地域包括ケアというシステム 

これからの医療介護・高齢者社会福祉は、「地域包括ケア」というシステムで進める、というのが政府・行政の方針だ。医療介護施設ではなく、在宅での医療介護を進める、ということだ。現に十分な介護施設の準備されぬままに、それまで介護施設的な機能があった慢性期病床は減らされ続けている。急性期病床も、急性期だけに特化されてきている。在宅しか選択肢はなくなってきている。

このシステムの行政による説明が、変化してきている。2008年度の報告では、介護・医療・予防・住居・生活支援は、お互いに並列する因子だった。これらの因子が重なり合うところに、住民がいたわけである。

ところが、2015年度になると、「本人の選択と家族の心構え」の上に、社会福祉・医療介護が成立する、とされた。

要するに、基本的には選択をする自己責任ということだ。

これには、大きな問題が付きまとう。

第一に、核家族化・女性の就労がすでに進展している。そこで、今後高齢化がさらに進展すると、在宅の医療介護は、老々介護にならざるをえない。果たしてそれが可能なのか、ということだ。特に、高齢者では認知症のケースが問題になるが、介護では認知症は適切に評価されにくい。在宅の老々介護で、認知症の家族を看るというのは極めて難しい。自己責任で選択をせよ、という方が無理なのではないだろうか。ケアする若く元気な家族がもともといなくなっているのだ。選択の幅は極めて狭い。老々介護から生じる悲劇があちこちで生じるように思えてならない。

もう一つ、在宅医療の担い手は、開業医ということになるはずだ。だが、開業医の平均年齢は年々上がっており、すでに還暦以上になっている。彼らが、365日24時間在宅医療に対応するのは困難なのではないか。いわば、毎日当直をしているようなものだから、だ。この医師不足を見越して、育成する医師の数を急速に増やしてきたが、彼らが戦力になるのにはまだ時間がかかる。専門医制度の迷走を見ていると、女性医師が医療現場に参与しずらくなっており、さらに専門医資格を取得・維持するのに、余計なエネルギー・時間がかかる制度設計になっている。一方、団塊の世代が在宅医療の対象になりつつある。この先10年間は、医療現場でもかなりの歪に見舞われる。

田中滋・地域包括ケア研究会座長という方の、インタビュー記事を医師のネットサイトであるm3で読んだが、こうした問題に対処している様子が見られない。特定地域で、この地域包括ケアが上手く機能しているとして、このシステムを推進しようという意見のようだが、「上手く機能しえない」地域の方が多いはずだ。特定条件を満たして地域包括ケアが上手く行っている地域だけを挙げて、この制度が上首尾に行く、とはとても言えない。

国民は、この地域包括ケアの第一の目的は、社会保障費の削減にあることをよく理解すべきだ。そこから出発するから、実現が不可能な制度設計になるのだ。国家予算をどのように使っているかを国民が注視しなければ、国民に責任を負わせる制度が際限なく作られて行く。

このような事態になることはもう20、30年前から予測されたはずなのだが、殆ど対応が行われてこなかった。そして、現在進行している在宅医療介護の問題も、十分国民に説明されているとは言えない。国民は、積極的にこれからの社会保障政策を理解し、それに対する意見を述べ、行動すべきだ。黙っていては、悪くなるばかりだ。

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