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放射線被ばくのリスクには閾値がない 

原発事故後の作業に当たっていた方が、白血病を発症し、労災認定されたというニュース。調べたところ、放射能災害による労災認定は、比較的広く認定されるようだが、福島で労災認定された事実は重い。ソースは、ここで示せないが、この方の被曝線量は19mSvだったようだ。このほか、すでに多発性骨髄腫を発症した方も労災認定されたということだ。被曝線量も、低く見積もられている可能性がある。

以下、引用~~~

原発事故作業で白血病、労災認定=福島第1で初-厚労省
2015年10月20日(火)13時47分配信 時事通信
 東京電力福島第1原発事故後の作業に当たった元作業員が白血病を発症したのは放射線被ばくが原因だとして、厚生労働省が労災認定を決めたことが20日、関係者への取材で分かった。原発事故で白血病を含むがんが労災認定されるのは初めて。
 関係者によると、労災が認められたのは東電の協力企業に所属していた男性の元作業員。専門家でつくる厚労省の検討会が、医学的見地から被ばくと病気の因果関係を調べていた。 

以上、引用終わり~~~

労災認定基準に関する規定~~~

業務上疾病における業務起因性についていえば、業務に内在する* 危険有害因子の危険が具体化したものをいい、一般的には、労働者に発症した疾病について、(1)労働の場に危険有害因子が存在すること、(2)危険有害因子にばく露されること、(3)発症の経過及び病態が医学的に見て妥当であること、の3要件が満たされる場合には、原則として業務起因性が肯定されます。

多くの作業員の方が、労災の基準を超えた被曝をしているというニュース。

以下、引用~~~

1万人、白血病労災基準超す 福島第一で被曝の作業員
 【青木美希】福島第一原発で事故から9カ月間の緊急作業時に働いた約2万人のうち、白血病の労災認定基準「年5ミリシーベルト以上」の被曝(ひばく)をした人が約1万人にのぼることが、東京電力が7月に確定した集計から分かった。作業員の多くは労災基準を知らず、支援体制の整備が課題だ。

 原発作業員は年50ミリ超、5年で100ミリ超を被曝すると働けなくなる。これとは別にがんの労災を認定する基準があり、白血病は年5ミリ以上被曝した人が作業開始から1年過ぎた後に発病すれば認定される。原発事故後には胃がんなどの労災基準もできた。

朝日新聞
 東電の集計によると、福島第一原発で2011年3月11日の事故から同年12月末までに働いた1万9592人の累積被曝線量は平均12・18ミリで、約5割にあたる9640人が5ミリ超の被曝をした。この人たちは白血病を発病すれば労災認定される。今年6月末には累積で5ミリ超の被曝をした人は1万3667人になった。今後も汚染水対策など被曝の恐れが高い作業が予定され、白血病の「年5ミリ以上」の労災基準に該当する人は増え続けるとみられる。

以上、引用終わり~~~

放射線被ばくによる発がんリスクは、100mSvを超えると大きくなるという見解が、主流だった。閾値仮説である。だが、それ以下の被曝でも、発がん、死亡リスクが高くなるという調査結果が最近報告されている。閾値仮説は、バックグラウンドの他の要因との区別ができないということだったかと思うが、多数の調査を行えば、閾値以下でもリスクが高まるということが証明された、ということだろう。

以下、引用~~~

発作業員のがん死亡リスク増加
2015年10月21日(水)19時38分配信 共同通信
 欧米の原子力施設で働く30万人以上を対象にした疫学調査で、100ミリシーベルト以下の低線量被ばくでも線量に応じてがんによる死亡リスクが増えたとする分析結果を、国際チームが21日までに英医学誌BMJに発表した。

 国連科学委員会などは被ばく線量が100ミリシーベルトを超えると発がんリスクが高まるが、100ミリシーベルト以下では明確なリスク上昇を確認できないとの見解を示している。

 チームは100ミリシーベルト以下でも白血病のリスクが上昇するという調査結果を既に発表しているが、今回新たに肺や胃、肝臓など白血病以外のがん全体でリスクの上昇を確認したという。

引用終わり~~~

原発は、事故に際しても、そうでない状況でも、必然的に作業する方々に被曝を強いる。人々に犠牲を強いる、そのようなエネルギープラントは、あってはならないということだ。

