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プライマリーケア医に、うつ病患者を診させる?! 

日本の自殺率は、1998年頃を境にして跳ね上がり、このところ毎年3万人を越えている。毎年、3、4千人に一人自殺をしていることになる。所謂、リストラ・失業等経済生活問題が大きな原因と考えられている。これは、G8の中で、ロシアに次いで高い率であり、英国・米国等に比べて、2から3倍の高さだ。

自殺者の9割は、精神的な問題を抱えているといわれている。その面での対策は必須だが、精神科医療についての政策はお寒い。うつ病は、自殺企図を起こしやすい病態だが、その患者の多くは、身体的な訴えを抱き、精神科ではなく内科を受診することが多いという。そのために、プライマリーケア医が、うつ病の診断を的確に下せるかどうか、が大きなポイントになる。

厚生労働省は、地方自治体がプライマリーケア医にうつ病研修を行なった場合に、助成金を出すことにしたようだ。しかし、そのプランをよく読むと、プライマリーケア医に、うつ病の「治療」まで行なわせようとしている。自殺企図のある、重症のうつ病の治療を、全くの門外漢のプライマリーケア医にさせることには、同じく門外漢の私でも首をかしげる。うつ病の初期に疑いを持ち、専門家に紹介するのであればまだしも、治療を行なうことは、患者にとっても、医師にとってもリスクが大きすぎないのだろうか。

今回の、診療報酬の改訂で、通院精神療法指導料が、5分以内の診察時間では、完全にカットされることになったのは既に記した。(その代わりの指導料が、わずかにつくらしいが、通院精神療法指導料に比べると、1/7程度。)精神科診療は時間がかかるのが常だが、状態が安定すれば、手短な面接だけで済む場合もある。それを一律5分以上という時間制限をかけたのは、精神科医療の充実よりも、医療費削減が主眼目であることを伺わせる。恐らく、外来だけの精神科診療所では、経済的に大きな痛手になるはずだ。

そうした精神科医療政策の文脈で見ると、プライマリーケア医によるうつ病患者の診断・治療促進計画も、医療費削減を意図したものであることが推測される。精神科医が足りない現状はあるが、それにしても、自殺企図のあるうつ病の患者を、プライマリーケア医に任せるのは、極めて危険なことだ。

私も、身体症状の訴えで来院した、大人のうつ病の患者さんを何人か診断したことがあるが、結局専門家に治療を依頼した。うつ病が、こころの風邪だといったキャッチコピーがあったが、あれは人を欺く大嘘である。このような官僚の策謀に乗って、プライマリーケア医が、うつ病の診療に積極的に乗り出さないことを祈るのみだ。

政府・官僚は、格差の問題を真剣に解決しようとしない。それと同じく、自殺の問題も、小手先の政策、ないしは羊頭狗肉の政策で対応している振りをしているように思える(この自殺対策の主要な部分になるはずの政策に、たった1億円弱の予算しか組んでいない!)。毎日、90人の方が、自ら命を絶っている現実を、彼等はどのように考えているのだろうか。


以下、引用~~~

厚生労働省の自殺対策 プライマリケア医のうつ病研修事業を導入 都道府県や政令指定都市に補助金助成
08/02/18
記事:Japan Medicine
提供:じほう

 厚生労働省は、2008年度から自殺対策の一環として、プライマリケア医がうつ病の診断・治療を適切に行えるようにするための研修事業を開始する。都道府県や政令指定都市などの自治体がプライマリケア医向けのうつ病研修を独自に行った場合、必要な費用の半分を国が補助金で助成する。うつ病を早期に発見できる医療体制をつくり、自殺者数を減少させたい考え。自治体の応募要項は3月までに公表する予定だ。

 いまや政府の重要課題に位置付けられる自殺対策。医療問題としてだけでなく、いじめ問題、職場のメンタルヘルス、多重債務問題、そして自殺の再発防止といった具合に、幅広い問題点を抱えている。
  自殺対策を精神医療の観点から考えると、自殺のハイリスク因子であるうつ病の存在を医療関係者が早期に発見し、適切な治療を行うことが重要だ。しかし実際には、うつ病患者の大半は医療機関を受診していない。また、患者が内科など精神科以外の診療科を受診したとしても、多くの場合、うつ病の存在が見過ごされているといわれている。
  総合病院の内科では、実際にはほとんどうつ病の診断を下せないというデータもある。長崎で実施された調査では、総合病院の内科外来を受診した患者1555人のうち、のちに精神科医がうつ病と判断した人について、内科医がどの程度正確にうつ病を診断できていたかを検証したところ、内科医がうつ病を見極められていたケースは全体の19.3%に過ぎなかった。つまり内科医は、うつ病患者の5分の4を見逃している可能性があることを表している。
  患者を最初に診療することが多いプライマリケア医のうつ病診断・治療技術を向上できれば、早期に治療を始められる患者が増え、自殺者数を抑制できると見られている
  このため厚生労働省は、2008年度から、プライマリケア医向けのうつ病研修事業に補助金を付けることにした。08年度予算には、「かかりつけ医うつ病対応力向上研修事業」(約9800万円)が組み込まれている。都道府県などが独自にうつ病研修事業を実施した場合、国に補助金を要求できるという内容だ。

