第一は医療資源不足。日本では産科医も麻酔科医も圧倒的に足りず、麻酔を必要とする無痛分娩まで手が回らない。また日本では出産を取り扱う医療機関の規模が小さいところが多く、麻酔科医を置かずに、産科医が麻酔も担当するために、無痛分娩の取り扱いに限界があるのである。医療資源不足は大病院といえども同様だが、それに加え日本では従来「出産は痛みに耐えてこそ」という精神論が幅をきかせており、麻酔科のそろった大きな医療機関でも「痛みを取るため」の無痛分娩に対する優先順位がなかなかあがらないのである。

筆者は、20年前にアメリカで無痛分娩により出産した経験がある。その時は日本のお産事情と比較するために敢えて無痛分娩を選択した。もちろん医療費の高い米国でその時の加入していた保険が出産をカバーしていたから可能であった。無痛と言っても痛みは残る。だが、それまでの出産に比べて1/10程度の苦痛で済んだ。そして計画的に無痛分娩を選択した場合の最大のメリット
は、体力の温存である。1泊2日(今は2泊3日が多いと思われる)で退院して、すぐに上の子供たちを含めた育児が始まるので、出産で疲弊しないで済んだ事は大変有り難かった。

その時入院した病院で読んだ雑誌に、日本の無痛分娩率の低さを取り上げて、日本女性は痛みを感じないのか、という特集記事が組まれていたのを思い出す。もちろん選択肢が与えられていないだけである。それから20年、ようやくその機運が持ち上がってきたところで、今回の一連の報道である。

今回報道された事故では、確かに不幸な転帰となり、改善すべき点はある。だが、いずれの医療機関でもほとんどの分娩はきちんと行われてきたのであり、医師たちは出産と言う奇跡をサポートするために全力を尽くしてきたはずである。世界的に見て少ない医療資源で非常に優れた成績を収めてきたのは誇るべき事実である。今の世界の医療安全の考え方は、「レジリエンス・エンジニア
リング」といって普段上手くやっている事から学び、それを増やすという臨機応変型のシステムが推奨されている。

もちろん、失敗から学び、各医療機関の情報公開や分娩体制の改善がなされる事も必要である。ただし、それらは各医療機関が自ら行うべきものであって、上から目線で指導するものではない。どういったサポートが必要か、各医療機関を訪ねてコミュニケーションを取るところから始めて、ボトムアップしていくのが、本当のサポートである。

確かに、大きな医療機関で複数の産科医と麻酔科医がいて、チームで分娩をサポート出来る体制が理想である。そうはいっても、大野病院事件をきっかけに分娩施設は15%減少したままであり、各地で医師は高齢化し、少子化は進行している。筆者が日本でも無痛分娩という選択肢が増える事を願った20年前から、状況は全く改善していないどころか悪化の一途である。

このような現実を直視せず、日本産婦人科医会は、「報告させ、調査、指導し、分娩中止を勧告」しているのである。そしてこの先は認定制度を作るのであろう。産科医たちはよくもまあ黙ってこれに従うものだ。この数ヶ月であっという間に、医師1人の医療機関で無痛分娩を取り扱うのは許されない、と言う空気になってきたが、そんな無い物ねだりを声高に叫んでも国民が望む医療体制になる前に現場の産科医たちの心が折れてしまうだろう。さらにアメリカ型の高額の訴訟費用に堪え兼ねて分娩から撤退してしまう可能性が高い。

石渡氏のお膝もとの茨城では医師不足が深刻(常時全国ワースト3にランクインされる)で、医師数が全国平均を越えるつくば市でさえ、分娩出来る医療機関は3カ所しかなく、皆出産場所を求めて右往左往している。無痛分娩だろうが、自然分娩だろうが選択肢は多い方が良いのだが、それどころではないのである。

今ある医療資源を有効活用して、どうやってより安全に国民のニーズに応えてくか、絶妙なバランス感覚が必要である。求め過ぎてこれ以上現場を潰してしまったらこの国に未来はない。

2011年、医療事故調査制度と無過失補償制度が完備したスウェーデンでは、医療事故の裁判は激減し、その分野における弁護士の仕事もなくなったが、無駄な争いで国民も医療現場も疲弊する事もなくなった。かの地ではメディアにも守秘義務があり、患者側からだけの一方的な報道はされない。

メディアも日本産婦人科医会もそろそろ学ぶ時期ではなかろうか。

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