原発事故放射能被曝による可能性のある問題 

東電福島第一原発事故に関連して二つの気になるニュースがあった。

一つは、昨年北茨城市で超音波による小児甲状腺検診の結果3名の癌が見つかったということ。北茨城市は、同原発から南に60km程度離れた太平洋岸沿いの町で、事故時、かなり放射能汚染された地域である。検査は14年7月〜15年1月に実施。事故発生当時に0〜18歳だった市民6151人(0〜4歳は13年度の未受診者)が対象で、3593人(58・4%)が受診した。主催者は、事故から期間が短いこと、甲状腺癌は潜伏性に存在しうることから、原発事故との関連は浅いと結論付けている。

例によって、正常コントロール集団との比較がないこと、3名の陽性者の年齢構成、癌の組織形等が公表されていない(少なくとも調べた範囲では、見いだせない)ことから、この調査の意味づけはすぐにはできないが、注目しておくべきデータである。甲状腺癌が小児に多発する時期になる、今後1、2年間の厳密なフォローが必要になる。

もう一つは、原発周辺の大熊町等に自生するモミの木に、生育異常が多く見出されたという、放医研から出された報告。生育すべき幹が、途中で育たなくなっている。この事象は、実験によって放射能被曝によるものかどうか確認する予定だという。原発周辺の幼木に見られた現象だとすると、放射能被曝が関係している可能性は十分あるように思える。

放射能被曝の影響が明らかになってくるのは、今後数年間だ。

放射能環境汚染は続く 

東電福島第一原発事故では、原発内の放射性物質の高々数%が、環境中に放出されたに過ぎない。それで「あの程度の」環境汚染で「済んでいる」わけだ。

もっと大規模な爆発があり、また風の向きが西側であったら、日本のかなりの部分が強烈に汚染されたはずだ。

当局の公表したストロンチウムによる土壌汚染のデータが、おかしいという話もある。ストロンチウムは、遠くに飛散しにくいといわれていたが、チェルノブイリの経験では、原発からの距離に反比例して土壌汚染を起こしていることが分かっている。が、福一のデータでは、それが見られず、測定した地点すべて低値ということになっているらしい。ストロンチウムは内部被曝を起こすと、カルシウムと同じ挙動をするために、骨に沈着し、骨の悪性腫瘍を起こしやすい。当局が、測定データを操作していることはないのか、測定をしっかりしているのか、今後とも注目する必要がある。

数%しか環境中に放出されていないという放射性物質だが、かなりの量がメルトダウンした核燃料のなかにあり、それにアクセスし、処理することはできない。環境汚染は様々なルートで続く。事故がコントロール下にある等と言うのは、嘘も良いところだ。

放射性物質の環境汚染が続くことを、この記事は示している。

以下、引用~~~

放射能濃度、30倍上昇=汚染雨水漏れ近くの地下水-福島第1

2015年3月11日(水)22時30分配信 時事通信

 東京電力は11日、福島第1原発で採取した地下水からストロンチウム90などのベータ線を出す放射性物質が1リットル当たり1万1000ベクレル検出されたと発表した。濃度は前回9日採取時と比べて約30倍に上昇した。
 地下水の採取場所近くでは、放射性物質に汚染された雨水約747トンがタンクのせきから流出したことが10日に判明。東電は汚染雨水によって地下水の放射性物質濃度が上昇した可能性もあるとみている。
 東電によると、地下水の採取場所近くにはタンク群があり、周囲をせきで二重に囲んでいる。せきには放射性物質が付着しており、降った雨も汚染される。10日に外側のせきから汚染された雨水が流出していることが確認され、ベータ線を出す放射性物質の濃度は最大で同8300ベクレルに上った。 

原発事故の際の周辺住民の安全がおろそかにされている 

福島第一原発による放射能汚染は、地形、気流の流れにより、北西方向が酷い。8マイクロシーベルト毎時の範囲が、原発から30kmの場所にも及ぶ。2011年11月時点の空間放射線量の地図は、こちら

この放射能汚染は、以前から繰り返し述べている通り、相対的に軽度で済んでいる。原子炉は一応稼働が停止していたこと、および汚染物質の多くは太平洋上に飛散したからである。十分可能性のある稼働中の爆発的な事故では、このような汚染では済まない。同事故直後、米国は原発から半径80km以内の米国市民に退避するように勧告した。場合によっては、それ以上に汚染が拡大する可能性がある。