研修費など自治体費用の上限1/2助成

 現在は、厚労省内部で、補助金助成事業の応募要項を作成中だ。自治体が必要とする経費の半分まで助成する方向。うつ病研修を企画する委員会の開催経費や、プライマリケア医の養成研修にかかる実施費用などを要求できることになりそう。要求費用の上限額はまだ決まっていない。厚労省は本紙の取材に対し、「3月中には応募要項を発表したい」とコメントしている。


コメント

鬱病、その予備軍も含めとても多くなっていると思います。私自身(自覚症状がごくまれに出ます。疲れているだけでしょうレベルですが。)も含め、周囲を見回すと必ず一人や二人は居ます。
私らのような素人(=患者)からしてみれば、受診した医師が鬱病に対する投薬やカウンセリングをはじめたら、それを信じて対応範囲のひとつだと理解するでしょう。つまり、内科医でありながら、鬱も専門のひとつとして納得してしまうということです。
でも、Shinさんの今までの提言(?)を見ていると、専門外に治療をお任せするのは双方のリスクが高いことを認識しましたゆえ、このようなことが始まったら、本当の意味での治療が危うくなるのではないかと感じました。
患者からしてみれば医師の言葉は絶対です。自分は鬱じゃないと思っていても、それがたとえ(極端ですが)外科専門の医師であっても言われれば信じるでしょう。逆に、専門医を紹介されれば躊躇せず受診するでしょう。患者の立場としては、どうしてよいかわからないのを導いていただくのも期待していますから。


ごく軽い身体症状を訴えてこられる場合は、一般の開業医でも対応可能だと思うのですが、自殺を考えるほどに深刻な病状の場合は、専門家でないと対応はまず困難なのだろうと思います。

一般開業医が、うつ病を念頭に置いて、診療するように啓発するのであれば、この厚生労働省のプログラムも意味があると思います。が、どうも、彼等の本心は、精神科を標榜しておらず、その経験も少ない一般開業医にうつ病の診療をさせる、それによって、精神科プロパーの医療機関・医師への医療費を浮かそうという意図が見えます。

厚生労働省は、財務省の指示通りに、遮二無二に医療費を削ることだけを考えています。精神科の医療機関には、低医療費を押し付け、専門家を苦しい状況に置く一方で、うつ病を一般開業医に診るように言う、その結果、そうでなくても低くされた専門医への診療報酬を浮かそうとする、これっておかしいと思いませんか。ちょっとした研修で、うつ病の診療が出来るようになるほど、生易しい病気ではありません。

低医療費は、結局国民にツケが回ってゆきます。低医療費を徹底させた英国では、専門家の医療を受けるためには、数ヶ月待たされます。現在、対GDP比では先進国中最下位にある日本も、英国以下の状況に陥り始めています。

医療側からは、長い間警鐘を鳴らし続けてきました。しかし、状況は変わりません。結局、国民・患者が気づいて声を上げなければ、政官財の思惑通りに、医療は破壊されてしまいます。

統合失調症でうつ状態の患者さんに抗うつ薬を出して幻覚妄想を賦活してしまう一般医は沢山います。その鑑別は相当経験が必要です。講習を受けてすぐできるものではないですよ。
一方で通院精神療法は時間制になり普通の精神科開業医はそれを経済上も採らないわけには生活出来ませんから畢竟一日の患者数を限定しなきゃなりません。内科医が精神科医に受診の予約をした際診療報酬上点数をつけて、自殺を減らすみたいなことをお上は言ってますが、精神科診療所に定床ができたようなものですから、患者を受け入れられないケースが沢山出てくると思います。

  • [2008/02/25 14:00]
  • URL |
  • いなかの精神科医
  • [ 編集 ]
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厚生労働省の医系技官になるには、原則、臨床経験5年【未満】であることが必要条件のようです。その彼等が、医療政策を作っているのです。その道の有識者にお伺いをたてることはあるのかもしれませんが、その有識者の多くは、臨床現場から離れた管理職です。

低医療費をすすめるにしても、このような不味い政策はないですね。精神科医療のイの字も知らない政策立案のような気がします。

医師の側では、こうした政策に、おめおめと乗らないことが大切なのでしょう。このシステムが破綻したときに、医師に責任を押し付けてくることは目に見えています。

行政自らが、救急医療を木っ端微塵にしておいて、医療機関に収容能力がないこと(空きベッドではない!!)を「たらい回し」と称して、医療機関に責任を押し付けているこの現状を見ると、愚かさを通り越しているように思えますね。

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