FC2ブログ

医療安全調査委員会への届出範囲案 

医療安全調査委員会への届出範囲の案が、検討会で官僚側から提示されたようだ。

脱力ものの内容である。その内容は;

(1)誤った医療を行ったことが明らかであり、その行った医療に起因して、患者が死亡した事案

(2)誤った医療を行ったことは明らかではないが、行った医療に起因して、患者が死亡した事案(行った医療に起因すると疑われるものを含み、死亡を予期しなかったものに限る)

だそうだ。

誤った医療とは何か。患者・家族にとって、結果が不適切・不適切だということなのだろう。誤った医療とは、結果が出てから明らかになる。医療行為による結果が出ないと、誤りであるのかどうかが分からないからだ。

医療は不確実であり、確率的に「予期せぬ」「誤った」結果が出る。「誤った」医療も、将来へのより良い医療に向けた経験として蓄積すべきものであり、その責任を問うべきものではない。

医療の結果を、誤っている、またはその対極の正しいという形容で評価することに、臨床医としては、強い違和感を感じる。結果に依存する、誤り・正しさという価値判断は、医療を豊かにする、より確実なものに近づけることに寄与しない。むしろ障害になる。医療の結果は、科学的に検討され、将来につなげるべきことだ。

驚いたことに、誤った医療という、医療現場からすると不適当ではあるが、それでも狭い概念によって、届出範囲を規定しようとはしない。誤っているかどうかは、関係ないのである・・・だったら、誤っている、誤っていない等と何故場合分けをするのだろう。

行った医療に起因することが疑われ、予期せぬ死が生じた場合に届け出る、というのが、官僚案の骨子だ。医療機関で亡くなる患者は、すべて何らかの医療を受けている。その医療の大多数は、死因につながりうる。限られた情報の元、確率現象としての病態の進行・変化を観察・判断しつつ、生命を死へのプロセスから奪還しようとするのが、医療だ。それは、時間との争いであり、つばぜり合いだ。最終的に、結果が明らかになり、情報が出揃った段階で、時間をかけて死因を検討することと、質的に異なる。患者が不幸にも亡くなった後で、「疑う」「予期せぬ」という形容をつけて、その死因に医療関連死のレッテルを貼ることは極めて容易なことである。しかし、臨床医は、それを受け入れない。

この届出範囲の案は、極めて曖昧なものであり、結果論で議論する法曹の論理そのものである。刑法学者が、検討委員会委員長をしている、または官僚が彼を委員長に指名していることの限界だろう。

官僚諸氏は、こうした現実無視の制度設計をすることによって、医療を崩壊させる引き金を引く立場にある覚悟はあるのだろうか。

以下、引用~~~

医療安全調査委員会(仮称)への届出範囲案を提示  厚労省検討会

記事:WIC REPORT
提供:厚生政策情報センター

【2008年1月8日】
診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会(第10回 12/27)《厚労省》  厚生労働省がこのほど開催した「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」で配布された資料。この日は、医療安全調査委員会(仮称)への届出範囲等について議論された。 医療安全調査委員会(仮称)へ届け出るべき事例は、(1)誤った医療を行ったことが明らかであり、その行った医療に起因して、患者が死亡した事案(2)誤った医療を行ったことは明らかではないが、行った医療に起因して、患者が死亡した事案(行った医療に起因すると疑われるものを含み、死亡を予期しなかったものに限る)-のいずれかに該当すると医療機関で判断した場合としてはどうか、という案が示されている(P6参照)。



コメント

この様なことがまかり通るならば、臨床現場の医者としては「全ての治療に対して死亡は予期できる」と言わざるを得なくなります。普通の感冒薬でも死に至る副作用は起こりえるからです。

本当に腹立たしく、悲しく、情けなくなる話です…。
もはや臨床現場で医療を行うこと自体がリスクに他ならない、という雰囲気になってきています。

この組織は、医療現場の医師ではなく、むしろ患者サイドに目が向いています。患者家族が「予期せぬ死」だと主張すれば、それで届け出る義務が生じることになるのではないでしょうか。この調査組織の調査資料が、民事・刑事訴訟にも供与されるようですから、訴訟に持ち込みたい家族にとっては大きな力になることでしょう。

萎縮医療が、横行することになるのでしょうね。死は、多くの場合、家族にとって、予期しえぬ、受け入れがたい不条理なのですから、患者の生死を分ける剣が峰の戦いに、医師が関わること自体、ありえないことになるのでしょう。いかに卑怯だ、無責任だと言われても、それは致し方のないことですね。

別エントリーに記した、海外で仕事をする選択肢を、若い医師諸君はとることになるのかもしれません。

いよいよ最後が近づいてきました。
勤務時間とか、給与とかとは違います。
これはいつでも業務上過失致死罪で
訴訟になる可能性を含んでいます。
訴訟するぞでも、医療職としては、
非常に落ち込むものです。
犯罪人にはなりたくありません。
臨床上では常に間違いの連続を
潜り抜けて正解にたどりつくのですから、あとからみれば、誤りはごろごろ
ですよ。結局死亡にいたれば、、、
です。

北西林さん

仰られること、すべてその通りだと思います。特に、臨床に燃える若い医師の方々が、不憫です。

自治医大の医師が発表されたところでは、医療「安全」調の動きを先取りして、薬の副作用等に関する研究発表・論文が、激減している様子です。実際、そうした発表を元に、その研究を行なった医師が、告発されたということもあったとか・・・。

医療が崩壊するという事実を、まざまざと見せ付けられたことでした。

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://nuttycellist.blog77.fc2.com/tb.php/799-7ae462ab