政府は、原発の深刻事故による放射能汚染に備えて、半径10kmの範囲に入院患者等の退避施設を整備することにしたらしい。これまでは半径5kmが対象であった(これも驚くべきことだ)。これでは、福島第一原発事故のレベルでも対処しきれまい。さらに、一般市民の退避は一体どうなっているのだろうか。それが十分検討されている気配はない。原子力安全委員会は、決められた基準に原発が適合するかどうかを審査するのみ。原発の安全性、とくに深刻事故の際の周辺住民の安全は検討していない。この問題は、地方自治体に丸投げだと言われている。川内原発では、鹿児島県知事は、半径10kmの範囲の退避策しか検討しないと言っている。

原発周辺住民、入院患者の安全が完全に軽視されている。

以下、引用~~~

原発10キロ圏に対象拡大 一時退避施設整備に90億円

記事:共同通信社
15/01/08

 原発事故に備えて原発周辺の病院などを入院患者らの一時的な退避施設として活用するための改修事業の対象を、政府が従来の原発の半径5キロ圏から10キロ圏に拡大することが7日、分かった。2014年度補正予算案に改修工事費として90億円を盛り込む。政府が同日の自民党部会で明らかにした。

 改修工事は、放射性物質の除去フィルター付きの換気設備を病院や学校体育館などに設置。迅速な避難が難しい入院患者や福祉施設の入所者らが、放射性物質の拡散が続く間、退避する。範囲の拡大だけでなく、これまで認めていた既存施設の改修に加え、新設の場合も設置対象とする。

 12〜13年度は17道府県の149施設を対象に計311億円を計上。今後は50施設ほどを追加し、実施する。

 政府事業の無駄を見直す昨年の「行政事業レビュー」で、施設の設置基準を明確にしないまま、自治体の要求通りに予算を執行しているなどと批判が相次いだ。このため今後は、設置場所や施設の耐震性などについて基準をまとめる方針。

 また原発事故時の放射線測定を現地で取り仕切る対策官を増員するため、原子力規制委員会の定員を5人増やす。


福島県大熊町双葉病院の教訓 

原発10基の再稼働を目指して、原子力規制委員会の検査がちゃくちゃくと進んでいる。

だが、この委員会の検査は、規定の検査基準に適合するかどうかの検査だ。福島第一原発事故で明らかにされた問題、特に、深刻事故時の周辺住民の避難方法等は、周辺自治体に丸投げである。近々の再稼働を目指して準備が進む川内原発では、鹿児島県は、周辺10kmの避難しか検討しないとされている。福島第一原発では、20、30km以上の地域でも汚染がひどい地域があった。原子力規制委員会の検査は、周辺住民の安全を保障しない

この双葉病院事件では、医療関係者が最初叩かれたが、現実は、事故の過酷さそのものであった。医療従事者だけでは対応できず、さらに自衛隊が関与しても、凄惨を極めた。他の原発で深刻事故が起きたら、このような状況が繰り返されるのだ。繰り返しこのブログでも述べているが、福島第一原発の場合は、一応稼働は停止したこと、多くの放射性物質は太平洋側に流れて行ったことで、「相対的に」汚染は少なく済んでいるのだ。原発稼働中の爆発による汚染では、これでは済まない。当時米国が、原発から半径80kmよりも外への退避を米国市民に促したのは、大げさなことでは全くなかったのだ。これを考えただけでも、為政者は原発再稼働は躊躇すべきなのだ。

政府は、国民の安全よりも、原発稼働によって得られる利益を優先している。

以下、引用~~~

患者救出、混乱浮き彫り 多数死亡の双葉病院

記事:共同通信社
14/12/26

 福島第1原発事故では双葉病院(福島県大熊町)の患者の救助が遅れ、多くが避難先で命を落とした。関係者の調書からは、当時の過酷な状況と混乱した様子が浮かぶ。

 3月14日、いわき光洋高校(いわき市)で患者を受け入れた田代公啓校長は「容体も知らされず、症状の重い患者が半日かけてバスで避難してくるとは全く思っていなかった」と振り返る。

 県担当者からは電話で「午前10時か11時には着く」と言われたが、高校に8台のバスが到着したのは午後8時ごろだった。患者は受け入れ先を求めて長距離を移動し、高校にたどり着いた。車内は「床に転げ落ちている方、毛布にくるまり全く動かない方...。言葉で表せない凄惨(せいさん)な状況だった」と田代校長。

