母の七周忌 

あと三日で、母の7周忌が巡ってくる。

時が経つと、美しいこと、楽しかったことばかり思い出されるようになる。母の晩年は、アルツハイマーに冒され、短期記憶が徐々に失われていった。本来知的な能力を持っていたので、その過程では不安と焦燥感があったのではないかと想像する。朝夕、母が住む離れに行くと、テーブルの椅子に腰かけて、新聞広告の紙を用いて、無心に漢字の練習をしていることがあった。その時には、なぜと思ったが、失われて行く記憶を維持するためだったのかと後で思った。

だが、周囲の人間に何も愚痴ることなく、いつも笑顔で接していた。朝食を離れに持って行くと、同じくテーブルの前に座り、頭を垂れて熱心に祈っていることが時々あった。その姿は私には神々しくさえあった。最後の数年、弟に引き取られ、宮城県で過ごした。見舞いに訪れると、こちらに戻りたい、すでに数年前に亡くなっていた父親がどうしているか、泣き顔で繰り返し尋ねた。家族の消息を尋ね各人が元気で過ごせるようにと語るのを常としていた。弟夫婦、施設のスタッフの方々は本当に良くしてくださった。

東日本大震災の後、体調を崩し、最後の入院をした病院のベッドでも、苦しみを訴えたりすることなく、繰り返し、こちらに戻りたいと述べた。手を取ると、笑顔を浮かべ、私の名を呼んだ。そして、ろうそくの灯がふっと消えるように亡くなった。

母の人生は、キリスト教信仰に支えられたといえ、悩みと苦しみの多い人生だった。だが、今はそれらから解放されていることだろう。父と相まみえることができただろうか。彼女の晩年は、下記のホイヴェルス神父の言葉をそのまま生きた時間だった。自分の存在を通して、最後のときはこのように過ごすのだと遺される我々に教え諭すかのようだった。この詩は、母の一周忌に姉が送ってくれたもの。その時にブログに転載したが、本当に希望を与えてくれるものだと思うので、再び引用する。

最上の業

この世の最上の業は何?
楽しい心で年をとり
働きたいけれども休み
おしゃべりしたいけれども黙り
失望しそうなときに希望し
従順に平静におのれの十字架をになう

若者が元気いっぱいで神の道を歩むのを見てもねたまず
人のために働くよりも
謙虚に人の世話になり
弱ってもはや人のために役立たずとも
親切で柔和であること

老いの重荷は神の賜物
古びた心にこれで最後のみがきをかける
まことのふるさとへ行くために
おのれをこの世につなぐ鎖を少しずつ外して行くのは
真にえらい仕事
こうして何もできなくなれば
それを謙虚に承諾するのだ

神は最後にいちばんよい仕事を残してくださる
それは祈りだ
手は何もできない
けれども最後まで合掌できる
愛するすべての人のうえに神の恵みを求めるために

すべてをなし終えたら
臨終の床に神の声をきくだろう
「来よ、わが友よ、われ汝を見捨てじ」と

            春秋社「人生の秋に」
            ヘルマン ホイヴェルス著

コメント

重なる

 ご無沙汰しています。しかしいつも拝読して啓発されています。
 お母さまの晩年のご様子を読み、亡き母の晩年の姿と重なりました。すべてを人の世話によらなければできなくなった頃から、母の口癖は、「ありがたや、もったいなくて涙こぼる」でした。しかしまだ召されて1年5か月、最期の息を吐くまでの15分を見守った者にとって、まだ管理人さんのように、美しく、楽しい思い出ばかりとはいきません。まだぽっかりと自分の心に穴が開いたままです。
 「最上の業」を読んでヨハネ福音書の主イエスの御言葉が思い出されます。6.28-29「彼らが『神の業を行うために、何をしたらよいでしょうか』と言うと、イエスは答えて言われた。『神がお遣わしになった者を信じること、それが神の業である。』」
 母を良い手本として、老いに備えたいと思います。

Re: 重なる

ちいろばさん

コメントをありがとうございます。時間が経つと、より美しいこと、良いことばかりを思い起こすようになるような気がします。1年5か月というと、まだまざまざとした現実であられるのでしょう。

「神がお遣わしになった者を信じること」、それが私の課題でもあるように思います。今、礒山雅氏の「マタイ受難曲」を読了するところなのですが、ユダという人物を高橋三郎先生の著書を引用されて紹介しておられます。政治的な意識の高い、まじめな人間だったのですね。だからこそ、政治的に動こうとしないイエスに絶望して、イエスを売り渡す・・・ユダ的なものは確かに私のなかにあるように思えます。神の子としてのイエスを、受け入れ、単純に信じることが必要なのだと思いつつ、そこを踏み越えることが難しいように感じています。

母の生きた通りに生きる、難しいことですが、後を辿る努力をしてみたいと思っています。

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