 バスからの搬出も混乱を極めた。自衛隊員が「メルトダウンだ。体育館に避難しろ」と叫ぶと、患者は一時バスに置き去りに。搬出が終わったのは15日午前4時ごろ。搬出中に2人が死亡し、15日午前中にさらに12人が亡くなった。

 このころ、双葉病院にはまだ多数の患者が残されていた。

 救出指示を受けて棚橋浩治・陸上自衛隊東北方面衛生隊長が双葉病院に着いたのは15日午前9時。救出は難航した。47人を搬送したところで線量計が鳴ったままになり、病院を離れた。何人が残っているか分からない。同行した近藤力也・東北方面総監部防衛課長は「病院は危険な状態だ」と総監部に知らせた。

 避難先は道路の損壊や受け入れ拒否で何度も変わった。二本松市の検査場で、患者は福島県が用意した大型バスに乗り換え、部隊の手を離れた。

 大熊町の渡辺利綱町長は「町が積極的に確認していれば、残っている患者がいることを把握できたかもしれず、その点は反省材料だが、病院から直接、残っている患者がいるとの報告は受けていない」と述べた。

冷静な事実の把握と、定まった方向性と 

下記の坪倉医師によるMRICへの投稿、考えさせられる内容だ。私にも問われていることだと思う。分かっていることは、分かっていることとして、分からぬことは分からぬこととして、冷静に受け止めることが大切だ。そうした事実の積み重ねと、自らの価値観・人生観が指し示す方向に進んでゆくことが、大切なのだろう。

以下、引用~~~

「悲劇」を求める取材

この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html

南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治

2014年10月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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いまの浜通りの状況について、海外へ発信することが非常に難しいと感じています。インターネットの特徴なのでしょうけれど、知りたいと思っている人以外にはなかなか届きません。テレビなどのメディアも、悲しい話やけしからん話など、人間の喜怒哀楽に訴えかけるような内容とリンクする場合には強みがあるのでしょう。それに対して、淡々と事実を伝えるのは苦手(というよりむしろ喜怒哀楽に伴うものにかき消えてしまう。)なことを感じます。もちろん受け手の協力も必要です。

私の勝手な感覚ではありますが、日本でも海外でも、いわゆる専門の先生や医療関係者の間では、住民の方の被曝量などについての話が出ることはほとんどなくなってきたと感じます。学会でこうしたテーマが占める割合も減っています。住民と接している先生についてはそのようなことはありませんが、そうでない先生からは「被曝の検査なんて、まだやってたの?過剰でしょ。人件費と資源の無駄でしょ」といった声さえ聞かれます。確かに、国連やWHOからも線量評価に関する報告書が出ていますし、測定結果もごまんとあります。ただチェックは続けるべきだと思っています。こちらとしてはあまり気にせず、淡々とやっていくだけだと考えています。

そんな一方、海外の方、そしてその知識を映す鏡であるメディアの方からの質問は、なかなか厳しいものが多いです。
とある韓国のテレビスタッフが相馬の病院にやってきて、インタビューをしたいと言ってこられました。植物の写った写真を10枚ほど渡されました。何かと思いきや、「植物が放射線で奇形だらけだと聞いている。人間に関してもそうなんでしょ?」と言い始めました。福島県ではそんな状況には全くないことを伝えますが、明らかに不満そうでした。取材する相手を間違えたという感じ。

オーストリアのテレビは外来の風景を撮影していきました。質問は「南相馬にどうして人が住んでいるんですか?」といった類いの内容でした。事故が起きたのは事実として、いまのこの場所での被曝量がどの程度か、ゆっくりと説明しますが、蔑(さげす)むようにニヤッと笑って終わりました。その表情は忘れません。

ドイツのテレビ局はBabyscanの取材に来ました。この器械が出来た経緯や、小さい子どもからはセシウムがまったく検出されていないことを説明しました。しかし、彼らは「悲劇」を求めているようでした。使いたいコメントを撮りたいのでしょう。繰り返し同じ質問を5回も10回もしてきましたが、相手が求めるコメントをしようもありません。結果、彼らが必要とする悲劇には満たなかったようでした。

こうしたことは、取材を受けたことのある多くの方が経験されていることと思います。まあ確かに、海外のどこかの国で、「こんな問題があったけれども、だいぶ落ち着いてきました」という報道が日本であったとしても、ほとんどの人にとっては記憶に残らないだろうなとも思います。

もちろん、そんな方々ばかりではありません。ちゃんと話を聞いてくださる方がいらっしゃることも確かですし、その様なメディアの方に我々は何度も何度も助けていただきました。

そんな状況の中、やはり可能であれば、地元の方々一人一人が現状をご自分で説明できるようになって欲しいと思っています。学校での知識などがその要です。そして多くの専門の先生方にもいま一度、周囲への発信をぜひ続けて欲しいと願っています。

http://apital.asahi.com/article/fukushima/2014100700004.html

坪倉正治の「内部被曝通信 福島・浜通りから」のバックナンバーがそろっています。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html

「アピタル」には、医療を考えるさまざまな題材が詰まっています。
http://apital.asahi.com/

原発作業員の置かれた状況 

『世界』10月号に、東京新聞 片山夏子記者が、「福島第一原発作業員 収束しない現場の現実」というルポを記している。その内容の紹介と、私の感想を記す。

原発作業員の方々の多くは、孫請けのような下請け会社に所属している。原発作業員の被ばく許容量は、5年間で100mSv、1年間で20mSvと定められている。被曝量が、この限度を超えると、解雇されることが多いらしい。そのために、一頃問題になった被曝隠しが行われた。作業員の方々は、解雇か、被曝かくしか、という酷い選択を迫られていた、恐らく今でも迫られているのだろう。

2011年12月の野田元首相による、原発事故終息宣言が、作業員の労働環境を悪化させた。この宣言が出て以降、コストを削減する動きが強く、作業員の方の給与が減らされているという。危険手当も減らされている。給与に関しては、被曝の危険の少ない除染作業の作業員の方が良くなっているらしい。それで、現場を良く知るベテランの作業員から現場を去って行く、ということだ。野田首相の終息宣言は、一体何のためだったのか。誰が、どのような意図で、野田元首相に、あのような宣言を出させたのだろうか。現状を反映していないだけでなく、復旧の厳しい現場の労働条件を悪化させていることを我々は理解しなければならない。

福島第一原発の現状は、収束とは程遠く、今後数十年の単位で廃炉に向けて作業を続けなければならない。ロボットを導入する動きもあるようだが、細かい作業になると、やはり人が行わなければならないのだろう。その廃炉作業を担う人々がいなければ、さらに深刻な事態に陥る。危険を背負って、これほど重要な作業に従事してくださる方々の労働環境・条件が今のままで良いはずがない。

あの終息宣言を取り消すこと、作業員の方々の健康管理と労働環境・待遇の改善に取り組むことが、是非とも必要だ。彼らは、日本の将来を左右する大切な仕事を担っていてくださっているのだから。

海洋汚染を米国の友人に尋ねられた 

昨日、4月以来の交信をした Bob W7BVが、話の途中で突然福島からの放射性物質の汚染で影響を受けていないかと尋ねてきた。海への汚染が続いていることが念頭にあるらしい。太平洋を越えて、北米沿岸にも汚染が広がるのではないか、という心配もあるようだ。最近明らかにされた、この海洋汚染については、他の米国の友人からも質問され、彼は、それについての新聞記事を送ってもくれた。

地下水が毎日400トン冷却水に混じってくみ上げられていたことは以前からわかっていたことだから、当然、同じように海に汚染された地下水が流れ出していることは、当局と東電は分かっていたはずだ。ところが、当初、汚染水は流れ出していない、その後、分からないという説明を彼らは繰り返してきた。ここに意図的な隠ぺいのにおいをかぎ、彼ら米国の友人たちは敏感に反応しているのだろう。

現在、土を凍らせて、地下水流入、排出を止めることを考えているらしいが、月の単位で時間がかかる。また、その冷凍を続けるために、莫大な電力が必要になるらしい。これほど大規模に、その工法が用いられたことはなく、上手くいくかどうかは分からないようだ。

海への汚染が続けば、漁獲類への汚染も続く。汚染が最大になって、1,2年のタイムラグを置いて、漁獲類への汚染が最大になるとのことだ。また、海側ではなく、陸地側への汚染の進行はどうなのだろうか。メルトダウンした核燃料が、何らかの形で地下水脈と接している可能性はあるのではないか。核燃料が取り出せなければ、まさにチャイナシンドロームの現出になる。

この事故は、我々だけでなく、いやそれよりもさらに深刻に次の世代への重荷になることが明らかになりつつある。安全な原発再稼働等あり得ない。

この海洋汚染の問題が、重大な問題なのに、マスコミにあまり取り上げられていないこと、またその問題が初めて公にされたのが参議院選挙直後であったこと等を考えると、どうもマスコミが報道規制をしているように思える。情報が隠ぺいされているとすると、これまでも地に落ちていた政府当局・東電への信頼はみじんもなくなることだろう。米国の友人たちの方が、本当に心配しているように思えたのは、考えてみると、かなり深刻なことだ。

今も続く危機 

東電福島第一原発に、地下水が侵入し、毎日400トンの汚染水を生じている。それをタンクに詰めてしのいできた。そのタンクを作るスペースも残り少ない。さらに、地下水脈を通して、海に汚染水が流れ出している。それを食い止めるために、海との境の土を固化した。すると、地下水の水位が上昇し始めたと、今朝の新聞に報じられていた。あと3週間ほどで、地下水が地表に溢れだす予測らしい。

すると、原発地表全面が今まで以上に汚染され、さらに汚染水にまみれて廃炉作業を進めなくてはならなくなる。また、地表を伝わるより多くの汚染水が海に流れ出すことになるのではないだろうか。原発の廃炉は遅れても仕方ないかもしれないが、汚染が進むと、炉の冷却が十分できなくなる恐れがある。冷却ができなくなると、核燃料が露出、高温となり、核燃料とコンクリートとの相互反応から莫大な放射性物質放出を生じる可能性がある。保管されている4000本以上の使用済み核燃料が、そのような状態になると、半径250kmの地域で避難が必要になる。そうした予測が、事故直後、原子力委員会委員長によってなされている。東北、関東のほぼ全域が、避難の対象になる。一旦、そのような事態になれば、住んでいた地域に数十年以上戻ることはできない。そうなると、実際上、日本という国家の存亡がかかってくる。そのリスクは、まだ隣り合わせにあるのだ。危機を煽るつもりは毛頭ないが、これが実相なのではあるまいか。

以前、廃炉への工程表が公表され、それにそって順調に廃炉が進んでいるかのように政府は公表していたが、それは大きな間違いである。地下水が汚染を拡大し、それによって海がさらに汚染されるという汚染の拡大の構図が明らかになって来た。メルトダウンが起きた時点で、これは予測されたことでもある。2011年暮れに、この事故の終結を宣言した、時の野田首相には責任がある。

自民党が野党であったときに、事故当時の菅政権、菅首相をあたかも事故を起こした、または拡大させた張本人であるかのように非難していた。いわく、事故直後菅首相が現場に飛んだことにより、混乱を助長した、また海水の注入を官邸が遅らせた云々である。それらは、故意に流されたデマか、少なくとも、現場と官邸・対策本部との意思疎通がうまく機能していなかったことによる。重大事故が起きることが想定されておらず、起きた際の連絡・対処の方法・システムが準備されておらず、それに必要な専門家がいなかったことが根本的な問題だ。原発安全神話に乗って、毎年一基から二基の原発を作り続けてきた、そして重大事故を見据えた備えをしてこなかったのは、自民党政権だったのではないのか。

現政権は、「安全第一に」他の原発の再稼働を進める意向のようだ。まるで、福島で今進行しつつある危機は、他の原発の稼働とは別な物事であるかのようだ。安全を第一に、というスローガンが空しい。彼らは、これまでの原発政策の責任を全く感じていないようだ。東電福島第一原発の事故の延長に、第二、第三の事故は起きうる。上に述べたように、廃炉への道筋は全くついていない。むしろ汚染の拡大はこれから進みそうな気配だ。すでに、東電には3兆円程の公的資金が投入されている。原発周囲の方々への補償は、これからで、また廃炉作業は全く先が見えないのに、である。汚染の拡大と、廃炉費用負担は、これからも国民に重くのしかかる。この事故を政争の具として扱い、自らの取ってきた原発政策への反省が全く見られぬ自民党に、これからの廃炉に向けた作業が担えるか、大きな疑問だ。

今行うべきことは二つ

汚染拡大作業・廃炉作業に国を挙げて注力すること

他の原子炉の再稼働は止める、廃炉にすること

国の進むべき方向を誤らせた、このような施策がなぜ是正されることがなかったのかも、是非国民が考えるべきことなのだろう。

リスク情報の共有を 

東電福島第一原発事故拡大の責任は、当初、民主党政権、特に菅元首相、それに東電に押し付けられた。東電が、完全撤退をしようとしていたことはほぼ確実で、そうなったら、関東全域も避難対象になっていた。そうしたなかで、当時の政権はむしろ善戦した。

問題は、こうした事態を想定しようとしてこなかったシステムにある。そうしたシステムを作り上げてきた政官業にこそ責任はある。その政の中心に居続けた自民党、参議院選挙公約で原発再稼働を進めることを公約に掲げている。原発導入を決め、毎年原発を増設し続けてきた。地震多発地帯で、54基の原発を抱えることは、理性的に考えれば、あり得ないはずのことだ。増設をここまで推進してきた勢力が、原発再稼働を行おうとしている。

リスクを共有し、あらゆる情報から学ぶシステムが、日本には欠けている。そうしたシステムの構築ははたして可能なのだろうか。


以下、MRICより引用~~~


倫敦通信(第8回)~フクシマにおけるリスクコミュニケーション

星槎大学客員研究員
インペリアルカレッジ・ロンドン公衆衛生大学院客員研究員
越智 小枝(おち さえ)

2013年7月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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先日国際会議で知り合った方から、「福島原発事故の時のリスクコミュニケーションとソーシャルメディアの役割」について話をしてくれないか、と依頼がありました。日本国内の知り合い何人もに断られたとのことで、私自身も専門家ではないのですが、相馬でお聞きしたことを広める機会と思い、お受けしました。

招かれたのはヨーロッパ・アジアの公衆衛生の専門家30名程のワークショップで、コンフィデンシャルな環境で忌憚のない意見を話し合い、新たな戦略を模索するというものです。参加者は政府やWHO(世界保健機関)・ICRC(国際赤十字)などの公衆衛生担当者が多く、各々の立場から見たソーシャルメディアの新しい役割につき意見が交換されました。自然災害だけでなく紛争時の援助の経験談など、人災・天災両方の視点から学ぶ意味でも有意義でした。そのような中で、ディスカッションの叩き台として文献を元に以下のようにケースを提示させていただきました。

・福島の原発事故は、単独の事故でなく、大きな自然災害の直後に起きた。このため政府も含め対応の人手が不足しており、また通信手段も障害されたため現地情報が不足した。
・職員の安全の問題から、マスコミなども現地に人を送って情報収集することが難しかった。
・日本では原爆の歴史があり、放射線=即死、というイメージの為に恐怖感が強かった。
・しかしその困難を差し置いても、発災前のコミュニケーション不足、危機の過小評価、不確定要素を伝えない方針、など、リスクコミュニケーションの理論から「やってはいけない」対応(1,2)がいくつかあった
・政府とマスメディア情報に対する不信感が急速に増す中で、東大の早野龍五教授のような一流の科学者がソーシャルメディアを有効に使い、放射線量情報を広めたり、人々と実際にコミュニケーションを取る、などの活動をしたことは非常に有用であった(3)。

驚いたことは、日本人ならほぼ誰でも知っているこのような状況につき、知っている人がほとんどいなかった、という事です。日本の災害対策を学ぼうと積極的なフィリピンやインドネシアの人々からは、「日本の対応はとても素晴らしかったとしか聞いてこなかったので、驚いた」
と言われました。日本の対応は全般的にとても優秀だったと思う、しかしその評判を重視するあまり、失敗を世界に共有できないのも欠点かもしれない、とコメントさせていただきました。

一方、少し状況を知っていた人にとっても、国民が情報を知らされていなかったことは意外だったようです。国際原子力機関(IAEA)に関わっていた方からは、
「日本の情報の信ぴょう性が低いことは知っていたが、国民にも知らされていないとは知らなかった」と言われました。日本が世界と情報共有できないことで、国民全体が事態を隠そうとしている、と取られている可能性もあることを初めて知りました。

それに関連して「日本の学会やマスコミはなぜこういう情報を世界に発信しなかったのか」という質問もありました。他の日本人の出席者と共に
海外へ発信しようとすると、学会などからもstigmatiseされる(烙印を押される)可能性があった。実際に発表しようとして上司に止められた、という人もあるようだ。」
「政府会見は招待性なので、記者があまり厳しいコメントを書いたりすると二度と招待してもらえない可能性があると聞いている。」
「国内の人間がこのようなことを海外に伝える時には、職業生命をかける必要もあった。だから今回このようなプレゼンテーションを引き受ける人が留学生の私しかいなかったのでは。」
などと回答しました。

シンガポールなど政府の力の強いアジアの国々の方にはこのような状況をイメージしやすいようでしたが、ヨーロッパ圏の方には、言論の自由のある日本でこのようなことが起きることが衝撃だったようです。

印象的だったのはニュージーランドの復興責任者の医師のコメントです。彼は、放射線量情報が民間の独自の判断で公表された、という事に最も驚いていました。
「Triple Disaster(三重災害)と言われるこの災害では、多少の判断ミスがあっても仕方のない状況だと思う。一番の問題はそれが隠されている事だ
「この情報化社会で、オープンスペースで起きた事故に対し、なぜ政府は『情報を隠せる』と思ったのだろうか」

今の世の中、大きな事故があれば必ず誰かが記録に残し、ソーシャルメディアに載せる。そのような中では情報は隠せないことを前提にするべきだ、というのが彼の意見です。ソーシャルメディアの力が強力な「監視力」となって日本の組織全体の隠ぺい体質を変えることができる可能性があるのだ、ということを改めて感じました。

しかし今回の出席者の中には、むしろ「なぜ国民が上手に政府を動かせないのか」という疑問もあったようです。ヨーロッパでの官民一体の取り組みを見ていると、日本では国民が政府を信用なくなっているだけでなく、政府も国民を信用できていないと感じます。ミスを認めることが不信につながる、というのも迷信だと言われていますが、これを受け入れられる程政府は国民やメディアを信用していないのだろうと想像します。

大きな事件というのは、個人のミスではなくシステムの欠陥によって引き起こされることが大半です。医療の世界でも非常によくみられることですが、特定の団体や個人を責める風潮がミスの隠ぺいにつながり、その結果システムが改善されず、新たな失敗を呼ぶ。日本がフクシマの経験から上手に学ぶためには、国全体に未だ根強い「Accuse, Blame, Criticism(非難、誹謗、批判)」というABCの負の文化を断ち切る必要があると思います。
「今回の失敗を踏まえて日本はどのようにリスクコミュニケーションの改善をしているのか」
という質問に対し、私は残念ながら明確な回答をすることができませんでした。

またWHOで立ち話をしていた時には、「被災地の住民は当事者なのだから冷静に話し合いをするのは難しいだろう。第三者が間に入るべきでは」という意見も聞きました。確かにヨーロッパに比べると、国民も政府との交渉を当事者だけに任せる傾向にあるのかもしれません。私自身も含めフクシマを知る人々全員が、自分たちの立場から何かできなかったのか、できないのか、多様な方向から改めて反省する必要があると思いました。

1) Understanding Risk Communication Theory: A Guide for Emergency Managers and Communicators Report to Human Factors/Behavioral Sciences Division. (2012) Science and Technology Directorate, U.S. Department of Homeland Security
2) Slovic P. (1999) Trust, Emotion, Sex, Politics, and Science: Surveying the
Risk-Assessment Battlefield Risk Analysis, Vol. 19, No. 4, 1999
3) 立入勝義 (2011) 検証 東日本大震災 そのときソーシャルメディアは何を伝えたか? ディスカヴァー・トゥエンティワン, 東京.

略歴:越智小枝(おち さえ)
星槎大学客員研究員、インペリアルカレッジ・ロンドン公衆衛生大学院客員研究員。1999年東京医科歯科大学医学部医学科卒業。国保旭中央病院で研修後、2002年東京医科歯科大学膠原病・リウマチ内科入局。医学博士を取得後、2007年より東京都立墨東病院リウマチ膠原病科医院・医長を経て、2011年10月インペリアルカレッジ・ロンドン公衆衛生大学院に入学、2012年9月卒業・MPH取得後、現職。リウマチ専門医、日本体育協会認定スポーツ医。剣道6段、元・剣道世界大会強化合宿帯同医・三菱武道大会救護医。留学の決まった直後に東日本大震災に遭い、現在は日本の被災地を度々訪問しつつ英国の災害研究部門との橋渡しを目指し活動を行っている。